転生したら竜だった件   作:暁悠

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第十話 笑顔の花

 目が覚めたが、もの凄い不快感と、心の底に残る絶望を覚えている。睡眠は、〝竜種〟になったことで必要としなくなっていたのに、あの悪夢からは目覚めさせてくれなかった。〝竜種〟の、精神生命体としての意思力なら簡単に目覚められそうなものだが、許してもらえなかった。

 あんな絶望、もう二度と味わいたくはない。だが、それなりに良い事もあった。

 仲間が、家族が増える事。

 帰るべき場所が出来る事。

 ナーガが、俺に微笑みかけてくれる事。その、愛しい笑顔を見る事が出来る事。

 これは、誰が何と言おうと、俺にとってこれ以上ない程良い事なのだ。もし、あの悪夢が予知夢だとするならば。あの絶望を思い知る事になるのだろう。だが、それ以上に。愛おしいまでの、あの笑顔を、必ず守ってみせると、そう心に誓うのだった。

 

 今日も、リムルに町の案内をしてもらう事になっている。のだが……。

「何で魔王が早起きせねばならんのだ!」

 と言って、ミリムがまぁぐずるぐずる。リムルに言われてようやく服を着替えて、身支度を整えたのだった。

 リムル曰く──というか俺も思っていたのだが、ミリムの普段着は露出度が高すぎる。リムルによれば有り合わせの服らしいが、元が美少女なので問題なかった。

 ちなみに。俺とナーガは俺のスキルで浴衣の構成素材と形を『変容』させて好きな服に出来るのでお得だ。元の組成は『案内者』が覚えてくれているし、俺もナーガも同じ浴衣なので問題なしだった。

 

《……》

 

 そんな雑用に使うなという思いを《……》に感じる。まぁ、どうでもいい事だな。

「動きにくいのだ」

 当のミリムはそんなことを言っているが、

「そうか? 似合ってるから、そっちの方がいいんじゃね?」

 と、リムルがあからさまに適当に(なだ)めたら急にご機嫌になった。どういう事なんだろう。

 朝食は、パン──のようなもの──と果物のジャム。そして牛乳──牛鹿(ウジカ)という魔物の乳を冷やしたもの。リムルがそう呼んだから、みんなもそう呼ぶらしい──である。それに、熱々の野菜スープが付いていた。

「熱っ」

 ……。

 俺、猫舌なんだよね。『自然影響無効』には『熱変動無効』という効果も付いているので、熱さは問題にならないハズなんだが……どうも反動でそう言ってしまうらしい。だが、かえってそれが人間味を作り出したのか、リムルなどは「なんだ、猫舌か?」と言って心配してくれている。ミリムとのファーストコンタクト以降、少し警戒されていたようなので、それも緩和されて良かった。

「ウマーーー!! これは美味しいのだ!!」

 ミリムはそう言って大絶賛しながら食べている。俺もそうしたい所だが、甘さより酸っぱさが勝っているのが難点だな。

「ミリム、飯が終わったら服を作ってもらおうか」

「なんでだ? これでいいではないか?」

「それ一着では不便だし、可愛い服の方がいいと思うぞ」

「何!? 可愛い服があるのか?」

「ああ、気に入った服を用意してもらうといい」

 なんだか、ミリムとリムルの間でいそいそと予定が決まっている。俺達はどちらかと言うと部外者な扱いだし、こういうのには口出ししないでおこう。だが……。

「俺達は?」

 それだけは言っておきたい。

「アーブにナーガか……君らは……そうだな……」

 リムルも悩んでいるようだ。

「──それじゃあ、森を見て回っていいかな? この森、まだまだ見たい所が沢山あるんだ。な?」

 そう言って俺はナーガを見る。

「はっ、はい……」

 ナーガは、少し頬を赤らめながら言った。

「それなら、ご自由に。俺の支配領域はこの町周辺とこの先にある封印の洞窟、後はシス湖だよ。そこら辺は俺の名前を出せば自由に歩き回ってくれて結構だけど、他の場所は要注意な。時間になったら『思念伝達』で連絡するよ」

