転生したら竜だった件 作:暁悠
次に訪れたのは、リムルに言われた〝シス湖〟だ。
ここは
「どうしたもんかな」
「どうしましょうか……」
俺もナーガも困っていた。まぁ、解決策はあるにはある。
「ナーガはこうすればいいんだもんな」
「ひゃあっ!?」
そう言って、俺はナーガをお姫様抱っこした。やっとそれっぽい声を聞けたぞ。嬉しい限りである。
「あっあ、アーブ様……」
「遠慮はするな」
重ねてウインク。我ながら
そういえば
ナーガはわかりやすく動揺している。可愛い。なんか可愛いっていう感想しか出てこなくなってるな……これはマズイ。他に用意するとしたら……可憐? 可愛らしい? ……全部似通った言葉だな……。まぁいいや、可愛いのは事実なんだし。
「汚れるのは嫌だろ?」
………
……
…
それからシス湖を抜けて、また森に出た。
え? シス湖では何をしてたのかって? 何もしてない。見所もないので容赦なくカットだ。強いて言えば、シス湖を歩いている最中に数名の
今は、一度『転移』でテンペストを介して、シス湖とは逆方向にある〝クシャ山脈〟に向かっていた所だ。丁度
青い薔薇の一件から、ナーガは俺にピッタリとくっ付いていた。離れようとしない。事ある
「ここは落ち着きますね、アーブ様」
「そうだな。神秘的な場所だし」
事実、このクシャ山脈には神秘的なオーラが漂っていた。
なんというか、落ち着く──そういう感じの場所だ。
と、寛いでいた俺達だったが。
「うん?」
「聞こえましたか、アーブ様」
普通なら聞こえぬような異音だ。爆発音にも近いもので、こんな神聖そうな場所に聞こえる音ではないのは確か。まぁ実際そうだ。俺達の『万能感知』が優れているというだけで、普通だったら聞こえないだろう。
しかし、聞こえてしまった。聞こえてしまったら気になるし……。
「行ってみようか」
「はい」
ちょっと緊急事態にも見えたので、俺達は『飛翔』して、爆発音の発生地へと向かったのだった。
その発生地は、クシャ山脈の
そこには、真っ黒いドーム状の何か。直径三十キロメートルほどで、かなり広大だ。
「何だ、これ?」
「わかりません……」
まあ、わからないよな。
《問。『解析鑑定』を実行しますか? YES/NO》
勿論YESなのだが……これは本当に何なんだろうな?
興味本位で降り立って触れてみると、手が弾かれた。新手の『結界』かな?
《結果が出ました。これは『固有領域』という、『結界』が派生進化した支配領域を形成するスキルだと判明しました。続けますか?》
当たり前だ。そのメカニズムを紐解けば、俺の『流転世界』にも流用出来そうだしな。
《了》
さて、対処法がないし、『案内者』の解析待ちなので、解析が終わるかこの『固有領域』が解けるかのどちらかを待つ必要があるのだが……。
「中では何が行われているのでしょう」
「さあな。爆発音みたいなのが聞こえたから、もしかすると誰か戦っているのかも。戦いが終われば自ずとこの『固有領域』も晴れるだろうから、それまで待とうか」
「アーブ様、『固有領域』とは?」
「うん? ああ、これの事だよ。『結界』が派生進化したモノで、一定範囲内に支配領域を形成する特殊なスキルらしい」
「そんなものが……」
ナーガも思案顔で何かを考えている。
「中にいるのが敵か否かは知らんが、相当な手練なのは確かだ。気を引き締めとけよ?」
「ええ、わかっています。アーブ様の足手まといにだけはなりませんわ」
戦わないで欲しいな、ナーガには。見学してて欲しい。でもナーガ本人がそれを許さないだろうというのはわかるので、泣く泣く黙認することにした。
三十分は経っただろうか。俺の辛抱が足りないのだろうが、もう少し早く終わらないものだろうか? 実力が拮抗していたら、それも難しいのかな。
なんて考えていると、『固有領域』が上部からどんどんと霧散していっている。
「終わったようだな」
「備えます」
流石はナーガ、安心して背中を任せられそうだ。
「さて、何が──っ!?」
そこにあったのは、凄惨な光景だ。
草木が血に塗れていて、翼を持つ者達──解析によると、
「これは……」
「何が起こっているのでしょう? 見た所、
それは誰が見ても明白である。
俺達はその中を歩き、この『固有領域』の主を探した。この死せる者達ではない。残滓を解析しただけでも、『固有領域』を形成できる程の強者ではなかった。『固有領域』は〝世界系〟──俺の『
少し歩くと、まだ生気を感じる
人ではないが、ぐったりと地面に倒れ伏している。三本足で、珍しい闇銀色の
そこでまた、俺の頭に激痛が走る。コレも、夢で見たモノとそっくりだ。
「アーブ様ッ!」
「あっ──」
また呆けていたようだ。そんな暇もなさそうなので、魔法ですぐにそのカラスを治癒する。生命の波動を問題なく感じるようになったので、ひとまずは安心出来るだろう。
「生命力が回復してきている。ひとまずは安心だろうさ」
「良かった……。それで、この者が……?」
「恐らくは、な」
ちょっとだけ『解析』したところ、コイツも精神生命体に属する者だった。しかし、ここまで追い詰められていたのは意外である。
《解。
何と、
と、そんな事を考えている内にカラスの意識が覚醒した。
『──何者ッ!?』
「おい、待て──」
俺が制止するより早く、カラスが能力を発動させていた。
『──〝
辺りが闇に包まれる。
「これがコイツの『固有領域』かッ!!」
「アーブ様、お気をつけを」
「わかってるよ!」
手短に会話を終えた俺達は、すぐさま戦闘態勢に入った。
さて、どう来る?
