硝子筆と無記教典   作:蒼月柊

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07_絶望を知る

     一

 

 

 月が昇り、夜の光が病室に射しこむ。灯りに照らされたミカの顔をミコは見つめる。

 たびたびミカを見ては、ノートに歌詞を刻んでいく。

 まだツヅリとの記憶は戻っていないが、ミカと話したことをもとにツヅリがミカに伝えたかったことを推測しながらの作業だった。

 どうしてミカはツヅリに殺してもらいたがったのか。どうしてそこまでの感情を抱いたのに、ミカはツヅリとの記憶を無くしてしまったのか。ミコ自身からもツヅリとの記憶を消してしまったのか。

 おそらく記憶のことはツヅリが関係することはわかった。おそらく思いだせないことも理解している。

 それでもツヅリと一緒に作っていたら、記憶を取りもどすことができるのではないかと期待していた。

 ふいにスマートフォンのバイブレーションが響く。相手は兄のシキだった。

 メッセージで青年医師の病院にいることを伝えると、了解と返ってきた。

 引きつづき歌詞を作りながら、ミカの様子を見守る。

 容体は安定していて、静かな寝息がゆっくり続いている。

 どうか作っている歌がミカの救いになりますように。そんな願いを祈りながら、ああでもないこうでもないと頭を悩ませながら言葉を綴っていく。

 そうして、荒削りながらも歌詞が完成した。残りはメロディを作りながら、若干の微修正をしていく。

 さすがに病室で歌うことはできず、ミコはもう一度ミカの顔を見て病室を出た。

 まもなく面会も終わる時間にさしかかっていることもあり、病院内は静かだった。

 

「遅くまですみません」

 

 知り合いの看護師に声をかけて、病院を出るとシキが立って待っていた。

 

「兄さん」

 

「今日はどうしたんだ」

 

「藤波の姫君が倒れて」

 

「そのつき添いか」

 

 ぶっきらぼうなシキの言葉に、ミコはうなずく。

 

「ツヅリという人はどうなんだ」

 

「まだ名前がわかっただけだよ。でもミカ様もツヅリさんと縁があったみたい」

 

「そうか」

 

 話題が尽きると、二人は沈黙して帰り道を歩く。

 

「もし私が死にたいって言ったらどうする」

 

 とうとつなミコの質問に、シキは一拍をおいて答える。

 

「生きてほしいとは言うな」

 

「ほかには?」

 

「生きているだけで十分だ。お前はもうこれ以上ないほどに苦しんだ。俺はお前がやりたいように生きてくれれば、それでいい」

 

「そっか」

 

「そうだ」

 

 また無言になる二人だが、どちらも居心地が悪そうに何かを言いかけたりはしなかった。話すことがないならないで、歩きつづける。

 

「どうして入院していたか覚えている?」

 

「気にしなくていい」

 

「これからのために知りたいの」

 

「……」

 

 ミコの言葉に、シキは頭を悩ませているようだった。そして、何歩も先を歩いてようやく、シキは言葉にする。

 

「俺が悪かったんだ」

 

「どういうこと」

 

「お前は、生きることにきっと絶望していた。普通ならもらえるはずの贈り物をもらえず、理由を聞いてもはぐらかされるだけ。俺はきっとお前がいじめられてしまうと思った。俺はこの顔だから一緒にいてやれば危害を加えられることはないと思っていた。でも、それが理由で、お前は友人とのつきあいを諦めた」

 

「意味が、わからないよ」

 

 足を止めて、ミコはシキの袖をつかむ。

 

「ああ、そうか、お前を救った松木とやらは、俺に間違いを教えてくれたんだ。ようやく合点がいった。お前が自殺未遂をして入院したとき、あいつに会ったんだ」

 

「ツヅリさんが?」

 

「ああ」

 

 相槌だけを打って、シキは少し考える。言葉を整理しているのがわかり、ミコもぎゅっと袖をつかむだけで、待っていた。

 

「この地域に伝わる風習だが、十五歳になると親から贈り物が渡される。その贈り物には様々な想いが込められているそうだが、総じて我が子によりよい人生を送ってほしいという祈りがある。その贈り物をお前は渡されなかったんだ。ここまでは覚えているか」

