一
どうやって生きていて欲しいと伝えればよいのだろうと、
曇り空の色を反射している道の先には病院がある。個室に入院している年下の少女が見舞いの相手だった。
しかし、ツヅリにとって見知らぬ相手ということもあって、足取りは重い。ましてや、自殺未遂をした子ということもあり、ツヅリの足は止まりがちだった。
自分の言葉が相手の一生を決めるかもしれないと気負っていることが理由だった。
何気ない一言が、善意の言葉が、相手を殺すかもしれない。しかし、考えても相手が欲しい言葉はわからない。
今この瞬間という、誰にとっても唯一無二の取り返しのつかない時間を間違えてもよいとは、ツヅリには思えなかった。
高校指定のPコートのポケットに入れたガラスペンが収まったケースをなでる。体温で温かくなっていたガラスペンはツヅリの指先だけではなく、冷えた心に温もりを与えた。
一度、息を吐いて吸う。取り繕った笑みを貼りつけて、いよいよ正門をくぐろうとしたときに、ツヅリの背後から声をかけて、少女が駆け寄ってきた。
吊り上がった瞳のせいで怒っているような顔立ちだったが、ツヅリに向ける雰囲気は柔らかく純粋無垢な小学生が慕っているようなものだった。
「ミカ」
「足取りが重そうなつーくんを見かけたから、追いかけてきちゃったよ」
背伸びをしてはツヅリの頬に両手をあて、ミカはこねる。ツヅリは何かを言おうとしていたが、意味のわかる言葉は届いていなかった。
しばらく両手を動かしたミカは、今度はツヅリの両手をつかんで包む。すぐ様に口を開かれたせいで、ツヅリはまたも言葉を封じられていた。
「つーくんは大丈夫だよ。あなたは言葉を間違えない。大切な言葉はいつだって相手の心へ沁みこんでいく」
じっと見つめられたツヅリの瞳はようやく上向いたようだった。
「ありがとう」
「ずっと見てきた先生が大丈夫って言っているんだから、大丈夫だよ」
「僕の家庭教師が言うんだから間違いないね」
離された手を握りしめて、ツヅリは病院へ向き直る。
「いってらっしゃい」
ミカの言葉に背を押されて、ツヅリはもう足を止めずに病院へ向かった。
受付で名前を伝えると少し待たされ、白衣をまとった青年がやってくる。
「お待ちしていました。松木さん」
朗らかな笑みを浮かべている青年は、見舞い相手の主治医を名乗った。
「この病室に
「ありがとうございます。あとは僕の仕事ですから」
礼儀としてノックをして反応がないことを確認すると、ツヅリは病室に入る。
ベッドで体を起こしていた少女、檜垣ミコは焦点の合っていない瞳を窓に向けていた。
頬はこけ、所々髪が傷んでいるせいか見窄らしい姿だった。
「初めまして、松木ツヅリです」
反応がないミコに対して、ツヅリは名乗りを終えると笑顔のまま黙りこむ。が、すぐにわざとらしく声にする。
「どういうことを話せばよいのか、まだ悩んでいる途中なんだ。君の苦しみをわかるなんて、言えないから。でも、たとえ追い詰める言葉だとしても僕は誰一人死んでほしくない。自殺を選んでほしくないんだ」
いまだに窓を向いているミコを振り向かそうとはせず、ツヅリは言葉を選びながら想いを口にする。
「僕は君のことを知らない。絶望を知らない。それに、僕が会ったこともない君のことで悩むのも自分勝手なのかもしれない。それでもこうして会うことができた以上は、知っていきたいと思っている」
ポケットにしまっていたガラスペンを取り出す。すべてが青色で作られたそれは、自ずと光り輝いて、ペン先が通った場所を光の軌跡として残す。
「どうか少しでも安らぎがありますように」
ツヅリが空中に文字を描こうとすると同時に、病室の戸が勢いよく開かれた。
「何しやがる」
粗暴な声の持ち主はツヅリを睨む、筋肉質で大柄な青年だった。
「もしかしてミコさんのお兄さんでしょうか」
「ああそうだよ。松木だか知らねえが、人の妹に何をしようとした」
