転生したら竜だった件 作:暁悠
さて、そんなこんなで、リムルに連れられてリムルの国を案内してもらっているのだが……。
「おいぃ! 勝手に走るなと言ってるだろうが!」
「わははははは! こっちだ! これは何だ!?」
「聞け! いいから、落ち着いて俺の話を聞くんだ」
「わははははは! なんだ一体? 聞いているぞ?」
イヤ絶対聞いてないだろ! ──と、内心でツッコミを入れる俺。
ミリムが我が侭を言い出すので仕方ないとはいえ、ミリムを連れて町を巡るというのはかなりの重労働だった。
小さい子供を、レジャーランドに連れて行ったことのある人ならわかるかもしれない。実際、俺も六つ下の妹がいたので経験済みだ。
目を離すとすぐにいなくなる。まさに、そんな感じ。不思議な程のハイテンションを全開にして、無邪気に走り回っている。精神性がかなり大人なナーガは、それを見て少し呆れていた。
「おお、リムル様ではありませぬか。丁度良かった、試作品が完成したので持って参った所です」
俺達の前に現れたのは、人型のトカゲだ。
まぁ、かく言う俺のナーガも
重要なのは、リムルが希少種を何人も配下にしているという点である。まぁ、それは後で問い詰めるとして……この
「おお、
「おう、見慣れぬ娘であるな。我輩はドラゴニュートのガビルと申す! リムル様の腹心にして、秘薬の開発を任されておる。お前も新参か、チビっ娘よ?」
──ブチッ。
「ああん? 今、何て言ったのだ? チビっ娘──それはまさかワタシの事か? もしかしてお前、ぶち殺されたいのか?」
それまでニコニコしていたミリムが、突然豹変した。このガビルというドラゴニュートに〝チビっ娘〟と言われた事が気に食わなかったのだろう。
ガビルの頭を鷲掴みにして引き寄せるなり、拳を腹にめり込ませたのだ。
止める暇もなし。いや、俺の全力なら止められただろうが、止める義理もない。
ゴフゥ! とか言いつつ、一撃で死亡寸前まで追い詰められるガビル。
リムルの許可なく暴れないという約束はどうなったのやら……。
「いいか? ワタシは今、とても機嫌が良い。だからこれで許してやるのだ。次はないから、気をつけるのだぞ?」
とは言っていたが……それ以上やったら、死ぬ。多分ガビルじゃあと一撃でも入れられたら余裕で絶命するだろう。
これで〝許す〟とか、そういう次元の話じゃない。絶妙な力加減で、死ぬ間際に止めている感じだ。
ミリム、恐ろしい娘! どうしてそんな、死ぬ間際のピンポイントで力加減できるのか教えて欲しいものだ。
リムルがガビルが持っていた薬品らしきものを拾い上げ、ガビルにかける。すると、傷がどんどん癒えていった。
──
「プハァ!? 我輩の親父殿が、川の向こうで手を振っているのが見えましたぞ!」
と叫びながら復活するガビル。川? 三途の川か? 親父さん、死んでるのか。
「なんだ、余裕そうだな。お前の親父はまだ生きてるだろう」
生きてんのかい!
「あ、そうでしたな。失敬失敬。ですが、死に掛けたのはのは本当なのですが……そちらの少女──おっと、お嬢様は一体……? それと、そこの美しい女性は…?」
女性? 俺のことか?