 

「……どうしてだろう。今、とても」

 

 ミコは袖を離して、顔をうつむかせる。光る頬がシキに見えた。

 シキはミコを抱きしめて、硬い手で頭をなでる。

 

「あの日もお前は泣きそうだった。でも、養父母の申し訳なさそうな表情で飲みこんだ。それから俺らの家は暗くなった」

 

 より強くミコを抱きよせ、シキは言葉を続ける。

 

「俺は養父母によくあたるようになり、お前に害となるものをどうにかしようとずっとそばにいた。ついには養父母も邪魔に思うようになって、お前と家を出たんだ。そして、お前は自殺を図る。どうにか一命を取りとめたが、俺や医者に反応しなくなった。そのときに、松木がやってきたんだ」

 

「ツヅリさん……」

 

「あいつはお前に何かをしたのか、俺にはわからない。でも、いつの間にかお前は意識を取りもどしていた。そして、ああ、そうだな、俺はあいつに強くあたった」

 

「どうして!」

 

 涙に濡れた瞳で叱るように、ミコはシキを見る。

 

「自分にできなかったことをした八つ当たりだったんだろう。まだ、当時の記憶が曖昧だが、それしか思いつかない」

 

 懺悔するような表情を見て、ミコは何も言えなくなった。

 

「松木は自殺未遂までしたお前を救ってくれた。それどころか、お前にわかりやすい価値を気づかせてくれた。養父母が渡せなかった想いを代わりに届けてくれた。そして、俺の間違いに気づくきっかけをくれた」

 

 ミコから手を離して、シキは夜空を見上げる。

 

「今はどこにいるのかわからないが、次に会ったときには謝罪とお礼を伝えないといけない」

 

「……そうだね」

 

 ミコは少しうつむいてから、歩きはじめる。その後をシキも追った。

 

 

     二

 

 

 二人くらしの家に戻り、シキが用意した料理を食べる。お味噌汁と白米に漬物といった簡素な献立だった。

 

「もし満腹でなければ肉を炒めるが」

 

「ううん。今日はいいよ」

 

「そうか」

 

 黙々と二人は食事を済ませ、食器を片す。自分の部屋に行こうとしたシキをミコは呼びとめた。

 

「聞いてもいい?」

 

「なんだ」

 

「自分のことを殺してほしいって願うときってどんなときだと思う」

 

 ミコの言葉をシキは吟味してから、言葉を紡いだ。

 

「自分が相手にとって害になるときか、もしくは自分を殺すことで相手に何か得があるときだと思うが」

 

「やっぱりそうだよね」

 

「松木と作っていたっていう歌詞の話か」

 

「そう。どうやらツヅリさんは自分を殺してほしいって思っていた人に生きてほしいって伝えるために私と作っていたみたいだから」

 

「そうか」

 

 黙ってしまうシキに、ミコはすがるように視線を向ける。

 

「もし俺がお前に殺してほしいって願うとすれば、やはり意味が残ってほしいと思う」

 

「意味?」

 

「相手に殺されることで生きていた意味があったのだと、自分勝手だが思ってしまうだろう。おそらく殺してくれた相手は殺したことに対して意味を見出してくれると期待して」

 

「その意味って」

 

「生きていた証、もしくは理由だろうか。もしかすると、その誰かは自分が生きていることに意味を感じなくなって、無理やり意味を見出そうとしたのかもしれない」

 

「なるほど」

 

「参考になったかわからないが、どうだ」

 

「ううん。ありがとう」

 

「ああ」

 

 今度こそシキは自室へ戻り、ミコはリビングで歌詞を微修正する。

 

「ミカ様は自分の記憶に鍵をかけているのかな。思いだしたら、また殺してほしいって願ってしまうのかな」

 

 そうなっては欲しくないな。

 ミコは心の中でつぶやき、歌詞に想いを込める。改めて作られた歌詞を口にして、リズムを取ってみては音を組みあわせていく。

 そうして、できあがった歌を小さく歌った。

 世界が共鳴する。

 とたんに記憶がよみがえる。

 養父母に贈り物をもらえなかった悲しみがぶりかえす。

 誰か、いやミカに苦しみを聞いてもらって、代わりに教えられた虚しさが脳裏によぎる。

 生きていてもしかたがない。人生に生きる意味なんかない。私が生きていても迷惑をかけるだけ。

 

