ブルアカクラフト   作:蒼/ao

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10話(ネザー編):激突!ゲヘナの切り込み隊長!

 あっづぅぅぅぃ!熱くて干からびそう!スルメになっちゃう!

 

 熱いって覚悟はしていた。けど、ここまで熱いとは聞いてない!

 炎の中とまではいかないけど、それに近い!

 ロッテンたちが危険って言った理由が熱いほど分かった!

 灼熱より熱い言葉があれば、それがピッタリなんだと思う!

 

「おい、大丈夫か?」

 大丈夫じゃないって言いたいけど....いや、無理だ!言わせてもらう!

「ごめん、熱い....」

「まぁ、そうだろうね」

 だけど、ここで戻るわけには行かない。せっかく、自分が何者なのか知っていそうな人物がいるんだ。

 ここは進まないと。

「でも、平気、なんとか行くよ」

 

 紅い、紅い森。

 視界中、ずっと赤が染まっている。

 木も、地面も、草だって全部赤、赤、赤。

 それに、棘の生えた不気味なツタがそこら中に垂れている。危なそうだし目にも悪い。

 地獄なんて言葉じゃ生ぬるいかも。

 

「そう言えば、お前に渡しておいた方がいいな」

 ロッテンは鞄の中から瓶を取りだした。

 オレンジ色の液体が揺れている。

「グビッと飲め、この辺りを歩くのに必須だから」

「なにこれ」

「耐火だ」

「そんなのがあるの?」

 それでも言われるまま飲み干した。

 

 ——まっっっっっず。

 でも、不思議とさっきまでまとわりついていた熱気が少し和らいでいた。

 

「....涼しくなった」

「高いんだぞそれ。まぁ、こう言う時じゃないとあまり使わないが」

「二人は平気なの?」

「俺はゾンビだから熱さを感じない」

「僕は骨だけだからね」

 

 そんなことを話していると、赤い菌糸の地面に、真新しいツルハシの跡が残っているのを見つけた。

 まだ崩れたばかりらしく、欠片が転がっている。

 

「これ....」

「新しいな」

「あぁ」

 ロッテンが屈み込んで地面を指でなぞる。紅い石の粉が、彼の手に付いた。

「数時間も経ってない」

「やっぱり、あの水色の人かな」

「可能性は高いね」

 まるで誰かが迷いなく一直線に進んだように、赤い森の中へ道が続いている。

 青い人を追いかけて、また歩き始めた。

 こんなに紅いのなら、水色なんてすぐ見つかると思っていたけど、中々見つからない。

 木を超え、丘を越え、谷を越え....。危険な地形を渡った。

 

 しばらく歩いていると、オストーがふと思い出したように振り返ってこう聞いてきた。

「そう言えば、君の名前聞いてなかったね」

 確かに、あの時からロッテンたちの名前は聞いていたけど、自分の名前は言ってなかった。

「アレックスって言う」

「アレックス、ね」

「変わった名前だな」

「そう?」

「少なくとも、この辺じゃ聞かないよ」

 

 そんな、歩いている最中。

 ——パリンッ。

 ガラスが、割れるような音がした。

 

「....今の音なに?」

「今のは——」

 不意に、ロッテンの言葉が詰まった。

 隣では、オストーも来た道を振り返ったまま動かない。

「ロッテンさん?」

「....いや」

「....聞き間違いだと良いんだけどね」

 

 オストーがそう呟いた。

 ....少し不穏だ。この音が、なにか大事な物じゃなかったらいいんだけど....。

 また、歩き出す。

 

 掘られた道はまだ続いている。

 紅が広がる森の中を、一本の線を引くようにして後が残っていた。

 所々で草が踏み倒され、ツルハシで削られた跡が残っていた。

 

 どれも新しい。

 まるで少し前まで、誰かがここを歩いていたみたいだった。

「本当に真っ直ぐだな」

「迷いがないね」

「急いでたのかな」

 不気味なほど景色は変わらない。

 風もない。聞こえるのは遠くで響く溶岩の唸り声と、自分たちの足音だけだった。

 

 ——ザッ。

 どこかで、小石を踏んだ音がした。

「....なにかいる」

 

 ロッテンが低く言った。

 オストーも弓を構える。

 

 けれど姿は見えない。

 赤い木々の向こう。

 棘だらけのツタの影。

 何かがいる。

 

 「出てこい!」

 

 ロッテンが叫ぶ。

 返事はない。

 だが——

 

 ——バァンッ!

