転生したら竜だった件   作:暁悠

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第八話 初めての友達

 さて、かなり歩いたが……まだ着かないな。とっくに、アメルド大河は超えてきているが……っと。

「あれかな? 妙に賑わっているが……」

「ですね」

 町らしきものはもう少し奥に見える。というか、村と聞いていたのに、あれじゃ完全に町だ。急発展と言ってたが、村から発展し過ぎである。

 そして──

「誰か戦ってるな。聞き耳を立ててみようか」

「ええ」

 そう、今は戦闘の真っ最中らしい。どうやら、訓練というわけでもないようだ。見えるのは……月白色の、青みがかった長い銀髪を持つ少女……? と、ツインテールで纏められた桜金色(プラチナピンク)の髪を持つ少女が向かい合っていた。戦闘中だと思ったが、まだ戦ってはいないらしい。しかし、ピリピリとした空気感を感じる。

「覚悟!!」

 その時、紫髪の美女が、巨大な大剣で桜金色(プラチナピンク)の髪の少女に斬りかかった。同時に、月白色の髪の少女の影から、ニュッと、黒い狼が姿を現す。

 普通なら、どちらかの攻撃は食らってしまう。完璧な不意打ちであり、先制攻撃による優位性を持っていた。のだが──

「わはははは! なんだ、ワタシと遊びたいのか?」

 その少女は、紫髪の大剣を右腕で受け止めた。そして、黒い狼に向けて軽く左手を振るう。

 キィーーーン! という、金属と金属が触れ合ったような音がして、紫髪の大剣は容易に受け止められた。少女は素肌の部分で受け止めたようだが、見た限り傷一つ付いていない。

 そして黒い狼の方は、目に見えぬ衝撃波に吹き飛ばされたようだった。軽く振られた左手から、音速を超える衝撃波が放たれたのだろう。見た限りでも、あの少女はかなりの強者だった。

「ちょ、待てお前等──!?」

 月白色の髪の少女が声を発したが、時既に遅しという感じだったのだろう。もう、次の動きが始まっていた。

「如何に魔王と言えども、この糸の束縛からは逃れられまい」

 青い髪のイケメンが、細長い、魔力を帯びた糸によって背後から少女を捕縛していた。

「そして、これでトドメだ。燃え尽きるがいい」

 赤髪のイケメンが、薄い結界で少女を覆い、結界内部を黒い炎によって埋め尽くす。

 ここまで見事な連携だ。流石の少女もこれには──と、思ったのだが。

「わはははは!! 凄いのだ。これ程の攻撃、ワタシ以外の魔王なら、無傷では受けられなかったかも知れぬぞ。あるいは、倒すことも出来たかも知れぬ。だが──」

 少女の妖気(オーラ)が一気に膨れ上がり、その場に、火山が噴火したような衝撃波が吹き荒れる。

 少女が攻撃したわけではなかった。というか、何もしていないのだろう。彼女は、抑え込んでいた妖気(オーラ)を解放しただけなのだ。これだけでも、かなりの脅威である。

「──ワタシには通用しないのだ!!」

 一瞬にして、少女を捕縛していた糸は細切れにされ、少女は自由を取り戻していた。今の衝撃で、月白色の髪の少女以外の、戦闘に参加した者達は地面に倒れ伏していた。死んではいないようだが、戦闘続行は不可能だろう。