「生きていてほしい」

 

 鮮明なツヅリの筆跡と声。

 

「人生に意味がないと絶望をしていたとしても、君はまだ君自身を知らないがゆえに絶望をしている。それで自分の魂を手放してしまうことは、それこそ虚しいと思う。自分に意味が欲しいと願うのなら、生きてほしい。そして、意味を見つける旅に出てほしい。世界は意味にあふれている」

 すぐそばで手を伸ばしているようなイメージが浮かぶ。

 

「ツヅリさん」

 

 ミコは自室に保管してあった手紙を開く。

 思いだした手紙と同じことが書かれていた。しかし、手紙には少しの皺とインクのズレが残っていた。

 

「力を込めて書いてくれたんだ」

 

 記憶がなかったときは何も思わなかった不恰好さが、今になって愛おしさに変わる。

 

「やっぱり私はツヅリさんが好きです」

 

 すでに別れを告げていた恋心に再会して、また別れを告げる。

 夜遅くではあったが、ミコはコートを羽織って外へ出た。

 その後ろ姿をシキは見送った。

 

 

     三

 

 

 ミカが意識を取りもどしたのは、暗闇の中だった。かろうじて自身の体が見えるほどに暗い空間でミカに呼びかける声が響いた。

 

「誰?」

 

「ようやく意識が戻ったか」

 

 現れたのは、長髪を雑に後ろでまとめた女性だった。

 

「お前の先祖といえば伝わるか」

 

 じっと女性の顔を見つめて、ミカは答えを口にする。

 

「女神様ですか」

 

「やっぱり今の世は私が女神とされているんだな。いや、今はそんなことはどうでもいいか。単刀直入に聞くが、無くしたと思っている記憶は戻っているか」

 

「つーくん、松木ツヅリくんとの記憶ですか」

 

 幼いあだ名に、女神は呆れたようにため息を吐く。

 

「そのツヅリだ。お前は彼に殺してほしかったようだが、今も変わらないか」

 

「ええ、きっと私が記憶を失ったのはつーくんの仕業ですね。つーくんの記憶を忘れることで、生きてもらおうという魂胆でしょうか。確かにつーくんがいないと、殺してもらうことができないので、有効な手段だとは思います」

 

「そうか。それで聞いておくが、自殺しようと思っているのか」

 

「それでは意味がないじゃないですか。他の人と何も変わらない。ただ無意味に生きて死ぬだけです」

 

「なるほど。彼に殺してほしいと願った理由は自分と彼の生に意味を刻むためか。虚しい命を価値あるものとするために、同世代にもニヒリズムを教え自殺するように仕向けたな」

 

「ええ」

 

「そして、同世代をツヅリに救わせて最後にネタをバラす。自身に悪役というレッテルを貼りつけ、悪役を殺すレッテルをツヅリに貼ることで彼と自分に意味がある存在とした」

 

 女神の推測に、ミカは無表情にうなずきを返す。

 

「そこまでして、どうして意味を欲する」

 

「自分の人生に意味が欲しくない人間なんていないでしょう。何者にも慣れないと受け入れていたとしても、願わくば誰かに覚えていてもらえる人になりたいと思うことがそんなにおかしなことでしょうか」

 

「思うだけなら、そうだなで流せることだが、他人を傷つけることを同意できるわけがないだろう」

 

 怒りをにじませる女神に、今度はミカが何かに気づく。

 

「ああ、そうですね。あなたは人の幸せを祈って自殺した人ですものね」

 

「……自殺したつもりはないがな」

 

「すでに死んでいるはずのあなたが、私の意識に入りこんでくること自体が歪なんですよ。なんらかの方法で意識だけ残しましたね? その方法は肉体的な死を意味するものだったのでしょう。それが理由で後に残された者によって自殺したと伝えられている。そう考えれば、なるほど女神という伝わり方も納得できます。確かにあなたはこの世界を見守ってくださる女神様なんですね。そして、現在に生きる人に干渉できる方法を持っている。記憶を思いださせないようにしたのもあなたですか。つーくんに願われでもしましたかね」

