Fate Constantia   作:ミルトントン

3 / 11
タイトル翻訳:王道を行く者


Qui viam regiam sequuntur

「さて、食事も済ませた事だ。

帰省の挨拶をしに行かなくてはな。」

 

食器を洗い終わったのか、濡れた手を服で拭きながらこちらに向かってくる。

 

「ああ、了解した。それなら僕は先に外で待っていよう。

君も着替える時間ぐらいは必要だろう?」

 

彼は「それもそうだな」と納得したのか、自身の部屋へとその足先を向けた。彼は帰省の度に欠かさず、あそこへと赴き帰省の報告と日常の出来事を知らせる。

それは忘却への抗いか、あるいは親離れができないだけなのか、はたまたは後悔からの贖罪なのか、僕にはわからない。けれど彼に聞けばきっとその『わからない』すらも人間というものかもしれない。

……けれど一つだけ気になっている事がある。

 

「挨拶なら掃除の前にすれば良いのにね。」

 

「着替えれたぞ。」

 

いつのまにか、彼が僕の横に立っていた。

その服装はいつもの格好のままだけど、僕は彼の服装が好ましい。

彼のヒップラインを強調する衣類に彼の特徴的な上着、そのオーバーサイズの上着に包まれている彼は、僕に小動物を感じさせて仕方がない。

……これ以上は泥沼だ。

思考を切り替えるように僕は自身の頬を叩く。

 

「何をしている?」

 

「ちょっと、気合いを入れようかなって」

 

気合いを入れ過ぎて頬が痛いけどね。

 

「ふっ、何だそれは。

かれこれ何年の付き合いだ?もうお前はとうの昔に認知されている。

そら、もう直ぐ着くぞ。」

 

 

林を抜けた先には二つの墓標が立っていた。

……随分と久しく見た。一体幾多の時が過ぎただろう、この墓標はあの日から変わらずここに立っている。どれだけ嵐が訪れようと、どれほどの大海が押し寄せようと、この墓標は今も孤独に立つだけだ。未来に行けず、過去にしか生きれない、まるで……俺のようじゃないか。

 

「ただいま、父さん、母さん。

何年ぶりだろうな、随分と長く顔を見ていなかった気がするよ。

今回もマーリンは一緒だ。あいつとも、もう何十年との付き合いだ。

そうだ、最近俺にも友人ができたんだ。その子はまだ、俺よりも幼いが、それでも俺より、勇気も、度胸も、信念だってあるんだ。

今度、紹介するよ。その子は少し、人見知りな所もあるけど、きっと二人ものその子の事を気に入ってくれるはずさ。

少し長話になっしまったね。

それじゃあ、また会いにくるよ。

またね、父さん、母さん。」

 

俺はマーリンの元へ戻る。

マーリンは林の入り口にて静かに待っていた。

彼はよく、人でなしと呼ばれるが、それでも彼の紳士的な一面を見れば、如何に彼がブリテンで女に困らなかったかが理解できるだろう。

 

「すまないな。

…お前も側に居てよかったのだぞ?」

 

彼は軽く手を振りながら「それは、良くないだろう。」と断りを入れる。

 

「あの時間は君が唯一、御両親と共に時間を共有し、対話する時間なんだ。

そんな空間に僕が割って入っては、せっかくの家族団欒も台無しだろうさ。」

 

やはり……彼は人間だ。

彼は俺と両親との関係性を見極め、『共有』に重きを置いた。

その思考回路はあまりにも夢魔のそれを逸脱している。

夢魔は気遣いなんて出来ない。

そんな事は戦略上以外に必要価値がないからだ。

だが、彼はそんな気遣いを俺に対し、本心で行使する。

やはり、彼は人間だ。

 

「ありがとうマーリン。

…さて、では帰るとするか。」

 

「ふふっ、楽しみだなぁ、今日の手料理は何だろうか。」

 

「そんな凝ったものは作れんぞ。所詮は俺も一介の人間に過ぎないのだからな。」

 

「いやいや、君の手料理はブリテンの料理人総がかりでも易々と超えれる代物じゃあない。君が作る手料理は一つ一つが黄金比でかたどられた芸術作品さ。」

 

「おい、やめろ。過ぎた世辞は人を不快にさせる事を覚えろ、人間0歳のマーリン少年よ。」

 

 

彼にとって、マーリンとの無駄とも取られそうな言葉を介したやり取りは確かに、過去でしか生きられない生き方を選び取った彼を、その一時だけは現在を歩かせてくれるのだろう。

 

 

 

「いや〜、やっぱり君が作る食事はどれも美味しいね。

感情とはまた違った味わいだけど、この味覚の刺激はかなり癖になりそうだ。」

 

「ふっ、その賛辞は素直に受け取ろう、作った甲斐のある事だ。

さて、食後の紅茶だ。」

 

『コト』、小気味よい音を立てたカップは彼と僕の前に鎮座する。

 

「それで、先程から未練がましく俺を見つめ続けるのは何だ?

