Fate Constantia   作:ミルトントン

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タイトル翻訳:人間である事は傲慢か?


Estne arrogans esse humanum?

いつだったか、私とウーサーが密談している最中を偶然見てしまった彼が、後に私に語ってくれた含蓄深い話を思い出してしまう。

 

『『因果』だ。などと、曖昧な言葉で飾り立てる必要性は無い。

結論だけ答えよう。お前は来る時、己が罪禍に気付き、その果てぬ苦痛を

贖罪に費やすだろうさ。』

 

彼は至極真面目な顔で聖書に記載された予言を謳うように無機質な声で語った。

彼にとって、人身御供という概念は忌避するものだったのだろう。

だが、その時の彼はまるで『自身に対しても責めている』ように感じてしまった。

 

『だが、お前はまだ青少年だ。なればこそ、未だ大人になれぬ子供にその身に余る罪禍を背負わせるのはあまりに酷だろうさ。』

 

彼は私の眼を、いや眼の奥に映る『何か』に立て札を立てるように、まるで曇天覆う中、立ったままの迷い子に助言を語るように、

彼は子供を諭すような、優しく暖かい声で私に語る。

 

『どれだけ泣こうと、どれだけ心を罪禍の辛苦に窶しても、明日は無常にやってくる。

なら、そんな時は泣けばいい。泣いて、泣いて、泣いて、枯れるまで泣いたらいい。その涙はきっと、罪禍が濾過された、只管に純粋な謝意なのだから。この言葉は母の受け売りでもあるんだ。

お前の母にはなれないが、その涙を無碍にはさせないさ。』

 

あぁ、何故こんな言葉を思い出したか理解した。

君は、やっぱり凄いや。

まるで今の状況を知っているみたいに当てるんだからさ。

 

「ううっ、ひくっ、うう、うくっ、くぅうぁ」

 

可笑しいな、夢魔には泣くなんて機能は無いはずなのに。

それなのに、どうしてだろう。こうも涙が溢れてきて仕方がないや。

 

「それは、お前が人間である証左だ。

お前が無意識に蓋をしていたであろう人間性、それの発芽なのだろうさ。

ふっ、正真正銘の人間0年目だな、マーリン少年」

 

「ごめん、ごめんよ、アルトリアぁ、うっくっ」

 

背中から微かな動きを感じ取る。

彼女がマーリンの声に当てられて起きてしまったのだろう。

アルトリアは寝ぼけた眼でマーリンへ手を伸ばす

 

「ないているのですかまーりん?だれかにきずつけられたのですか?

だいじょうぶです。あなたにはせいけんをもったわたしとすごくたよれるるしうすがいるのですから。

ですから、どうかなかないでくださいまーりん。

あなたになかれると、わたしもかなしくなってしまいますから。」

 

彼女はマーリンは伸ばした手を夜泣きの赤子をあやすようにやさしく頭を撫でた後、再び眠りについた。

俺は少しずれてしまった彼女の位置を調整してマーリンへ視線を向ける。

 

「言うだけで言って寝たなこの子。」

 

「あぁ、ホント、凄い子だよ。……本当に、凄い子だ。私は彼女から責められて当然だった。自身の人生そのものを捻じ曲げ、焚べようとした男を滅茶苦茶に罵り、殴り……殺されても仕方がなかった。」

 

「だが、それは…」

 

「わかっているよ。そんなものは私しか満足しない一方的な自己満足に過ぎない事なんて……それでも、それでもだ。

そうしてくれればどれほどよかった事だろうか。

ねぇ、ルシウス、僕は彼女の、側にいても良いのかな?」

 

「彼女の善意に甘えるな。お前には彼女を支える役目が、役割があったはずだ。

今更その役割すらも捨て去るのか?

傲慢も大概にするのだな夢魔。

これはお前達が始めた序章に過ぎない、ここからは彼女によって紡がれる物語だ。

序章らしく本編の土台として機能するのだな夢魔。」

 

彼は、珍しいものでも見たかのように眼を見開いて俺に穴が開くほど見つめてくる。

 

「……君、ホントにルシウス?」

 

「は?」

 

「いや、君にしては珍しくというか、初めてというか…こうも具体的な助言をくれるなんてさ。いつもの君なら少し、曖昧な表現で濁しながら助言するだろう?そんな君がさ今回は珍しく饒舌に話してくれる事に、驚きと嬉しさがあるんだ。

君は自分の信念が確立してるだろ、そんな信条を曲げてまで、僕を叱咤激励してくれる。ルシウス、僕は君という友を持てた事が私の人生で最高の幸福だ。」

 

「ふん、なら態度で示せ。俺は子供にはある程度の慈悲はくれてやるが、過去しか見えていない駄目な大人にはそれ相応の対価をくれてやるだけだ。」

 

「ははっ、そうだね…そうだとも。僕も、君も、彼女も、まだ物語は始まったばかりなのだから。ここでうじうじしていても何も始まらない何て、当たり前じゃないか。……ありがとうルシウス。君のおかげで僕も、この罪悪感と向き合っていく決心がついた。

