転生したら竜だった件   作:暁悠

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第二十四話 オール・フォー・ワン

 ……これは……みんな……。

 確かに、グリイドに食われたハズなのに。俺の〝魂〟の近くに……確かに、幾つもの温もりを感じる。

『──勝ちましょう、ヴェルアーブ様』

 ……ああ、ああ。わかってるさ。言われなくたって、サッサとコイツをぶちのめして、平和を掴み取るさ!!

 先程吸収されたにも関わらず、俺の右手には天頂の聖剣(チャンピオンソード)が握られていた。俺はそれを、力任せに握る。

 練習のつもりだ。ただ、練習のつもりで、グリイドに振りかざしてみた。

 グリイドは避けられず、斬撃を受けた。そして──同時に、グリイドの()()にあった、幾千もある、数々の次元を隔てる『次元障壁』が、一気に断たれた。

 恐ろしい威力である。俺は、魔力も何も込めていない。ただ、力任せに振っただけだ。それだけで、この威力。〝世界〟の強制力でもう次元障壁は治っているが、凄まじいパワーを秘めた攻撃になってしまった。

『ヒャッ、ヒャハッ!?』

 ほら見ろ、グリイドも驚いてる。俺も、驚いてる。

 グリイドは、すぐさま逃げようとしていた。

「逃がすかよ、〝深い夜闇(ディープナイト)〟!!」

 俺は今、俺に繋がる全員と一体化している。故に、俺に連なる者達の能力は、すべて自由に扱えるのだ。

 俺は先程のお返しとばかりに──『夜闇』を集約させて、闇の光線として放つ。

「──〝夜闇を駆る八咫烏(ミッドナイト・パニッシュメント)〟──ッ!!」

 元々の極大威力に加え、俺による強化、それと『全集約(オーバーレイ)』による増強が相まって、一撃で世界を消し飛ばしかねない威力にまで上昇している。だが、安心して欲しい。しっかりと『流転之王(ヴァルナ)』で〝闇の光線〟に指向性を与えているので、間違って世界が壊れる心配もない。

 ──が、俺の家族達の残滓が残っているのか、これでもグリイドは倒せなかった。

 ならば、だ。

巨神爆裂撃覇(タイタン・ブラスト)(アンド)()彩白(さいはく)(りゅう)(せん)!!」

 ティターンの巨神爆裂撃覇(タイタン・ブラスト)のエネルギーと破壊力を『火緋(ヒヒ)(イロ)』と融合させ、〝()彩白(さいはく)(りゅう)(せん)〟として放つ超応用技だ。もうこんな事は一生出来ないだろうという気がするので、今やっておく。

 ──それが、逝ってしまう家族達への、せめてもの手向けだろう。

 これを受けたグリイドは、満身創痍になっていた。もう、身動き一つ取れなそうである。

「……もう、終わらせよう」

 そう呟いて、今持てる全ての技能とエネルギーを融合させる。俺の──いや、俺達全てで以て、完全にこの世界から消し飛ばすためだ。破局をもたらす存在を破局させるとはね。我ながら、恐れ入るよ。

 そうして、全ての工程が終了した時。

『……!』

『ヴェルアーブ様。一人で格好つける、なんて、させませんよ』

『ええ、そうですわね。ずっと、一緒ですわ』

『オレは二人と比べて付き合いも短いが……そんな事はどうでもいいな。オレも、共に』

 俺の精神世界で──三人に、背中を押してもらったような気がする。

 三人だけじゃなかった。

 ディゴルネ、キイラ、ファードヴェル、ネズ、ヴェズフェル、リルイン、ルイン、アルミラ、ジーナ、ノーヴェ、ヘイズヒール。

 ダーイン、ドヴァリン、ドゥネイル、ドゥラスロールの牡鹿四人組。

 その他、多種多様な幻獣達。

 全員が、俺の背中を押してくれている。

『──〝滅光緋夜巨炎振毒突集覇(ウルティメイトアナイアレーション)〟──ッ!!』

 全員の声が重なり──この世界で、これまでも、これからも、二度と観測されないであろう超極大威力の奔流が、グリイドに襲いかかる。一瞬で灰になりそうなものだが──ああ、そうか。もう一歩、必要なんだっけな。