 

「どうやら私の子孫はいたく優秀なようだな」

 

「いえ、私はあなたが羨ましいです。意味を残しつづけることができるあなたが」

 

「お前の執着は異常だ。私が見てきた人でも、誰かに殺してもらって意味を得ようとした人はいなかった」

 

「そうですか」

 

 冷めた声音で、ミカは契約を持ちかける。

 

「どうせあなたが満足しないと、この空間から抜けられないのでしょう。私としては別につーくんがいないのであれば、戻る必要性がありませんので構わないのですが、一つ取引をしませんか」

 

「取引だと?」

 

「ええ。互いに無意味なことはやめて、私の質問にも一つ答えてください」

 

「……いいだろう」

 

「では、まずはお前の質問を聞こうか」

 

「ありがとうございます。では、どうして生きるための努力が無駄になるのですか」

 

「どういうことだ?」

 

 顔をしかめる女神に、ミカも怒気をにじませて返す。

 

「とぼけないでください。あなたが世界に干渉できるということは私の努力も見てきましたよね。どうして、健康な人が三十八歳で死ぬのかと聞いているのです。過去の古典作品を読んでみれば四十歳、五十歳どころか六十七十まで生きる登場人物が多く出てきます。これは過去にその年齢まで生きていた人がいたという事実に他なりません。では、どうして今は三十八歳で多くの人が死に、どうにか延命ができたとしても四十で死ぬのかと聞いているのです」

 

「そういうことか、お前は母親の延命に尽力して、数年寿命を延ばすことができていたな」

 

「いいえ、たった二年です。しかもほとんどは衰弱して寝たきりです。これで努力に意味があったなどというつもりですか」

 

「ああ、すばらしい成果だと思うよ」

 

「ふざけるな!」

 

 ついに堪忍袋が切れたミカは女神に殴りかかる。

 その拳を女神は受けいれた。

 肉がぶつかる音と感触に、ミカは目を見開く。

 

「たしかに三十八歳の寿命は私のせいだな」

 

「は?」

 

「ツヅリにも話したが、この世界は一回滅びかけている。滅びかけた人類の一部をこのコミュニティへ避難させ、まとめたのは私と松木の初代だ。そして、その際にナノマシンを接種させている。寿命が三十八になったのは、人類の自然寿命つまり本来の肉体的な寿命が三十八だから、それ以上に生きることで再び人が滅ぶようなことを防ぐためだ」

 

「どういうことですか。それじゃ、本当にどんな努力も無意味で、なんだったら今生きている私たちはあなたに制限された中で生きているだけということですか」

 

「……それでも人類は未来に残すべきだと思った」

 

「そんな、そんなこと知らないですよ。つーくんはどこまで、いや知った上で生きてほしいと私は願われた? そんな意味がないのに? この世界のすべてが無意味なのに? どうして」

 

 どうしてとくりかえすミカを女神は憐れむ。その苦しみが生じ得ることを理解したうえで、しかし世界の真実さえ知らなければ到達しないだろうという楽観視が招いた自体だった。

 だから、女神は一言を告げるほかになかった。

 

「申し訳ない」

 

「は、はぁ?」

 

 目を見開いて見つめるミカに、女神は恐怖した。

 

「お前が生きていなければ私がこんなに苦しむことも、無意味な命が生まれることもなかったのに」

 

 死ね。死ね。死ね。死ね。死んでしまえ。クソが。無責任な女が私の先祖だ? なら私も同じか? 虫唾が走る。痒い。血を抜かないと。穢れた血は、肉体は消さないと。燃やさなきゃ。

 自分の体に爪を立てるミカを見て、女神は手を伸ばすほかにない。

 しかし、その手も無意識かミカは振りはらう。明らかに錯乱したミカを現実に戻すわけにもいかず、自傷する様子をうろたえて見つづけるしかない。

 ミカの体には至るところに引っ掻き傷ができて、傷から血が流れているような錯覚が起こる。

 

「やめてくれ……」

 

 女神の声は届かず、ひたすらミカは自傷行為を続ける。

 

「火、火はどこ……燃やさなきゃ」

 