そう思った、次の瞬間。
「──何!?」
「アーブ様ッ!!」
俺の腕が切り落とされた。
何をされた? どこから攻撃された?
《不明》
手短に答えてくれるのはいいが、絶望感が出てくる回答はやめていただきたいものだ。
ちょっとイラッときたし、丁度いいのでここで実験してみよう。そう思って俺は、手のひらの上に魔素の塊を現出させ、それを『破滅の光』に変換する。
今回は、『破滅の光』の特性は無視だ。これはそのまま『破滅の光』としてではなく、極大密度のエネルギー性特殊粒子物質として扱う。ただし、光としての不定形さは残して。こんな我が侭が効くから、俺の『
まずは、そのまま破壊力を持った
「──〝
これでは、『固有領域』は打ち破れなかった。
『無駄だ!! この『夜闇』は私の味方。部外者に破る事など不可能!』
強い『思念』として伝えられたカラスの言葉は、俺の脳を刺激した。
ほう? 言うじゃねーか。だったら、正面切ってぶち破ってやらあ!!
そう思うが早いか、俺は『破滅の光』を薄く、超高速回転する刃の付いた輪として成形する。そこに更に『破滅の光』を注いで、エネルギーの密度を極限まで高め、同時に極大の運動エネルギーを『
「ナーガ、離れてろ。巻き込まれたら死ぬぞ!!」
「ッ!? ハハッ!!」
ナーガはすぐに俺から距離を取った。
多分、最大面積が直径三十キロメートルなのだろう。
なので、生み出した丸ノコのような光の輪──光輪を、その高さに届くように巨大化させる。中心点を掴むのが難しくなるので、同時に『飛翔』して。
「──
極大威力・質量化したそれを、一気に振るう。すると、俺達を覆い尽くす『夜闇』が晴れた。
『──何だとッ!?』
酷く驚愕した声が響き渡り、俺達の目の前に闇銀色の巨大なカラスが降り立った。
『……通じない、なんて……。いいわよ、殺せば』
何か勘違いしているようだ。
「勘違いしてるみたいだから言ってやるが、俺達に敵意はない。どうか、安心して欲しい」
『何? 私を狙っているわけじゃない……?』
「そうだ。というか、ついさっきまでお前の存在も知らなかった」
そう言うと、強く張っていた緊張の糸が切れたのか、カラスはよろめいてしまった。俺達が介抱すると、愚痴を話すように経緯を説明してくれた。
このカラスは、
その強さ故に忌避され、迫害を受けたのだそうだ。それを理由に逃亡し、ここで追手を、習得しかけでまだよく分からず、未完成の『固有領域』にて殲滅したのだそうだ。
「それは……頑張ったな」
『私を褒めてくれたのは貴方だけよ。これまでも、きっとこれからもね。サヨウナラ、優しい人。貴方に会えて良かったわ』
それだけ言って、カラスはその場を去ろうとした。
「ちょっと待った!」
『……まだ、私に何か?』
「行くアテ、無いんだろ」
それくらい、誰だって察せられる。
『それはそうだけれどもね。なら、どうしろって言うの?』
「俺と一緒に来い」
『はあ?』
「だから、俺と一緒に来い。帰る場所も、仲間も、いないんだろ」
そう言うと、遠い目をして呟いた。
『……そうね。仲間はもう、殺されたわね』
凄惨な事実だ。俺の世界での〝いじめ〟に相当する行為なんだろうが、俺にその経験はなかった。幸い、平和な学校だったのでそういう案件も少なかった。だが、異世界でそれを味わうことになるとは……。
「なら尚更だ。俺と一緒に来て欲しい。どっちみち、助かるにはそれしか無くないか?」
『……まぁ、そうね。けれど、いいの? 私といると、貴方も酷い目に遭うかも』
フフフ、何を今更。
「見てなかったのか? 俺はお前よりは強い。どうにかして見せるさ」
そう言うと、カラスは初めて笑った。
『ウフフッ、あはははっ! 豪気なものね。それじゃあ、従わせてもらおうかしら』
「契約成立だな」
『契約? 契約と言うなら……対価を求めるわよ?』
少し悪い顔──実際は知らないし、俺の
「対価? 対価かぁ……。それじゃあ、お前に名前をやろう。魔物にとって名前ってのは、特別な者の証明みたいなものなんだろ?」
『──ッ!? 名前!? 名前、って言ったわよね!? 本当に、いいの……?』
「いいも何も、別にいいだろ。不満か?」
『いっ、いえ! そんなことは……』
なんか急に改まった喋り方になったな。