私はいつか彼女に謝罪する、自己満足ではなく、アルトリアの心に寄り添えれるために。

そうして、ようやく僕はエピローグを終えれる気がするんだ。」

 

マーリンは拳を強く握る。彼はこの数時間で目覚ましい程の成長を遂げ、最後には彼女への謝罪を決意した。

その決意にどれほどの懊悩と辛苦を積み重ねたか、それは俺には分からない。だが、それでも、その決意には人が発する尊さと可能性があると思う。

 

(マーリン…お前はもう人間さ。

少なくとも、そこらの人間なんかより人間らしい、夢魔が持つ可能性、人への一方的な搾取ではなく人が持つ情動を抱えた共生。

ふふふっ、これだから、人の可能性とは素晴らしいのだ。)

 

「そうか、お前の決意が実る事を祈っている。

ふっ、だが、まずはエクター家に向かうぞ。

だいぶ時間を割いたからな、明日の早朝までにはつきたいものだ。」

 

「ふふっ、すまない。けど、いいじゃないか、僕達の物語はまだまだ長いんだ。少しぐらいのアクセンスは必要だろう?」

 

「チェシャ猫が、楽天さはその顔だけにしていろ。」

 

「ええ〜!酷くないかい!?

僕の顔、ブリテンではかなり良い部類なんだよ、女性達からの受けもいいしさ。だいたい、……ふ、ふふっ」

 

「どうした?」

 

「あぁ、いや、なんだか懐かしいねこう言う会話。あの頃も、こうして朝まで只管他愛の無い話をしていたね。あの頃は僕と君は二人一身で働いていたせいか、何かと十把一絡な扱いだったや。」

 

「……そうだな。部屋も、飯も、果てには支給の服すらもお前みたいな色合いの時は本気でウーサーに抗議しに行ったものだ。」

 

「えぇ〜、いいじゃないか、白衣ってなんだから知的な雰囲気が漂ってかっこいいのにさ。」

 

「感性が子供だな。時代は黒だ。黒こそが最も知的さを示し、力を象徴する色だ。」

 

「けどさ、そう言う君の服装に黒ってあまり無いよね。」

 

「好きな色と着たい服の色は違う。」

 

「えぇー、なにそれ。」

 

「人とはそういうものだ。」

 

「……それ、ズルくない?」

 

「ずるさもまた、人というものだ。」

 

彼等はこうして物語の幕間にも注釈にもならず、誰かに記録される事もない、二人だけの秘密の話をエクターの住居に着くまで延々と話を続けていた。

彼等は好みは正反対だか、それ以上に心の相性は非常に良かった。

一時はルシウスのあまりにも中性的な容姿とマーリンへの距離感の近さから、マーリンとの恋人疑惑にまで発展したが、マーリンの奥手ぶりが異常すぎたために彼等に対する疑惑は自然と消え、逆にマーリンがいつルシウスとくっつくのかという賭け事になってしまうほどだった。

だが、この賭け事もルシウスの脱退によって自然と消えてしまうのであった。

間話終了。

無事早朝までに帰ってこれアルトリア一同はエクターに眠るアルトリアを預けた。

道すがら彼等は巡礼の旅は明後日の早朝にする事を決めていたため、アルトリアにはエクターと暮らせるのは最後になる可能性もあり、一緒にいる時間を少しでも多く確保させた、彼等なりの善意だった。

アルトリアを預けた彼等はルシウスの提案の元、彼の実家へと向かった。

 

「なんだか、久しぶりだなぁここも。」

 

「お前は毎度如く、俺の帰省について来ていたからな。」

 

「まぁね、特別、休暇を使ってしたい事もないしね。

だったら、君について行った方が圧倒的に楽しい事は自明の理ってやつさ。」

 

「だが、お前が来てくれる事にこの家も喜んでいるだろうさ。

いつもは寝て起きて食事を摂るためだけに使っていたんだ。

喧しいお前が来てくれるようになったおかげで心なしかこの家も活力を振り絞れるのだろう。

ありがとうマーリン。」

 

「………へへっ、どういたしましてって言えば良いのかな?

まぁ、僕は君と居たいだけだしね。

それにしても、随分と素直に話すじゃないか。

何か悪いものでも食べたのかい?」

 

「………さあな、もしかしたら、素直な少年に影響されたせいかもしれないな。

ほら、入るぞ。」

 

彼は自然とドアを開けて中に入る。

その慣れた手つきは嫌でも彼がここで生まれ、ここで過ごし、ここで死んだ事を刺々しく彼に突き立てる。

 

「未練がましいな、俺も。」

 

「何か言ったかい?」

 

「何も。幻聴か?ボケるのが早すぎるぞ。」

 

「…酷くない?」

 

ドアの先には直視する事も憚られる程の埃が舞に舞っていた。

ルシウスは潔癖症という程の病的こだわりは無いが、それでもこの家に関しては人一倍に敏感だった。

 

「やるぞ。」

 

「……こればっかりはめんどくさいや。」

 