 焦点の合わない目でさまよいはじめるミカに、女神は抱き止めようとするが殴られて終わる。

 どうすればいいのかわからないままの女神を置いて、ミカは先に進んでしまう。

 とうとう女神の口から乾いた笑い声がこぼれた。

 

「これが、私の選んだ未来か」

 

 終わりがこれだなんて、意味がないじゃないか。

 そんな言葉すらこぼれ、女神は座りこむ。

 どこまでも暗い先にミカは消えてしまった。

 

 

     四

 

 

 ミカが入院している病室へミコは青年医師の力も借りて、忍びこんでいた。

 

「どうか歌が届きますように」

 

 その言葉をつぶやき、小さな声で歌いはじめる。

 火は小さくとも神聖さを有するように、ミコの歌声もささやくようなものであっても切実な想いが込められていた。

 歌が先へ進むごとに、ミカの心拍数は上がっていく。意識の覚醒が近いことが見てとれた。

 目を覚ましたあとも聞いてもらえるといいな。

 そんなミコの想いが通じたのかミカの瞼が動く。そして、目が開かれたことに気づいたミコは歌うことを止めた。

 

「ミカ様」

 

「ああ、檜垣さんか。ここは」

 

「病院です。今、先生を呼びますから」

 

「いいよ」

 

「え」

 

 ナースコールを押そうとしたミコを止めて、ミカはベッドから起きあがる。

 

「もうなんともない。それよりいかなくちゃ」

 

「いかなくちゃってどこに?」

 

「燃やさなくちゃいけない」

 

「え。燃やす? 何をですか」

 

 ミコの問いに答えず、ミカはベッドから降りる。

 

「ちょっと、ミカ様!」

 

 離れてしまう前にミカの腕を掴み、もう一方の手でナースコールを押す。

 しかし、片手ではミカを止めることは叶わず、そのまま振りはらわれて出ていかれてしまった。

 時間にしてはすぐに駆けつけてくれた看護師たちはミコがいることに目くじらを立てそうになるが、乱れたベッドの位置と泣きそうなミコの表情に冷静さを取りもどす。

 

「どうしたの?」

 

「ミカ様が出ていってしまいました。何かを燃やさなくちゃって」

 

「わかった」

 

 看護師たちは手分けして、ミカを探す。警察にも連絡し、捜索が始まった。

 その捜索隊とは別に、ミコを見守っていたシキが一人でミカの後を追う。

 しかし、走れどもミカの後ろ姿は見つからなかった。

 

「どこに行きやがった。あのクソアマは」

 

 悪態を吐きながら、シキは走る。

 あいつが行きそうなところで、何か燃やすものがある場所。

 心のうちでつぶやいた言葉に思いあたる場所が一つ、シキにあった。

 

「あいつの家の神社か」

 

 シキは全力で走った。

 

 

     五

 

 

 シキが追いつく頃には、すでにミカは本殿で蝋燭に火をつけていた。

 

「何をやってやがる」

 

 シキは蝋燭の火を踏みつぶし、ミカを羽交締めにする。しかし、ミカは体をよじって拘束から抜けだそうとした。

 

「離して」

 

「放火しようとやつを離せるわけがないだろうが」

 

「この世界は燃やさなきゃいけないの」

 

「意味がわかんねえことを言ってんじゃねえよ」

 

 顔に当たるミカの拳をどうにか少ないダメージでやりすごし、どうにか止めようとするが一向にやめる気配がなかった。

 

「なんでこんなに力が強いんだ。てか、松木は何をやってんだ。どうして出てこない」

 

「離して。穢れた世界を壊さなきゃいけないの」

 

 今度は手に持っていた手帳でミカはシキを叩く。

 

「くそ、痛えんだよ」

 

 どうにか手帳をつかみ投げようとするが、ミカの手から手帳は離れない。

 

「馬鹿力かよ!」

 

「離せ!」

 

「ぐっ」

 

 手帳の角が目にあたり、シキはうめく。それでもシキは拘束をやめなかった。

 

「早くきやがれってんだ。あんクソ野郎!」

 

 そして、世界は青に包まれる。




(ミカは某ソシャゲのお姫様じゃないです(2回目)なんか暴走の具合とか似ている気がしますが、意図的に似せたわけじゃないんです。本当なんです……)
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