転生したら竜だった件   作:暁悠

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 ヴェルザードはムリ。


第三話 試験の末路とこれからのこと

 結果から言おうか。ほぼ予想通りだが、惨敗である。

 ただ、どんな勝負だったか……否、どんな理不尽だったかを告げて言い訳をする権利ぐらいは欲しいものだ。

 なので、俺と──ザード姉さんの戦いについて、話そうと思う。

 ………

 ……

 …

 まず、先手を仕掛けたのは俺だ。早めに殺らなきゃ殺られると思い、即行動、である。

 ただ、それが悪手だったのかもしれない。

 覚醒したばかりの『千変万化(カレイドスコープ)』を使い、俺の魔素が浸透したお陰で能力の範囲内に入っていた周りの岩石を好きに『変容』させ、まずは戦場を劇的に変化させる。つまるところ、俺の得意なフィールドに変換する。

 障害物(かくれみの)を多く作り、幾つもの罠を張った。

 もちろん『千変万化(カレイドスコープ)』は自身にも適用されるので──

「喰らえっ!」

 俺の全身の魔素を、光子に変換して自身を光速化。ザード姉さんに急接近し、エネルギー化した俺の肉体を、光速の遠心力を乗せてぶつける。

 物理的にはかなりの破壊力を内包するはずだ。

 ただ、これだけだと防がれる可能性があった。

 なんせ、相手は天下の〝白氷竜〟ヴェルザードだ。なので、俺は次策を用意する。

 俺の魔素が浸透して俺の〝水〟属性を内包したこの岩石たち。これを核分裂性物質に『変容』させて、大気中の水分子を操作し、変容させた岩石に超圧力をかける。同時に、『千変万化(カレイドスコープ)』で質量そのままに超圧縮。すると、超臨界状態になって核分裂反応が始まる。

 この岩石をザード姉さんにぶつけるのだ。

 下手すると俺もろとも吹き飛びかねないが……その時はその時。テストに合格しないことには、どうせ殺されるのだ。

 ちなみにナーガを巻き込む心配はない。ザード姉さんが『結界』を作り出してくれており、ナーガは絶対に巻き込まないのだ。

 そうして、肝心の結果は──

 ……ザード姉さんは無傷。俺の光速化もなぜか止まり、ぶつけようとした岩石の核分裂反応も止まってしまった。

 俺にかかった遠心力の運動エネルギーも消失してしまったので、これはザード姉さんの固有能力によるものだろうか。それともそういうスキルを持っているのか。どちらにせよ規格外の強さである。

 ハッキリ言って、俺が勝つのはムリ。マジでムリ。

 勝てる気がしなかった。

 その後も何度か攻防を繰り返した──つもりだ。何度か攻撃が届いたし、ザード姉さんも明確に〝防御〟していた。

 しかし、そのやり方が異質なのだ。

 ザード姉さんの吐息は、吐き出されると同時に氷の粒となる。それは万物を弾く美しき細氷(ダイヤモンドダスト)であり、その後も行った〝投石核撃〟は全て、核エネルギーが消失した上でこの細氷に弾かれている。そしてなぜか、俺の『千変万化(カレイドスコープ)』の効果も掻き消えてしまうようだった。一体どうなってるんだ。

 しかも、攻防の最中に──というか、戦いが始まってからというもの、ザード姉さんは一歩も動いていなかった。

 圧倒的で、異質。そして不気味。

 どんな攻撃も通用せず、全てが絶対的な〝氷〟の前に霧散する。俺にとっては、俺の全てが弾かれる絶望の時間だった。

 ………

 ……

 …

 というわけで、無事敗北。殺されたくはなかったので自ら敗北を認めた。三日三晩戦ったっていうのに、ザード姉さんは少しも消耗していない様子だった。

「お疲れ様です、ヴェルアーブ様」

 進化の眠りから目覚めたナーガが俺を労ってくれたが、全然身に沁みない。話をされるとザード姉さんの恐怖がぶり返す(フラッシュバックする)ので、あまり労いの意味がないように思えた。

 これは、まず間違いなく不合格だなと、そう思ったのだが……しかし、意外にも。

「合格よ。ヴェルドラちゃんの時は、もっと早く終わったわ」

 と、衝撃の審査結果を伝えられた。

 ちなみにヴェルドラは一撃で終了したらしい。俺と同じように全ての攻撃が弾かれたようだが、ザード姉さんの攻撃を幾つか躱したこともあって評価は俺の方が上だった。

 しかし、この戦いで俺の自信は激減していた。〝竜種〟に転生したからと、悪く言えば粋がっていた。

 だが、同じ〝竜種〟でも天と地ほどの差があるのだと、身を(もっ)て思い知ったのだった。

 しかも、内包する魔素(エネルギー)量で言えば、ザード姉さんより俺の方が多いのである。つまり、敗因はスキルの質や技量によるもの……。

 頂上存在は出鱈目(デタラメ)で規格外なんだなと、そう思った次第だ。

 

   ◇◇◇

 

 「それで、アナタはこれからどうするの?」

「どう、とは?」

 ザード姉さんからの問いである。

「そのままの意味よ。これからどう生きるか」

 そう来たか……どうするべきだろう? 姉という立ち位置からも、ザード姉さんに従った方がいい気もする。

 だが、〝竜種〟はこの世界に四匹。ザード姉さんだけでなく、まだ見ぬグリンド姉さんやヴェルドラも見てみたい。

 何よりも気になるのが……〝星王竜〟ヴェルダナーヴァの存在。世界の〝創造主〟らしいが、一体どんな人物なのか? どんな性格なのか。それを確かめないことには気が済まない。

