バカとテストと召喚獣 solitary breakers 作:KA2
霧島さんの一太刀は流石学年主席だけあって、信じられないくらいの痛みが僕を襲った。
これで僕も戦死か……
「ちくしょう! 明久までやられ……てないだと?」
え?
『総合科目 Aクラス 霧島翔子 5320点VSFクラス 吉井明久 1点』
あれだけの攻撃を受けたのに、なぜか僕の召喚獣は1点だけ点数を残していた。
「……どうして」
再び霧島さんの一太刀。体がまた形容しがたい痛みに襲われる。
それでも召喚獣が消えることは無い。
「……しめた! 今度はバグの影響で明久の召喚獣の点数が減らなくなったんだ!」
雄二が状況を分析して言う。
なるほど、バグで点数がありえない数値になるなら、減らなくなってもおかしくは無い。
「これで明久の召喚獣は不死身だ! どんなに翔子の攻撃を受けても倒れない!」
なるほど、ルールがサバイバルである以上、僕の召喚獣がやられなければ優勝者は決まらない。
「って、ちょっと待って雄二! 召喚獣が不死身でも、僕が死ぬから!」
あんな痛みを受け続けたら、間違い無く昇天するだろう。
今のでも死んでないのが不思議に思えるくらいだ。
「明久……、お前がここで生き残れば俺たちの勝ちだ。お前ならできる!」
「で、でも……」
「きゃ、きゃあ!」
僕が返事を躊躇っていると、姫路さんの召喚獣がAクラスに撃破されていた。
「姫路さん!」
「見ろ、お前が躊躇っているうちに姫路も死んだ。もうお前がやるしかないんだ。お前はいつも口では嫌だと言っているが、どんな困難も乗り越えてきた。俺はそんなお前を信じている!」
「雄二……。わかったよ! みんなのためにもやってみせ……るわけないだろ! 危うく騙されるところだったよ! 僕が生き残っても霧島さんは倒せないし、時間切れでイベントが終わったら雄二の一人勝ちじゃないか!」
「チッ、ばれたか。だが、どの道お前の召喚獣の点数が減らない以上、戦死はできない。お前がボコボコにされる事実は変わらないぞ」
確かに今の僕は戦死できない。やはり終了時間まで逃げるしかないのか……。
「そういうわけだ! 存分に敵を引きつけてくれよ!」
雄二はそう言うと敵の合間を縫って走り出した。
「くそ、自分だけ逃げるなんて許さないぞ!」
「うぉ!? なんで俺のところに走ってきやがる!」
「二人でいたほうが僕への狙いも分散するからね! 雄二にも戦死するまで付き合ってもらう!」
「ちぃ、っと危ねえ、明久バリアー!」
「ぐはぁ!? 僕の召喚獣を盾にしたな!」
☆
そんなこんなで、命懸けで放課後の時間まで逃げ切った僕らは、その日は帰宅し、次の日の朝に朝礼をやるということで校庭に向かっていた。
昨日だけで優勝者が決まらなかったから、これからどうするのかを発表するらしい。
「でも、これで今日から続きをやるなんて言われたら僕らに勝目なんてないよね」
「だろうな。でもまあ、昨日限りで終わりだろう。明久のバグだって最初ほど派手ではないにしても、十分知られちまったんだ」
確かに、昨日は僕の得点が減らないというバグを、堂々と見せてしまうことになった。
これ以上、学園長が大会を続行することはないだろう。
校庭に着くと、案の定学園長が時間切れによる中止を発表した。
『なんでだよ!あともう少しだったのに』
『だよな、吉井が全然死ななかったし、最初から優勝者なんて決めるつもりなかったんじゃないのか』
これにはBクラスから多くの不満が漏れていた。
「落ち着きな、今はそれどころじゃなくなっちまったのさ」
学園長が全校生徒の前で、いつになく真剣な表情になる。
「この学校のシステムがハッキングされてね」
ハッキング……。なるほど、昨日の僕の点数の異常はそのせいだったのか。
「でもこの学園のシステムのセキュリティはそんなに甘いもんじゃないさ。だから被害は最小限に抑えられた。そう、ハッキングの影響を受けた召喚獣は一体だけだった」
その一体というのは僕の召喚獣だろう。でもどうして僕だけ……
「それはそいつの召喚獣が、召喚者に似て随分と単純なプログラムになっていたのさ」
何故かハッキングを受けたのが、僕のせいみたいになってるんだけど。
「そういうことだ明久、少しは反省しろよ?」
「ちょっとまってよ雄二! なんで僕の頭の善し悪しでプログラムが決まるのさ!」
まさか僕が単純だから、プログラムも単純になる……なんてことはないよね?