生憎だが果実の類は無いぞ、今は切らしている。」

 

「………僕ってそこまで食い意地張ってるって思われてるわけ?」

 

「なら、何だ?」

 

彼から圧の強い視線がくる。……これは、白状しないと終わらない奴だな。僕は降参の意を示すように両手を挙げる。

 

「わかった、わかった。言うさ、言うとも。

……実は君に、アルトリアについて相談したい事があるんだ。」

 

彼は、アルトリアという単語からおおよその相談内容を察したのか、神妙な面持ちでこちらに視線を向けた。…良くも悪くも、彼は察しがいい。

だが、そこが彼の悪癖にもなり彼は相談事に対して、淡白に返してしまう事が度々あったのだ。

 

「朝か夜どちらがいい?」

 

「…………君、相変わらずだね。

そこは普通、相談内容を聞いてからだろう?」

 

「ふっ、大方、アルトリアへの謝罪だろう。

アルトリアに関する事なら基本はお前一人でどうとでもなるさ、だが、こればかりはお前一人で解消できる程の器用さは持っていないだろうからな。」

 

「恥ずかしい話だけどね、今の私はきっと、彼女と面と向かって話す事に、正直恐怖を抱いてしまっている。

怖いんだ、彼女に失望されて、彼女から拒絶される事が堪らなく恐ろしい。」

 

「人間くさいな。」

 

「そうさせたのは、君の癖に。

こうさせた責任ぐらいは取って欲しいものだよ。」

 

「ふっ、他責思考か…それもまた人間くさい。

だが、健気にも彼女へ謝意を示そうとするお前の在り方は非常に好ましく思う。俺にできる事なら全力でお前を支援するともさ。

それがお前の友としてのできる事だ。」

 

「…ありがとうルシウス。だけど、そこまで大層な事は必要ないんだ。

ただ、彼女と二人きりの時間を作って欲しい…それだけなんだ。」

 

ルシウスは瞠目する。彼の予想では、謝罪を絶対成功させれる秘訣などを聞かれるものだと思っていた。しかし、彼は場だけを用意してくれれば後は自身の力だけで乗り越えると、そう言外に言っているのだ。

その行為には誠実さと純真さが込められた、尊き願いなのだ。

 

(これでは、もう少年ではなく大人だな。)

 

一体、この時代にどれだけ、誠実な謝罪を行える人間が居るだろうか、何十、何百、何千、数え切れる程かもしれないし、数え切れない程かもしれない、だが、数は特別重要ではないのだ。重要なのは、愚直にも真正面から誠実に謝罪するその精神であり、それにこそ意義が宿るのだ。

 

「問題無しだ。ならば先の問いに戻るが朝か夜、どちらがいい?」

 

「朝がいい。これは僕の序章に幕を下す為なのだから、この朝を越えて、僕の物語は新しく始まるんだと思う。」

 

「……ふっ、そうか。了解した。

だが、時機はお前が見定めろ。」

 

俺は今回、あくまで舞台装置に過ぎない。主役は彼、キャストは彼女。

二人の対話は物語の一つの絶頂だろう。

 

「それって、成り行き任せって事かい?」

 

「現実は存外、出たとこ勝負で何とかなるものだ。」

 

カップを手に取り口を付ける。

いつもの味だが、今は気分が良いこともあり、変わらない味でも美味しく感じる事が出来た。

 

「……僕、頑張るよ。」

 

マーリンはそう自身を鼓舞するような、後悔という逃げ道を潰すような、

決意の籠った瞳で俺に静かに宣言した。

 

「祈りは不要だろう。お前のその誠実さがあれば彼女も無碍にはしないだろうさ。

さて、湿っぽい話はこれにて終了だ。

ここからは楽しい事でも話そう。

例えば魔術とかな。」

 

マーリンは鳩が豆鉄砲を食ったような顔つきでルシウスを見る。

無理もない、先程まで至極真面目な話をしていたのにも関わらず、いきなりの方向転換を繰り出してきたからだ。

けれど、マーリンには分かっていた、それが彼なりの気遣いであり、熟考癖の自身に対して思い詰めさせない為の処置であるのだと。

それから彼等は朝日が迎えるまで、只管に魔術談義に花を咲かせていた。その翌日に二人揃って惰眠を貪り貴重な朝昼を犠牲にしてしまう事になってしまい、少しの後悔な苛まれる事は彼等しか知らない。

 

 

時は過ぎ去り早朝前の、未だ宵闇が覆う時、ルシウスとマーリンはエクター家の玄関前に居た。

 

「この家にもかれこれ数年はいたのかと思えば感慨深いものだな。」

 

ルシウスは遠い目でエクター家を見渡す。

 

「君は、脱退後からずっとエクター家に居候していたのかい?」

 

「いや、この家に来たのはまだアルトリアが3歳の頃だったか。

それ以前は古い縁ある者の所で世話になっていた。

だが、それもある理由で離れる事になったがな。」

 

「それはまたどうしてだい?