「そんな急に改まった口調で喋らなくてもいいぞ。そうだな……カラスだから……レイヴン。お前は、たった今から〝レイヴン〟を名乗れ!」
すると、七色の繭がカラス──もとい、レイヴンを包み込み、進化を開始させる。変異種であるレイヴンの存在は、転生したての俺みたく安定していなかった。それが、俺による〝名付け〟によって安定しようとしているのだから、運命だな、これは。
数分すると、虹の繭が弾けた。
「──ワタシ、私は……レイヴン。夜闇の支配者にして、貴方様に仕える者」
恭しく奏上したレイヴンは、カラスの姿が霞む程に美しく変貌していた。背中に生えた一対二枚の翼と、長くサラサラとした髪は、元々のカラスを思わせる闇銀色だ。瞳は
服装は、俺達のように魔素を物質に変換して作り出したようだ。胸元が空いたチャコールグレーのワンピースドレスの上に、プルシアンブルーのジャケットを羽織っていた。
「お、おう。宜しくな、レイヴン」
「宜しくお願い致しますわ。どうお呼びすれば?」
「俺の真名は〝ヴェルアーブ〟だ。俺は〝竜種〟だが、それが周囲にバレるわけにはいかない。だから偽名として、〝アーブ〟を名乗っている。だから、人前ではアーブと呼ぶように。お前も直ぐ慣れるさ」
「改めて、宜しくお願い致しますわ、アーブ様」
こうして、俺の家族が一人増えたのだった。
俺は思案する。これから、どうするか? 急に仲間が一人増えたが、リムルには必ず怪しまれるだろう。何回か『解析』されそうになっていたようだし。
とりあえず『思念伝達』だな。
『えーと、繋がってますか? お返事くださいな』
『おう、繋がってるよ。どうした?』
『あんなに
『はあ!?』
流石に急過ぎたのか、リムルも驚いている。まあ、仕方ない。
『急用が出来たんでね、長々と話してる場合じゃないんだ』
『……そうか。気を付けてくれよ?』
『わかってるよ』
そう言って、『思念伝達』を終える。こういう嘘を平然と
「そんじゃ、ちゃんとリムルにも報告したし……行こうか!」
「行くって、どこに行くというのかしら?」
「どこでもないさ。強いて言えば、行く場所を〝探しに行く〟のかな」
そう言ってウインクすると、レイヴンが呆れ気味に言った。
「要は行きあたりばったりの旅ですのね」
「アーブ様はこういう、突飛な事をする御方ですよ、レイヴン」
「楽しい旅になりそうだわね、ナーガ」
俺がリムルと『思念伝達』で話し合っている間に自己紹介を済ませていたようだ。
あ、そうだ。
「なぁ、レイヴン?」
「何でしょう?」
「お前の実力が知りたいから、ちょっとだけ『解析』するが……いいな?」
「ええ。何なら、私がスキルも含めて自己申告しましょう。どちらにしろ、帰る場所がない私にとって永遠に仕える貴方様ですもの。いつか話す日が来ますわ」
確かにな。俺もそう思ったので、それならと自己申告してもらった。
話してもらった状況と種族等の解析結果をそのまま表すと、こうである。
名前:レイヴン
種族:
加護:水鏡の加護
称号:〝夜闇の支配者〟
魔法:〈闇霊魔法〉
能力:固有能力『万能変化』
ユニークスキル『
耐性:物理攻撃無効、精神攻撃無効、状態異常無効、
自然影響無効、聖魔攻撃耐性
こちらもナーガに負けず劣らず圧巻だった。俺による〝名付け〟一発で、魔王種を超える覚醒魔王以上の力を手にしているようだった。これは俺だからとか関係なく、元が特殊過ぎたのだろう。ちなみに、『獣身化』は『万能変化』に統合されているようだった。見た感じ、ナーガよりもレイヴンの方が強そうである。
そして、レイヴンのユニークスキル『
そして、この『夜闇世界』を発動してようやく日の目を見るのが『夜闇』という権能。これは、『自身が夜の闇そのものとなることで存在を隠匿する』という効果だ。しかし、使い道は他にある。それは、〝見えない攻撃〟だ。この世界内では、レイヴンという存在は完全に隠匿される。使われたら、俺も
しかもこのスキル、究極の一歩手前という段階にいるのだ。レイヴンがグリン姉さんと戦おうものなら、多分問題なく
いやはや、末恐ろしい人を仲間にしたものである。
頭痛がどんどんと解消していく。今のところ強さ関係はヴェルアーブ>レイヴン>ナーガです。もっと言えば、多分ヴェルアーブ>ミリム>レイヴン>ナーガ>リムルでしょう。現時点ならね。