「俺は女性じゃないぞ。美しくもないし。俺はアーブ。ヨロシクな」
「宜しくお願いします……それで……?」
「ああ、ソウエイが今リグルドに知らせに行っているんだが、洞窟にいたお前には伝わっていなかったみたいだな。コイツはミリム。なんでも、魔王らしいぞ?」
そう言うと、ガビルが冷や汗ダラダラになる。
「は、え? はぃいーー!? 魔王ですとぅ!?」
ガビルは驚死してしまいそうな勢いで驚いている。
うん、気持ちはわかるよ。それ以上の人達と事前に会ってるってだけで、俺がこの世界に普通の人間として生まれてのファーストコンタクトだったらこんくらい驚いていることだろう。
リムルはガビルが落ち着くまで待ち、ミリムが暫くこの町に滞在することを説明した。
「なるほど……。どうりで、強烈な一撃でしたわ。というか我輩、よく生きていましたな……」
本当にそう。
「ああ、暴れないように約束していたからな。流石に殺す気はなかったんだろ」
「わはは、当然なのだ! あれは軽い挨拶なのだぞ」
なんというか、怖い挨拶だな。是非ともご遠慮したい──というか、俺もその〝挨拶〟をされたのか。それで無事だから、気に入られてるわけで……。
しかしこうなると、暴れないという約束は当てにならないのかもしれない。俺達の間では大惨事でも、ミリムにとってはスキンシップとかありそうだ。そうなると、本当に制御が難しい……まるで、子供。ヤンチャな子供みたいだ。
「後で洞窟に行くから、ベスターにも伝えておいてくれ」
「承知しましたぞ」
ガビルはペコペコしながら帰っていった。あんな目にあったというのに案外元気そうだ。リムルが使った、〝試作品〟という
ミリムも鷹揚に頷き、手を振っている。
そして、何事もなかったかのように言い放った。
「アイツ、結構頑丈だったな! 今度はもう少し強めでいっとくか?」
リムルに聞かないであげて欲しい。いくらなんでもリムルが可哀想だ。
「あのな、怒っても直ぐに殴ったりしたらダメだぞ?」
「む? ワタシを怒らせる方が悪いのだ。それに、あのくらいは挨拶の内だぞ?」
まだ言うか、このお子様は。
「殴り合いは挨拶じゃないから、それは禁止で!」
「そうなのか? でも、最初にガツンといかないと舐められるし……」
かなり偏った教育が施されているようだ、このお子様。だが、リムルには基本従順で悪意もなさそうなのが余計に
「いや、ダメだから! この町の者はミリムに舐めた態度は取らないように、きちんと俺から言い聞かせておくから」
なんとも大人な対応だ、リムル。あの
「む、そうか? ならば任せるのだ」
「お、おう。じゃあ、手が出ないように気をつけてね」
気をつけてね、とは言ったものの、多分リムルも「未前に防げたらいいな〜」程度にしか思っていないだろう。
魔王ミリムの逆鱗は結構多そうだから、これ以上リムルに被害が出ないことを祈る俺だった。
そんなこんなで、案内は続く。
もう日が沈み始める時間だ。そろそろ夕飯らしい。
みんなの仕事が終わって集まりだす時間帯だそうなので、その時に俺含めミリムを紹介しておくとのことだった。
みんなが集まったタイミングで、リムルが壇上に立つ。
「ええと、今日からこの町に、新しい仲間が滞在する事になった。扱いは客人という形になるので、丁寧に対応して欲しい。ただし、この町のルールは守ってもらう約束になっているので、違反しているようなら俺に知らせるように」
これを聞いて、ミリムは「心配しすぎだぞ? ワタシは約束は守るのだ!」と、自信満々に、膨らみかけの胸を張ってふんぞり返っている。
ミリムが、リムルに代わって壇上に立った。
「ミリム・ナーヴァだ。今日からここに住む事になった。宜しくな!」
と、挨拶をしている。
──って、今なんて言った!? コイツ、ハッキリここに住むって言わなかったか!?
「おい、待て。今日から住むってどういう意味だ?」
リムルも想定外のようだ。結構焦っている。
「そのままの意味だぞ? ワタシもここに住む事にしたのだ」
「おい、そんなの聞いてないぞ。俺も住ませろ」
ちょっと納得いかなかったので言っておいた。だいたい、ミリムだけズルイのだ。魔王だからと言って、何でもかんでも許されるわけではない。
「む? ダメなのだ。早い者勝ちなのだ!」
「は? ズルイだろ、それは。俺だってここに住みたい」
魔物が主の国なんて面白そうだ。それに、蜂蜜なんていうのは帝国でもかなりの高級品だった覚えがある。その上、買ってもらって食べてみたら思ったより甘くない。それに比べて、ここの蜂蜜は上質そうだ。自分だけ抜け駆けしようとするなんて、ミリムは良くない事をした。
それを聞いて、ミリムは「何ぃ!?」と言って俺を睨みつけている。ここだけは絶対に負けたくなかったので、俺もちょびっとだけ『竜霊覇気』を出してミリムを威圧する。そんな俺達の間には、激しく火花が散っていた。
「待て待て! とりあえず、ミリムは今住んでいる所があるんだろ? そこの人達が心配するんじゃないのか?」
「そうだぞ。帰った方がいいんじゃないか?」
ここぞとばかりに追撃する。
それに対して、ミリムは……。
「大丈夫だ。たまに帰れば問題ない!」
と、言い放ったのだ。
「それじゃ、アーブは?」
「俺達は今んとこ、帰る場所って言える場所はないしな」
