転生したら竜だった件 作:暁悠
〜
そこには……不思議なものがあった。
「? 何だ、これ?
ガラスのような棺──ではなく、どちらかと言うと……氷の
《是。純粋な聖霊力で作り出された封印のようなものです》
聖霊力?
《解。特殊な物質を操作する力の総称です》
特殊な物質ねぇ……魔素みたいなものか?
《是。解析を開始しますか? YES/NO》
YESだ。頼んだよ。
「……どうやらこれは、封印の
「「封印の
「ああ。純粋な聖霊力で作り出された封印らしい」
俺は『案内者』からの受け売りをそのまま話した。
「なるほど……どうしますか?」
「え?」
「いや、アーブ様の事だから、封印を解いてみよう! なんて言い出すんじゃないかなって」
なんて失礼な奴だ。俺の事を何だと思っているのやら。
「良くも悪くも好奇心旺盛ですものね。まあ〝好奇心は猫を殺す〟なんて言葉もありますけれど、ね」
人聞きの悪い事。俺はそんなんじゃないさ。多分。きっと、おそらく。
「ま、もうすぐ解析が終わるから、その結果によっては解くこともやむ無しだな」
「やっぱり……いやこれ、私が言ったからでしょうか?」
「いいえ、ナーガ。どうせアーブ様は言われなくてもこう言っていましたわ」
「評価が高いのか低いのかどっちなんだよ!?」
「高いですとも。頼り甲斐のある主様ですからね。ただ……たまに行動があまりにも無茶で突飛過ぎるのですよね」
「私だってヴェルアーブ様の評価は高いです! まぁ、レイヴンの意見には概ね賛成ですが……。それでも、それでも……」
ナーガが、青薔薇の髪飾りを触りながらモジモジしている。可愛い。
「このプレゼント……本当に嬉しかったです」
顔を真っ赤にしながら、そう言った。
「あらあらあら、ナーガ。初々しいですわね……可愛いわ」
「なっ、れ、レイヴン!? よ、余計なお世話ですっ!」
「俺も可愛いと思うけどね」
「ヴェルアーブ様……っ!? 本当、ですか?」
何を今更。今までだって何度も言ってるだろうにな。
「今更だな。ずっと思ってるし、何なら何度か言ってるだろ?」
「そ、そうですよね。そうなんですよね。それはわかってるんですけど……こんな……面と向かって言われてしまうと……て、照れてしまいますから……」
ああ、可愛い。
そんな時、レイヴンが耳打ちしてきた。
「アーブ様」
「うん?」
「最初は私も貴方様に惚れかけていたんですけれどね。ナーガを見てから……というか一緒に過ごし始めてから、直ぐに諦めたんですわ」
ブッ!?
ここにきて、衝撃の爆弾発言である。
「だってナーガとアーブ様のやり取りが尊いんですもの。応援しなくては損というものですわ」
何が損なのか。今すぐにでも問い質したい。
「ちょっと御二人共!? 何の話をしているんですかっ!? というか、なんて話をしてるんですか!!」
ナーガに怒られてしまった。
「まあいいじゃん」
《……解析が終了しました。結果をお伝えします》
なんか、『案内者』さんも呆れてないかな? 気のせいだな。
それで、解析結果は?
《解。対象はやはり封印の
何っ!? それは、本当なのか?
《是。当たり前です》
誇らしげだな……ま、その解析結果が本当ならスゴい発見だろうし、誇ってもいいと思うよ。でもさ、やっぱり自我あるよね?
答えはなかった。まぁ……いいか。
「……そうか、中身は
解析の結果わかったのは、この内部に封印されている巨人は少し特殊である事。なんと、超高性能な『魔法無効』を有しており、しかも内包する
「よし、封印を──」
「待った待った、待ってください、アーブ様!」
「ん? 何だよ、ナーガ?」
「マズイですって。封印されてるって事は、少なくとも
「ああ……」
確かに、一理あるな。ただし──
「さっきのレイヴンじゃないが……俺は好奇心が強いんでね。この〝
なんて滅茶苦茶な──と、ナーガとレイヴンが呟いた。
「まぁ、任せてみるのも手ですわよ、ナーガ。こうなったアーブ様は、もう止まらないでしょうし」
あ、呆れられている……。俺ってそこまで問題行動ばっかだったか?