マーリンにとって彼の帰省についていく事はすなわち家の掃除に付き合う事と同義なのである。しかし、そこは伊達に宮廷魔術師として君臨していたわけでは無い。

ルシウスは魔術による時短の掃除を毛嫌いするが、魔術によって動きを軽くするといった能力上昇に関しては寧ろ好ましく思っており、自身が何度魔術を使えればと悔しさを感じる事は一度や二度ではない。

間話さておき、一頻りの魔術をかけたのち、彼等は掃除を始めた。

ルシウスは主に備品系統を担当、マーリンはその背の高さからルシウスが届かない高所を担当、残りは二人で分担して行うのだ。

ルシウスにとってこの家には甘くも、苦くも、酔いも、塩気も、全てが内包した思い出が宿り、彼の幼き頃の具現化なのだ。

そうして数時間かけて一通りの掃除を終えた。

 

「あぁ、疲れた。

やっぱり、いつやってもこの疲労には慣れないや。」

 

「慣れなくても良いだろう。

その疲労はお前への警鐘であり、軌跡なのだからな。

軽食を作った、これでも食べて休んでいろ。俺は少し周りの雑草を抜いてくる。」

 

そう言って彼は解けかけた髪紐を再度一つに結び直して再び動き出す。

僕は彼が作ってくれた軽食と飲み物を持って彼の作業がよく見える場所へ移動する。

僕はこの時間が好きだ。彼が僕のために作ってくれたブリテン最高峰に美味しい軽食を食べながら、彼が汗を流し、そのうなじを濡らしながら一つ一つ雑草を抜いていく、その姿を見る事が僕は堪らなく好きだ。

自分でもなんだか変態的な思考だと思いながらも、彼の一つ一つの動作が僕の眼を奪って仕方がない。

それに彼が作ってくれた軽食のサンドイッチも素晴らしい。

 

「これは、カブの塩漬けが入っているのか。

初めて食べた時は塩気が強くて忌避していたが、慣れたらこの塩気が逆に

癖になってしまう。それに、運動の後には塩分補給が大事だからね。

まぁ、彼からの受け売りだけど。」

 

彼は料理に関して造詣が深い。僕が彼の帰省について行くのもこの軽食と彼が作る手料理を食べたいが為でもあるのだ。

それにしても、久しぶり彼の作った軽食を食べたわけだけど…この味は変わらないね。手順とか聞いたところで僕に料理が作れるとは思わないから宝の持ち腐れなのはわかっているが、一個人としては彼の料理の秘訣は気になるな。

 

「単純だ。夢魔は味覚が薄いからな、俺を基準にしてその1.5倍程味付けを濃くすれば良いだけに過ぎない。それにお前達夢魔は代謝が良いからな、多少味付けを濃くしなければ逆に栄養不足になるだろうさ。」

 

気付けば周りの雑草はあらかた抜かれており、とある一箇所には大きな焼け跡があった。

 

「随分とその軽食に熱い眼差しを送っていたな。

何だ、不味かったか?」

 

彼が若干不安そうな顔をする。そんな顔をさせてしまう自分に苛立ちが募ってしまう。彼は自身のためにわざわざ美味しい軽食を作ってくれるどころか自身の身体の事を理解した工夫をしてくれたのだ。

それを自身は無碍にしてしまいそうになっている事に自身の中にある人間性が自責する。僕は即座に彼の言葉を否定する。

 

「いや、寧ろ美味しかったとも!

君の味付けはいつも最適化されていて、食べる度に衝撃と発見ばかりで飽きなんて、ましてや不味いなんて事は絶対に有り得ない!

僕が断言する!君の手料理はブリテンの最高峰だ!」

 

彼はやや呆然とした顔を晒す。彼の顔立ちは中性ながらもかなり整った部類であり、特に彼女の目元は魅力的であり、信条が宿った瞳には数々の少年少女を誘惑して仕方がない事だろう。それに、それに、………

 

「おい、何を思考に耽っている。」

 

彼の掌底が僕の頭に落ちてくる。

痛み自体は大してなかったが、衝撃により先程までの思考は霧散した。

 

「…まぁ、いいさ。美味しかったのなら、それで良い。

皿はいつもの場所に置いておけ、俺もお腹が空いた。」

 

彼は足早に台所に向かう。

 

「……僕ってこんな変態だったかな〜」

 

僕は彼の後ろ姿を見送りながらも頭に手を当てる。

彼は受け皿が広大だ。何せ、一癖二癖とアクの強い者達が多かった先代ウーサー王の時代で彼はそんな彼等を『そういうものなのか』と一定の納得が出来てしまったのだ。

だからとは言え、僕のこんな変態的な思考は流石に一線を超えているだろう事は確実だ。

 

「いやだなぁ、引かれたくないや。」

 

一番嫌なのは知られる事よりも、それを契機に距離を取られ拒絶される事だった。

こんな人間らしい思考はたぶん、初めてだと思う。

こんな人間らしい思いはたぶん、次は無いと思う。

だから、知られてはいけないのだと思う。

 

「知られないよう…頑張るしかないわけだ。

………はぁ」

 

彼の煩悩を誰も知ってはいけない。

こうしてため息はルシウスの鼻歌と共に空気と共に散っていった。

 

 

 

 

 

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