でも何故かみんなの目が痛い。
こうして発表が終わり、僕らが教室に戻ろうとしたところで急に肩を叩かれる。
振り返るとそこには、不安そうな面持ちをした姫路さんがいた。
憂いを帯びたその顔をみると、無性に守ってあげたい感覚に囚われる。
「大丈夫ですか、明久君。召喚獣がハッキングを受けたってことは、明久君にも何か影響が出たりしてないですか?」
「僕は大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」
「明久君が元気じゃないと、Fクラスが寂しくなっちゃいますからね」
姫路さんにそう言って貰えるなんて、とっても嬉しい。
その喜びに浸りながら歩いていると、急に肩を叩かれる。
振り返るとそこには、不満そうな面持ちをした鉄人がいた。
怒りを帯びたその顔を見ると、無性に逃げ出したい感覚に囚われる。
「大丈夫か吉井。観察処分者のお前がハッキングを受けたってことは、お前にも何か影響が出たりしてないか?」
「ぼ、僕は大丈夫です。先生も心配してくれるんですね……」
「吉井が元気じゃないと、教育指導が寂しくなってしまうからな」
鉄人にそう言われるなんて、最悪だ。
「ところで昨日は気がついたら何故か、川で泳いでいたんだが……」
「それはすごいですね。さぞかし筋肉が鍛えられたでしょう」
「そうだな、着衣泳は水着で泳ぐより何倍もきついからな」
そう言って笑い合う僕と鉄人。
その笑顔が絶えないうちに僕は走り出していた。
気がつくと僕の近くにいた雄二も走り出している。
直感的に危機を感じ取ったのだろう。
「待てい! 吉井! 坂本!」
鉄人がものすごい速さで追いかけてくる。
「くそっ! 俺は関係ないだろ!」
「大島先生から聞いたぞ、お前が指示を出して俺を川に流したってな!」
「あ、アイツらマジで川に行ってたのかよ!」
「さぁ、おとなしくしろ! そして水泳の補講だ!」
「落ち着いてください先生! 水泳の季節は終わりました!」
☆
結局逃げきれず、鉄人に連行される僕と雄二。
しかし連れて行かれた先は川ではなく、学園長室だった。
「本当はすぐにでも指導を行いたいところなんだがな。学園長が貴様らをお呼びだ」
学園長が僕らにか、きっと昨日のことについて何か言われるんだろう。
ドアを開けて部屋の中へ入る。
「ノックすらしないとは、相変わらず礼儀ってモンを知らないガキどもだねぇ」
するとこちらも相変わらず口の悪い学園長、だが朝礼の時のように若干深刻さが伺える。
「呼び出したのはそっちだろう。それで、俺たちは何をすればいいんだ?」
雄二が尋ねる。僕らを呼び出すくらいだ。何か頼みごとがあるのだろうと、雄二は予想したのだろう。
「話が早いね。アンタらには犯人探しをしてもらいたいのさ」
「犯人探しだと?」
「そうさ。混乱を避けるために発表はしてないんだけどね、犯人からメッセージが届いてるんだ」
そう言うと学園長は、近くにあったディスプレイに何者かから送られてきたEメールを表示させた。
どれどれ。『今回のハッキングは始まりに過ぎない。生徒を避難させることだ。我々は文月学園を破壊する』だって……!
「こ、これ、犯行予告じゃないか!」
「その通りさね。このまま犯人を野放しにしたら、アタシの大事な生徒が傷つけられてしまうのさ」
「それなら犯人の言うとおり生徒を避難させるべきじゃ……」
「そんなことをしてみろ、本当にこの学園は潰れるぞ」
僕の考えに対して雄二が指摘する。確かに犯人の言うとおりにしてしまえば、文月学園は犯罪者のから生徒を守ることができないと認識される。
そうなれば学園の存続が危うくなるのは言うまでもない。
「でも、どうして僕らなんですか?」
「犯人が吉井の召喚獣に細工をしたのは、おそらく観察処分者だったからなのさ。物に触れられる分、他のやつより派手に暴れられるからね。つまり犯人は今後もアンタの召喚獣を標的にすることが考えられるんだ」
「なるほど、そこを利用して逆に明久が犯人を見つければいいわけだな、そして俺はそれを助ければいいと」
「そうさね、吉井一人じゃ心もとない、でもあまり派手な動きはできないからね」
「だろうな、状況から考えて犯人は学園内部の人間……いや、少なくとも学園の情報を知ることのできるやつが一人はいるだろうからな」
雄二が分析して言う。確かに僕が観察処分者であることを知っているとしたら、それは内部の人間である可能性が高い。
「それで、どうなんだい?」
「引き受けないわけにはいかないだろ? 明久」
「うん、僕だってこの学園が無くなって欲しくはないからね」
この学園を壊そうとする奴、本気でそんなことをしようとするんだったら、僕はそいつを絶対に許さない! なんとしても見つけ出してみせる!
学園長の依頼を引き受けて、僕らは決意を胸に退室した。
「二人共、待っていたぞ」
その日は一日、着衣泳をする羽目になったのは言うまでもない。