転生したら竜だった件 作:暁悠
目が覚めたが、もの凄い不快感と、心の底に残る絶望を覚えている。睡眠は、〝竜種〟になったことで必要としなくなっていたのに、あの悪夢からは目覚めさせてくれなかった。〝竜種〟の、精神生命体としての意思力なら簡単に目覚められそうなものだが、許してもらえなかった。
あんな絶望、もう二度と味わいたくはない。だが、それなりに良い事もあった。
仲間が、家族が増える事。
帰るべき場所が出来る事。
ナーガが、俺に微笑みかけてくれる事。その、愛しい笑顔を見る事が出来る事。
これは、誰が何と言おうと、俺にとってこれ以上ない程良い事なのだ。もし、あの悪夢が予知夢だとするならば。あの絶望を思い知る事になるのだろう。だが、それ以上に。愛おしいまでの、あの笑顔を、必ず守ってみせると、そう心に誓うのだった。
今日も、リムルに町の案内をしてもらう事になっている。のだが……。
「何で魔王が早起きせねばならんのだ!」
と言って、ミリムがまぁぐずるぐずる。リムルに言われてようやく服を着替えて、身支度を整えたのだった。
リムル曰く──というか俺も思っていたのだが、ミリムの普段着は露出度が高すぎる。リムルによれば有り合わせの服らしいが、元が美少女なので問題なかった。
ちなみに。俺とナーガは俺のスキルで浴衣の構成素材と形を『変容』させて好きな服に出来るのでお得だ。元の組成は『案内者』が覚えてくれているし、俺もナーガも同じ浴衣なので問題なしだった。
《……》
そんな雑用に使うなという思いを《……》に感じる。まぁ、どうでもいい事だな。
「動きにくいのだ」
当のミリムはそんなことを言っているが、
「そうか? 似合ってるから、そっちの方がいいんじゃね?」
と、リムルがあからさまに適当に
朝食は、パン──のようなもの──と果物のジャム。そして牛乳──
「熱っ」
……。
俺、猫舌なんだよね。『自然影響無効』には『熱変動無効』という効果も付いているので、熱さは問題にならないハズなんだが……どうも反動でそう言ってしまうらしい。だが、かえってそれが人間味を作り出したのか、リムルなどは「なんだ、猫舌か?」と言って心配してくれている。ミリムとのファーストコンタクト以降、少し警戒されていたようなので、それも緩和されて良かった。
「ウマーーー!! これは美味しいのだ!!」
ミリムはそう言って大絶賛しながら食べている。俺もそうしたい所だが、甘さより酸っぱさが勝っているのが難点だな。
「ミリム、飯が終わったら服を作ってもらおうか」
「なんでだ? これでいいではないか?」
「それ一着では不便だし、可愛い服の方がいいと思うぞ」
「何!? 可愛い服があるのか?」
「ああ、気に入った服を用意してもらうといい」
なんだか、ミリムとリムルの間でいそいそと予定が決まっている。俺達はどちらかと言うと部外者な扱いだし、こういうのには口出ししないでおこう。だが……。
「俺達は?」
それだけは言っておきたい。
「アーブにナーガか……君らは……そうだな……」
リムルも悩んでいるようだ。
「──それじゃあ、森を見て回っていいかな? この森、まだまだ見たい所が沢山あるんだ。な?」
そう言って俺はナーガを見る。
「はっ、はい……」
ナーガは、少し頬を赤らめながら言った。
「それなら、ご自由に。俺の支配領域はこの町周辺とこの先にある封印の洞窟、後はシス湖だよ。そこら辺は俺の名前を出せば自由に歩き回ってくれて結構だけど、他の場所は要注意な。時間になったら『思念伝達』で連絡するよ」
「了解!」
不審者扱いされずに済むのか、リムルの名を出せば。いやまあ、不審者みたいなものだが。
そんな感じで、俺達の予定も完成したのだ。リムルから連絡が来るまでは自由時間だし、帰る時は『転移』で帰れる。あれから、ザード姉さんを見習って必死で練習──所要時間、約三分──したのだ。
◇◇◇
ミリムはシュナさんに連れられて服を作りに。リムルも、他の場所に向かってしまった。なので、俺達も早速探検開始。
「やっぱ森ってワクワクするよな」
「そうでしょうか……」
俺の感覚は日本人の物だが、ナーガは違うからな。わからなくてもしょうがない。
「そういうもんなんだぞ?」
「そうなのですか」
かなり受動的な会話である。もうちょっとこう……なんかなぁ。
そう思いつつ歩いていると、大きな花畑に出た。
「おお、花が一面に……」
「美しいですね」
ナーガも感動しているようだ。花畑の奥に見えるのは……大きな、
『おや、お客様ですか?』
「あ、ああ、うん。リムルって奴のトコにお邪魔してるんだけど、今は自由時間で色々見て回ってたんだ」
『まあ、リムル様の! ご自由にしてくださいませ。少しであれば、花を摘んでもいいですよ』
なんと! 本当にリムルの名を出せば許可が降りてしまった!
恩に着るぞ、リムルよ。まあ、恩に着る事ばかりなのだが。
どうせだから、ナーガに一輪だけでもプレゼントしようか。どれがいいかな──っと、うん?
