転生したら竜だった件   作:暁悠

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第十八話 死毒の脅威

 その後、ダグリュールは〝聖虚(せいきょ)〟ダマルガニアへと帰っていった。

 ティターンを追ってナーガとレイヴンも戻ってきていたようだ。というか、本来の目的を忘れている。

「そういえば、ニーズヘッグ探しの最中だったよな……」

「色々あり過ぎて、忘れてましたね……。でも、アーブ様が寄り道しなければ、こんな事にはならなかった気がしますけど」

 うっ……。

「ま、まあ、いいじゃん! 戦力増強にもなったんだし!」

「もういいですよ……」

 ナーガに呆れられると、結構クるものがあるよなぁ……。そう、前世で──彩花さんに無視された時と同じ感じ。あれは辛いよ、本当に。

「あ、はは……。それで──」

 

《警告! 直ちに伏せてください──ッ!!》

 

 っ!?

『案内者』に指示されるのと、寸分狂わず、ほぼ同じタイミングで俺は伏せ、同時に三人を『次元天蓋』で覆った。直後、俺の頭上を紫色の液体が通る。それは地面に落ちると……死せる砂の大地をみるみる溶かしていく。

「毒液!? これは──そうか、()()()()()()()んですね」

 ナーガが呟く。その視線の先には──一対二枚の大翼を広げる、紫色の大蛇の姿が。その瞳は、敵意と害意に染まっており……一目で〝魔化〟しているとわかった。

「混合拳気『火緋(ヒヒ)(イロ)』──!!」

 緋色の拳気(オーラ)を、ナーガが纏う。俺は、召喚していた天頂の聖剣(チャンピオンソード)に魔力を注ぎ、天頂の鎧を纏った。

「ナーガ、二人に〝輝石〟を」

「はい」

 俺は、石碑の欠片を〝輝石〟と呼んでいるのだ。渡した理由は……言わずともわかるだろう。二人を逃がすためだ。

 ティターンは、まだ戦える状態じゃないだろう。自我はハッキリしたとはいえ、まだ自分の力は探り探りだろうと思われた。

 レイヴンは、まず相性が悪いだろう。あの毒液、かなりの速度だった。ナーガと俺なら問題なく回避可能だろうが、レイヴンには無理だと思われる。〝深い夜闇(ディープナイト)〟発動中は、そもそも全ての攻撃が当たらないし、速度も光速をゆうに超えるので回避は可能だろうが、時間制限ありな上に連発不可能。エネルギー切れの所を狙われたら敗北必至だ。

 二人ともそれをわかっているのか、素直に天空浮遊城(ヘブンホールド)に戻った。

 俺とナーガが構える。同時に、その大蛇──大翼毒蛇(ニーズヘッグ)も、俺達に向けて威嚇した。

「シャアアア──ッ!!」

 咆哮と共に毒液の球を俺達に飛ばす。その軌道こそ、物理法則に従っているため読みやすいが、速い。回避には相当の速度を必要とするし、何より当たったら一発でお陀仏だった。

 

《是。対象の毒液の毒性は、十分に〝死毒〟に価するモノです。当たれば精神諸共、魂が蝕まれる事でしょう。結界での防御……不可能。毒性の無効化……不可能。回避……可能。回避に専念してください》

 

 だそうだ。なんとも、絶望感を醸し出す解析結果である。

「ナーガ、アイツの毒液は全て避けろ。当たったら魂まで蝕まれて死ぬ」

「了解しました。やはりですか……ずっと悪寒がするんですよね」

 ナーガは十分に精神を研ぎ澄ませて、全ての毒液を回避している。俺は速度が足りず、認識してからの回避行動では遅かったので、着弾地点を予測、そこを全て避けるように『転移』を幾重にも重ねるという荒業に頼らざるを得ない。コチラには『案内者』さんがいるとはいえ、その演算能力にも限りがあるだろう。ジリ貧か……。

「──〝紅蓮(フレイム)紺碧(アクア)翡翠(ウィンド)琥珀(グランド)〟──混合属性・四重属性破斬(アトリビュートブレード)

 基本の自然四属性を混合させた魔法の剣気(オーラ)を、天頂の聖剣(チャンピオンソード)に纏わせる。

 ちなみに、戦闘では『案内者』さんは使えない。着弾予測と転移点の推測、実行に『並列演算』の並行演算領域を割いているので、戦闘に回せないのだ。

 つまり、俺の地頭の戦闘センスで行くしかないってわけ。無理ゲーにも思えるが……まあ、何とかなるだろう。

「やりづらいですね。()彩千(さいせん)柳楊(やなぎ)が使えませんから……」

 確かに。通常攻撃なら、〝()彩千(さいせん)柳楊(やなぎ)〟で受け流し、弾く事が出来ただろうな。今回は、相手の毒液が厄介過ぎる。

 俺は属性剣気を、ニーズヘッグに飛ばす。が、回避された。

「チッ、どうしてこうも、幻獣ってのは厄介なのが多いんだ」

 そういえば、フレースヴェルグ──ファードヴェルにも回避されたっけ。

 ん、ファードヴェル? あっ、そうだ!! すっかり忘れてたが、その手があったか!!

