転生したら竜だった件   作:暁悠

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第二十一話 よろこびのこもりうた

 月面。その中の、ある場所。

「……お、おお……」

 そこには、巨大な蛇のようなものが佇んでいた。

『永い間……本当に永い間、ヤツを封じ込めてくれたんじゃな。感謝する……そして、(わらわ)の中で休むがいい。後は(わらわ)に任せるのじゃ……』

 その蛇に、ディゴルネが語りかける。話の内容からして、コレがグリイドを封じ込めていた〝ディゴルネの半身〟だろう。

 次の瞬間、ディゴルネの半身がディゴルネに吸い込まれていった。光の粒子となって、ディゴルネに注がれていく。

 

《告。個体名:ディゴルネの細胞量が急激に上昇しています》

 

 ふむ。どんな変化が訪れるか──って、あれ?

「なんで戻っちまうんだ?」

『極力、消耗は避けたい』

「そうか」

『……一旦天空浮遊城(ヘブンホールド)に戻れ。ヤツが解き放たれる前に』

 一刻を争う事態なので、特に反抗もせず、速やかに帰った。

 

『さて、重々承知しているとは思うがな。この戦いは熾烈を極める。幻獣達も総動員する予定ではあるが……勝てる確証はない。ただし、今回は幻獣戦とは勝手が違う。別に天頂の力しか通用しないなどということはないから、ナーガ、レイヴン、ティターンの三名も出撃してもらう予定じゃ。本当に総力戦な上、勝てる確証はない。……それでも、ついてきてくれるかのう?』

 ディゴルネからしてみれば、誠心誠意の依頼なのだ。受けない理由もない。

「当たり前だ。ってか、俺が出る時点で三人とも出るだろ」

「仰せのままに、ヴェルアーブ様」

「全ては貴方様の御心のままに」

「どこまでもついていく所存……」

 ほらな。幻獣達も同じテンションだろうから、聞かなくたってわかる。というか、『幻獣之王(モナーク)』を通して感じる。

『……それは、重畳(ちょうじょう)。では頼んだぞ。先手は、全力の(わらわ)とヴェルアーブで行く。最初に少数最高戦力で叩いて、それでも駄目だった場合は総員出撃じゃ』

「いいね、ゴリ押し! 燃えてきたな」

「あまり無茶し過ぎないでくださいよ、ヴェルアーブ様。そうやっていつも失敗するんですから」

「あ、あはは……」

 この光景で、幻獣達の間にも微笑ましい笑いが起こる。それは俺とナーガの三文芝居だったのだが、それがバレる事はなかったようだ。

 と、その時。

 

『ヒャハハハハっ♪ ヒャハハハハハハハハハハッ──っ♪』

 

 子供の笑い声のような『思念』が、基軸世界全体に響き渡った。

「おいでなすったな」

『来るぞ。全員気を引き締めるのじゃ! ヴェルアーブ!』

「あいよ! 待ってろ、ナーガ。俺とディゴルネで、アイツを止めてみせる!」

 指示を出されるまでもない。俺はディゴルネを優しく掴んでから、天空浮遊城(ヘブンホールド)を覆う『結界』から飛び出した。

 向かう先は、太陽。普通なら、その強大過ぎる熱エネルギーで塵になるどころか消滅していただろう。だが、俺には数多の『多重結界』と『自然影響無効』の能力があるのだ。大して問題はない。

 そして……見えてきた太陽の一部が軽く爆発し、内部からナニカが出てきた。

 間違いなく、グリイドだ。しかし、〝ナニカ〟という表現に誇張はない。グリイドは、不可思議な挙動をしながら、俺に向かって一直線に進んでいた。光速すら超える、超脅威的な速度で。

 不可思議な挙動。ゆらゆらと揺らめいている、というのが正しいだろうか。相も変わらず気色の悪い笑い声のような『思念』を全力全開で放ちながら、コチラに向かってきている。