威圧感のある体をツヅリに近づけ、綴りが持つガラスペンを握ろうと檜垣兄は腕を伸ばす。
「これは松木の家宝です。触ろうとしないでください」
「ペン先人の妹に向けておいてなんだ。殺そうとした以外に何があるんだ」
「これは人を害するものじゃありません。あくまで祈りのためのものです」
「祈り? 声にするならまだしも、インクもついていないペンでどうするんだ。いや、どうでもいい。お前と話しても意味がねえ」
檜垣兄はツヅリの腕を掴もうとする。あまりに加減のなさそうな腕の振り方に、ツヅリは後ずさった。
「出ていけ。お前みたいなやつはお呼びじゃねえんだよ」
有無を言わさない眼光に、ツヅリの瞳は揺れる。
「早くしろ」
その言葉でツヅリは折れた。
ピシャリとひびく戸締りの音に、ツヅリの肩が跳ねる。と同時に、涙がこぼれた。すぐに袖でぬぐい、ツヅリはため息を吐いた。
ゆったりとした足取りで歩き、ナースステーションへたどりつくと、ツヅリに気づいた医者が廊下に出てくる。先ほど、ツヅリを案内した青年だった。
「大丈夫ですか」
ツヅリは顔を上げて、青年を向く。誰が見ても泣いていたことが隠せていない表情に、青年は言葉を続けた。
「屋上へ行きましょう」
二
病院の屋上は影ばかりで薄暗かった。遠くには、夕日の赤と空の青を反射する紫雲が流れている。
青年は自動販売機で水を買い、ツヅリに渡してベンチへ向かった。
うつむいたままのツヅリに、青年はすぐに足を止める。少し遠くの空を眺めて、もう一度、ツヅリを向くと口を開いた。
「松木の家は代々人の悩みを聴き、祈り続けてきた家だと親から聞かされていました。私自身はお会いすることもなく大人になってしまいましたが、周りには相談に乗ってもらったという同級生もいます。そして、今回は私の患者のためにお越しくださった。遅くなってしまいましたが、お礼を言わせてください」
ツヅリは目を見開いて、すぐに何かを言おうと口を動かした。
「そんな、お役目ですし、当然のことです。人は一人では生きていけないのですから、いつだって相談できる相手として見ていただければ」
慌てるツヅリとは対照的に、青年は笑みを浮かべたままにゆったりと話す。
「ありがとうございます。でも、それはツヅリさんも同じです。ほとんどが三十八歳で寿命を迎える以上、松木の家も例外ではなく若くして勤めを果たそうとされている。しかし、悩みを抱えながらのように思います。ぜひその悩みを私に言ってはみませんか」
ふたたびベンチに向かって歩き、座ると空いているスペースを手でたんたんと叩いた。
ツヅリは少し離れたところに腰掛ける。青年はそれでもよいと思ったのか、ツヅリから目を離した。
「死にたいと思ったことがないんです」
ポツリとツヅリはこぼした。
「最近は自殺未遂が多く、僕の元には命を長らえた子の話を聞いてほしいという依頼が多くあります。しかし、話を聞いて同情はできても、共感することができないでいます。そんな状態で勤めを果たせるような言葉が出せるわけもなく、できることは家宝に頼って夢の中だけでも安らいでもらうことだけなんです。何も解決ができていないんです」
うつむいてこぼした弱音に、青年は考えこむ。そして、地面を見つめて言葉にした。
「きっとこれまで一生懸命だったんですね。悩む時間もないほどに、ただなすべきことをなすために生きてきたんだと思います」
一度、言葉を切り顔をあげる。
「そして、優しい。頑張り続けてきた人は他の人にも努力を求めてしがいがちです。なのに、ツヅリさんは相手を慮る。どうして悩んでいるのか理解しようと考えている」
「だって、それは当然のことではないですか」
ツヅリの言葉に青年は首を振る。
