ブルアカクラフト   作:蒼/ao

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序節:不吉な予感

 街から離れた森の奥。

 放棄された工場には、今日も人の気配があった。

 

 割れた窓、崩れかけた煉瓦の壁。

 止まったままのベルトコンベア。

 

 本来なら何年も前に朽ちているはずの場所だ。

 だが、今は違う。

 工場の入口には見張りが立ち、敷地内には武器を手入れする者や弾薬を運ぶ者の姿があった。

 

 ヴォルクス・リベレーター。

 元々は、クリエイト社の部品工場の一つ

 そして隣には、もう一つ異様な建造物があった。

 

 黒いオーク材で組み上げられた高い塔と、邪悪そうな顔の旗がたなびいていた。

 森の木々を見下ろすように建つそれは、まるで監視塔だった。

 周囲には、手に銃を持ったピレジャーの姿も見える。

 

「今度こそ....」

 工場の奥には、他の車両とは隔離された一角があった。

 錆びたトラック。

 履帯の外れた装甲車。

 その中で一台だけが整備を終えている。

 

 長い砲身。

 分厚い装甲。

 鉄の獣のような戦車だった。

 

 装甲には無数の傷が刻まれている。

 それでもなお、その巨体は圧倒的な存在感を放っていた。

 ベルダはその装甲にそっと手を置いた。

 

「ねぇ、ベル。別にこれを持ち出すのはいいけどさ....」

 そのすぐ横では、一人の整備士が樽を椅子代わりにして腰掛けていた。

 膝の上でレンチを弄びながら、整備を終えた履帯を眺めている。

 

「確認しなきゃならない」

「何を?」

「あいつらが、本当にダークオークの森林を壊したのか」

 ベルダは、戦車の砲塔を見上げた。

 

「偵察に行っただけのはずだったのに?」

「予想外だった」

「戦車まで用意しなきゃいけないことが?」

 整備士はレンチを肩に担ぎながら、呆れたように笑った。

 ベルダは答えない。

 ただ戦車の砲塔を見上げたまま、硬い表情を崩さなかった。

 

「見たんだ」

「ん?」

「あんな武器、普通の人間が持ってるはずがない」

「それって、噂の放浪者ってやつ?」

 

 ベルダの脳裏に、耳をつんざく轟音が蘇る。

 金色の髪。

 そして、火を吹く巨大な武器。

 あれは他の誰でも、ワールド・ディフェンダーの物でもなかった。

 

「あっちに放浪者がいるなら、こっちにだって....」

 工場の奥へ視線を向ける。

 そこでは一人の少女が、ヴォルクスリベレーターの戦闘員たちに囲まれていた。

 

 背中まで伸びた紅い髪。

 黄金色と赤が目を引く長い銃を抱えている。

 

 普通の戦闘員にとって、銃は消耗品だ。

 壊れれば取り替える。

 それだけの道具。

 だが、その少女だけは違った。

 まるで宝物のように抱えている。

 

 それに、頭に近い首の付け根に角みたいな物が生えていた。

 この世界の住人ではない。

 そう考えるには、十分すぎる理由だった。

 

「....まぁ、好きにしたら?でも、戦車の数にも限りはあるから大切にね」

 戦車の整備士は、ため息をつきながら、ベルダに聞こえない声で呟いた。

「....ベルも、すっかり変わっちゃったね」

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