「了解!」

 不審者扱いされずに済むのか、リムルの名を出せば。いやまあ、不審者みたいなものだが。

 そんな感じで、俺達の予定も完成したのだ。リムルから連絡が来るまでは自由時間だし、帰る時は『転移』で帰れる。あれから、ザード姉さんを見習って必死で練習──所要時間、約三分──したのだ。

 

   ◇◇◇

 

 ミリムはシュナさんに連れられて服を作りに。リムルも、他の場所に向かってしまった。なので、俺達も早速探検開始。

「やっぱ森ってワクワクするよな」

「そうでしょうか……」

 俺の感覚は日本人の物だが、ナーガは違うからな。わからなくてもしょうがない。

「そういうもんなんだぞ?」

「そうなのですか」

 かなり受動的な会話である。もうちょっとこう……なんかなぁ。

 そう思いつつ歩いていると、大きな花畑に出た。

「おお、花が一面に……」

「美しいですね」

 ナーガも感動しているようだ。花畑の奥に見えるのは……大きな、(ハチ)

『おや、お客様ですか?』

「あ、ああ、うん。リムルって奴のトコにお邪魔してるんだけど、今は自由時間で色々見て回ってたんだ」

『まあ、リムル様の! ご自由にしてくださいませ。少しであれば、花を摘んでもいいですよ』

 なんと! 本当にリムルの名を出せば許可が降りてしまった!

 恩に着るぞ、リムルよ。まあ、恩に着る事ばかりなのだが。

 どうせだから、ナーガに一輪だけでもプレゼントしようか。どれがいいかな──っと、うん?

 俺の目に入ったのは、この花畑の中でも特に異彩を放つ、一輪の薔薇(バラ)。俺の目では輝きを放って見える、一輪の〝青薔薇〟だ。その青い薔薇との出会いが、運命のように感じてしまうぐらい、俺は惹かれていた。

「あの。あ、ええっと……」

『アピトですわ』

「アピトさん、この薔薇は貰っても?」

『ええ。その花から採れる蜜は少ないので、そこまで支障も出ませんわ』

 だそうだ。良かった。

「ありがとうございます」

 お礼も言ったので、俺は丁寧にその青い薔薇を摘み取り、『千変万化(カレイドスコープ)』で状態固定を施した。『千変万化(カレイドスコープ)』は万能なので、『変容』だけではなく、その逆の『定形化』も可能なのだ。これで、この薔薇は枯れる事はない。

「ほら、ナーガ」

 俺は、その青薔薇をナーガに手渡した。

「これは……?」

「プレゼントだよ。俺から、ナーガへ」

 そう言うと、ナーガは目を輝かせた。愛しむように青薔薇を見つめる。

 そして──

「ありがとうございます、アーブ様」

 俺に、儚げな笑顔を向けた。頬は、持っている青薔薇とは真逆に、赤く染まっている。その潤った海色(マリンブルー)の瞳が形作る表情からは、途方もない歓喜と好意が見て取れた。その笑顔を見るだけで、こっちも笑顔になりそうだ。

 正直言って、かなり可愛い。こんな家族を持てて幸せだと、そう思った。

 

 ──そこで、ある映像がフラッシュバックする──

 