「伝統や使命といった長く意識を縛るものは形骸化するものです。伝統が尊んだもの、使命の果てにある理想を忘れて行動だけなぞるようになってしまいがちですが、ツヅリさんは使命を果たす理由を忘れていないからこそ悩みを理解しようとしているのだと思います」
ツヅリの瞳から温かい雫が流れる。青年は見ないようにふたたび遠くの空を見つめた。
すでに紫は紺に変わり、太陽がかすかにのぞいているような時間だった。すでに一番星が光を放っている。
青年はベンチから立ち上がり、病院の門を見た。
「どうやらお迎えがやってきているようです。最後になってしまいますが、どうかミコさんとミコさんのお兄さんであるシキくんが抱える悩みを聞いてもらえたら嬉しいです」
困ったように笑う青年は医者というよりは見守ってくれているお兄さんのような表情を浮かべていた。
「未熟ではありますが、頼ってくださるのであればお応えしたいと思います」
ツヅリの言葉に、青年はうなずきを一つ返して、背を向ける。
「ツヅリさんも頼ってください。私でも、別の誰かでも」
三
病院の門で待っていたのはミカだった。息が白くなるほどに冷えた中で待っていたミカは、手袋をつけた両手をさすっていた。
「待たせてごめん」
「勝手に待っていただけだから」
言葉が少なくとも歩き出したミカに、ツヅリはついていく。
だんだん距離は近づいていき、横に並ぶとミカはツヅリの手を握った。
「大丈夫だよ」
何があったのか知らないはずのミカの言葉に、ツヅリは足を止める。
ミカも足を止めて向き合った。かすかに腫れたようなツヅリの目と変わらない笑みを湛えたミカの目が交差する。
「つーくんがちゃんと向き合おうとしていることを一番知っているのは私だから、私が一番につーくんを信じているんだよ。たとえつーくんが悩んでいても、いつかは晴らすことができるって信じているんだよ」
ミカはツヅリに近づいて、背伸びをする。小さな体を目一杯に使ってツヅリの頭を抱える。
胸にツヅリの耳を当てる。少し頬を赤くして、それでもより強くツヅリの頭を抱きしめた。
「ミカ」
「どうか苦しまないで。しがらみに囚われないで。あなたの思いを大切にして」
そして、ツヅリの頭から手を離す。何かを言われる前に、ミカは捲し立てた。
「それじゃ先に帰っているからね」
まだ距離があるはずの帰り道を全力で走っていくミカの様子をツヅリは見送る他になかった。
これからミカに追いつくには気恥ずかしさが残り、ツヅリはゆっくり足を進めていく。
悩み事を考えながら歩く道は、時にまっすぐとはならず、想定よりも長くなった。
「お帰りなさい」
灯りのついた戸を開けると、割烹着姿のミカが出迎える。
「ご飯にする? お風呂にする? それとも私?」
照れながら自分を指差すミカに、ツヅリは苦笑をもらして家にあがる。
「お風呂にするよ、先生」
「つれないな」
いたずらじみた表情と声で交わしたツヅリに、ミカも苦笑を返す。
「もうすぐご飯ができるからね」
「ありがとう」
浴室に入り、ツヅリはシャワーを浴びる。冷えた指先に熱いお湯がかかると、ツヅリはお湯の勢いを少し緩めた。
無心になって作業を進めていく。最後には泡を流して、浴室を出た。けっきょく、心の澱みまでは洗うことができなかった。
居間に入ると、すでに配膳がなされてミカが座っていた。
「ちょうどできたところだよ」
「ありがとう」
色彩豊かに盛りつけられた料理は、生きているかのように湯気を立てている。
ツヅリは座り、手を合わせる。ミカも手を合わせた。
わかめと豆腐の味噌汁から口に含むと、ツヅリは息を吐く。味と一緒に温かさにも浸っているかのような様子をミカは嬉しそうに見つめる。
「よかった。味わってくれて」
「ミカの料理を無視できるわけないよ」
「本当に嬉しいことを言ってくれちゃって」
ほうれん草のお浸しへ箸を伸ばした後は、次に鶏肉の味噌焼きへ箸をつける。味噌の焼けた香りと塩味が鶏肉の旨味と一緒にかきこんだ白米の甘味を引き立てていた。