『実体を捉えすぎるなよ! アヤツは、無なんじゃ。無を、お主の魂が無理をして視覚化しているだけ。あれはいわば幻視じゃ』

 また難しい理論を……。

『攻撃が通るのは、胸部の(コア)だけだと思え!』

「そこなら通じるんだな。わかった」

『同時に、あそこは〝無〟への入口でもある。十分に気をつけるがいい』

「ああ。お前こそ、もう全力解放行けるな?」

『うむ。もう力も落ち着いた』

 話しながらも俺達とグリイドの間は縮まり──

「ほい!」

『乱暴に扱うでないわ!』

 ディゴルネを投げた。と同時に、即座に自身の肉体を生体神格化(アポテオーシス)させていく。天頂の聖剣(チャンピオンソード)と天頂の鎧も纏い、最初から全力全開だ。神気と竜気が混ざったような覇気(オーラ)を帯びて、俺はグリイドと正面衝突する。

 

  ─────────

 

 起こったのは、次元をも揺るがす大爆発だった。周囲の星の軌道をも変えてしまいそうな程に強大な、力の奔流のぶつかり合い。それは、竜気を纏ったヴェルアーブとグリイドの正面衝突による爆発だった。

『チッ、やはり強大じゃな!!』

 どちらに向けた言葉かはわからない。しかし、それはどうでもいい事だ。ディゴルネは地上に散り散りとなっていた細胞達をスキルで『転移』で集結させ、一気に取り込んだ。かつてのグリイドとの戦いで消失していた三十%程の細胞も、『無限再生』によって元通りになった。

『さあ、(わらわ)の全力がどこまで通用するか──試させてもらうぞ!!』

 気合いは十分。ディゴルネは、有り余るエネルギーを巧みに操作して、グリイドに襲いかかるのだった。

 

  ─────────

 

 チッ、硬いな。エネルギーを纏って激突したくらいじゃ屁でもないってか?

『ヒャハハハハハっ』

「うるせーんだよ、笑い声が!〝紅蓮(フレイム)紺碧(アクア)翡翠(ウィンド)琥珀(グランド)〟……四重。加えて、〝空間(スペース)聖光(ホーリィ)闇魔(デモン)〟……七重属性──七彩属性覇剣(アトリビュートブレード)

 基本を含む七属性を全て統合した、現時点、俺の素の力ではかなり高威力の技だ。全力ならば、威力だけで次元障壁を叩き割れる程である。

 しかし──

『ヒャハッ♪ ヒャハハハハハッ♪』

「チクショウ、なんで当たらない!?」

 そう。グリイドには、全ての攻撃が通用しなかった。

『退け、ヴェルアーブッ!』

「んなっ!?」

 ディゴルネ……だよな? あの、緑と黒の大型犬形態が嘘のように格好いい……巨人のような形態へと変化していた。ただし、色彩は変わっていない。緑と黒が主色なのは、同じだった。

『──集約細胞波濤覇(クラスターセル・シュトローム)ッ!!』

 細胞の一部から抽出したエネルギーを固め、ビームとして放出するもののようだ。それは、一撃でも空間を歪める威力であり──なんと、グリイドが回避できなかったのだ。モロに受けていたが……これが、理論や(ことわり)を超えた超攻撃か。

『お主の攻撃──剣は、ちと単調すぎる! もっと、こういうものでなければ相手にならんぞ!』

「はいよ! ──〝天焦がす破滅の光(フォトンアナイアレーション)〟──!!」

 手加減はなしだ。『破滅の光』としての特性・特徴も、光という性質も、何もかもをそのまままとめて、光線として放射する技。コレも周囲の空間を歪ませながら、その空間に『破滅の光』として侵食していく技なので、十分グリイドにも通用すると思われた。実際に、グリイドはこの技をモロに受けている。受けている最中は行動できないようで、その場に留まっていた。ただし、俺の放つ『破滅の光』のエネルギーは徐々に吸収されているようで、このままではジリ貧だ。そこで。