ま、いいや。
「さて……封印を解いてやろう」
そう言って、俺は
霊子というのは、魔素よりも小さい粒子物質で、魔素を構成するのも霊子だ。霊子という粒子は特殊な波動を放ち、闇色の光を放つ。「身体」という要素の最大の器とも言える〝
ま、そんな豆知識はいいとしてだ。そろそろ封印が解け──
「わぁ……」
「美しいですわね……」
そう、美しいのだ。一見、中性的にも見える容貌の大男が、そこにいた。群青色の短い髪に、俺とは質の違う金色の瞳を持っている。顔立ちは女性寄りだろうか? いや、どちらとも言えない。男にも見えるし、女にも……。
そして、問題はそこではない。俺の頭を、久しぶりの頭痛が襲う。間は二日も空いていないが、久しぶりに感じられるこの激痛である。思い出すのはやはり、あの夢……。
その巨人は、薄っすらと
「……えっと?」
「…………」
「あの……」
「…………」
何も喋らねえ!!
「何か喋れよ!!」
「……スマン。まだ、状況に追いつけない……。貴方は……誰なんだ?」
口調までどっち付かずだ。
「俺はヴェルアーブ。お前は?」
「……オレに、名はない」
ま、普通はそうだわな。
「端的に説明すると、お前の封印を解いたのは俺だ。ま、だから何だって話だろうがな」
「そんな事はない。オレは……名もなき
まぁ、予想はしていた。これだけ強力な存在なら、名前はありそうとも思ったが……そんな上手くは行かんな。
ん、あれ? ちょっと待てよ?〝
前例は俺とレイヴンだ。資質的に強力な存在なのに、名前が無いせいで存在が世界に定着せず、力も存在も中途半端な状態。名前を得る事で完全に定着し、強力な存在に進化するのだ。俺も生まれたての頃は〝
「とりあえず、外出ようぜ。バレないように、その漏れ出てる
「……わかった」
意志薄弱、という感じだろうか。口調も男女でどっちつかずだし。そういえば、
言った通りに、巨人は漏れ出ていた
◇◇◇
出た、までは良かったのだが……問題発生だ。
「……お主、何者だ」
目の前に立つのは、俺の後ろに立つ巨人とよく似た巨人だ。蒼髪に金色の瞳……本当によく似ている。
「え、えっと……」
「お主の後ろにいる奴は……どういう事かのう? 確かに、この迷宮に封印していた筈だが」
凄い睨まれてる……。
「……やめてくれ、ダグリュール。この方は、オレを助けてくれた者だ……」
「それが問題なんだと言っているんだよ。そもそも、お前は危険なのだ。だから封じ込めておったというのに……どうして、聖霊力による封印が解けたのかのう? お主の仕業なのは割れておるから、さっさと話すがいい」
凄い……睨まれてる……。というか、めっちゃ怖い。
《解。個体名:ダグリュールによる『魔王覇気』の影響を確認しました》
やっぱり……ってか、コイツがダグリュールか。
「なぁ、魔王ダグリュールとお前、どういう関係なの?」
「……さあ……オレも、よく覚えていない……」
使えね!
「……ふむん。お主が封印を解いた事は、認めるのだな」
「あ、ああ。それが──」
振り向く前に、『万能感知』で気付いた。俺の後頭部に、魔王ダグリュールの巨拳が迫る。この速度は……避けられな──
「ふんっ!!」
「……っ!!」
俺の背後の巨人が俺を後ろに投げ飛ばし、魔王ダグリュールの拳を受け止めた。
「……やめてくれと、言った筈だ」
「チィ、貴様が相手では、流石のワシでも厳しいというものよな。ただ、そこの大罪人を許すわけにはいかぬよな」
そう言って、ダグリュールが俺を睨む。
「貴様は、もう眠っておれ」
そう言うと──巨人が、地に伏せた。
何が起こってんだ!?