「ッ!伏せろ!」

 乾いた銃声がネザーに響く。

 後ろのあった赤い木の幹が弾け飛んだ。

 

 頭が真っ白になった。

 今のがもし少しずれていたら——そう考えた瞬間、背筋が冷えた。

 

「狙撃か!」

 ロッテンが腰の袋へ手を突っ込む。

 ——ドンッ。

 何もなかった空間に、苔むした丸石が現れた。

 ロッテンが置いたのだと気付いたのは、その後だった。

 

 ——カンッ!

 丸石の表面が僅かに欠ける。

「ッチ!」

 誰かが、舌打ちする音が聞こえた。

 

「くっそ!どこにいやがる!」

 ロッテンが周囲を見回す。

 赤い木々。

 

 垂れ下がる棘のつた。

 視界を遮る菌糸。

 どこを見ても同じ景色だった。

 

「上かもしれない」

 オストーが弓を構える。

「いや、距離が近い」

 ロッテンが低く唸った。

 返事の代わりに、遠くで溶岩の泡が弾ける音がした。

 

「広がるな。視界から消えるなよ」

 そう言って、自分から先頭を歩き出した。

 オストーも少し距離を空けて続く。

 自分も二人の後を追った。

 

 赤い森は静かだった。

 さっきまで聞こえていた足音さえ、大きく感じる。

 誰も喋らない。

 ただ武器を握る音だけが耳に残る。

 

 何も見えない。

 だからこそ、不気味だった。

 

 真紅の木の脇を通り過ぎた——瞬間だった。

「っ!?」

 

 オストーが足を止める。

 木の向こう。

 そこに人影が立っていた。

 

 制服姿の少女。褐色の肌。白い髪を左右で結んでいる。

 そして何より目を引いたのは、その手に握られた大きな銃だった。

 

 ——左腕の赤い腕章には、『風紀』の二文字。

 

「人間——」

 ——パァン!

 銃声の後、オストーの目の前に苔むした丸いしが置かれた。

 その弾丸が、丸いしを削った。

 

「くっそ、やつ、興奮してやがる!それとも俺がゾンビだからか?」

「いや、どっちもだと思うよ」

 パァン!

 再び丸石の角が削り取られる。

 

「チッ、ラチが明かねぇな」

 ロッテンが周囲を見回す。

 目に留まったのは、すぐ側に生えている歪んだ木。

「....そうだ!オストー!鉄ねぇか!?」

「あぁ、あるよ」

 

 次の瞬間、銀色の延べ棒が放り投げられた。

 ロッテンがそれを受け取る。

「よし、これで!」

 

 ——ドゴッ!

 ロッテンは近くの歪んだ木へ拳を叩き込んだ。

 赤黒い木片が飛び散る。

 木材。作業台。鉄。組み合わせる。

 何をしたのか理解する前に、彼の腕には巨大な盾が握られていた。

 

「出てこい化け物!」

「あぁ、お望み通り出てやるさ!」

 ロッテンが飛び出した。

 ——パァン!パァン!パァン!

 

 弾丸が盾へ突き刺さる。

 それでも止まらない。むしろ加速している。

 「なっ!?」

 

 一瞬。ロッテンが懐へ潜り込んだ。

 斧が大きく横へ薙がれる。狙ったのは彼女自身ではない。

 ——銃だった。

 

 ガンッ!

 銃が宙を舞う。

 カラン、カラン....。

 遠くで金属音が響いた。

 

 気付けば、ロッテンの斧がイオリの喉元に突き付けられていた。

「....落ち着け」

 ロッテンがそう言うも、彼女の目は睨み付けたまま動かない。

 

 ふと、自分と視線が合った。

「....え?」

 その声は小さかった。

 さっきまでの殺気が、ほんの少しだけ揺らぐ。

「人....?」

 初めて戸惑ったような顔をした。

 

 まるで幽霊でも見たみたいな反応だった。

 私を見るのが、そんなに珍しいんだろうか。

 ——————

 

「....」

 彼女はしばらく瓶を睨んでいた。

 みんなで座り込み、斧は降ろされ、彼女の膝元に銃が置かれていた。

 

