バカとテストと召喚獣 solitary breakers   作:KA2

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思いの外長くなってしまった雄二と翔子の温泉旅行編もこれでラストになります。


第十話「俺と翔子と温泉旅行6」

恐ろしい山姥から逃げ切った俺たちはまた道なりに下山を始めた。

 

しかし、歩けば歩くほど道が荒くなっていく。

 

「本当にこっちであってんのか?」

 

「……でも、看板どおりに歩いてきた」

 

翔子の言うとおり、分かれ道がある場所では看板の指示に従って歩いてきたはずだ。

そのはずだが……

 

ここでふと、ある考えが頭を過ぎる。

 

まさかあの看板は如月グループの建てた偽物か?

 

確かにこんな山奥に建っているにしては新しい看板だった。

如月グループがあえて俺たちを二人で遭難させようという策略だとしたら、十分に納得がいく。

 

「なあ翔子、さっきまでの看板は……」

 

「……大丈夫、きっとこのまま行けば下山できる」

 

そう言って翔子は俺の言葉に耳を貸さずに、腕を引っ張ってずんずん進んでいった。

 

☆

 

「……遭難した」

 

「そうだな……」

 

案の定俺たちは、現在地がどこだか全くわからなくなっていた。

道はいつの間にか途切れており、戻ることもできない。

 

「……どうしよう。携帯も繋がらない」

 

「取り敢えず、歩いてみようぜ。助けも呼べないなら止まってても仕方ないしな」

 

まだ俺はこの状況を楽観視している。

遭難しているというシチュエーション。

これが如月グループの作戦だとしたら、奴らは次の一手を打つために俺たちを監視しているはずだ。

つまり、実際には遭難しているわけじゃない。

 

だが翔子は自分たちが本当に遭難したと思い込んでいるようだ。

 

「やれやれ、まあ適当に歩けばなにかあるだろ」

 

そう思って歩いていると、急に地面が揺れ始める。

 

なんだこれは? いくらなんでも大掛かりすぎないか?

いや、違う。それほど揺れは強くないが、これは地震だ。

 

しばらくあたりに気をつけていると、どうやらすぐに揺れは収まったようだった。

 

「びっくりしたな。もし今のがもっと強かったら土砂崩れが起きてもおかしくなさそうだもんな」

 

「……うん。……! 雄二、危ない!」

 

翔子が突然俺を突き飛ばしてくる。

目の前に迫った相手の顔の横から、それまで俺が立っていた場所を大きな岩石が転がっていくのが見えた。

 

土砂崩れまで行かなくても、不安定な岩が滑り落ちてきたのだろう。

 

ほっとしたのも束の間、翔子が俺を突き飛ばした先はとても立っていられないような急斜面だった。

 

「まずい!」

 

翔子を守るため抱きかかえる形で俺が下敷きになる。

そのままかなりの距離を滑り落ちてしまった。

 

「雄二……!大丈夫!?」

 

「……大丈夫だ、これくらいなんともねえさ。それよりもお前は大丈夫か?」

 

「少し足を捻ったみたい……。それより雄二は本当に大丈夫……!?」

 

俺に怪我はないかと取り乱す翔子を宥めながら、辺りを見回す。

ここらへんは草木に覆われて空も見えないほどのようだ。

 

しかし、本当にまずいのは今ので如月グループの連中が俺たちを見失ったであろうということだ。

つまり本格的に遭難してしまったと言って良い。

 

今滑り落ちてきた斜面を引き返すこともできそうに無いな。

 

「……どうしよう」

 

「翔子、水や食べられるものは持ってるか?」

 

現在の状況を確認するためにも、翔子に手持ちの食料を聞く。

 

「……今のでバッグの中身がほとんど無くなってる」

 

そう言って中身を見せる翔子。

入っていたのは僅かに残った飲料水と数個の飴玉だった。

到底これだけで長く保つとは思えない。

 

だが、下手に動くのも危険だ。

俺たちを見失った如月グループは既に捜索を始めているだろうし、ここにとどまったほうがいい。

なにより、さっきの滑落で足を捻った翔子を歩かせるわけにも行かない。

 

 

俺たちはその場に座り込んで助けを待つことにした。

 

そうして助けを待つこと数時間。

人の気配は一切感じられず、次第に俺の心にも焦燥の色が現れてくる。

 

まるでそんな不幸へ追い討ちをかけるように聞こえてきたのは雨音と、ここら一帯を覆う木々を揺り動かす風の音。

 

「よりによってこんな時に雨かよ……」

 

ただでさえ時間が遅くなり、辺りが冷え込んできているんだ。

こんな時に体温を奪われるのは致命的だ。

 

「移動しよう。せめて雨風がしのげる場所があればいいんだがな」

 

「……うん」

返事をしておぼつかない足取りで歩き始める翔子

 

そんな翔子を黙って背負う。

 

「……ゆ、雄二?」

 

「足、捻ってるんだろ? 無理すんな」

 

翔子を連れて少し歩くと、運良く丁度いい洞穴が見つかった。

ここで雨風を凌ぐことにしよう。

 

それからまた何時間が過ぎるが、雨は一向に止む気配を見せない。

 

「……雄二。水は?」

 

「俺は体力があるから大丈夫だ。残ってる飴も全部お前が食べるんだ」

 

翔子は既に相当の体力を奪われているだろう。

少しでもコイツの方に栄養を回さないとな。

 