俺の目に入ったのは、この花畑の中でも特に異彩を放つ、一輪の
「あの。あ、ええっと……」
『アピトですわ』
「アピトさん、この薔薇は貰っても?」
『ええ。その花から採れる蜜は少ないので、そこまで支障も出ませんわ』
だそうだ。良かった。
「ありがとうございます」
お礼も言ったので、俺は丁寧にその青い薔薇を摘み取り、『
「ほら、ナーガ」
俺は、その青薔薇をナーガに手渡した。
「これは……?」
「プレゼントだよ。俺から、ナーガへ」
そう言うと、ナーガは目を輝かせた。愛しむように青薔薇を見つめる。
そして──
「ありがとうございます、アーブ様」
俺に、儚げな笑顔を向けた。頬は、持っている青薔薇とは真逆に、赤く染まっている。その潤った
正直言って、かなり可愛い。こんな家族を持てて幸せだと、そう思った。
──そこで、ある映像がフラッシュバックする──
突如として、俺の頭を猛烈な痛みが襲った。ナーガに心配させるまいと、俺は痛みを堪える。頭に流れ込んできたのは、あの夢だ。
笑顔のナーガ。知らない女性。知らない大男。知らない動物達。知らない稲妻に、得体の知れぬナニカ。そして、死。
途方もない絶望を催す一連の映像が、もう一度俺の頭を襲った。
俺は出所の知れぬ激しい頭の痛みに、内心で悶え苦しみながらも、決意する。
この夢と同じ出来事を、起こしてはならない。絶対に。俺も、ナーガも、幸せにならなければいけない。死ぬなんて、
この時、この瞬間、俺のナーガへの気持ちが、完全で、深く、大きな〝愛〟へと変わったのだ。
そして、希望もある。俺の元いた世界では、自然界に青い色素の薔薇は存在しなかった。だが、遺伝子組み換えの技術が発展した事で、青い薔薇の開花が実現したのだ。その花言葉は、誕生した事そのものが奇跡を起こすほど大変な事だったために『奇跡』や、それを叶えた事によって『夢が叶う』、自然界に存在しないという所から、『不可能』という花言葉が伝えられた。しかしその中でも、『不可能』という花言葉は覆される。先程言ったように、青い薔薇は実現したのだ。そこから、転じて『不可能を可能にする』という花言葉に変わった。そして、不可能を可能にした事から『神の祝福』という花言葉まで。
不思議な何かを感じざるを得ない。花言葉なんて迷信だろうし、気休めにもならないだろうが……これで、少しでも運命が変われば──そう、思わずにはいられない。
「アーブ様?」
「ん? ああ、何でもない……」
かなり長く考えていたのがバレたようだ。それに、少しの間放心状態だったみたい。
「ナーガが可愛かったから、つい」
俺は、ナーガの頬を撫でながら言う。
言い訳だ。だが、嘘ではない。これは、実際に想っている事。
「アーブ様……。もう、急過ぎますよ」
そう言いながらも、ナーガの顔が更に赤くなる。可愛い限りだ。
「ちょっと貸してご覧」
「え? はい……」
渡したばかりだが、俺は青薔薇をナーガに渡してもらう。別に取り上げようってわけじゃない。それよりも──
「これでどうかな?」
俺は、受け取った青薔薇を『変容』させて、〝枯れない花〟のまま髪飾りにした。ついでに、ナーガの長い純白の髪を編んであげる。結構難しい編み込みで、前世では妹にやってあげようとしたけど難しくて断念したのだ。
しかし、今回は違う。俺には『案内者』さんという便利なナヴィがいるのだよ。『案内者』さんの指揮下で指を動かし、難しい編み込みも難なくクリア。青薔薇の髪飾りをつけてあげれば完成である。いやあ、便利だね。
《…………》
また雑用に使ったなという考えが《…………》から透けて見える。まぁそれはどうでもいい事だ。
「……ありがとうございます」
「可愛く出来ただろ?」
「ええ、本当に……」
ナーガが俺を見つめる。俺も見つめ返す。なんだか落ち着かなくなったので、ナーガの頭を撫でておいた。
ここに長居するわけにも行くまいし──
「もっと他の場所にも行ってみようか、ナーガ」
「はい。ご一緒させてください」
「言うまでもないだろ。当たり前だ」
ここ最近、ずっと様子が変だ。初めて会った時は、表情も態度も堅くて慣れない奴だった。それが今や……俺が本気で、愛情を抱くとは。人生──竜生? ──、何があるかわかったもんじゃないな。だからこそ、俺も希望を諦めてはいない。
俺は、守らなければならない。
これから加わるであろう仲間達。
俺の帰るべき場所になるであろう、白亜の城。
そこで暮らすであろう動物達。
そして、ナーガ。
諦めるわけにはいかないのだ。あれが予知夢なのだとしたら、逆に、見れた事は幸運だ。俺は予知する事が出来たし、対処法も考えられるだろう。
もの凄い重圧だ。もし失敗したらと思うと、全てを投げ出したくなる。失敗したならば、容赦なくあの未来へと向かってしまうだろうから。
しかし、俺は諦めの悪い男なのだ。前世では逃げ癖があって、様々な事から逃げていたし、要するにダメ人間の部類だった。だから、せめてこの世界では。俺だって幸せを手にするし、ナーガだって俺の手で幸せにする。
そう、静かに、心に誓うのだった。
少し短いかもです。
それにしてもヴェルアーブとナーガ、凄いイチャつきっぷりですね。でもその前の閑話が不穏に不穏を重ねた不穏そのものだったので、これすら不穏に見えてしまう作者です。我ながら少し怖いです。
二人の幸せを祈りましょう。