「……リ、リムル様……お逃げ下さい……」

「こ、ここは俺達が──」

 彼らがそう呼んだので、月白色の髪の少女の名前が〝リムル〟であるとわかった。リムルを逃がすためだろう。紫髪の美女と赤髪のイケメンが立ち上がる。

 だが──

「後は俺がやる。お前等は寝てろ」

 リムルがそれを制止した。

「で、ですが──」

「諦めたらそこで終了だから、やるだけやってみるさ。だが、期待はするなよ」

 と、リムルは肩を(すく)ませながら言い聞かせた。

「ほう? ワタシに立ち向かうのか? 面白い」

 桜金色(プラチナピンク)の髪の少女は、面白そうに笑みを浮かべながらリムルに向かって手招きをした。

「と言っても、だ。俺が考えうる中で、お前に通用しそうな攻撃はたった一つ」

「ほう?」

「自信があるなら、受けてみるか?」

 どういうことだろうか?『案内者』に測定させたが、リムルと対面する少女には、実に十倍以上もの魔素(エネルギー)量の差があった。

 あれはハッタリなのか、それとも、リムルには格上にも通用しうる技やスキルがあるのか──

「わはははは! いいだろう、面白そうなのだ。ただし、それが通用しなかったなら、お前はワタシの部下になると約束するのだぞ?」

 この戦い、どうなるのか……。

「いいぜ。ただし、通用したら俺の部下達も許してやってくれよ?」

「わかったのだ。では、早速だが始めるぞ!」

 その少女は期待するようにリムルを見ている。

 それに応えるように、リムルは軽く地面を蹴った。少女に向かって疾走し、持っていた刀も抜かず、正面から突撃する。と、リムルの手のひらに小さな水球が出現した。あれは……何だ?

「では、喰らえ!!」

「むっ──!?」

 リムルは、その水球を少女の口の中に放り込んだ。

 その少女の反応は──

「なんなのだこれは!! こんな美味しいもの、今まで食べた事がないのだ!!」

 大興奮という様子で、少女は叫んだ。

 というか、あれは食べ物だったのか?

 可愛い舌が、口の周りについた水滴を舐め取っている。

「クックック、どうした魔王ミリム? 俺に手を出したら、コレの正体は永遠に闇に葬られる事になるだろうな。だが、ここで俺の勝ちだと認めるならば、またコレをくれてやってもいいんだが、な?」

 勿体ぶった様子で、リムルは少女──魔王ミリムに言った。魔王だったのか、あの少女。どうりで、異様なほどに大きな妖気(オーラ)を持つはずだ。魔王とは、世界でも(じゅう)(めい)しかいない上位存在だそうだ。

 だが……これでも、ザード姉さんと戦った時に感じた悪寒の方が大きく、圧倒的だ。魔王より強いって、どういうことなんだよ、ザード姉さんは……。そもそも〝竜種〟は、世界に四匹の頂点存在らしいから、下手な魔王より強いってことなのだろうか。

 リムルは、ミリムを釘付けにした水球を見せびらかしている。それを動かす度に、ミリムの視線も釣られて動いているので、興味津々なのは言うまでもなかった。

「ぐぬぬぅ……だが、しかし……」

 ミリムは激しく葛藤している様子だ。

「うーん、美味しい!」

 リムルは、指先で弄んでいた水球を口の中に放り込んだ。

「あ!!」

「いやあ、これは美味しい。おっと、そろそろ数が少なくなってきたぞ」

「何ぃ!?」

 リムルはもの凄く悪い顔をしている。傍から見てもミリムを弄んでいるなということがわかるくらいには。というか、子供をからかっている大人、という感じだろうか。

「さて、俺の勝ちだと認めるか?」

「──待て、提案がある」

「聞こうじゃないか」

「引き分け。今回は引き分けということでどうだ?」

「それで、それに受けた場合の条件はどうなる?」

「今回の件を全て不問にするのだ」

「ほう?」

「も、勿論それだけではないのだ! 今後、ワタシがお前達に手出しをしないと誓おうではないか! 他にも、何か困った事があったら相談に乗ってやってもいいぞ!?」

 勝った! という感じで、リムルはドヤ顔している。無論、ミリムにバレない程度ではあるが……俺にはわかる。あれは、子供を利用することに成功した時の、下衆(ゲス)い大人のドヤ顔だ。

「いいだろう。その条件を受けよう。では、今回は引き分け、ということで」

 黄色みがかった、ドロっとした液体が入った容器(ビン)をミリムに渡すリムル。中身は何だろう? 俺の知識で言うなら、一番似てるのは蜂蜜だが……。

 ミリムは蜂蜜のビンを嬉しそうに受け取って、早速指で(すく)って舐めている。ご機嫌だ。

 と、油断もしていられない事件が起こる。

「どわっ!?」

 ミリムが俺の方向に魔力弾を飛ばしたのだ。

「誰なのだ? 見ているのはわかっているのだ」

 どういうことだ? 気配も妖気(オーラ)も、何もかもゼロに近いってのに……。

 狙われたのは俺だ。なぜか、ナーガの居場所もバレている。というか、俺の隣なのだが……。ナーガは俺よりも気配を消すのが上手いので、バレないと思っていた。だが、放たれた魔力弾は俺とナーガの間をすり抜けて、背後にある樹をなぎ倒した。

「誰かいるのか?」

 リムルは気づいていないようだったが……どうしてミリムにはバレたんだ?