「……もうこんな時間」

 

翔子が携帯で時間を確認すると、時刻は22時を示していた。

 

「もう寝ようぜ。無駄な体力は使わないほうがいい」

 

いつもならまだ寝るには少し早いが、今は寝る時間を増やす方がいいだろう。

体温を少しでも保つため、翔子と俺は寄り添って眠りに落ちた。

 

☆

 

「雨、止まねえな」

 

「……うん」

 

目覚めてからずっと、相変わらずの雨が降り続いている。

まるで俺たちをここから出すまいとしているようだ。

 

一瞬最悪の想像をしてしまう。

だめだ、今はとにかく助かることだけを考えなくては。

 

しかし、残っていた飲み物や飴はもう底を尽きていた。

 

それに、俺はまだ大丈夫だろうが、翔子は……

 

そうしてそのまま何も言葉を発することもないまま、今日もまた夜が更けてくる。

 

雨足は弱まるどころか一層強さを増していた。

「ここじゃ風が入ってくるな。もっと奥へ進もう」

 

暗くなっていて見えない洞窟の中を手探りで這い進む。

 

そこで翔子はついに倒れ込んでしまった。

 

「翔子! しっかりしろ!」

 

「……私、もうダメかもしれない」

 

仰向けになったままそう言う翔子。

 

「馬鹿なことを言うな! 明日には助けがくるさ!」

 

「……雄二、まだ体力は残ってる?」

 

「俺は大丈夫だ、こんなもんでへこたれるほどやわな鍛え方はしてない」

 

「……それなら、雄二だけでも行って。一人なら下山できるかもしれない」

 

「何言ってるんだよ! お前を見捨てて行けるわけ無いだろ」

 

完全に弱気になってしまっている翔子。

ここまで誰も助けに来る気配がないんだ。無理もない。

 

「……このまま二人で死んじゃったら、本当に二人の愛が永遠になるってことなのかな?」

 

山頂で捧げた祈りを思い出す。

ここで二人が愛し合って共に死んだとしたら、その愛は永遠に続くものだと、人々は言うかもしれない。

 

だが……

「俺はそんなモンを永遠とは認めない。死んじまったら俺たちには何も残らねえだろうが!」

永遠の愛だとか、そんなことを考えている場合じゃない。

俺は翔子と二人で生きて帰る。

 

「……雄二。雄二だけでも助かって」

 

「翔子、どうしてそんなことを言うんだ」

 

「……私の好きな雄二に死んで欲しくない」

 

「そうか、そこまで言うならひとつ聞かせてくれ」

 

「……何?」

 

少し間を置いて、翔子へ質問を投げかける。

 

 

「お前が好きになった男は、こういう時にお前を見捨てる奴なのか?」

 

問いかけてから数秒後、翔子が答える。

 

「……ううん。そんなことない」

 

「なら、もう俺だけ下山しろだなんていうな」

 

「……うん」

 

そう言って翔子と説得する。

だからといって、このままでは二人共助からないという事実は変わらないが。

 

「さてと、そろそろ寝たほうがいい時間じゃないか?」

 

そう言って携帯で時間を確認する。

 

「……雄二。あれ……」

 

携帯の明かりで照らされた洞窟の一角を指し示す翔子。

そこには祠のようなものがあった。

 

『現在建てられているのは頂上にあるものなのですが、これは最近になって立て直されたもので元から建てられたものが現在何処にあるかは解っていません』

 

ふと、秀吉の解説が蘇ってくる。

山頂にあった祠はいわばレプリカのようなものだ。

だとするとまさか、これが本物なのか?

 

「……不思議、これに触れていると力が湧いてくるような気がする」

 

俺はオカルトだとかは信じない方だが、それでも確かにこの祠にはなにか特殊な力が宿っているような気がした。

 

「……私と雄二の愛が、本当に永遠に続きますように」

 

翔子がフラフラと体を起こして祈りを捧げる。

 

そして再び力なく崩れ去った。

 

俺も祈る、どうかこの一途な少女の命を永らえさせてやってくれと。縋るように祈り続ける。

 

☆

 

「………昨日まですごい雨だったからな、いるとしたらこんな洞窟などではないか……?」

 

「そうだな……って、あれじゃねえか? おい、救急隊員を呼んで来てくれ!」

 

「解った! 確か救急隊は今、下山道にいるんだったな?」

 

目を覚ますと、若い男女の声が聞こえてくる。

 

「おいアンタ、大丈夫か?」

 

どうやら俺たちを見つけてくれたらしい。

少しして救急隊が到着して、俺と翔子を運んでいった。

 

☆

 

「こら吉井!よそ見をするな!」

 

「うわぁ!? すんません!」

 

「姫路、お前も書く速さが落ちてきてるぞ!」

 

「は、はい! すみません」

 

「まったく。最近はお前まで、Fクラスの雰囲気に飲まれすぎだ」

 

教室の戸を開けるなり、明久たちが鉄人にシゴかれているのが見えた。

 

「あれ、雄二? もう大丈夫なの?」

 

「ああ、翔子はもう少し検査をすることになりそうだが、俺は特に問題はないらしい」

 

こいつらはどうやら、如月グループの計画を手伝ったことで反省文を書かされているらしい。

それにしても明久やムッツリーニはともかく、他の三人が反省文なんてのを書かされる光景は珍しい。

 

こうして俺と翔子の波乱の温泉旅行は幕を閉じたのだった。

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