バカとテストと召喚獣 solitary breakers 作:KA2
結局翔子に座られたまま、30分ほど街を移動し、人力車体験は終わった。
「それでは、そろそろ時間も遅いので宿舎に行きましょう」
秀吉がそう告げてまたバスへと戻る。
それから少し移動して、如月温泉へと到着した。
「ここが宿舎の如月温泉となります。明日は朝早くから如月山に登りますので、ごゆっくりとお休みください」
そう言われて、俺と翔子が二人、秀吉と変わった従業員に温泉旅館へと案内される。
途中で部屋を覗いてみると、綺麗な和風の部屋だった。
悪くないな。
「此方がお部屋になります」
そう言って通された部屋は、一見して他とは違うことが伺い知れた。
ロイヤルルーム……そう書かれた部屋。
その中は洋風で、床、壁、天井の隅々まで眩しいぐらいに輝いている。
端には、豪華な装飾を施されたダブルベットが置かれていた。
なるほど、ここで翔子と二人で……って
「ちょっと待て! 二人で同じ部屋はまずいだろう!」
「……夫婦だから問題ない」
「まずその認識に問題があると言ってるんだ!」
「ちなみに、ご希望でしたら様々なものをレンタルさせていただいております」
翔子に認識を改めるように説いていると、従業員がそんなことを言ってきた。
「レンタル? 何が借りられるんだ?」
「いろいろとありますが、主なものはパソコン、雑誌、ゲーム機、拘束具ですね」
「最後のおかしいだろ!? なんでそんなもの貸出してるんだよ!」
「そういった趣向をお持ちの方に、大変人気となっておりますので」
「しかも人気なのか!?」
「……手足の拘束具をお願い」
「畏まりました」
「借りるな!!」
「あと、温泉についてですが、普通のお風呂に加えて、カップル用の混浴風呂もご利用可能ですので。それと、お食事は八時からとなっております」
そう言い残して従業員は去っていく。
「そういえば俺は無理やり連れてこられたから、荷物がないじゃないか」
「……大丈夫。雄二の着替えとかはちゃんと持ってきてある」
「さ、流石に用意がいいな……それじゃ飯までまだ時間もあるし、先に風呂を済ませるか」
「……混浴」
「そっちには絶対に行かないからな」
あくまで別々に入ると翔子に釘を刺し、俺たちは風呂に向かった。
☆
「さてと、今日はみんなお疲れ様! 明日に備えて、今日はもう自由時間にしよう」
雄二と霧島さんをくっつける為、ロイヤルウエディングシフトに協力してくれているみんなに労いの言葉を掛けて、今日の作戦を終了した。
「それにしても、このままでうまくいくのかのう……。今日の様子を見ると、とても雄二と霧島の仲が深まったようには見えんのじゃが」
「大丈夫だよ秀吉。今日までのは単なる雄二への嫌がらせだからさ。本番は明日だよ」
「ちょっと待つのじゃ明久、今軽く今日の作戦がロイヤルウエディングシフトとやらに、全く関係ないことをカミングアウトせんかったか!?」
雄二への嫌がらせが、結果的に霧島さんのためにもなるんだ。なんの問題もない。
「それじゃあ美波ちゃん、ご飯まで時間がありますし、お風呂を済ませちゃいましょうか」
「ムッツリーニ、僕らも今のうちに入っておこうか」
「…………(コクリ)」
「そうね、それじゃあまたあとでね」
そう言って女湯の暖簾をくぐっていく美波と姫路さん。
「あれ? 秀吉は姫路さんたちと一緒に行かなくていいの?」
「わしは男じゃと、何度言えばわかるのじゃ!?」
秀吉はそう言いながら僕とムッツリーニと一緒に、男湯に入ろうとしてくる。
「だ、だめだよ! 秀吉が一緒に来たらお風呂が血で染まることになっちゃうじゃないか!」
「な、ならわしは一体どこで風呂に入ればいいのじゃ!」
秀吉は女湯に行けばいいのに、間違っても男湯になんか入ってきちゃいけないと思う。
そんなやりとりをしていると、不意に背後に殺気を感じる。
「よう明久……!」
「あ、あれ? 雄二じゃないか。奇遇だね、こんなところで会うなんてさ」
「この状況でしらを切るか。まあいいだろう、お前に聞かせたいものがあってな」
雄二はそう言って携帯を取り出して何かを再生する。
『私は女ですから』
その携帯から聞こえてきたのは、若干声色は変えられているけど間違いない、秀吉の声だ。
「秀吉、やっぱり君は……」
「待つのじゃ明久! あれはお主が役になりきれと申すから……」
「今更取り繕わなくたっていいよ、僕は君が男だろうと女だろうと構わない。いや、女だと解った今だからこそ、尚更僕の愛は深まってるよ!」
『ねえ瑞希、向こうの方で何か聞こえなかったかしら?』
『そうですね。何かとっても良くない言葉が聞こえた気がします』
壁越しに聞こえてくる美波と姫路さんの言葉と殺気。
でも大丈夫、流石の二人でも男湯の脱衣所に入ってくるなんてことはできないはず……!
「二人共、今なら浴槽にも脱衣所にも、知らない人間はいないぞ」
「なんてことを言うんだ雄二! そんなこと言ったら、美波が僕を殺すために、なんの躊躇いもなく入ってくるじゃないか!」
その瞬間、敵の気配を感知して仰け反ると、目の前を体重計が飛んでいった。
「アキ~、こんなところで木下に何をしようとしてたのかしら?」
「行けませんよ明久君、ここは公共の場所なんですからね……?」
ひ、姫路さんまでなんの躊躇いもなく入ってくるなんて。
入口からは逃げられそうにない! ここは露天風呂から脱出するしかないか!
浴槽へ続く扉を開けて逃走する僕。
「待ちなさい! サウナで三時間正座するだけで許してあげるから!」
それは命と引き換えに、僕の罪が許されるということだろうか。
続いて露天風呂へ行くためのドアを開ける。
「逃しません! えいっ」
姫路さんが手に持った石鹸を投げてくるが、僕には届かない。
「残念だったね姫路さん、そんな飛距離じゃ僕にはあたらな(ツルッ)━━━」
なにかを踏んで体制を崩す。見るとそれは姫路さんの投げた石鹸が滑って僕の足元に来たようだった。
そのまま滑って、露天風呂に突っ込む。
「さーて瑞希、どう料理してあげましょうか」
「服を着たまま入って濡れてしまったみたいですし、暖かいサウナで乾かしましょうか」
そのあと僕はサウナに閉じ込められたところで、他の客の出現のために美波と姫路さんが露天風呂付近から撤退したため、九死に一生を得た。
☆
「それにしても酷い目にあったよ。って、そういえば秀吉は?」
「ああ、秀吉なら俺たちが使わなかった混浴風呂の方に行ってもらった」
雄二がそう僕に教えてくれる。
流石にこれ以上、秀吉がここにいるのはまずいもんね。
ほかのお客さんに通報されちゃうだろうし。
「それで、お前らは明日どうするんだ?」
「僕ら? 僕らは如月山にハイキングに行くつもりだけど」
「そうか、そこで仕掛けてくるわけか」
「な、何を言ってるのさ。僕たちは雄二が如月山に行くなんて知らないよ?」
「そりゃそうだ、言ってないからな」
「あ……」
「それで、今日はもう何もないんだろうな」
「それは僕らの気分次第━━」
「もう一度サウナに戻るか?」
「すんません! 今日はすぐに寝ます!」
そうして僕らは、今日は雄二に手出しするのはやめておくことにした。