転生したら竜だった件 作:暁悠
第十三話 運命の加速
ある日の事だった。
俺達はいつも通り、神聖法皇国ルベリオス郊外で魔獣退治の
「今回のは
「ええ、不吉です」
「そうでしょうか? いつも通りな気がしなくもないですが……」
俺に賛同するのはナーガだ。対して、否定的なのがレイヴン。レイヴンは現実主義者で、迷信や勘なんていうものは信じない
「ま、それもそうだな。考え過ぎも良くないし」
「それには賛成です。……ですけど、レイヴンのアーブ様に対する物言いは何とかなりませんか?」
「どういう事でしょう?」
「アーブ様に対し、敬意が足りないと言っているんです」
油断すると直ぐに火花が散るのがこの二人の厄介な所だ。放っておくと戦い始めるので、困ったものである。
俺はふと、さっきまでの戦いを振り返った。
………
……
…
前提として、俺達は日頃、自分の力をセーブしている。肉体、ひいては力そのものに制限を設ける事で、権能や素の力に頼らず、技量を研く事を目的としたもので、この制限を解除するには
それを踏まえて、今回の戦いだ。相手は
まず、ナーガが動いた。
「純色:赤……
両拳に
「グギャアアア──ッ!!」
そしてナーガの狙い通りに、
「さて、私も負けていられませんわね」
そう言って、レイヴンの闇銀色の翼から離れた羽根が、宙を舞う。そのままそれは、鋭利な刃となって──
「──
そして。
「
薄く、高速回転する
………
……
…
戦闘に要した時間、約三十秒。これで結構な大金が貰えるというのだから、安いもんである。
俺は自由組合ルベリオス支部にて諸々の手続きをし、報酬金を貰った。金貨五枚……まずまずってところか。
「おう、終わったぞ」
「アーブ様! それで、どうでした?」
「金貨五枚。まずまずってところだろ」
「そうですわね。それにしても……金銭は潤っているでしょう? どうして冒険者として活動する必要があるのですか?」
出たな、現実主義者。
「わかってないな、レイヴンは。俺は楽しいからやってるんだ。ナーガは知らんけど」
「私も、アーブ様と冒険者として活動する日々は楽しいです! だから続けています!」
「だそうだ。つまり、そういう事だよ」
「そういう事、ですか……」
レイヴンも納得してくれたようで何よりだ。
──そして、事件は起こる──
「うぐっ……うぅっ、うぅあぁっ!!」
「「アーブ様ッ!?」」
俺は、意識が飛びそうな程激しい頭痛に悶え苦しむ。
痛い、痛い痛い痛い。泣き叫びそうな程に強く、頭に走る激痛。ナーガの笑顔やレイヴンを見て、夢に重ねて、その絶望感に感じた痛みが薄く霞む程に強く、鮮烈な痛み。
「うっ、ぐ……うぅああああああっ!!」
「アーブ様ッ! ヴェルアーブ様ッ!!」
ナーガが俺を抱きしめる。しかし、それで頭痛が治まるなら苦労はしない。それでもなお、俺の頭に痛みは響き続ける。
──『こっちじゃ』──
「うっ、ぐぅっ……なん、なんだ……っ」
──『こっちじゃ』──
「お、まえは……っ」
──『こっちに来い。来ねばならん』──
脳に──いや、魂に直接響いているような〝声〟が、頭痛を加速させる。
「あっ、あああああああああっ!!」
俺は、また苦痛に悲鳴を上げる。
──『早くしろ。早くこっちに来るのじゃ』──
そうして、俺は。
「う、あ──」
俺の意識は、闇に落ちた。
◆◆◆
──何が起こったんだ? 俺には、何が起こってる? 俺は、どうなった?
……珍しく『案内者』からの答えがない。
ここは何なんだ? どうなってるんだ?
──『やっと聞く気になったか?』──
──『仕方のないものよな、反動があるんじゃから。しかし、これでは不便でならん』──
──『それも含めて、教えてやる。だから早くこっちに来い。時間がないのじゃ』──
やっと痛みも……マシになってきた……。
……時間? 時間、だって?
──『そうじゃ。このまま行くのでは、どうも時間が足りなすぎる。今回は鈍感なようじゃな、貴様は』──
今回? は?
──『早うこっちに来い。お前の疑問にも、答えられる範囲で
いや、どこに──
──『もう、わかっておるはずじゃ。
◇◇◇
「……こ、こは……?」
目が覚めると、そこには知らない天井があった。木造の屋根のようだ。ステンドグラスから差し込む光が俺の目を眩く照らす……ここは、教会……?