《解。特定の対象への言葉に強制力をもたせる、〝呪言〟のようなものと推測》
また厄介な!
「チッ、なんて奴だ、魔王ダグリュール。俺の友達になったかもしれない奴を……」
ほぼ口からでまかせだ。
「ほう、アヤツと友達、とな? 面白い事を言うものだ。アヤツは大災であり、暴力の化身のような存在なのだぞ? お主には、自身を解放してもらった恩から従順かもしれぬが、な。ワシにとっては目の上のたんこぶなのだよ」
目の上のたんこぶって……酷い言われ様だな。
「それを解放したのがお主よ。まったく……何という事を仕出かしたのだ、お主は」
はぁーーーーやれやれ──と、ダグリュールはため息を吐きながらある程度の説明を締め括った。
「それなら、どうする? 俺を殺すか?」
「当たり前だな。それに……お主を放っておくのは、良くない気もするしのう」
そう、か。それなら仕方ない。
「……ナーガ、レイヴン。あの巨人を連れて、
「させると思っておるのか? それに……
「それが動いてるんだな。ついでに、そこの主は俺だ」
「ふんッ、本当につまらぬ嘘だ」
「嘘だと思うのか。それなら、これを見てもまだ嘘だと言えるかな?」
そう言って、俺は『格納異空間』から
「まさかッ!? まさか、本当に……!?」
「ずっとそう言ってるじゃねーか。というか、
そうなのだ。俺は何も疑問に思わなかったが……今現在まで、この世界で〝
「むう……つまり、嘘ではないのだな。それにお主……何か、普通の人間とは違う。それも……〝魔王〟や〝勇者〟といった
「流石に気付くか……
「ふん。これでも、伊達に永遠を生きておらんからな。さしあたり……〝竜種〟といった所か。それも……
あの場所? 俺が生まれた、あの洞窟の事かな?
「そうそう。俺は〝
「ワシの事は知っておろう。〝
「〝
「その通りよ。それで……どうしたものかのう。アヤツが解き放たれてしまったとあらば、ワシも手加減が出来なくなってしまうからのう。お主やお主の従者と、全力で戦わねばなるまい」
面倒だな、諦めてはくれないのか?
「……ダグリュール」
「おま、何してんだ!? 狙われてんのはお前なんだから、早く逃げ──」
「……一度は、逃げたさ。ただ、恩人様を、置いて逃げるわけにはいかない。まして……相手が、ダグリュールならば、尚更」
コイツ……。頼もしいね。
ただ、どうしたものか。
「なぁ、魔王ダグリュール。ここは、見逃してもらえないかな?」
ま、ダメ元だがな。応じる筈がないので、少しでも
「ふむん。無理な相談よな。それとも、お主にソヤツの事が制御出来るとでも? ソヤツは、ワシにとっても人類にとっても、手に負えぬ大厄災なのだぞ? お主には忠実とは言えども、その力がいつ、人類やワシらに牙を剥くともわからぬしのう」
おっと、意外にも理性的な回答を頂けたぞ。これはもしや……。
「俺が制御してみせるさ。それに、コイツが大厄災と化した
「ふむん? 申してみよ」
食いついた!
「ズバリ、〝
「ふむん。名とな?」
「そう。俺も、俺の従者の一人も、名前がない事によってこの世界に定着出来ず、中途半端に強力な力が暴走していた──または、暴走寸前だった──んだよ。だからこそ、コイツもそうなんじゃないかなって」
「むう……それが本当だと、立証出来ているのだな?」
うっ……それを言われると、俺はもう──
《是。立証出来ています。個体名:レイヴンの事例については、既に解析済みです》
おお!! 良くやってくれたよ『案内者』さん!!