君なら以外と何処でも適応してそうなものなのに。」

 

「単純な話、彼女に強姦されかけたからだ。

今思い出しても、あの時は俺の人生で5本の指に入る程の危機だったな。だが、彼女曰く、『無防備にくつろいでいる貴方が悪いのですよ。』との事だ。居候とは言え住民なのだからくつろぐのは当然の話だというのに、酷な話だ、全く。」

 

「酷なのは彼女だったろうね。」

 

マーリンは遠い目をして発する。

自身もまた彼と同居していたからこそ、彼の無防備さに何度理性を試されただろうか、彼は見ず知らずの女性にそっと同情した。

 

「?」

 

「それで、その人とはそれっきりなのかい?」

 

「いや、エクター卿の善意で住まわせてもらってから暫くの後彼女から一報の手紙を貰ってな。

そこからは定期的に文通をする関係だな。」

 

マーリンは驚いていた。マーリンから見たルシウスという人物は基本人間関係に対して非常に淡白だ。同僚には業務上でしか話さず、部下に対しては必要最低限しか話さない。そんな彼に対して、一度訳を聞いてみたが、返ってきたのは無機質な『興味ない』である。

彼はチグハグだ。

人と関わる事に億劫さを感じているにも関わらず、人に対して何処か期待しているところがある。

だからこそ、彼と交流できるという事はそれだけでマーリンに多大な衝撃を生む程の事実なのだ。

 

「………君って、文通とかするんだね。」

 

「必要性を感じたらな。

あの頃は文通などしなくともウーサー王やお前に直接伝えることができた。だが、何事も経験無しで批判する事は愚者がする事だからな、故に俺も続けているに過ぎない。」

 

「それでも律儀に返答を返すところが君らしいや。」

 

そう。彼は律儀なのだ。あの頃もそうだった。彼は頼まれ事を安請け合いすることは無いが、それでも頼られたら真面目に助言をくれるし、訓練内容の検証も、資料作成の添削なども口ではなんだかんだと言いながらも、気付けば彼が人一倍夢中で作業をするのだから、皆んなこぞって聞いていたや。

 

「何だか、久しぶりに懐かしい君をみたきがするよ。」

 

「それは良かったな。」

 

彼は微笑みながらも「あまり、柄では無いと自分で理解している。だからその生暖かい目線をやめろ。」そう言って彼は肩肘で軽く僕を小突いてきた。

 

「それにしても、君と文通をする謎の女性か、少し興味をそそられるね。

名前とかは聞いてもいいのかい?」

 

「ふっ、存外、お前の知り合いかもしれないかもな。

名前なら、今彼女は『トネリコ』と名乗っているそうだ。」

 

「『トネリコ』……ふむふむ、よし、覚えたぞぅ。

ふふっ、いつか会ってみたいものだね。」

 

「そうだな。」

 

こうして他愛のない雑談を繰り返していると、眼前のドアが開く。

 

「おい、俺の家の前で何を逢い引きしてやがるってんだ。」

 

随分と話し込んでしまっていたのか、そこには少し青筋を立てた騎士にして一人の父、エクター卿がいた。

 

「すまない、エクター卿。」

 

切り替えが上手いのか、エクター卿は既にアルトリアを呼びに戻って行っていた。

 

「おーーい。アルトリア、お前の愛しのルシウスが来たぞ!!」

 

エクター卿の情緒もない呼び声に「ドタドタ」と勇ましいまでの足早な駆け足がやってくる。

 

「エクター!!!貴方は、なにを、いっているのですか!!!」

 

それはさながら獅子が如くの迫力を持っていた。

そんな情景にルシウスは頭を手に当て、マーリンはいつもよチェシャ猫顔をしていた。

 

「だいたい、………あっ、、あの、その、、うっ、うう、、もう一度、良いですか?こんどは、こんどは!しっかりとかっこよく出てきますから!」

 

「却下だ。俺達は外で待機している。思い残しが無いよう、しっかりとエクターに礼を伝えるのだな。」

 