「アーブ様! お目覚めに……!」
「な、ナーガ……?」
心底安心したという、涙ぐんだ表情で俺を見つめるナーガがいた。
「心配、かけて……済まなかった、な」
俺はいつも通りナーガの頬を撫でるが、それでも。
「本当です、本当ですよ。本当に、貴方様という人は……私もレイヴンも、本気で心配しました……もし、目覚めなかったらと思うと……」
ナーガの美しい
「私、私っ……ほんとう、に……」
「……ああ、ああ……済まなかったな、本当に」
ようやく呂律も回るようになったので、俺は改めて謝罪する。
同時に、胸がはち切れそうな程に、ナーガとレイヴンの事が愛しくなった。恐怖もする。俺にはまだ、あの夢という懸念があるから。ただ、そんな事がどうでも良く思える程に……心配してもらえている事が、二人がいる事が、嬉しく思う。
「もう、こんな事無いといいんですけど……。あ、私、レイヴンを呼んで──」
「待って」
俺から出たとは思えない程、か細い声が出た。
「待って、くれ……。しばらく、一緒に……レイヴンには、俺の方から言っておく、から……」
独りが怖い、というのは甘えだろうか。俺は、無意識にナーガの手を掴んでいた。
「あっ、アーブ、様……」
ナーガは目を見開いている。当たり前だ。こんな姿、一度たりとも見せた事はなかった。だからこそ、余計に響いたのだろうか。
「──わかり、ました。それでは……レイヴンが来るまでは」
「……ありがとう」
ナーガも、手を握り返してくれた。こんなにも、頼もしく思い、安心した事はない。
それから程なくして、レイヴンも俺の前に現れた。この教会の司祭さんと思しき人も同じタイミングでやってきた。
「もう、大丈夫そうですね。一時はどうなる事かと思いましたよ。意識がなかったものですから……。本当に良かった」
その人──司祭のデルケさんは、それから「どうぞ、しばらくはごゆっくり」と言って、どこか別の部屋に行ってしまった。
「……それにしても、一体どうしましたの?〝竜種〟ともあろう御方が、意識を失うだなんて……」
「俺が〝竜種〟だってのは黙ってて欲しかったんだけどな。まあ、いいよ。もう『防音結界』も張ってるし。それを抜きにしても、重要な事を話す予定だったからな」
かなり体調も回復したので、俺の口は
「重要な事、とは?」
やはりレイヴンは直球だな。ナーガは俺の体調を心配して、発言を遠慮してるようだ。俺に負担をかけたくないっていうのはわかるんだけど、こういう時はちゃんと話して欲しいよね。
「俺の事は大丈夫だから、ナーガ。自由に話してくれて結構だぞ?」
「えっ? あ、はい……それで、重要な事とは?」
「それなんだが……」
まだ話す事に躊躇している。だが、躊躇っている時間もない。あの野郎にも、『時間がない』と言われたしな。
「俺が倒れた事に関する話だ。まず、その原因だが……頭痛だ。俺は前に……レイヴン、お前を夢で見ている」
それを聞いたレイヴンは、目を見開いて驚いている。まさか、とでも思ったのだろうか。
「それは……どういう?」
「そのままの意味だよ。お前の姿を、色を、夢で見た事がある。ただの夢かと思ったら、そうも思えない。ナーガ、お前に花をプレゼントしただろ?」
「えっ?」
ナーガは一瞬頬を赤らめた。可愛くて愛おしい限りなんだが、今はそういう雰囲気になってる場合じゃないんだよね。
「あの時、ナーガが見せてくれた笑顔……あれも、夢で見た」
俺は、夢に見た事を二人に洗いざらい話した。ナーガの笑顔、レイヴン、巨人、白亜の城、動物達……強敵、そして死。
「今回、俺に降り掛かった頭痛は……この、レイヴンを見た時とかに感じる〝
そう、系統は同じなのだ。俺は夢を介して未来を視たのだとして、視た未来に近づき、それを見る事によって激しい
「俺の頭の中に流れてきた声。『こっちに来い』『時間がない』……色々ボンヤリ過ぎるが、確かに行くべき場所はわかる気がする」
本当に、ボンヤリと。まるで、規格外存在に運命を導かれているような。
「それは……一体どこなのでしょう?」
「……イングラシア王国より北方にある、孤島。そこな気がする。違ったらもう、俺の推理含めてこの頭痛の正体も泣き寝入りするしかなくなる。ぶっちゃけ、無謀過ぎる賭けだ。それでも……お前らは──」
「「当たり前です」」
二人の声が重なる。つまりは、二人とも、同じく強い覚悟で言うのだ。
「当たり前ですよ。私は、ヴェルアーブ様の第一眷属。どこまでもお供する所存ですわ」
「そうでしてよ。私は第二眷属な分、ナーガよりも貴方様のお役に立たねばなりません。ですので、着いていくのは必然ですわ」
「お前ら……」
本当に、泣かせに来るよな、コイツ等は。なんて、一句詠んでる場合じゃない。
「……お前ら、本当に……本当に、ありがとうな」
「当然の責務です」
心強いよ、本当に。
デルケさんに事のあらましを伝えると、
「そうですか……まだ心配ですし、安静にしていて欲しい気持ちもありますが……それが責務だとばかり言われては、反発のしようがないですね。それではどうかお気をつけて、行ってらっしゃいませ」
そう言って、俺達を励ましてくれた。俺は色んな人に支えられているなと、そう実感する。
「じゃあ、早速向かうとしようか」
俺達の未来へ。
◇◇◇
イングラシアより北方にある、孤島。俺達には全員飛行能力があるので、問題なく到着する事が出来た。
「ここに来いと、そう導かれたのですよね?」
「ああ。確かに、そう導かれた」
「それらしき、強い存在力を持った生命体は確認出来ませんが……」
どういう事だ?