そのまま答えた。ずっと影が薄かったナーガも、頷きながら参戦してくれている。俺にはかなり従順なので、従ってくれると思ったのだ。利用するようになってしまったが、許せ、ナーガ。
「……じゃあ、自己紹介を頼む」
「初めまして! 俺はアーブと言います! こっちは、俺の
俺に合わせて、ナーガも腰を折った。リムルが〝パートナー〟という単語に首を傾げているが、そこはスルーだ。
同時に、俺はミリムを見てニヤリとする。どうだ、これが本当の挨拶というものだ──という、挑発の視線だ。それに気づいたのか、ミリムも「何をぅ!?」と言っている。ふふふ、してやったり。
「まあ本人達がそう言っているので、そのつもりで対応してくれ」
リムルも諦めたようで、俺達の好きにさせてくれるようだった。
とは言ったものの、名の知れていない俺と違ってミリムに対する反応は好意的だ。
「なんと!? 魔王ミリム様ではないか!」
「おお、ご尊顔を初めて拝見出来ましたぞ……」
「それにしても、流石はリムル様だな。あの暴君と、ああも親しげに──」
「これで、このテンペストも安泰というものだ」
「それにしても、あの二人の女性は一体──?」
等々。また俺が女性と間違われているが、もう訂正するのも面倒くさい。実際、ナーガは女性なので、別に間違っているわけでもないんだけどね。
魔王の威光は凄まじく、中でもミリムは人気者だったようだ。
偽物だと疑う者もいなかった。というか、俺との『覇気』のぶつかり合いを目にしたからだろう。
「もう一度言うが、ミリムもこの二人も、今日から俺達の仲間だ。何かあったら、色々面倒を見てあげてくれ」
「うむ。ワタシとリムルは友達だから、何かあったらワタシを頼ってくれてもいいのだ」
そこはかとなく心配だ。果たして、この町にミリムを頼りにできる程の
「友達、か──」
リムルが感慨深そうに呟いている。
「そうだな、友達は変だな……。え、えっと……友達というより、
何やら顔を真っ赤にしながら言い直している。
って、聞き捨てならんぞ!
「なっ!? おま、お前、卑怯じゃないか!? 抜け駆けは良くねーぞ!」
「何が抜け駆けだ! そもそも、お前はワタシ達に割り込んだだけではないか!」
ぐっ、言い返せない……。
「俺だってリムルと
「それはワタシの特権なのだ! お前にはまだ早いのだ、アーブ!」
やっと名前を呼んでくれたが、それがこんな状況とは。
「何だと!?」
「何だ、やるか?」
バチバチと音を立てながら、俺とミリムの間に火花が散る。──のだが。
「……もう、いいよ。喧嘩は御免だ。ミリムは強い魔王だしな」
ミリムは拍子抜けしたように静止する。
「それに……何だ。出来ることなら……リムルだけじゃなくて、お前とも
少し照れながら言った。演技ではない。俺は演技が得意な部分もあるが、照れる演技はてんでダメなのだ。
ミリムは、また顔を真っ赤にさせた。コイツ、
「そう、そうか。お前もワタシと
可愛らしい反応だ。ひとまずは、友好的な関係を築けた。ナーガも巻き込まれたのは、何なんだろう? ナーガ本人はまんざらでもなさそうな顔をしているので、俺には測りかねる。
と、ここで、リムルが待ってましたと言わんばかりに言った。
「えっと、ミリム?
「え? 違うのか!?」
ミリムの瞳に、みるみる涙が溜まっていく。だがそれ以上に、拳に闘気が溜まる方が早い!?
「なーんてねっ! 冗談だよ、冗談。俺達は
これは……その場しのぎか?
「だろ? お前も人を驚かせるのが上手いな!」
ミリムはもう笑顔だ。とことん、ミリムの扱いが上手い奴である。ミリム関連で困った時は、リムルを尋ねるとしよう。
そんなこんなで、俺とナーガ、ミリムの紹介を終え──無事、俺達も、
◇◇◇
俺達はリムルに案内され、食堂に向かった。
早速食事が運ばれてきたが……これは、カレーか? というか、再現に成功してるのか!? カレーなんて、帝国でも見た事なかったぞ!?
元異世界人だとバレてはいけないので、また勢いで「これ、カレーか!?」なんて、聞いてはいけない。だが、それはそれとして、美味しそうなのでめっちゃ食べる。果汁多めなようで、かなり甘口だ。元々甘党な俺の舌にも合っている。
「うまーーー!! こんな美味しいもの、久しく食べた記憶がないのだ!!」
ミリムなどは、大喜びで食べている。
あの紫髪の鬼──シオンが、リムル達も交えて何やら蜂蜜について話し込んでいるが……俺は一ヶ月ぶりの美味すぎる食事に夢中で、そちらに気を配れなかった。ナーガは何やら興味深そうに眺めていたが、俺の知った事ではない。
──と、思っていたのだが、聞き捨てならない単語が聞こえた。
「だがこれには薬効もあって、万病の特効薬になるんだ。毒が混入する場合もあるから、抽出には気を配らないといけない。が、それは俺がやっているから問題はないんだがな」
なんてことを言いやがったのだ。
「これは、量産可能なのですか?」
「今は無理だな。週にコップ一杯分確保出来るかどうか、という感じだ。これは薬としても成分を研究させたいので、中々食用には回せないんだよ」
フーン。
「確かに。
それ以降も、かなり白熱した様子で話し合っていた。ミリムも参加していたのだが、シオンや桃色の髪の鬼──シュナさんと、いつの間に仲良くなったんだ?