「バレたか……どうして気づいた?」

「ワタシにはなんでもお見通しなのだ」

 いやどういうことだよ……。

「いつから見ていた?」

 誤魔化して下手に逆鱗に触れたらいけないので、素直に話すことにした。

「紫髪の鬼が、そこの魔王ミリムに斬りかかったところ辺りから」

「結構最初ら辺じゃねーか」

 リムルは少し呆れている。失礼な人だ。

「それで、見ていたんだけど……それは何? 美味しいもの、らしいけど」

 気になったので聞いてみた。

「むむっ……ワタシのは渡さないのだ」

 魔王ミリムは、可愛らしくリムルにもらった瓶を抱きしめている。まるで、宝物を渡すまいとする子供のように。

「いや、そうじゃなくて……あれは何なんだ?」

「あれ? ああ、ミリムにあげた……あれは、蜂蜜だよ」

 やっぱり蜂蜜か!

「やっぱりか」

「やっぱりって……なんでわかった?」

「あ」

 しまったと思い、口を塞ぐ。だが、もう遅かった。

「え、ええっと──」

「まあ詳しくは聞かないが……で、何が目的だ?」

 よかった、話題が移ったようだ。俺は心底安心し、胸を撫で下ろす。

「それよりもお前、ワタシと似た何かを感じるのだ。何者なのだ?」

 ミリムがそう聞いてきたが……〝竜種〟だなんて言えるわけがない。

「言うわけねーだろ」

「なら聞き出すまでなのだ」

 そう言って、ミリムは俺に殴りかかってきた。いや、どういうことだよ!?

 俺はすぐさま『思考加速』を発動させ、ミリムの拳を受け流す。幸い、グリン姉さんほどの速さではなかった。

「何っ!? ワタシの攻撃が見切られただと……!?」

 ミリムも驚愕しているが、俺もそうだ。先程の戦いから、ちょっとミリムを警戒していたが、肩透かしを食らった気分である。

 なんだ、どうってことないじゃん──と、内心でそう思って胸を撫で下ろした。

「待った待った。待ってくれ、ミリム。ここで戦うのはやめないか? 近くに町もあるし……」

「そうだぞミリム。ここで暴れられちゃ困るんだ」

 おっと、リムルも加勢してくれたか。

 二人からちょっと叱られたので、ミリムは少しだけヘコんでいた。可愛い限りである。

 ちなみにナーガは、黙って俺達のやり取りを見届けている。気を抜くと存在を忘れそうになるほど気配の隠匿が上手いので、俺も見習おうと思った次第だ。

 

   ◇◇◇

 

 リムルに案内され、リムルが統治するという町に向かって四人で歩いている。俺とナーガは黙っているが、ミリムとリムルは少し違う。

 ミリムはリムルにもらった蜂蜜の瓶を大事そうに抱え、リムルの隣にピッタリとくっついていた。

「なあなあ。お前は魔王を名乗ったり、魔王になろうとしたりしないのか?」

 なんだかリムルはかなり懐かれたようで、道すがらそんなことを聞いていた。

「何でそんな面倒な事をしないといけないんだよ?」

 対するリムルは、至極興味なさそうに答えた。それに対してミリムは、逆にえっ!? という顔で戸惑い始める。

「え、だって……魔王だぞ!? 格好いいだろ? 憧れたりとか、するだろ?」

 確かに憧れていた時もあったが、今はこれからどうやって生きるかで精一杯である。リムルも同じだろうか。

「しねーよ」

 同じだったようだ。

「……え?」

「え?」

 リムルとミリムの間に沈黙が流れる。

「じゃあ聞くけど、魔王になったら何か良い事でもあるのか?」

「え? えっと、強いヤツが向こうから喧嘩を売ってくるのだ。楽しいぞ?」

「いや、そういうのは間に合ってるし、興味もない」

「えええー!? じゃあ、何を楽しみに生きてるんだ?」

「そりゃあ、色々だよ。やる事が多過ぎて大変なんだぞ? その蜂蜜だって、ようやく最近手に入れたんだから。他にも欲しいものが沢山あるし、魔王なんざやってる暇なんてないんだよ。それとも、魔王の楽しみが喧嘩以外に何かあるのか?」