と、その時。俺達の頭に、強い『思念』が送られてきた。
『やっとか。少し、来るのが遅いのではないか?』
「どこにいるんだよお前はっ!?」
『ここじゃ。早う見つけんか、若造』
何だコイツ、クッソ偉そうに!
送られてきた『思念波』を辿っていくと……そこには、洞窟があった。
「いや、どこだよ?」
『ここじゃよ、ここじゃ。地面を見よ』
そう言われたので、地面を見てみると……。
『ようやく気づきおったか、若造。少し遅いのではないか?』
そこには、小さな緑のプニプニがいた。
「何だお前」
『
「は?」
何言ってるんだ、このちっちゃいの?
「何だよ、何かのイタズラか?」
そう言って、〝
『失礼なっ、離せ! 降ろすのじゃ!』
「なんだこれ」
触り心地は……ひんやりしている。スライムみたいだ。
『チィ、貴様、
「ラタ……何て?」
ソイツがそう叫んだ、その時だった。
『あいよあいよ〜!』
別の声が聞こえたと思ったら──
「わっ、うわっ!?」
『客人ですかい、珍しいですねぃ。それに捕まるなんて、らしくないじゃないですか、姐さん』
『その呼び方は止めんか。慣れぬ』
『まぁまぁ〜』
……俺の頭上から一匹の
「何だよ、お前!?」
『おれですか? おれは、
えらく饒舌な……。
「ら、ラタトスク?」
『せや!』
それにしても……何なんだ、コイツ等は?
『そうじゃな。
コイツはこう言ってるけど……。
「いや、話に追いつけないんですけど?」
俺はギリギリ言い返せてるが、ナーガとレイヴンの二人はポカンとしている。まるで話に着いて来れていない様子だった。
俺がそう言うと、緑のプニプニ──もといディゴルネは、思案顔になって何やら考え事を始めた。
『ふむ……確かに、
「また若造つったな。いいか? 俺にはアーブって名前がだな──」
『違うじゃろう?』
「は?」
俺は唖然とした。何を言われたのか理解するのに数秒要した。
『違うじゃろうと言ったんじゃ。お主の真名は違うものであろう、とな』
コイツ……本当に何者なんだ?
「……バレてるのか。そうだよ」
『素直で宜しい。お主の事はヴェルアーブと呼べば良いな?』
「ああ、それで構わない。それで?」
『……そうじゃな。実際に見た方が
『了解しやした! あんさん等、着いて来な』
「「「……了解」」」
全く話に着いて行けないので、もう思考を放棄する事にした。
ラタトスクに案内され、洞窟の中を進む。そこには──
「なっ、神聖結界? どういう事だよ……?」
洞窟内部には、神聖的な結界が張り巡らされていた。それはあらゆる邪悪を滅する破邪の膜だ。
『当たり前じゃ。ここは来る邪悪に備えてヴェルダナーヴァが用意した
ヴェルダナーヴァが用意した……?
『ま、邪悪と言うにはあまりにも無邪気で、悪意のない
何言ってるんだ?
『安心せい、
本当に何を言ってるんだろうな。
『着きやしたぜ』
『案内ご苦労じゃった、ラタトスク。後は
『ははぁー』
そんな感じの会話を繰り広げて、ラタトスクは俺達と同じ所にまで下がった。
『……酔いに注意してくださいや。これはちと刺激が強いですけん』
「は?」
『そんな怖い受け答えせんといてーな……』
「おっと、済まなかった。ちょっと理解が追いつかない事だらけだったもんで」
『そりゃあそうですわ。姐さんはいつだって説明が中途半端──』
『何か言ったかのう?』
『いえ何もっ!』
なんか……。
「面白い奴だな、お前」
『嬉しいやら嬉しくないやら……複雑ですわ!』
そんな話をしていたら、ディゴルネが振り返った。
『この石碑に触れるのじゃ。それだけでいい』
「え、触れるだけ?」
『そうじゃ。それが最も重要な事じゃからな』
「ふぅん……」
もう思考放棄しているので、理解するとかしないとか関係ない。俺は特に迷う事なく、石碑に触れた。
ひんやりとしている。石碑からは神聖なオーラを感じるが……って、え?
「せっ、石碑が……おい、ディゴルネ! これは──」
『大丈夫じゃ。何の心配も要らん』
「はあっ!?」
何が起こったのか。俺が石碑に触れて一秒したその時、石碑が青く輝き始めたのだ。
『さて、始まりやすぜ。おれ、これ嫌いなんですよなぁ……』
そんなラタトスクの呟きが聞こえた、次の瞬間。
「なっ──」
床が抜けるような感覚、浮遊感。これは──落ちてる、わけではない。空間歪曲による座標転移が起きているのだと悟る──『案内者』から教えてもらう──のには、数秒を要した。うねる座標空洞を抜けた、その先には──
ディゴルネ、ラタトスク、石碑……。