転生したら竜だった件 作:暁悠
月面。その中の、ある場所。
「……お、おお……」
そこには、巨大な蛇のようなものが佇んでいた。
『永い間……本当に永い間、ヤツを封じ込めてくれたんじゃな。感謝する……そして、
その蛇に、ディゴルネが語りかける。話の内容からして、コレがグリイドを封じ込めていた〝ディゴルネの半身〟だろう。
次の瞬間、ディゴルネの半身がディゴルネに吸い込まれていった。光の粒子となって、ディゴルネに注がれていく。
《告。個体名:ディゴルネの細胞量が急激に上昇しています》
ふむ。どんな変化が訪れるか──って、あれ?
「なんで戻っちまうんだ?」
『極力、消耗は避けたい』
「そうか」
『……一旦
一刻を争う事態なので、特に反抗もせず、速やかに帰った。
『さて、重々承知しているとは思うがな。この戦いは熾烈を極める。幻獣達も総動員する予定ではあるが……勝てる確証はない。ただし、今回は幻獣戦とは勝手が違う。別に天頂の力しか通用しないなどということはないから、ナーガ、レイヴン、ティターンの三名も出撃してもらう予定じゃ。本当に総力戦な上、勝てる確証はない。……それでも、ついてきてくれるかのう?』
ディゴルネからしてみれば、誠心誠意の依頼なのだ。受けない理由もない。
「当たり前だ。ってか、俺が出る時点で三人とも出るだろ」
「仰せのままに、ヴェルアーブ様」
「全ては貴方様の御心のままに」
「どこまでもついていく所存……」
ほらな。幻獣達も同じテンションだろうから、聞かなくたってわかる。というか、『
『……それは、
「いいね、ゴリ押し! 燃えてきたな」
「あまり無茶し過ぎないでくださいよ、ヴェルアーブ様。そうやっていつも失敗するんですから」
「あ、あはは……」
この光景で、幻獣達の間にも微笑ましい笑いが起こる。それは俺とナーガの三文芝居だったのだが、それがバレる事はなかったようだ。
と、その時。
『ヒャハハハハっ♪ ヒャハハハハハハハハハハッ──っ♪』
子供の笑い声のような『思念』が、基軸世界全体に響き渡った。
「おいでなすったな」
『来るぞ。全員気を引き締めるのじゃ! ヴェルアーブ!』
「あいよ! 待ってろ、ナーガ。俺とディゴルネで、アイツを止めてみせる!」
指示を出されるまでもない。俺はディゴルネを優しく掴んでから、
向かう先は、太陽。普通なら、その強大過ぎる熱エネルギーで塵になるどころか消滅していただろう。だが、俺には数多の『多重結界』と『自然影響無効』の能力があるのだ。大して問題はない。
そして……見えてきた太陽の一部が軽く爆発し、内部からナニカが出てきた。
間違いなく、グリイドだ。しかし、〝ナニカ〟という表現に誇張はない。グリイドは、不可思議な挙動をしながら、俺に向かって一直線に進んでいた。光速すら超える、超脅威的な速度で。
不可思議な挙動。ゆらゆらと揺らめいている、というのが正しいだろうか。相も変わらず気色の悪い笑い声のような『思念』を全力全開で放ちながら、コチラに向かってきている。
『実体を捉えすぎるなよ! アヤツは、無なんじゃ。無を、お主の魂が無理をして視覚化しているだけ。あれはいわば幻視じゃ』
また難しい理論を……。
『攻撃が通るのは、胸部の
「そこなら通じるんだな。わかった」
『同時に、あそこは〝無〟への入口でもある。十分に気をつけるがいい』
「ああ。お前こそ、もう全力解放行けるな?」
『うむ。もう力も落ち着いた』
話しながらも俺達とグリイドの間は縮まり──
「ほい!」
『乱暴に扱うでないわ!』
ディゴルネを投げた。と同時に、即座に自身の肉体を
─────────
起こったのは、次元をも揺るがす大爆発だった。周囲の星の軌道をも変えてしまいそうな程に強大な、力の奔流のぶつかり合い。それは、竜気を纏ったヴェルアーブとグリイドの正面衝突による爆発だった。
『チッ、やはり強大じゃな!!』
どちらに向けた言葉かはわからない。しかし、それはどうでもいい事だ。ディゴルネは地上に散り散りとなっていた細胞達をスキルで『転移』で集結させ、一気に取り込んだ。かつてのグリイドとの戦いで消失していた三十%程の細胞も、『無限再生』によって元通りになった。
『さあ、
気合いは十分。ディゴルネは、有り余るエネルギーを巧みに操作して、グリイドに襲いかかるのだった。
─────────
チッ、硬いな。エネルギーを纏って激突したくらいじゃ屁でもないってか?