「ないけど……魔人や人間に威張れるのだぞ……?」

 先程までは静かに、邪魔にならないように聞いていた俺だったが。

「「退屈にならないか、それ?」」

 つい口を出してしまった。だが、なんとリムルとハモった。考えていることが同じようで、なんだか嬉しい。

 俺とリムルは顔を見合わせ、少し笑った。ちょっとだけ、心の距離が近づいた気がする。

 対するミリムは、リムルと俺の言葉に雷にでも打たれたような表情になっていた。

 この顔は……多分、実際に退屈していたんだな。俺達の言葉が図星過ぎて、言葉も出ないのだろう。

「じゃあ話も聞いたし、気をつけて帰れよ。俺はお客さんを案内しなくちゃ」

 厄介がるようにミリムを帰そうとするリムル。「お客さんを案内しないと」っていうのは事実なんだろうが、ミリムを帰すのに上手く利用されたようで釈然としない。

「待て! おま、お前!? 魔王になるより面白い事してるんだろ? ズルイぞ、ズルイズルイ!もう怒った。教えろ。そしてワタシも仲間に入れるのだ!!」

 まるで駄々っ子。子供みたいな魔王だな。

「ミリム……」

「わかったわかった。教えてやるよ。ただし、条件がある。今度から俺の事は、リムルさん、と〝さん〟付けで呼べよ?」

「何ぃ、ふざけるな! 逆なのだ。お前がワタシのことをミリム様と呼べ! というか、お前達、さっきからワタシのことを呼び捨てにして──」

 おっと、俺の方にも飛び火してきた。俺が巻き込まれるのは御免だし、気の合うリムルのためにも協力してやらねば。

「まあ待て待て。リムル──リムルさんとは引き分けたんだろ?」

「君は無理に付けなくていいんだぞ?」

 リムルはこう言うが、こういう時は実際に言ってみせた方が染み付きやすいのだ。多分。きっと、恐らく。

「む、むう……」

 まだ足りないか……?

「よし、じゃあこうしよう。お前の事はミリムと呼ぶ。お前も、俺の事をリムルと呼べ。そういえば君は──?」

「俺はヴェ──アーブって呼んでくれ。こっちは、ナーガ」

 危ない危ない。

「じゃあ、三人ともそれぞれを呼び捨てし合う。これでどうだ?」

「むむむ……。そうだな、わかったのだ! お前達にミリムと呼ぶことを許してやる。感謝するのだぞ? こう呼んでいいのは、ワタシの仲間である魔王だけなのだ」

 おお、ありがたや──そう、内心で思っておく。

「ありがとうよ。じゃあ、今日から俺達は友達だな」

 友達。いい響きだ。この世界に来て、家族こそ居れども、友達はいなかった。その点、ミリム達は俺の、この世界での初めての友達……。

「──!?」

 ミリムは、またしても雷に打たれたような反応をしている。

「それじゃあ、アーブ達も含めて街の中を案内するけど、勝手にウロチョロするなよ?」

「わかった」

「わかったのだ、リムル! エヘヘッ」

 なんとも可愛らしい反応だ。というか、なんで俺まで友達になれたんだ? リムルは、俺と気が合うってのでまだ納得できる。だが、ミリムは? ──っと、ああ、あれか。多分、ミリムの攻撃を躱したからだな。魔物は実力絶対至上主義らしいし、その時点で俺は気に入られているのかもしれない。

 ただ、リムルには警戒されていそうだ。ちょっと注意しなければ。

「よしよし、素直だな。では、俺の許可なく町で暴れないように。約束しろよ?」

「わかってるよ」

「勿論なのだ! 約束するぞ、リムル!」

 ミリムはリムルにデレデレな感じだ。

「俺も、ミリムの事は呼び捨てにしてもいいのか?」

「ずっと呼び捨てではないか。だが、お前はワタシの攻撃を躱して見せたのだ。フフフ……気に入っているのだぞ?」

 ゾッとする視線だ。怖い。

「おいおい、ミリム……あんまり怖がらせるなよ?」

「わかったのだ、リムル!」

 魔王に認められるって、怖いな、意外と。

 そうして、俺にも初めての友達ができたのだ。ナーガは終始、気まずそうだったが。




 無事、ミリム・リムルと接触! 友達になっちゃった。ヴェルアーブはたいてい油断しないので、ミリムの攻撃も受け流せます。
 ちなみにミリムは、内心で(コイツ、油断ならないのだ……。気に入ったのだぞ!)なんて思っていたりします。
 ヴェルアーブも例外なく、リムルが動かした大きな歯車に巻き込まれていくことに……。
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