「だから毒なんて入ってねぇって」

「ゾンビの言葉を信用しろと?」

「まぁ、言われてみればその通りだな」

「認めるのかよ」

 オストーが呆れたように言った。

 彼女は小さくため息を吐くと、ようやく瓶を口元へ運んだ。

 

「....まずい」

 瓶をおいての一言は、私と同じだった。

「だろ?」

「熱くないの?」

「別に」

 彼女は肩をすくめた。

 

「ゲヘナじゃ珍しくもないな。この程度なら」

「ゲヘナ?」

「私の学園だ」

「学園?」

「あぁ」

 ロッテンが腕を組む。

 

「そういや、前に街で暴れてた連中もそんなこと言ってたな」

「暴れてた連中?」

「白い制服を着た奴らだ。噴水広場で、黒の同じ奴らと派手にやり合ってた時に聞いた」

 彼女の眉がぴくりと動いた。

 

「....あいつらか」

「知り合い?」

「知り合いじゃない」

 少し間を置いて。

 

「顔は知ってる」

「どっちのだ?」

「どっちもだ」

 敵か味方か、という意味なのだろうか。

 どちらにせよ、今のところ判断材料は少ない。

 

「そう言えば、名前を聞いてなかったね」

 ふと、そう思って尋ねた。

 彼女の視線がこちらに向く。

「....話す必要があるのか?」

「まぁ、これから会話をするなら」

「....イオリだ」

「....イオリ、ね」

 自分はそう繰り返すと、小さく頷いた。

 どうやらこれ以上話す気はないらしい。

 無理に聞き出そうとしても機嫌を損ねるだけだろう。

 

「それで、お前達こそここでなにをしていたんだ?」

「水色の服の男を追っている」

 すると、イオリという子は少し顎の下に手をやって、腕を動かした。

「水色の男....それなら、向こう側に行ったな」

 今座っている、背中の方向に指をさす。

 

「なんかそいつ、迷っているみたいだったな。やけに周囲を見渡していたし」

「迷っていた?」

「あぁ、そうだ」

 彼女は頷いた。

 

「それに、何かを探してるようにも見えたな」

 ロッテンとオストーが顔を見合わせる。

「なるほどな、ちょうど街のゲートもあるし引き返すとしようか」

「君も、ここにいたら危ないから付いて来て」

 イオリは一瞬、瓶を握ったまま黙り込んだ。

「....一人で歩くよりはマシ、か」

 そう呟くと、ゆっくり立ち上がった。

 全員で、仲良く来た道を引き返す。

 

 さっきまで追っていた掘削跡を今度は逆向きに辿る形になった。

 赤い森は相変わらず不気味なほど静かだった。

 

 聞こえるのは足音と、遠くで煮え立つ溶岩の音だけ。

 だが、どうしても気になることがあった。

 

「そう言えば」

 思わず、口を開いた。

「さっきの、——パリンって音なんだろうね」

「音?」

 

 ロッテンも、オストーも少しだけ表情を曇らせた。

「聞き間違いならいいんだけどね」

「何の音か分かるの?」

「....まぁ、嫌な予感がする音だったとでも言っておこう」

 

 そうこうしている間に、ゲートが見えてきた。

 だけど、なんか様子がおかしい。どことなく、最初見たときと雰囲気が違う。

「待て....」

「やっぱりそうだ!」

 だが、ゲートをロッテンとオストーが視認するやいなや、足取りが速くなる。

 

 

 突然、二人は走り出した。

「ちょ、二人ともどうしたの?」

 慌てて後を追う。そんなに急ぐ理由が分からない。

 さっきまで普通に歩いていたじゃんか。

 

「ロッテン!オストー!」

 

 二人は返事をしない。

 ただ一直線にゲートへ向かって走っている。

 嫌な予感がする。でも、それが何なのかは分からない。

 けれど、二人の様子は明らかにおかしかった。

 

 そして——

 

「....そんな」

 先に辿り着いたオストーが立ち尽くした。

 ロッテンも言葉を失っている。

 

 そこでようやく、自分もその光景を見た。

「え?」

 あるはずのものが、なかった。

 

 ——あの紫色の揺らめきが。

 ——帰り道が。

「ネザーゲートが....」

 そこにあるのは、紫の光を失った黒い石の枠だけだった。

 喉の奥が、急に乾いてきた。

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