『よくその場に留めた、ヴェルアーブよッ! ならば(わらわ)も──〝断罪滅光爆覇(パニッシュメント・ノヴァ)〟!!』

 胸部中央にあった大きな口のようなものが開き、ディゴルネの全身全霊のエネルギーが集約されていく。それが、俺の『破滅の光』と同等の──名付けるとすれば『断罪の光』に変換され、光線として撃ち出された。

 それを受けたグリイド。ヤツを中心に、その場に、他次元すらも揺るがす、(てん)()(かい)(びゃく)並みに強大な超常現象が巻き起こったのだった。

 

   ◇◇◇

 

『──やったかッ!?』

 ディゴルネさんや、それはフラグというものでね。それ言ったら大抵復活してくるんだよね。

 ──なんて冗談が考えられるのは、自分も確かに〝殺った〟と思ったからだ。

 しかし、その認識は甘かった。

 

『──ヒャッハッハッハッハッ♪ ヒャハハハハハハハハハハハッ────っ♪』

 

 グリイドは生きていた。いや、グリイドに〝生きている〟なんて言葉は不似合いだな。なんて表現すればいいか…………そうだな、〝塞がらなかった〟かな。

 より邪悪な笑い声を漏らしながら、グリイドは──

『──ッ!?』

 エネルギーの極大消耗で満身創痍となっていたディゴルネの腕を、理論不明の光線で消滅させたのだ。

『まっ、まさか──』

『ヒャハハッ♪』

 空間の壁をスルリと抜けて、グリイドはディゴルネの眼前に迫った。そして──

『うぐっ……うぐあああああっ!!』

 ゼロ距離で、あの理論不明の光線をディゴルネにぶつけたのだ。

「ディゴルネ──ッ!!」

 俺はすぐさま『転移』して、傷ついたディゴルネの(コア)を宇宙空間から拾い上げた。

「おい、ディゴルネ? ディゴルネ、おい!!」

 返事はなかった。

 クソ。クソ、クソ、クソ! ちくしょう!! コイツ、コイツ──ッ!!

 俺の心は怒りに染まる。ただしそれでも、俺の心の奥底は呆れる程冷静だ。

『……怒るな、ヴェルアーブ』

 ようやく目覚めたディゴルネは、一瞬で状況を把握した。そして、俺に適切な言葉を投げかける。

「……ああ、わかってる。お前は、早く天空浮遊城(ヘブンホールド)に戻れ」

『……ああ。……無茶を、するでないぞ』

「わかってるっての」

 それだけ言い残して、ディゴルネの(コア)はその場から消えた。

 それから、幾重にも攻防を重ねた。しかし、全ての攻撃は外れ、食らう攻撃は全てが大ダメージに繋がる。

 そんな絶望的な戦いを強いられていた、その時だった。

 

《……主様(マスター)

 

『あん? こんな時に、どうしたってんだよ』

 

《──ワタシ、私は……主様(マスター)と共に戦えた事を、光栄に思います》

 

『は?』

 それは、自我の発芽。主の危機的状況に、『案内者』から伸びる〝可能性〟が、一気に開花した瞬間だった。覚醒した『案内者』ならば、あるいは──。

 だが、遅すぎたのだ。

『……これが最後みたいに言うなよ、相棒。今できること……やらなくちゃいけないことがある。それだけ、考えるんだよ』

 

《……お強くなられましたね、本当に》

 

『全てはお前のお陰だ。まだ、やるべき事がある。行くぞ、相棒!』

 

《喜んで、主様(マスター)

 

 俺は、天頂の聖剣(チャンピオンソード)に、ありったけのエネルギーを込める。次元が割れて世界が壊れるとか、気にしている場合じゃない。俺の全てを懸けて、今ここで、グリイドを止めなければならない。