『ファードヴェル!!』

『出撃ですわね』

 呼びかけてから一秒もせずに、俺の目の前に美しき双頭の鷲が顕現した。澄んだ緋色の両翼を広げ、孔雀の尾が風に(なび)いている。その瞳は、翡翠の如く。

 間違いなく、双頭の炎鷲(フレースヴェルグ)──ファードヴェルだった。

 俺がやろうとしている事は、もうわかっただろうか? 俺はファードヴェルに手を(かざ)し──その姿を、『幻獣核化』によって、小さな赤い宝珠(オーブ)──双頭の炎鷲(フレースヴェルグ)幻珠(ゲンジュ)に変容させた。それを天頂の聖剣(チャンピオンソード)に嵌め込み──

「お、おお!」

 そして、天頂の鎧も変容する。右胸から右腕、右手の甲にかけての鎧が、双頭の炎鷲(フレースヴェルグ)を思わせる鎧に変容したのだ。鎧の一部分にとは言われていたが、本当に一部分のみである。

「ヴェルアーブ様、それは!?」

「こんな感じになるんだ。よぉし……」

 なぜか勝てる気がしてきたぞ。

 俺は、飛んできた毒液に向けて──

「──獄炎破砕弾(インフェルノショット)!!」

 獄炎吐息(インフェルノブレス)を改良した、万物を融解させ無に帰す獄炎の弾丸を放ち、見事に相殺した。

「えっ、ヴェルアーブ様!? 凄い……」

「やっぱり幻獣の攻撃は特効入るわけか! よしよし、これはイケる──」

 そう思った矢先に。大翼毒蛇(ニーズヘッグ)が放つ毒液の勢いが増した。

「ちょっとヴェルアーブ様!?」

「おおっと! こ、これは計算外……」

 これは……ちと──じゃなくて、結構……かなりマズイかも……。

「なっ、ナーガ!!」

 毒液がナーガに迫っていた。もう、考える必要はない。ナーガに当たるより早くナーガの隣に『転移』し、ナーガを抱きかかえる形で転がる。その先は着弾地点ではなかったので、転がった先で当たる事はなかったにしろ──

「くっ……ナーガ、早く回避を──」

 今度は、俺に迫っていた。どうしたものか……詰みかな? 状況を察して、ディゴルネ辺りでも来てくれれば良かったが……そんな援軍は見込めないか。

 そんな、絶望しかけた、その時。

 

「グガァァァァァァァァァァウ──ッ!!」

 

 龍と獅子の咆哮が混ざったような、耳をつんざく大咆哮が響き渡る。

「なっ!?」

「一体、何が……」

 俺達に迫っていた毒液の球が弾け、俺達に当たらないギリギリで地面に落ちたのだ。

『一体何が起きたんじゃ!!』

 天空浮遊城(ヘブンホールド)から救助に来てくれたのだろう。犬形態のディゴルネが必死の形相で駆けてきた。

『危なかったですね、我が主。ですが、この咆哮(サケビ)は──』

『何ッ!? ま、まさか──!?』

 俺達の目の前には、巨大な獣が佇んでいた。

 龍の頭に、獅子の体、生きているようにうねる細い毒蛇の尾を持つ──大体七メートルくらいの、巨大な獣が。

 俺の頭に激痛が走る。本日二度目だ。ズキズキと痛む中で──やはり、あの夢を思い出していた。あの光景の中でも、あの場の王者のように佇んでいた獣だ。威厳に満ち溢れ、他を圧倒する覇気を有する獣だった。

 それが、今、俺達の目の前にいるのである。

 そうか、コイツが──

嵌合獅子(キマイラ)じゃと!? まさか、自力で〝魔化〟状態から脱したというのか──ッ!?』

 ディゴルネの絶叫とも言える驚愕の声が、その場に『思念』として響き渡る。

 そうだ、そうだった。幻獣は全て、〝魔化〟して自我を失っていると聞いていたのに──キマイラは、自力で脱したのか?