『ヒャハハハハハっ』
「うるせーんだよ、笑い声が!〝
基本を含む七属性を全て統合した、現時点、俺の素の力ではかなり高威力の技だ。全力ならば、威力だけで次元障壁を叩き割れる程である。
しかし──
『ヒャハッ♪ ヒャハハハハハッ♪』
「チクショウ、なんで当たらない!?」
そう。グリイドには、全ての攻撃が通用しなかった。
『退け、ヴェルアーブッ!』
「んなっ!?」
ディゴルネ……だよな? あの、緑と黒の大型犬形態が嘘のように格好いい……巨人のような形態へと変化していた。ただし、色彩は変わっていない。緑と黒が主色なのは、同じだった。
『──
細胞の一部から抽出したエネルギーを固め、ビームとして放出するもののようだ。それは、一撃でも空間を歪める威力であり──なんと、グリイドが回避できなかったのだ。モロに受けていたが……これが、理論や
『お主の攻撃──剣は、ちと単調すぎる! もっと、こういうものでなければ相手にならんぞ!』
「はいよ! ──〝
手加減はなしだ。『破滅の光』としての特性・特徴も、光という性質も、何もかもをそのまままとめて、光線として放射する技。コレも周囲の空間を歪ませながら、その空間に『破滅の光』として侵食していく技なので、十分グリイドにも通用すると思われた。実際に、グリイドはこの技をモロに受けている。受けている最中は行動できないようで、その場に留まっていた。ただし、俺の放つ『破滅の光』のエネルギーは徐々に吸収されているようで、このままではジリ貧だ。そこで。
『よくその場に留めた、ヴェルアーブよッ! ならば
胸部中央にあった大きな口のようなものが開き、ディゴルネの全身全霊のエネルギーが集約されていく。それが、俺の『破滅の光』と同等の──名付けるとすれば『断罪の光』に変換され、光線として撃ち出された。
それを受けたグリイド。ヤツを中心に、その場に、他次元すらも揺るがす、
◇◇◇
『──やったかッ!?』
ディゴルネさんや、それはフラグというものでね。それ言ったら大抵復活してくるんだよね。
──なんて冗談が考えられるのは、自分も確かに〝殺った〟と思ったからだ。
しかし、その認識は甘かった。
『──ヒャッハッハッハッハッ♪ ヒャハハハハハハハハハハハッ────っ♪』
グリイドは生きていた。いや、グリイドに〝生きている〟なんて言葉は不似合いだな。なんて表現すればいいか…………そうだな、〝塞がらなかった〟かな。
より邪悪な笑い声を漏らしながら、グリイドは──
『──ッ!?』
エネルギーの極大消耗で満身創痍となっていたディゴルネの腕を、理論不明の光線で消滅させたのだ。
『まっ、まさか──』
『ヒャハハッ♪』
空間の壁をスルリと抜けて、グリイドはディゴルネの眼前に迫った。そして──
『うぐっ……うぐあああああっ!!』
ゼロ距離で、あの理論不明の光線をディゴルネにぶつけたのだ。
「ディゴルネ──ッ!!」
俺はすぐさま『転移』して、傷ついたディゴルネの
「おい、ディゴルネ? ディゴルネ、おい!!」
返事はなかった。
クソ。クソ、クソ、クソ! ちくしょう!! コイツ、コイツ──ッ!!
