ブルアカクラフト   作:蒼/ao

34 / 34




幕間④:果ての先で

 どれくらい歩いたのか。

 もう、二人には分からなかった。

 

 浮島を渡って。

 塔を登って。

 また別の浮島へ向かう。

 

 その繰り返しだった。

 

 話せる人はいない。

 いるのは、時折こちらへ襲いかかってくる、黒く細長い紫のオーラを纏った人のような存在だけ。

 

 どこへ行っても、似たような景色。

 似たような塔。

 似たような浮島。

 

 何かを見つけるたびに期待して。

 何も見つからないたびに、その期待を捨てて。

 

 そうしているうちに、いつの間にか、諦めにも似た空気が漂っていた。

 

「....随分と歩いたね~」

 

 ホシノが浮島の縁に腰を下ろし、後ろを振り返った。

 その視線の先には、今まで歩いてきた島々がある。

 

 遠くに見える白亜の島。

 その上にそびえる、見慣れた塔。

 

 どこまで来ても、同じだった。

 

「これまで、どれくらい歩いたのかしら」

「ん~....」

 

 ホシノは少し考える。

 

「キヴォトス一周くらいはしたんじゃない?」

「....そんなに?」

「だって、ずっと歩いてるじゃん」

「....そうね」

 

 ヒナは隣に腰を下ろす。

 

 視線の先は、切り離されたかのような虚空が広がる空間。

 光すらも、なにもかも見えない先。

 

 風はない。

 鳥もいない。

 遠くから聞こえてくるのは、時折響く不気味な環境音だけ。

 それすらも、もう聞き慣れてしまっていた。

 

「....帰れるのかしら」

 

 ヒナはぽつりと、呟いた。

 

「さぁ?」

「そう....」

 

 ホシノは空を見上げる。

 

 漆黒の空。

 星すらない。

 

「....」

 

 何も答えなかった。

 否定も、何も、言葉を発することもおっくうになった。

 

 最初の頃なら、手掛かりを探していた。

 けれど、これだけ歩いても何も見つからない。

 

 どこへ行っても同じ景色が続く。

 

 この世界には、自分たち以外に誰かがいるのかすら分からない。

 

「....でも」

 

 ホシノが言葉を続ける。

 

「帰れないなら、帰れないでさ」

「....?」

「そのうち、帰り方が見つかるんじゃない?」

「....随分と楽観的ね」

「だって、そうじゃない?」

 

 ホシノは笑った。

 いつもの、少し眠そうな笑顔。

 

「ここまで来たんだから、あとちょっとくらい大丈夫でしょ」

「....あとちょっとって、どれくらいよ」

「どれくらいだろうね~」

「....」

 

 ヒナは小さくため息をついた。

 

 ——パァァァン。

 

 乾いた音が、虚空の向こうから響いた。

 

「....」

 

 二人の顔が同時に上がった。

 

 今まで、聞いたことのない音だった。

 この世界で聞こえる、不気味な環境音とも違う。

 黒い人影が動く時に聞こえる音とも違う。

 

 もっと鋭くて。

 もっと遠くまで響く、どこか馴染みのある音。

 

「今の、何?」

 

 ヒナはゆっくりと立ち上がった。

 

 しばらく待つ。

 

 ——パァァァン。

 ——ドォォォォン。

 

 規則正しい音。さっきよりハッキリと聞こえる。

 それに、なにかの爆発音も聞こえた。

 

 音の先は、ただ、虚空が広がっている。

 

 白亜の島もない。

 塔もない。

 何もない。

 

 けれど——

 

 ——ゴォォォォン。

 

「....!」

 

 今度は、明らかに大きな音だった。

 遠くで何かがぶつかったような音。

 

 そして、その直後。

 

 低く、長い音が虚空の向こうへ消えていく。

 

 風すらないはずなのに、髪がたなびいた。

 

「....誰か、戦ってる?」

「そうみたいだねぇ」

 

 ホシノも同じ方向を見つめている。

 

 何も見えない。

 けれど、確かに聞こえる。

 ——誰かがいる。

 

 この、何もないと思っていた世界のどこかで。

 

「....行ってみる?」

 

 ホシノが言った。

 ヒナは少しだけ考える。

 

 そして。

 

「....ええ」

 短く答えた。

 ホシノが目を細める。

 

「珍しいね。ヒナちゃんから行くなんて」

「誰かが戦っているなら、放っておけないでしょう」

「そっかぁ」

 

 ホシノは背負っていた翼を手に取った。

 

「じゃあ、これの出番だね」

「....それで飛ぶの?」

「うん。ほら、ヒナちゃんも被ってさ~」

 

 ホシノがもう一つの翼を差し出す。

 ヒナはそれを受け取った。

 

「....ちゃんと使えるでしょうね」

「大丈夫、大丈夫」

「あなたが言うと不安になるのよ」

「失礼だなぁ」

 

 ホシノは笑う。

 

 そして、浮島の縁へ歩いていく。

 

「....それじゃ、行こっか」

「ええ」

 

 翼を広げた。

 

 目の前には、何もない。

 ただ、果ての見えない虚空が広がっている。

 

 それでも。

 今まで何度も見てきた、退屈な景色とは少しだけ違っていた。

 

 あの音の向こうには、誰かがいる。

 そう信じて、暗闇に飛び込んだ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。