「出来ている。だからこそ、コイツにも〝名前〟があれば、この世界に定着して、自我もハッキリして力も制御出来ると考えたのさ」
「ふむん……しかし、どうするのだ? 何せ──」
「そうだな……巨人だし、〝ティターン〟とかどうかな?」
「何ッ!? おい、お主! 待たんか──」
ダグリュールの声は届かなかった。声をかけた時には、もう既に〝名付け〟の儀式は終了しており──
「うわっ……お、俺の魔素が……」
名付けに伴って、ヴェルアーブの内包する魔素の八割が消し飛んだ。幸い、時間経過によって快復するだろうが……しかし、一時的に見れば大ダメージなのは確かである。
しかし、その消費魔素量に比例して──
「──お、おう……」
その巨人──ティターンを、七色に輝く繭が包みこんだ。
巨人に、変化が到来する。
どっちつかずだった自我は、真に
同時に、特殊性の権化だった自身という存在も、進化を遂げる。
種族は──この世界で初めて誕生する、〝
その力は、存在値にして五千万を超える。ヴェルアーブまでとは行かずとも、この世界における頂上存在へと至ったのだ。
形成された
七色の繭が弾け飛ぶ。同時に、内部から姿を表したのは──短い、燃えるような蒼髪に、俺とは毛色の違う金色の瞳を持った巨神だった。
「──オレはティターン。偉大なるヴェルアーブ様に仕える者」
恭しく、そう奏上した。
「……何が起こっているというのだ……? ソヤツのエネルギーが……沈静化した、だと? 一体何が起こっているというのだァ!?」
ダグリュールは憤慨している。同時に、あれだけ苦労して封印したのに──という、怨嗟にも似た呟きを零した。
「…………ほ、ほらな? 言ったろ、大丈夫だって」
ちょっぴり予想外過ぎる変化だったが、俺は『予想通りでしたけど?』という表情を崩さずに告げる。
《告。個体名:ティターンの解析が終了しました。結果を報告します》
え、
《是。個体名:ティターンは『解析』を受け入れ、自ら情報を提示しました》
ふぅん。それじゃあ、早く見せてくれよ。
そう言うと、脳内に情報が表示された。
名前:ティターン
種族:
加護:水鏡の加護
称号:〝大厄災〟、〝暴力の化身〟
能力:固有能力『性質変化・激烈波動・
魔法無効』
耐性:物理攻撃無効、精神攻撃無効、
状態異常無効、自然影響無効、
聖魔攻撃耐性
とまあ、圧巻だ。
性質変化は、俺の固有能力を〝名付け〟と共に一部継承されたものだ。名の通り、軟化・硬化含む自由な身体変質が可能。
激烈波動は、破壊そのものを司るとも言える波動の力だ。暴走寸前だった過剰なエネルギーが変化したのがこの権能であり、この力には『万物破壊』等の破壊系権能も含まれている。
魔法無効は、上位の
筆舌に尽くし難い程に、強力に進化したものだ……。ダグリュールなんて、黙り込んでわなわなと震えている。
「──待て、ちょっと待てぇい!! どういう事だ!? お主は一体、何をした!?」
「何って、名付けだけど──」
「それが問題だと言っておるのだ!! お主は命知らずか!?」
──それからこんこんと、一時的とはいえ敵だったダグリュールに説教された。「何を考えて、こんな馬鹿げた事をしたのか」だの、「どうしてそんな狂った対処法を思いついたのか」だの……失礼な魔王である。
「大丈夫だって。言った通り、ちゃんと制御するからさ」
「心配でならんわ。アヤツ──ティターンはな、ワシの手にも負えぬ大厄災なのだぞ? だから手間をかけて封印しておったのに、お主という奴は……」
本当に大きなため息を吐いて、説教を締め括った。
「……ただ、こうなったからには仕方あるまい。本当に頼むぞ、ヴェルアーブ……」
「任せとけって」
俺は気軽に応じたが、ダグリュールはずっと俺とティターンを交互に睨んでいた。
「まぁ良い。これも何かの縁であるし、いつか我が〝
「お、おう。ありがとう……?」
リムル、ミリム、ダグリュール……色んな縁が繋がるな、魔王達と。
こうして……紆余曲折あって、予知夢通りの新しい仲間が加わったのだった。
ようやく書き終わりました……。かなり難儀しましたよ。