 そんな俺の兄達──〝竜種〟に会いながら、キチンとザード姉さんに太刀打ちできる程度には強くなっておこう。聞いた限りじゃ強力無比だった俺の『千変万化(カレイドスコープ)』も、ザード姉さんには通用しなかったし、今のところ俺の魔素が浸透した物質と俺自身のみが適用範囲内。成長次第では、もっと万能になれるはずだ。

「とりあえず、色んな〝竜種(きょうだい)〟に会いたいかな。特に、一番上の兄さん(ヴェルダナーヴァ)には」

 そう言うと、ザード姉さんは衝撃の事実を告げた。

「お兄様はいないわよ」

 ──と。

 

「え? いやいや、どういうこと?」

「なんで知ってるのかは知らないけど、私のお兄様──〝星王竜〟ヴェルダナーヴァは、もうこの世にいない」

「いやいや。だって〝竜種〟は死んでも復活するんだろ?」

「普通は、ね。でも、お兄様は特殊だったの」

 これ以上は喋れないわ──と付け加えて、強制的に話を締めくくった。

 だが、そう言われても納得がいかない。

「それじゃあ、ヴェルグリンド……グリンド姉さんや、ヴェルドラは?」

 なんでヴェルドラちゃんだけ呼び捨てなの? ──と聞かれたが、それはスルーだ。ザード姉さんに圧倒されたという同じ境遇からくる親近感と、俺の方が評価は上なのだという優越感から、フツーに呼び捨てしてしまったなんて言えない。

 頂上存在である〝竜種〟は実力至上主義っぽいとこが見え隠れしているので、別に言ってみてもいいのだが、違った場合がマズイ。復活するとはいえ()()()()()()()()()し、それこそ〝藪をつついて蛇を出す〟というものだった。

 それが怖いので、余計な発言はほぼNGである。反射で出る言葉は仕方ない。

 ちょっとだけ圧をかける感じで、だんまりを決め込む。すると、ザード姉さんも話の腰は折りたくないのか、素直に教えてくれた。

「ヴェルグリンドちゃんはここから少し離れた国にいるわね。あなたのことも『感知』しているだろうから、近くまで行けば出迎えてくれるはずよ? 私が案内しようか?」

 なるほど。ザード姉さんは優秀な人に甘いタイプだと、俺は推理する。

「できるのなら、お願いします。それで、ヴェルドラは?」

「ヴェルドラちゃんは行方不明ね」

 行方不明? どういうことだ?〝竜種〟じゃないにしろ、精神生命体の物質世界への復活には多いと数百年かかるみたいだし、もしかして殺されたのか?

「……殺されたわけではないみたいよ。でも、『感知』できないわね」

 どこか別の空間に隠れているのか、それとも……。俺みたいに、妖気(オーラ)を完全に消しているかの二択になるな。

「話が早くて助かるわ。それで、どうするの? ヴェルグリンドちゃんの下に、今すぐにでも向かうのかしら」

 ……オイオイ、ちょっと待ってくれ。

 この人、どこまで俺の思考を読んでるんだ?

『案内者』さん、一応聞くが、スキルで俺の思考が読まれてるなんてことはないよな?

 

《否。何度か干渉されていますが、完全に抵抗(レジスト)しています》

 

 レジスト?

 

《是。スキル及び魔法効果に抗い、その効果を緩和・無効化することです》

 

 フーン。つまり、俺の思考が読まれているわけじゃないんだな?

 俺の質問に、『案内者』は端的に《是》と答えた。

 イヤ、待てよ? 読んでるわけじゃないってことは、俺の表情とか、心理とかを……地頭で考察してドンピシャで当ててる、ってことか、ザード姉さんは?

 

《是》

 

 オイオイ、勘弁してくれないかな!?〝竜種〟にも個体差があるのはわかったが……イヤまあ、ついこの間まで中学生だった俺と太古から生きる〝竜種〟の(ちょう)()じゃ、そりゃあ経験とか色々差はあるよ? それにしてもだろ。出鱈目(デタラメ)過ぎやしないか?

 ……もしかして、グリンド姉さんもこんな感じなのか? だとすると俺、とんでもない種族に生まれたんじゃ……。

 気軽に〝(ドラゴン)になりたい〟なんて言った転生前の俺をぶん殴ってやりたい気分だ……。

 果てしなく憂鬱である。しかし、もうユニークスキル『転生者(ウマレカワルモノ)』は使ってしまった。

 なったからには、生き抜くしかあるまい。

「それじゃ、会いに行きましょうか。もう一人の姉さん……ヴェルグリンド姉さんに! もちろん、着いて来てくれるな?」

 俺はチラッと、思わせぶりにナーガを見た。

「ハハッ。ヴェルアーブ様の仰せのままに、どこまでも」

 相変わらず大袈裟な反応には慣れないが、なんだか頼もしく思える。眷属……つまり、この世界での、俺の家族第一号。

 大切にしなくては──と、心の底からそう思う次第である。

 そんな俺達の様子を、ザード姉さんは微笑みながら見ていたのだった。

 

 ──その美しい口元が、歪んだ(わら)いを浮かべたのを、この時の俺はまだ知らない。




 少し不穏な終わり方ですね。
 お次は『転スラ』読者ならお馴染みの「東の帝国」へと赴きます。
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