俺の心は怒りに染まる。ただしそれでも、俺の心の奥底は呆れる程冷静だ。
『……怒るな、ヴェルアーブ』
ようやく目覚めたディゴルネは、一瞬で状況を把握した。そして、俺に適切な言葉を投げかける。
「……ああ、わかってる。お前は、早く
『……ああ。……無茶を、するでないぞ』
「わかってるっての」
それだけ言い残して、ディゴルネの
それから、幾重にも攻防を重ねた。しかし、全ての攻撃は外れ、食らう攻撃は全てが大ダメージに繋がる。
そんな絶望的な戦いを強いられていた、その時だった。
《……
『あん? こんな時に、どうしたってんだよ』
《──ワタシ、私は……
『は?』
それは、自我の発芽。主の危機的状況に、『案内者』から伸びる〝可能性〟が、一気に開花した瞬間だった。覚醒した『案内者』ならば、あるいは──。
だが、遅すぎたのだ。
『……これが最後みたいに言うなよ、相棒。今できること……やらなくちゃいけないことがある。それだけ、考えるんだよ』
《……お強くなられましたね、本当に》
『全てはお前のお陰だ。まだ、やるべき事がある。行くぞ、相棒!』
《喜んで、
俺は、
狙う場所は一つ。グリイドの胸部中央にある、禍々しくも神々しい
攻防を繰り返す内に、いつの間にか
──ゴメンな、みんな。あんな見栄張って、みんなと一緒にいたいって言ったけど……守れそうにない。それに、コイツに有効打を与えるには、これしかないと思ったんだ。
俺は、眩い七色の光を放つ
「──〝
俺はそう叫びながら、その聖剣をグリイドの核に突き立てる。そのまま、溢れ出る力を全て込めて、光速の推進力や慣性も全て利用して、グリイドを貫こうとする。
安直で、自分的にもダサいネーミングだと思う。だが、最期だからいいのだ。
「ううううううっああああああああああああああああっ!!」
果てしない絶叫を上げながら、俺は走馬灯を視る。
ナーガの笑顔。
レイヴンの微笑み。
ティターンの困惑したような、なんとも言えない表情。
尊大でツンデレなディゴルネ。
個性豊かな、幻獣達。
過ごした時間は数年で、前世に比べてもまだ短い方だ。しかしそれでも、俺達の間にはれっきとした〝友情〟や〝愛〟があった。
──ああ、本当にごめんよ、ナーガ。出来るなら、一緒にいてあげたかった──
そんな事を思いながら、俺の意識は無に飲まれていく。
──歌が、聞こえる。
『ら〜らららら〜らららら〜ら〜ら〜♪』
『ららら〜〜らら〜らら♪』
『ら〜〜らららら〜〜ら〜ら〜らららら〜らららら〜らら〜♪』
優しく語りかけてくるような声だ。グリイドの嗤い声とは別物。
……そうか。未来への希望は、ずっと前から持っていたのか。
ディゴルネが言う、〝前回〟の俺と〝今回〟の俺の差異。小さくも大きなその差異が、もしかすると未来への希望なのかもしれない。
あの日。
あの日。
あの、聖剣を抜いた日。
俺の中に芽生えていた
そうか。
前回と今回の小さな差異。俺が、異世界について知っていた事。異世界という単語を知っていた事。異世界転生を夢見ていた事。
それが、それこそが、最初の差異。そしてそこから、そうだ。得る筈だった大きな因子が、問題にすらならない、寧ろ問題児とも言える小さな因子に書き換えられたのか。
この〝無〟の内部は、膨大な情報を処理する超量子計算機なのかもしれない。内部に取り込んだモノを、しっかりと〝無〟──つまり、グリイドの経験と力にするための。
幾千万、幾億の、何者かが引き起こした〝ループ〟の中で、徐々に徐々に変化していった、俺。弱くなる事もあり、強くなる事もあり、変わらない事もあり。ループの元凶たる存在が、何度も何度も未来を変えた事で、俺や、それに伴う者達の運命も変動していったのかもしれない。
そこは、感謝すべきだった。
その結果辿り着いたのが、一見、前回までの俺の劣化とも言える俺だが、それこそが一番の奇跡なのだ。
俺の中に生まれた、小さな因子──ユニークスキル『
俺の意識は完全に、無へと帰したのだった。