バカとテストと召喚獣 solitary breakers 作:KA2
さてと、俺はこの川を渡らなければならないわけだが……
なんで渡らないといけないか? それはなぜだかわからないが、渡ってしまいたいような気がするからだ。
「どもっす。向こう岸に渡りたかったら、代金をいただくっす」
船頭が近づいてきてそう告げる。
だがあいにく俺は金を持ち合わせていない。
「すまん、金は無いんだ」
「じゃあ、泳いで渡るしかないっすね」
「泳げだと!? この川幅じゃ、溺れて死ぬだろうが!」
「いや、渡りきったら死ぬんすけどね……」
☆
「……は!?」
「……雄二、起きた?」
どうやら俺は三途の川を渡ろうとしていたらしい。
昨日明久達に無理やり姫路の温泉卵を食わせられてからずっと気を失っていたみたいで、既に朝になっていた。
「……それじゃあ、如月山に行く」
翔子が目を覚ましたばかりの俺を引っ張っていく。
何故か既に普段着を着ているのだが、俺が寝ているあいだに何が起こっていたのだろうか。
昨日乗ったシャトルバスが見えてくる。
乗り込むと既に秀吉と運転手の似非外国人が居て、俺たちが来たことで如月山に向けて出発した。
「さて、これから向かう如月山ですが、そこに祀られている祠でお祈りしたカップルはその愛が永遠に続くと言われております」
秀吉が本物のバスガイドのように如月山の解説を始める。
「その祠、現在建てられているのは頂上にあるものなのですが、これは最近になって立て直されたもので元から建てられたものが現在何処にあるかは解っていません」
今日はその祠とやらに行くらしい。
永遠の愛を約束してくれる祠か……。
無理やり俺たちを結婚させようという割には、まだ生ぬるいような気もするが━━
「それではここからは歩きになります。頂上までご案内しますので、私についてきてください」
そう言って着ぐるみのまま俺たちを先導する秀吉。
これから登る山道は特別な道具が必要なほどではないが、結構険しい道のりだと思われる。それをコイツは本気で着ぐるみで登るつもりなのだろうか。
しばらく歩いていると、秀吉は着ぐるみの上からでも随分辛そうにしているのが伺えた。
それでも頑なに着ぐるみを脱ごうとしないのは役者魂だろうか、それとも……。
二時間近く歩いた頃だろうか、ようやく頂上に近づいてきたらしく、道は少しずつ平坦になってきていた。
その時、道の脇から物音がする。
「なんだ? 動物でもいるのか?」
「……違う」
「へっへっへっ、ここを通りたければ有り金全部置いてきな」
出てきたのは屈強そうな男たち。刃物を構えながらこちらを脅して来る。
……何故か藁で作られた衣服を着て。
なんだ、お前らは一体いつの時代の人間だ?
「俺たち山賊に歯向かうと、痛い目をみるぜ?」
山賊って……。そんなもんが今の時代にいるわけないだろ。
大方、俺たちをピンチに陥らせて二人の中を深めようとか考えた如月グループの人間だろう。
よく見ると持っているナイフも先端が引っ込むやつのようだし。
ここは無視して、やつらの作戦を壊してやるか。
「こんな奴らに付き合ってやる暇はない。行くぞ翔子」
そう言って翔子の手を引く。
「てめえ! 舐めるんじゃねえぞ!」
男のうちの一人が、ナイフを片手に突っ込んでくる。
それを軽く躱すと、相手はこちらが攻撃してもいないのにわざとらしく吹っ飛んでいった。
「こ、こいつ強ええぞ! 逃げろ!」
何もしてないのに逃げ出していく山賊(自称)たち。
こんな演技に騙される奴はいない。
「……危ないところだった。やっぱり雄二は強い」
こんな演技に騙される奴はいない……。
そして襲撃された場所から少し歩くと、祠のようなものが見えてきた。
「ついに到着しましたね。此方が永遠の愛をもたらしてくれる祠です」
「……やっと着いた」
「ああ、こんなもん滅多に見れないもんな。……それじゃあ帰るか」
踵を返そうとしたところで、翔子に後頭部を鷲掴みにされる。
「……まだお祈りが済んでない」
「ちっ、しょうがねえな」
翔子に引っ張られて祠の前で手を合わせる。
「これでいいか?」
「……うん。これで二人の愛は永遠」
そう言いながら、俺の腕に手を回して関節を極めてくる。
きっと俺たちは、破局したカップル第一号として祀られることになるだろう。
「それでは、下山しますのでこちらへ」
どうやら帰り道は来た時とは違うところを通るらしい。
その道を歩き出すと
「(バタン)」
秀吉が急に倒れこむ。
「ああ!? 大丈夫ですか!?」
その瞬間、聞き覚えのある声がして、三人組が俺たちに近づいてきた。
言うまでもなく明久たちだ。
「大変! このガイドの人、ずっと着ぐるみで歩いてきて体力の限界なんだわ!」
「…………すぐに病院に連れて行かないと」
「そうだね! ここは僕らが連れて行くから、二人共心配する必要は無いよ!」
そう言うや否や、やつらは秀吉を担いで足早に去っていってしまった。
「…………」
翔子と二人きりになる俺たち。
秀吉がきつそうだったのは確かだが、これは奴らの作戦なのだろう。
「まあ、ガイドがいなくても道なりに進んでいけば大丈夫だろ。行くぞ」
「……うん」
そうして道なりに歩いていくと、二股に分かれている場所に着いた。
「ここはどっちに行けばいいんだ?」
「……左って書いてある」
よく見ると看板に左を指す矢印が書かれていた。
しかし、この看板━━随分と新しいような気がするな。
最近建て替えられたのだろうか。
結局看板の指示通り左へ進み、歩くこと数十分。
「流石に疲れてきたな。どこか休めそうなところがあればいいんだが」
「……あそこに家がある」
翔子が指差した方を見ると、古ぼけた茅葺き屋根の家があった。
こんなところに家があるなんておかしいと思うが、せっかく休めそうなところがあるのだから使わない手はない。
一応住んでいる人間がいるかもしれないので戸を叩いてみる。
するとその戸を中からあけたのは、先ほど三人の中にいなかった姫路だった。
「姫路……こんなところで何をしてるんだ……?」
「私はこの山の山姥です。せっかくですから、上がって休んでいってくださいな」
山姥だと自己紹介してから休憩に誘うなんて、なんて大胆な襲撃方法だろう。
「……それじゃあお言葉に甘えて」
そう言って中に入っていく翔子。
まあ姫路なら、俺らに危害を加えてくることはないだろうしな。
中に入ってちゃぶ台とご座の近くに通される。
「ここで少し待っていてください。今色々お持ちしますから」
姫路はそう言って奥の方へ消えていった。
そのあと少しして、姫路が行った方から刃物の音が聞こえてくる。
「山姥っていう設定だからな。包丁でも研いでるのか」
「……気になる」
「んじゃあ、覗いてみっか」
音を立てないようにこっそりと姫路がいる方向へ近づいていく。
間を隔てる障子を少しだけ開いて覗いてみると、そこには包丁を持った姫路の姿。
「ジャガイモは千切りがいいでしょうか? それともみじん切りでしょうか?」
ダッ!!
翔子の手を引いて、全速力でその場から逃げ出す。
間違いなくあれは俺たちを毒殺しようとする山姥だった。