「ここは....どこ....?」
頭が重い。記憶が、ぼやけている。
草むらの中で、白銀の髪の少女はゆっくりと体を起こした。
その拍子に、何かが草の上に落ちた。
胸元に抱え込んでいた銃だった。
体は動く。怪我もない。でも、どこかおかしい。知らない場所。知らない空。
それに——全部が、四角い。
辺りは森のようだった。木も、岩も、地面も、全部ブロック状に角張っている。自分の手を見る。四角い。
ただ、銃は握れた。
(少なくとも、ここはアビドスじゃない。銀行も....あるわけないよね)
なぜここにいるのか、記憶をたぐろうとする。
でも、頭の引き出しに手をかけるたび、もやがかかったように滑る。
砂狼シロコ。....うん、大丈夫。それは出てきた。
(ホシノ先輩は? みんなは?)
答えは返ってこない。
一度、頬をつねってみた。....痛い。頬が赤くなっただけだった。
「夢かどうか分からない時は、こうした方がいいって——ホシノ先輩、言ってたけど」
夢じゃない。そういうことらしい。
未知の場所で助けを待っても、来る保証はない。日が明るいうちに、せめて雨風をしのげる場所を見つけないと。
シロコは草を踏みしめ、立ち上がった。
森に踏み込むと、木々が頭上で葉を広げていた。
鳥が鳴いている。風も吹いている。音だけ聞けば、知っている森と変わらない。
でも、見える全てが違った。
葉っぱは一枚一枚が四角い板で、風に揺れるたびに束ごとふわりと浮いて、またふわりと戻る。幹は円柱じゃなくて四角い柱で、根元から先端まで定規で引いたようにまっすぐ。土も、岩も、転がっている石ころまで——全部が同じ大きさのブロックで出来ている。
それなのに、ちゃんと木は立っていて、葉は揺れて、森として成立していた。
「不思議な場所....」
しばらく歩くと、木々の隙間から光が差し込んできた。
川だった。水は透き通っていて、川底の石がはっきり見える。石も四角い。流れに揺れる水草だって、整然とブロック状に並んでいる。
でも、水の流れる音は、ちゃんと川の音だった。
四角いのに、水はちゃんと低いところへ流れていく。あたりまえのことが、この世界では少しだけ不思議に見えた。
川沿いを歩き、丘の裾野に差し掛かる。斜面を登りながら、ふと後ろを振り返った。
来た道が、木々の向こうに消えている。どこにも、人の気配はない。
(みんな、どこにいるんだろう....)
答えを出すのをやめて、また前を向き、丘を登った。
「....すごい」
丘の上に出た瞬間、足が止まった。
はるか遠く、山が見える。
頂から裾野まで、白い雪をまとっている。山肌の稜線が、傾きはじめた陽光に切り取られて、空との境界をくっきりと刻んでいた。
この世界の何もかもが四角くて、岩も木も地面も、全部ブロック状に積み上げられている。なのに——その山だけは、ただそこにあった。大きく、静かに、どこまでも。
こんな景色、見たことがない。アビドスの砂漠でも、キヴォトスのどこを探しても——こんな場所は、なかった。
気づいたら、足が止まっていた。
風が吹いた。草が揺れる。
この先に何があるのか、シロコには分からない。
どんな場所で、どんな人間がいて、どんな目に遭うのか。
でも今は、ただその山を見ていた。
シロコは一度だけ深く息を吸って、森の奥へ——一歩を踏み出した。