 俺は目一杯のエネルギーをぶつけ切った後──

「厄介クソ野郎め、これで終わりだよ──ッ!!」

 天頂の聖剣(チャンピオンソード)をグリイドの核に向けて投擲。わざと吸収させる形で──グリイドは完全に物質存在となり、〝滅光緋夜巨炎振毒突集覇(ウルティメイトアナイアレーション)〟の余波で、跡形もなく消滅したのだった。

 

   ◇◇◇

 

 独り、天空浮遊城(ヘブンホールド)に帰ってきた。いや、正確には独りではない。

 

《私がいますからね》

 

 そう、独りではないのだ。孤独、ではない。

 だが……俺の心には、何者でも埋められない穴が空いていた。考えるだけでも虚しくなる、大きな穴が。

 ……もしかすると、〝生命〟を求めている時のグリイドもそんな感じだったのだろうか? 取り込めども取り込めども満たされない欲望と喜びに、苦しんでいたんじゃなかろうか。

 ……そう考えると、尚更、虚しく思えてくる。俺に、一抹とはいえ孤独感を与えた上に、俺の家族を侮辱した憎い存在が、もしかすると今の自分と同じ心境だったのかもしれない、なんて。

 俺はこれから、どう生きていけばいいんだ?

 一緒に馬鹿騒ぎして、ふざけ合って、笑い合える仲間なしに、どうやって?

 確かに地上には、グリン姉さんやザード姉さん……リムルにミリム、今度遊びに行くと約束したダグリュール、まだ見ぬヴェルドラ兄さん。繋がりを持っている人達は、いるにはいるのだ。

 ただ……俺の心にポッカリと空いた大きな穴を埋められる存在かと問われれば、それは否だ。どれだけ、どんな人と、どんなに接していても……この穴が塞がる事は、ついぞないだろう。

 いつも尊大だったけれど、素直じゃないだけで根は可愛かった、ディゴルネ。

 サボり癖はあるけど、所々気が合うイイ奴、ネズ。

 厳しいけど、それなりに優しさも持っていて、その優しさが何よりも大きい頼れる奴、キイラ。

 いつもみんなの纏め役で、幻獣や俺達に対して深い愛情を注いでくれた、ファードヴェル。

 暴れん坊だけど、不器用ながらに優しさを持っていた、リルインとルインの二人。

 影は薄いけど、ファードヴェルや俺達の悩みにはすぐに答えてくれる精神性イケメン、ヴェズフェル。

 心配性で、たまに厄介に思うけど、それでも、心配してくれる事がありがたかった、ヘイズヒール。

 お転婆だけど、笑いを起こして場を和ます事に関しては天賦の才を持っていた、ジーナ。

 自身の眷属も利用して、影からみんなを支えていた、ノーヴェ。

 いつも天然さと可愛さを振り撒いて、みんなを癒やしてくれていた、アルミラ。

 漫才コンビみたいな感じで、俺達に笑いと楽しさを届けてくれた、ダーイン、ドヴァリン、ドゥネイル、ドゥラスロール。

 他にも、様々な面で俺達の事を支えてくれた名もなき幻獣達。

 そして──

 不器用で、言葉足らずで、頼もしかった、ティターン。

 冷静で、冷酷で、それでも優しくて、ちょっと意地悪な面もある、レイヴン。

 ……唯一無二の、俺の最愛にして……最初の、家族だった……ナーガ。

「…………」

 なんとありがたかった事だろうか──と、今になって追憶する。

 ……アイツらは、いなくなってしまった。そりゃあ、仕方ない事でもある。グリイドの対処は最重要任務だったし、天頂の聖剣(チャンピオンソード)を使える俺を蘇らせようとするのも、アイツらなら思いつきそうな事だ。

「…………」

 納得は出来る。出来る、んだよ。

「…………うっ……」

 嗚咽が漏れた。

「……うっうう……うっ」

 止まって欲しい。止めたい。止まらない。

「……………………ふっうう……くっ……うっ……」

 泣きたくなんてなかった。仲間を失っても飄々として、元気でいたかった。その方が、多分アイツらも喜ぶ。

「……なん…で……」

 クソ、なんでだ。

「なん、で……止まらない……」

 なんで止まらないんだよ!!