俺はそっとドアを閉める。ここから先は彼女達家族の時間だ。

そこに俺たち部外者がいるのは無粋だろう。

 

「………随分とじゃじゃ馬に躾けたなマーリン。」

 

マーリンは静かに噛み殺したような笑いをこぼす。

 

「くっくっくっ、いいじゃないか、あれぐらいお転婆な方が可愛げがあるだろう?」

 

「………かもな。」

 

ルシウスは同意の意を込めて頷く。

そうだ。彼女は近い未来このブリテンを背負って君臨する王なのだ。

だからこそ、王位が約束された彼女にとってこの時間は取り返しのつけれない貴重なものであり、かけがえのない原動力になるのかもしれない。

 

 

それから暫くの後、扉が開く音が鳴る。

それは彼女の訣別を示す汽笛だった。

 

「もう、思い残しは無いか?」

 

ルシウスは確認の意を込めて彼女に問い掛ける。

きっと、これが最後の家族との交流になるだろうからこそ少しでも未練を引きずって欲しくは無いという、彼等なりの善意なのである。

 

「ええ、もう別れは済ませました。

……行きましょうルシウス、マーリン。」

 

そう言って歩き出す彼女の背中には何処か、必死に未練を振り払おうとする悲哀と王道を進みし者の覚悟が折り重なっていた。

 

(王とは孤高であり孤独を歩む者。

だが、彼女は人によって作られ、人による祈りを抱え、人の可能性を繋げる、人による人の為の王だ。

だからこそ、俺もまた彼女の眼前に聳える暗雲を断ち切らねばならない。

成すさ。いや成さねばならない、彼女達の未来のためにもな。)

 

強く拳を握りしめる。それは決意の再表明なのだ。

 

「マーリン。」

 

彼等の仲に言葉は飾りだ。彼もまた理解しているのだろう、彼が自身に何を言いたいのか。だからこそマーリンもまた、短く、けれど、はっきりと伝わるように彼は答える。

 

「僕達二人が居て出来なかった事はなかっただろう?」

 

マーリンは軽く杖で彼の肩肘を叩いた。

ルシウスは少し目を見開いた後、いつもの仏頂面からは想像出来ない程の穏やかな笑みを浮かべた。彼にとってその言葉がどれほど心労を軽くさせただろうか、それは彼にしかわからない。

 

「……そうだな。」

 

ルシウスはしみじみと深く、重く、厚い声音で返し、マーリンの肩肘に自身が愛用する武装の一つルーメン・エクリプスの鞘を軽く当てた。

それは互いの信頼・信用・覚悟を示す一種の儀礼でもあった。

 

「…何をしているのですか?」

 

気付けば彼等の眼前には先程まで迷いを吹っ切るように駆け出していた一人の見習い王が立っていた。

 

「いつまで経っても来ないと思えば、まさか脇目も降らずに盛り出すとは、見損ないましたよマーリン。」

 

「え!?これ私が悪いのかい!?」

 

マーリンはルシウスに弁明を申し立てようとするも、彼はどこ吹く風と言った具合に明後日の方向を見つめる。

 

「それに、そういう儀礼は本来、部下達だけでするものではないでしょう。」

 

そう言って彼女は聖剣を抜き出す。

彼女は言外に自身も混ぜろと言ってきてるのであった。

その姿にルシウスとマーリンは目を丸め、微笑を溢す。

こういう所がやはり彼女は未だ少女であるのだと証明しているのだろうと二人は心の中でそっと思うのであった。

 

「いいとも、こういうのは雰囲気が大事だからね。」

 

そう言ってマーリンは自身の杖を天高く掲げた。

 

「ふっ、これもまた因果なものだな。」

 

ルシウスもまたマーリンに続いて自身の決戦礼装であるルーメンエクリプスを剣にして掲げた。

 

「私は成す。このブリテンを統べる王として、人々に幸福を届けます。」

 

そう高らかに宣言したのち彼女の聖剣〈カリバーン〉を天高く掲げた。

 

これは未だ、序章に過ぎない。だが、彼ないし彼女達はこの誓いをを胸にそれぞれの王道を歩んでいくのである。

その先が例え、過去の累積だとしても、現在の停滞だとしても、そこには確かな明日への祈りがあるのだから。

 

「さぁ、行きますよ二人とも。今度は一緒にですよ。」

 

そう言って彼女は歩き出す。

それに続いて彼等も横を歩き出す。

これより、アーサー王物語の幕は開かれた。

彼女はこれより、様々な愉快適悦を味わい、艱難辛苦を飲み干すだろう。

だが、彼女は未だ知らない。人々の嘆きの深さを、絶望の厚さを、悲劇の累積を。

 

早朝は未だ、訪れないだろう。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。