『待たせて済まない、天空浮遊城(ヘブンホールド)の新たな主にして、我が同胞の主』

「え、え?」

『驚かせたか。オレは──』

『話してる場合ですか。来ますよ』

 鎧と一体化しているファードヴェルからの警告がキマイラにも届いたのか、すぐさま戦闘態勢に移行している。

 何というか、職人気質というか、格好いいな。

「キシャアアアア───ッ!?」

大翼毒蛇(ニーズヘッグ)め。このような状態から未だ脱せないとは……情けないものだ』

 いや。状況的に、脱する事が出来たキマイラさんがオカシイんじゃ──?

 そう疑問に思ったが、その場では聞かない事にした。そんな事してる場合じゃないしね。

獄炎破砕弾(インフェルノショット)!!」

「グガァァァァァァァァ──ッ!!」

 俺は先程通り。嵌合獅子(キマイラ)は、声震砲(ボイスカノン)とも呼べる、発声──咆哮による震動を利用した攻撃で毒液を散らしていく。というか、毒液を蒸発させてる──? 凄まじいな、コイツも……。

『キマイラには、振動を操作する力がありますからね。その能力は強力無比で、わたくし共は何度も負けていたのですわ』

『おいおい、負けたのかよ? って、キマイラが強過ぎるのか……。納得だな』

『お恥ずかしい事に』

 そう言って微笑(わら)った──気がした。実際の所はわからない。

「チッ、厄介だな!」

『オレも、ニーズヘッグ相手には苦戦しました』

 キマイラとも、もう阿吽の呼吸である。

 そして。

 

「キシャアアアアア────ッ」

 

 大咆哮と共に、ニーズヘッグの口から何かが放たれた。毒液の塊だったが……ここまで来ると、もうビームみたいだ。

 俺はこれを、〝毒性爆撃砲(トキシックブラスト)〟と名付けた。いいネーミングセンスなんだけどね。その内容は、恐怖すら湧き出る程の凶悪度だ。それが着弾した場所は爆発し、死せる砂の地表が、溶けて抉れていた。

 なんて恐ろしい──が、弱点もあるみたいだな。撃った後は、暫く毒液が出せないらしい。溜め込んだ毒液を、全て纏めてぶっ放すのが、この技の全容のようだ。

 ならば対処のしようはある──

「行くぞ!」

『心得ました』

 それは一瞬の出来事だ。キマイラが飛び上がり、咆哮による音波振動でニーズヘッグの動きを止める。同時に、俺は天頂の聖剣(チャンピオンソード)に聖なる光を纏わせるが……それでも、毒液の球が放たれた。それを──

「──拳気『瑠璃(ルリ)』!!」

(セキ)(ショウ)』や『火緋(ヒヒ)(イロ)』とは真逆の──蒼い拳気を、ナーガは拳に纏う。その拳気は混ざり合わない。

「──()彩華(さいはな)吹雪(ふぶき)瑠璃(るり)

 蒼い拳気で、全ての毒液の球を包み込んだ上でその拳気を操作する事によって、全ての毒液を散らす。かなりの負担があるようで、第二波には対応出来ない様子だった。

 しかし、問題はない。

解放の剣閃(リベレーション)

 失敗──つまり、抵抗(レジスト)されると駄目なので、一撃で。大翼毒蛇(ニーズヘッグ)に植え付けられていた邪気を(はら)い──大翼毒蛇(ニーズヘッグ)を見事に〝浄化〟し、解放したのだった。

 

   ◇◇◇

 

 全てを終えた俺達は、無事に天空浮遊城(ヘブンホールド)へと戻ってきた。無事……とは言えないか。ナーガは〝()彩華(さいはな)吹雪(ふぶき)瑠璃(るり)〟を使った事による精神的疲労が凄い事になっているし、俺も危うかった。キマイラが来てくれなければ、俺はニーズヘッグの死毒に侵されて死んでいただろう。

「お疲れ様、ナーガ」

 そう言って、俺はいつも通りにナーガの頭を撫でた。本当に、よく頑張ってくれたと思う。散らした拳気(オーラ)で毒液の球を包み、混ざらないようにして操作して散らす……なんて、もの凄い演算能力を必要とするだろうし。俺は『案内者』っていうズルがあるから出来そうだが、それを自力でやってのけたナーガは本当に凄いと思う。

「ヴェルアーブ様……」

 だいぶ疲れているみたいだな……。

「ちょっと寝台まで運んでくるよ」

『うむ、かなり疲れているようじゃからの。良く労ってやるのじゃぞ。キマイラ達の事は、(わらわ)に任せよ』

「ああ」

 二言返事で了解した俺は、ナーガを俺の個室にある寝台まで運ぶのだった。




 少し短めかな……? ま、いいでしょう。最低ラインの二千五百文字は超えてるんですしお寿司……。
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