 失った、失った、失った。世界は、守れた。けど、アイツらがいないんじゃ……守った意味がない……じゃないか。

 そんな事を考えている内に限界が来たのか、みんなの〝武装〟が解除された。名残惜しくて、解除したくなかったのに。

 ああ、駄目だ、逝かないでくれ。

 俺を、置いて逝かないでくれ。

 せめて、せめて、俺も、一緒に……。

 恋い焦がれて、手を伸ばした。

 ──その手が、掴まれる事はなかった。

 

 激しすぎる消耗が原因か。

 めまいが……すごい……。

 こんな時……ティターンに介抱してもらえたらな。アイツが来てくれただけで、スゲェ安心するんだよな。

 ああ、でも、そうだな。このまま、倒れて、死ねば……アイツらと同じ場所に逝けるかもしれない──

 そんな考えを巡らせながら、俺は迫る地面をただ眺めるだけだった。

 

 ──のだが。

「──よっと」

 筋骨隆々の腕が、地面に激突寸前だった俺を抱え、支える。

「ヴェルアーブ様はいつも危なっかしいな」

「……え?」

 懐かしい声。

 もう聞けないと思っていた、声。

 俺の目の前には、大男。

 燃えるような蒼い短髪に、俺とは毛色の違う金色の瞳を持ち合わせた、大男。

 間違えるはずはない。

「──ティ、ティターン……!」

 ティターンだ。

 今度は──少女が、俺の目の前に走り寄ってきた。

「まったくもう、ヴェルアーブ様ったら。貴方様という人は……何を考えてたんですか? どうせ、私達が死んだから生きている意味がない、とか考えてたんでしょ?」

 俺にそんな事を言うのは、複雑に編み込まれた純白の長髪に、枯れない青薔薇の髪飾りをつけていて、美しく潤った海色(マリンブルー)の瞳を持つ少女──

 俺の最愛の、女の子。初めての、家族。

「な、ナーガ…っ!」

「もう、ヴェルアーブ様ってば、泣き過ぎですよ。どれだけ嬉しかったんですか」

「そ、そりゃ、だって……もう、もう、逢えない、のかと、思って……おれ、おれぇ…!」

「ウフフ。祝勝会はまた今度ね。ナーガ、貴女の部屋に、ヴェルアーブ様を運びなさい」

「わかった、レイヴン」

「オレは……?」

「「待機」」

 そんな会話を繰り広げる、二人。

 それは、俺が何よりも壊れて欲しくないと願っていた日常そのもので……。

 目を凝らすと、ナーガ達以外のみんなもいる。

 幻獣達も。

 ディゴルネも。

「みんな……ほんと、本当に……戻って、来てくれて……良かったああああっ!!」

『うむうむ。本当に良く頑張ってくれたな、ヴェルアーブ。妾からも礼を言うぞ。何せお主は、この世界含む全ての別次元世界(アナザーワールド)を救った英雄(ヒーロー)なんじゃからな! もはや、勇者の類に片足を突っ込んどるやもしれん』

「ゆ、勇者って……お前なあ、大袈裟だよ。……でも、そうなんだよな。みんなと、みんなと、一緒に、グリイドを、倒せて……」

「まっ、また泣き出しちゃった! ちょっとヴェルアーブ様あ、泣かないで!!」

「ジーナ、大袈裟過ぎなの」

「おだまりちびっこ!」

「ちびっこはジーナもなの!」

 ちびっことちびっこだな。

 いやはや……本当に、奇跡が起こったみたいだ。

 失ったと思った家族達は、誰一人欠ける事なく、俺の目の前にいる。

 俺が心の底から壊れて欲しくないと願った日常が、目の前にあった。さっきまでの激戦など、嘘のよう。俺はその状況を、深く深く噛み締めながら、ナーガに連れられて移動する。

 ──俺はこの時、この状況の裏で〝世界の言葉〟が響き渡っていた事を知らない。

 

《──確認しました。個体名:ヴェルアーブに回帰したユニークスキル『願望者(カナエルモノ)』によって、別次元世界(アナザーワールド)を巻き込む『運命改変』が行われました。…………祝福の言葉を(オメデトウゴザイマス)、個体名:ヴェルアーブ》




 書いてて、ヴェルアーブをティターンが介抱したところ書いた時、自分でも気づかずに泣いていました。
 本当に感慨深い……。
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