「本当においしいよ」
ツヅリの言葉にミカは「ありがとう」とこぼす。ツヅリも「それは僕の言葉だよ」と返した。
温かな食事も進んでいき、最後にはミカが入れた煎茶を味わう。
「今日もごちそうさま」
「おそまつさまです」
一息をお互いが入れると、ミカは切りだす。
「つーくんはまだ悩んでいるの」
ツヅリはしばらく間をあけてうなずく。
「まだ死にたくなるほどの感情を味わったことがないからか、言葉にできないんだ」
ミカは優しく相槌を返す。そのままの声音で言葉をかけた。
「つーくんはそのままでいいと思うよ。つーくんの悩みは考えているってことだから。立ち止まらずに考え続けている。それに、死を選ぶほどの絶望を感じたことはなくても、絶望があるって信じてくれているだけで救いになっているよ」
「それでも言葉だけで伝えられていないんだよ」
ツヅリの苦しんだ声をミカは否定する。
「違うよ。ちゃんと伝わっているよ。松木の家宝であるガラスペンは、書き手の想いをすべて伝えてくれる。言葉にこめられた想いを受け手の心に届けてくれる」
「なら、どうして眠ったままなの」
「絶望から心を癒しているからだと思う。もしくは、つーくんの想いが優しいゆりかごになっているのかもしれないね」
「……僕の先生は優しいね」
「私は、優しくなんかないよ。事実だと思っていることを言っているだけ。でも、私を救ってくれたつーくんは、いつだって優しい言葉をかけてくれる。その言葉がある限り、ずっとそばにいてくれる。一人じゃないって感じさせてくれる。だから、そのままの想いをガラスペンに伝えればいいよ」
ミカは最後に、ツヅリの頭をぽんとなでて居間を出た。
四
夜も更けた時間に、ツヅリはガラスペンを走らせる。青い軌跡が文になっていく。
こめる想いは利己的な気持ちだった。
何が死を選ばせたのかわからない。どれだけの苦しみがあったのか、命が続いた今は生きていたいと思っているのか、わからない。
それでも一人の人間として、ツヅリはミコや死を選んだ人に生きてほしかった。
運命を呪ったのかもしれない。現実を呪ったのかもしれない。周りや自分自身を呪ったのかもしれない。
それでも命が続いたのなら、誰であっても生きてほしい。命続く限り生き続けてほしい。
絶望しかないというのなら、その気持ちを吐き出してほしかった。吐き出す相手がいないのなら、この手紙に吐き出してほしいと願った。
そうして綴られた手紙に封をする。青い光も収まると、ツヅリは家の裏門へ向かった。
月光だけが頼りの中、裏門の先には鳥居があった。
鳥居を越して、禊を行う。穢れを落とし、向かった先は本殿だった。
本殿の戸を開けると、赤褐色の革装丁がなされた一冊の本が祀られていた。
ツヅリは蝋燭に火をつけて、本に捧げるように封をした手紙を置く。
そして、一歩下がり姿勢を正した。
「どうか、この手紙が救いになりますように。苦しみが軽くなるきっかけになりますように」
ガラスペンを握ると、青白く光り始める。同時に、手紙にも光が灯る。
ツヅリがより深く想い、頭を垂れると本が勝手に開かれた。めくられたページにうっすらと字が表れる。その字はすべてツヅリの思いの通りだった。
だんだんと光が淡くなり、ついに収まる。本も閉じられ、手紙にガラスペンからも光が抜けていた。
ツヅリは一礼し、手紙を手に取って本殿を出る。
すでに太陽はかすかながらも顔をのぞかし、小鳥の鳴き声が響きはじめていた。
鳥居を抜けると、ミカが立って待っていた。
すがるような表情をするミカに、ツヅリは謝る。
「ううん。あの本がつーくんの想いに応えてくれるのなら、いうことはないよ。でも、その分だけつーくんが囚われてしまわないか心配なだけ」
「ミカが心配してくれるようなことはないよ。あくまで預かっているだけなのに使ってしまう僕を女神さまは手助けしてくれている」
「なら、いいけれど」
