ブルアカクラフト   作:蒼/ao

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幕間③:果ての星空で

 風もない。

 鳥もいない。

 遠くから聞こえるのは、時折響く不気味な環境音だけ。

 

 まばらに、白亜の孤島が星のように浮いているカクカクの世界。

 そんな場所で——

 

「ヒナちゃーん!」

 

 珍しく、やけに楽しそうな声が響いた。

 

 見上げる。

 漆黒の空を背景に、小さな影がこちらへ向かってくる。

 翼を広げた人影。

 いや。

 

 正確には——翼を背負ったホシノだった。

 

「これ、すんごい楽しいよー」

 何度目か分からない旋回を終え、ホシノはゆっくりと浮島へ降りてくる。

「....何をしているの?」

「見ての通り、飛んでるよ~」

 

 これは、いつものように、塔を見上げた時。

 虚空に取り残されたように浮かぶ船があの塔にあった。

 

 もしかしたら。

 そう期待したのも一瞬だった。

 船の中に、帰るための手掛かりはなかった。

 

 その代わりに——

 額縁に収められていた一対の翼。

 それは、この何もない世界では不釣り合いなほど、空を目指す形をしていた。

 

「....それで?」

「ん~?」

「それを見つけてから、ずっと飛んでいるのね」

「だって、面白いじゃん?」

 

 ホシノは笑う。

 

 いつものような、眠そうな笑顔。

 けれど、少しだけ違っていた。

 

 ここに来てから、ホシノがこんな顔をしたのは初めてだった。

 

 浮島を渡る時も。

 塔を登る時も。

 敵と戦う時も。

 

 どこか余裕があるように振る舞っていたけれど、その目はずっと帰る場所を探していた。

 でも今だけは違う。

 ただ、空を飛ぶことを楽しんでいる。

 

「ヒナちゃんもやってみればいいのに」

「結構」

「絶対楽しいよ?」

「....」

「....」

「....落ちたらどうするのよ」

「そこはほら、おじさんの感ってやつで」

「感でどうにかなる場所じゃないわよ」

 ....多分、この人は落ちない。

 そう思えてしまう程度には、ホシノの動きは正確だった。

 

 急旋回で姿勢を崩しても、翼の角度を変えてすぐに立て直す。

 ただ。

 問題は、本人がそれを「危ないこと」と認識していないところだった。

 

 実際、一度は浮島の下へ落ちかけた。

 浮島の縁から虚空へ消えた時は、本当に肝が冷えた。

 ホシノがあの緑色の球体がなければ、どうなっていたか分からない。

 

「そもそも、あなたはさっきから何回落ちかけているの?」

「え~?でも、ちゃんと戻ってきてるじゃん」

「結果的にはね」

「でもほら、今こうして無事だし」

「....」

「ヒナちゃん、心配してくれてる?」

「してない」

「即答だねぇ」

 

 ため息をつく。

 けれど、ホシノは聞いているのかいないのか、もう翼を広げていた。

 

「じゃあ、もう一周してくるね~」

「....」

「今度はもっと高く飛べそう」

「やめなさい」

 

 そう言いながらも、もう止める気力を失っていた。

 ホシノの姿が浮島から離れる。

 最初は不安定だった飛行も、今では随分と慣れたものになっていた。

 漆黒の空を背景に、小さな影が遠ざかっていく。

 

「....本当、子供みたい」

 ホシノはまた笑いながら虚空へ飛び立っていく。

 けれど、視線を少し外せば現実がある。

 

 果ての見えない闇。

 足を踏み外せば終わる虚無。

 帰る方法すら分からない、自分たちだけの世界。

 

 本当に、この旅に終わりはあるのだろうか。

 

 答えのない空を、ただ静かに見つめ続けていた。

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