 狙う場所は一つ。グリイドの胸部中央にある、禍々しくも神々しい(コア)。そこに、最大最強の一撃をぶち込む以外に、方法はない。

 天頂の聖剣(チャンピオンソード)由来のエネルギーや、周囲の物質や魔素を『破滅の光』に変換し、それをエネルギーに転用したもの。それら、使えるもの全てを使う。

 攻防を繰り返す内に、いつの間にか天空浮遊城(ヘブンホールド)の近くへと追い詰められていた。

 ──ゴメンな、みんな。あんな見栄張って、みんなと一緒にいたいって言ったけど……守れそうにない。それに、コイツに有効打を与えるには、これしかないと思ったんだ。

 俺は、眩い七色の光を放つ天頂の聖剣(チャンピオンソード)を逆手に持って、自身の肉体も『破滅の光』と化して、光速すら超えた超常の速度でグリイドに迫る。流石のグリイドも、この速度には反応できないようだった。

「──〝天頂聖剣閃覇(チャンピオンスラッシャー)〟────ッ!!」

 俺はそう叫びながら、その聖剣をグリイドの核に突き立てる。そのまま、溢れ出る力を全て込めて、光速の推進力や慣性も全て利用して、グリイドを貫こうとする。

 安直で、自分的にもダサいネーミングだと思う。だが、最期だからいいのだ。

「ううううううっああああああああああああああああっ!!」

 果てしない絶叫を上げながら、俺は走馬灯を視る。

 

 ナーガの笑顔。

 レイヴンの微笑み。

 ティターンの困惑したような、なんとも言えない表情。

 尊大でツンデレなディゴルネ。

 個性豊かな、幻獣達。

 過ごした時間は数年で、前世に比べてもまだ短い方だ。しかしそれでも、俺達の間にはれっきとした〝友情〟や〝愛〟があった。

 ──ああ、本当にごめんよ、ナーガ。出来るなら、一緒にいてあげたかった──

 

 そんな事を思いながら、俺の意識は無に飲まれていく。

 

 ──歌が、聞こえる。

 

『ら〜らららら〜らららら〜ら〜ら〜♪』

『ららら〜〜らら〜らら♪』

『ら〜〜らららら〜〜ら〜ら〜らららら〜らららら〜らら〜♪』

 

 優しく語りかけてくるような声だ。グリイドの嗤い声とは別物。

 ……そうか。未来への希望は、ずっと前から持っていたのか。

 ディゴルネが言う、〝前回〟の俺と〝今回〟の俺の差異。小さくも大きなその差異が、もしかすると未来への希望なのかもしれない。

 あの日。

 あの日。

 あの、聖剣を抜いた日。

 俺の中に芽生えていた()()()()()()()()が、この聖剣に吸収統合されていたのだと、今、初めて知った。

 そうか。

 前回と今回の小さな差異。俺が、異世界について知っていた事。異世界という単語を知っていた事。異世界転生を夢見ていた事。

 それが、それこそが、最初の差異。そしてそこから、そうだ。得る筈だった大きな因子が、問題にすらならない、寧ろ問題児とも言える小さな因子に書き換えられたのか。

 この〝無〟の内部は、膨大な情報を処理する超量子計算機なのかもしれない。内部に取り込んだモノを、しっかりと〝無〟──つまり、グリイドの経験と力にするための。

 幾千万、幾億の、何者かが引き起こした〝ループ〟の中で、徐々に徐々に変化していった、俺。弱くなる事もあり、強くなる事もあり、変わらない事もあり。ループの元凶たる存在が、何度も何度も未来を変えた事で、俺や、それに伴う者達の運命も変動していったのかもしれない。

 そこは、感謝すべきだった。

 その結果辿り着いたのが、一見、前回までの俺の劣化とも言える俺だが、それこそが一番の奇跡なのだ。

 俺の中に生まれた、小さな因子──ユニークスキル『願望者(カナエルモノ)』。今の俺はもう何も出来ないが……きっと、きっと、きっと。俺の仲間達なら、上手くやってくれる。

 俺の意識は完全に、無へと帰したのだった。

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