ミカの心配はツヅリにとってわかっていることだった。
ミカの家宝は女神の使っていた手帳だ。ツヅリのガラスペンと一組の神具でもあった。
「人のために自殺なんてしないでね」
「当然だよ」
何も心配はいらないと、ツヅリはミカへ笑顔を向ける。ミカの不安そうな表情は変わらなかったが、何も言わずに踵を返した。
「ご飯、できているよ」
「ありがとう」
二人の間に言葉はなく、鳥居を後にした。
五
朝食を終えて、ツヅリは一人で病院にやってきた。受付に昨日の青年医師を呼んでもらい、手紙を渡す。
「これをミコさんに渡せばいいのですか」
「はい。読んでもらえたらいいのですが、もし受け取るそぶりもなければ枕元に置いてもらえれば」
「わかりました」
ツヅリから受け取った手紙を青年はポケットに入れる。そして、ツヅリの顔を凝視した。
「どうやら一区切りはついたようですね」
「おかげさまで」
「それはやはり、
「ミカのおかげもありますが、あなたのおかげでもあります。あなたの方こそ、僕を慮ってくださりありがとうございます」
「医者として、大人として悩める年下の助けになれたのなら幸いです」
そう言って、青年は一礼してツヅリと別れる。ツヅリも病院を抜けた。
手紙がどうなったのかを知るのは昼を回る頃だった。
「ツヅリさん、ミコさんの病室にお越しいただけないですか」
青年からの電話で、ツヅリは病院に向かう。
病室に足を踏み入れると、体を起こしたミコとミコの背を支える青年がいたが、思わずといった様子で、ツヅリは足を止める。
眠っていた時と変わらない病室、ミコの体だったが、美しさを感じた理由は窓から射す光だけが理由ではないと、ツヅリは思った。
明らかに病室に増えた色が今を生きているのだと感じさせる。
その証拠に、青年医師は嬉しそうに感謝をツヅリに伝える。
「ありがとうございます」
聞こえた音に、ようやくツヅリは息を吐いた。そして、改めての自己紹介を行う。
「初めまして、松木ツヅリと言います」
「檜垣ミコです。私のお話を聞きにきてくださったのですよね」
初めて聞いたミコの声は、楽器のようにも感じられる美しさだった。
「僕に何を言うことができるのか、わかりませんが、あなたが生きていたくないほどの苦しみがあるのであれば教えてください」
ようやく伝えられた言葉に、ツヅリは少し目が熱くなるのを感じる。その感覚に気づいたのか、ミコは笑った。
「実をいうと、もう死にたいとは思わないんです。あなたがくれた手紙があるから、生きていたいと思えるようになりました。今日、お越しいただいたのは私がお礼を伝えるためです」
言葉を切って、ミコはツヅリの瞳をのぞきこむように見つめて笑った。
「私を想ってくださり、ありがとうございます」
六
その後は、検査をして予定が決まるのだと、青年から聞かされた。
そう長く入院にはならないという言葉に、ツヅリは安堵する。
「もし何かあれば連絡をください」
ミコと青年に見送られ、ツヅリは病院を後にする。門のところまで歩くと、ミカが待っていた。
「よかったね」
お見通しの様子のミカに、ツヅリはうなずく。
「ミカのおかげでもあるよ。だから、ありがとう」
「そんなことないよ。つーくんだからこそ、意識が戻ったんだよ」
ミカはツヅリが何かをいう前に言葉を重ねる。
「今日はお祝いだから、なんでも好きなものを作るよ」
ツヅリは何も答えずに、一言お礼を返した。
そのまま、ミカの手を取って、帰路につく。
「いつも通りにミカと一緒にご飯を食べられるのであれば、それでいいよ。僕のそばにいてくれさえすれば、それでいい」
ミカの言葉はとても小さく、届く前に夕方の空気に溶けて消えた。
(ミカは某ソシャゲのお姫様じゃないです。あくまで偶然です。書き終わった後に思いっきり影響されている?とは思いましたが、意図的に似せたわけじゃないです)