◇◇◇
シュナさんとシオンに連れられて、ミリムと一緒にどこかへ案内されている。それは──温泉だった。
もの凄い。帝国でも風呂と言えば、個人用の小さい物だったのだ。グリン姉さんに用意されたものは違ったのだが……その時は絶対にグリン姉さんと一緒に入るという制約が設けられたので、遠慮していた。目のやり場に困るのだ。
俺は異性と風呂になんて入れない──いや、欲を言えば入りたいよ? 俺だって男なのだ。しかし、目のやり場にも困るし、何より罪悪感が凄くなるのだ。しんどくなるぐらいなら、欲望を諦めて一人で気楽に入る事を選択するまで。
──だった、のだが。
「……ナーガさん?」
「ヴェ──アーブ様も、御一緒に」
そう言って譲らないナーガ。お前、そういう趣味があったのか!? 見た目は確かに女性寄りだろうが、俺は御免だぞ!?
俺は精一杯遠慮しようとしたのだが……ナーガがここぞとばかりに譲らなかったので、結局俺が折れて、ナーガ達と一緒に入る事にした。
ふぅ〜、極楽極楽……。前世でも、こんなに温泉で寛いだ事はない。そんな感じで、浴槽の中で寛いでいたのだが……。
「どうですか?」
「うん。ありがとう……」
今は、ナーガに背中を洗われている。グリン姉さんから教わった生活魔法:
いや、ありがたいんだけどね? 可愛い女の子に背中を流してもらえるっていうのは、嬉しいんだけどね? 湯船の中が心地良くて極楽だっただけに、もう少し浸かっていたかったという思いが強いのだ。
「む? 何だ何だ? ワタシにもやって欲しいのだ!」
ミリムがやってきて、ナーガに頼み込んでいる。ナーガは「わかりました」と優しく言って、ミリムの背中を洗い始めた。ミリムは気持ちよさそうだ。ターゲットが移ったのを良い事に、俺はもう一度湯船に浸かる。
いやはや、本当に幸せだ。
「心地良いですわね。わたくしも、この温泉というものは気に入りました」
俺の隣に座ったナーガの一言である。ミリムが満足したようなので、俺の隣に座ったそうだ。
そのミリムはというと──
「まあ、ミリム様!」
「わはははは! 楽しいのだ!」
浴槽の中を泳いでいる。そういう施設じゃないと思うんだけどな?
まあそんなの、俺はお構い無しだ。好きにすればいいと思い、ゆったりと心地良い温泉を満喫する。
「あの、アーブ様」
俺の〝アーブ〟という安直な偽名に慣れたのか、もう違和感はない様子だった。
「ん、何だ?」
「えっと、パートナーというのは……」
何やら頬を赤らめながら、俺に言ってきた。そんなに違和感あったか……? 言い訳としてはこれ以上ないと思ってたんだが。
「不満だったか?」
「い、いえ! ですけど……わたくしが、いいのでしょうか」
どういう意味だ?
「わたくしが……アーブ様のパートナー……」
もうツッコむのはやめとこうか。突き詰めると凄いことになりそうだ。
風呂から上がるという頃には、ミリムはもう眠たそうだ。かなりはしゃいでいたようなので、当たり前だな。魔王といえども、はしゃぎすぎると疲れるらしい。やっぱり子供だな、コイツは。
シュナさんに用意された浴衣のようなものを着て、外に出る──のだが、これ女性用じゃん。まあいいか。着心地は抜群だし。
リムルに出迎えてもらって、シュナさんに案内されて客用の寝室に案内される。ベッドは流石にないようだ。あったのは畳モドキと布団だった。ミリムと同室というのはとても心配だったが、いざ行ってみると疲れていたのかすぐに眠りについてしまった。
それを見て安心した俺は、ナーガの隣で布団に入る。
俺達がテンペストに来て、テンペストでの生活の一日目が終わろうとしている。
魔王ミリムも交えて、かなり楽しい一日だった。明日はどんな日になるのやら──そう思いながら、夢のような明日の繰り返しに想いを馳せて、眠りにつくのだった。
なんだかんだ幸せそうなヴェルアーブ。ナーガちゃんは何を考えてるんでしょうか。