ブルアカクラフト   作:蒼/ao

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幕間②:紫と黄色の塔で

 太陽も月ない、暗い空。

 白亜色の島が点々と浮かぶ中、ひとつの歪な尖塔が異様な乾いた音を響かせていた。

"グゥ、グヴェェ...."

 うめくような声を一つ残し、最後のシュルカーが崩れ落ちた。

 白色の煙になって、吹くことがない風に溶けるように消えていく。

「これで、最後かしらね」

 まだ煙が出ている銃口を上げ、ヒナは登ってきた塔を見上げる。

 

 ——高い。

 ゲヘナの校舎も、見上げれば首が痛くなるくらいの高さはあった。

 だけど、それは風が吹けば軋み、雲が流れれば影が動く、そういう「高さ」だった。

 

 ここは違う。

 風がないから、何も揺れない。

 雲もないから、影も動かない。

 ただ静かに、塔だけがここにある。

 

「お疲れちゃ~ん」

 背後から聞こえた気の抜けた声に、ヒナが振り返る。

 さっきまで、そこにいなかったホシノが、いつの間にかそこに立っていた。

 

 背中には見慣れない水色の斧を掛けている。金属とも宝石とも違う、不思議な質感。

 その刃の周囲には、陽炎のような紫色の光が薄く揺れている。

 ヒナは、何度かその斧が振るわれるところを見ていた。

 この塔に巣くう硬い殻のモンスターにさえ、紙のように断ち切っていた武器だ。

 

「....そっちはなにかあった?」

「いや~なんも。金の延べ棒とか、水色に輝いてる宝石とかは沢山あったけどね~」

 ホシノはそう言いながら、紫色の果実をもぐもぐと咀嚼していた。

 

——ポンッ。

 ホシノの姿が消えた。

「....」

 慣れたものだ。

 ヒナはため息をつきながら辺りを見回す。

「おーい」

 声は真上から聞こえた。

 見上げると、ホシノが塔の飾り柱の上に引っ掛かっていた。

 

「また変なところに飛ばされたんだけど~」

「自業自得よ」

「なんか冷たくな~い?」

 ホシノはそう言って、ヒナの近くに飛び降りた。

「この果物、いくらでも食べられるくらい美味しいんだけど、変なところにワープしちゃうのがね~」

 ヒナは何も言わず、ホシノの手元の果実をじっと見た。

 ホシノもそれに気づき、一つ手渡す。

 ヒナは受け取って、しばらく転がすように眺めてから、結局口には入れずポケットに仕舞った。

 

「なんか代わりの食べ物でもないかなって思ったけど、やっぱりないか~」

 ホシノは適当なことを言いながら、宙に浮く建物に繋がる橋の縁に、腰を下ろした。

 眼下には何もない虚無の海が広がっている。星のように見える粒子だけが、ぽつぽつと闇に浮かんでいた。

「ここで見つけた金の延べ棒。アビドスに持って帰れば、あなたの学園の借金も返せると思うのだけど....」

「持って帰れたらね~。おじさんの手じゃ、ちょっと持っただけでヘトヘトになるよ~」

 嘘だ。

 仮にそうだとしても、別の方法を既にホシノは見つけている。

 

 塔を登っている最中、オレンジがかった黄色の入れ物の隣に、いつも同じ顔をして並んでいる黒と緑の装飾の箱。

 ホシノは最初に見つけた時こそ、何度も蓋を開け閉めしていたが、今では見向きもしなくなっていた。

 中身が変わらないことも。

 そして、その意味も——もう分かっているからだ。

 

「さてと、ここの探検も終わったし、また歩く?」

 ヒナは呆れたようにため息をついた。

 何日歩いただろう。

 浮き島を渡り、塔を登り、殻に籠もるモンスターや黒い人影のような物たちと戦い続ける。

 

 景色はほとんど変わらない。

 それでも、立ち止まる理由もなかった。

「次はあっちかしら」

 ヒナが遠くを指差す。

 闇の向こう。かすかに紫色の影が浮かんでいた。

 また、別のこんな感じの歪な塔かもしれない。

 

「じゃあ、おじさん頑張りますか~」

 ホシノは立ち上がると、大きく伸びをした。

 帰る方法はまだ見つからない。けれど、焦る必要もない。

 

 緑の球体を、地上に向けて二人は投げた。

 

 ワープする直前、ホシノは一度だけ、一つの部屋にある、“あの箱”へ視線を向けた。

 ヒナはそれに気づいたが、何も聞かなかった。

 そして、二人の姿は紫色の粒子に包まれ、再び闇の向こうへ消えていった。

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