 突如として、俺の頭を猛烈な痛みが襲った。ナーガに心配させるまいと、俺は痛みを堪える。頭に流れ込んできたのは、あの夢だ。

 笑顔のナーガ。知らない女性。知らない大男。知らない動物達。知らない稲妻に、得体の知れぬナニカ。そして、死。

 途方もない絶望を催す一連の映像が、もう一度俺の頭を襲った。

 俺は出所の知れぬ激しい頭の痛みに、内心で悶え苦しみながらも、決意する。

 この夢と同じ出来事を、起こしてはならない。絶対に。俺も、ナーガも、幸せにならなければいけない。死ぬなんて、(もっ)ての(ほか)だ。

 この時、この瞬間、俺のナーガへの気持ちが、完全で、深く、大きな〝愛〟へと変わったのだ。

 そして、希望もある。俺の元いた世界では、自然界に青い色素の薔薇は存在しなかった。だが、遺伝子組み換えの技術が発展した事で、青い薔薇の開花が実現したのだ。その花言葉は、誕生した事そのものが奇跡を起こすほど大変な事だったために『奇跡』や、それを叶えた事によって『夢が叶う』、自然界に存在しないという所から、『不可能』という花言葉が伝えられた。しかしその中でも、『不可能』という花言葉は覆される。先程言ったように、青い薔薇は実現したのだ。そこから、転じて『不可能を可能にする』という花言葉に変わった。そして、不可能を可能にした事から『神の祝福』という花言葉まで。

 不思議な何かを感じざるを得ない。花言葉なんて迷信だろうし、気休めにもならないだろうが……これで、少しでも運命が変われば──そう、思わずにはいられない。

「アーブ様?」

「ん? ああ、何でもない……」

 かなり長く考えていたのがバレたようだ。それに、少しの間放心状態だったみたい。

「ナーガが可愛かったから、つい」

 俺は、ナーガの頬を撫でながら言う。

 言い訳だ。だが、嘘ではない。これは、実際に想っている事。

「アーブ様……。もう、急過ぎますよ」

 そう言いながらも、ナーガの顔が更に赤くなる。可愛い限りだ。

「ちょっと貸してご覧」

「え? はい……」

 渡したばかりだが、俺は青薔薇をナーガに渡してもらう。別に取り上げようってわけじゃない。それよりも──

「これでどうかな?」

 俺は、受け取った青薔薇を『変容』させて、〝枯れない花〟のまま髪飾りにした。ついでに、ナーガの長い純白の髪を編んであげる。結構難しい編み込みで、前世では妹にやってあげようとしたけど難しくて断念したのだ。

 しかし、今回は違う。俺には『案内者』さんという便利なナヴィがいるのだよ。『案内者』さんの指揮下で指を動かし、難しい編み込みも難なくクリア。青薔薇の髪飾りをつけてあげれば完成である。いやあ、便利だね。

 

《…………》

 

 また雑用に使ったなという考えが《…………》から透けて見える。まぁそれはどうでもいい事だ。

「……ありがとうございます」

「可愛く出来ただろ?」

「ええ、本当に……」

 ナーガが俺を見つめる。俺も見つめ返す。なんだか落ち着かなくなったので、ナーガの頭を撫でておいた。

 ここに長居するわけにも行くまいし──

「もっと他の場所にも行ってみようか、ナーガ」

「はい。ご一緒させてください」

「言うまでもないだろ。当たり前だ」

 ここ最近、ずっと様子が変だ。初めて会った時は、表情も態度も堅くて慣れない奴だった。それが今や……俺が本気で、愛情を抱くとは。人生──竜生? ──、何があるかわかったもんじゃないな。だからこそ、俺も希望を諦めてはいない。

 俺は、守らなければならない。

 これから加わるであろう仲間達。

 俺の帰るべき場所になるであろう、白亜の城。

 そこで暮らすであろう動物達。

 そして、ナーガ。

 諦めるわけにはいかないのだ。あれが予知夢なのだとしたら、逆に、見れた事は幸運だ。俺は予知する事が出来たし、対処法も考えられるだろう。

 もの凄い重圧だ。もし失敗したらと思うと、全てを投げ出したくなる。失敗したならば、容赦なくあの未来へと向かってしまうだろうから。

 しかし、俺は諦めの悪い男なのだ。前世では逃げ癖があって、様々な事から逃げていたし、要するにダメ人間の部類だった。だから、せめてこの世界では。俺だって幸せを手にするし、ナーガだって俺の手で幸せにする。

 そう、静かに、心に誓うのだった。




 少し短いかもです。
 それにしてもヴェルアーブとナーガ、凄いイチャつきっぷりですね。でもその前の閑話が不穏に不穏を重ねた不穏そのものだったので、これすら不穏に見えてしまう作者です。我ながら少し怖いです。
 二人の幸せを祈りましょう。
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