転生したら竜だった件 作:暁悠
……またもや俺は、姉と戦うことに。
はっきり言って最悪である。確かにアルティメットスキルが欲しいとは言ったが、まさか最短ルートが実践による究極の理解とは……。
もうボコボコにされるのは、御免なんだけどなぁ……。
………
……
…
そして、戦いが始まった。ちなみに、場所は俺が目覚めた洞窟だ。解析が終了し、一部を模倣して扱えるようにした『空間操作』と『
俺が行うのは、もちろん〝投擲核撃〟である。それしかできないしね。救いなのは、グリン姉さんが〝火〟で俺が〝水〟であるってところか。一応は有利属性なので、ザード姉さんほど圧倒されることはないはず。
グリン姉さんは、容赦なく俺に突きを放った。『思考加速』を使えば割と容易に姿を捉えられる。それでも、凄まじい速度なのだが……。
流石は〝竜種〟の肉体といったところか。先程から、『思考加速』を使えば使うほどその加速倍率が大きくなっている。
目覚めたばかりの頃は千倍が限界だったはずが、今ではもう十万倍ほどにまで。えげつない成長速度だ。
俺はグリン姉さんの突きを軽く受け流す。と同時に体勢を崩させ、グリン姉さんの脇腹に鋭い蹴りを叩き込んだ──のだが、それはグリン姉さんの左手で綺麗に受け止められてしまった。正直想定外だ。戦っている感じ、ザード姉さんやグリン姉さんとは、そこまで身体能力に差はなかった。だからこそ太刀打ちできているのだが、それでも俺の方が劣勢なのだ。力の使い方で劣っているのか、それとも……。
「驚いたわ。生まれてからすぐに
なんて言っているが、俺は全ての攻撃を全力で行っている。全力の蹴りが受け止められてちょっと不機嫌になりそうだ。
紅蓮の炎がグリン姉さんの両拳と、ドレスの裾から伸びるしなやかな両足に宿った。舞うような連続攻撃は、かすっただけでも大ダメージを負いそうだ。当たってみないことにはその危険度はわからないが、俺の生存本能が当たってはダメだと、全力で告げている。
《是。スキル効果で威力が大幅に増強されているものと推測します》
『案内者』も言っているのだから間違いない。
というか、グリン姉さんも大概に強かった。ザード姉さんは規格外という感じだったが、こっちは圧倒的な格上。
そんなことを考えていた矢先、俺の頬を熱線がかすめる。グリン姉さんの手のひらから放たれたそれは、万物を焼き尽くす
そんなこともできんのか。俺は〝水〟属性だが、俺の
だがまぁ、灼熱のブレスが何だ。俺には『自然影響無効』があるのだから、別に避けなくても──
《否。全力での回避を推奨します》
俺は失敗を恐れるので『案内者』に従い、慌てて回避行動を取る。
「あら、油断して避けないと思ったのに。どうして避けるのかしら?」
「生存本能だよ」
俺は端的に伝えたつもりだが、グリン姉さんは少し怒ったように「はあ?」と言っている。酷い人だ。
《今の熱線には『加速破壊励起』という権能が込められていました。直撃すると、体内の魔力が暴走する可能性があります》
なんで知ってるんだ? ってかえげつねえな、グリン姉さんっ!?
もしかすると、それがグリン姉さんの固有能力なのか?
《是》
ほほぅ……。
先程の『思考加速』の話で学んだことが一つ。スキルは、使えば使うほど自分の体に馴染む。だから、かなり頻繁に使ってきた『
今は違うさ。
「さっきの攻撃には、グリン姉さんの『加速破壊励起』の効果が込められていた。当たったら俺の魔力が暴走していただろうし、回避して正解だったな」
ワザとらしく口に出して言ってみる。
「へえ……そこまで見抜くとは、やっぱりお前は賢いわね。それだけに、ルドラに従ってくれないのが残念でならないわ」
「絶対服従は御免だってば」
「ええ、わかっているわよ。何度も聞いたわ」
─────────
ヴェルグリンドは疑問に思う。
(
事実、ヴェルアーブが言ったことは当たらずしも遠からずのことだった。
ヴェルグリンドが持つ究極の権能『加速破壊励起』は、全ての事象を加速させる能力なのだ。それにより、
如何に精神生命体であろうが、この効果からは逃れられない。単純な破壊は免れようとも、エネルギーの暴走という形で影響を受けてしまうのだ。
ヴェルアーブの場合は、『案内者』のお陰で回避が可能だった。だが、それを知らないヴェルグリンドとしては納得しがたい事実である。
(いい調子だわ。私の権能を見抜けたということは──この子も〝究極〟に目覚めかけている、ってところかしら。けれど──)
ヴェルグリンドは、静かに危機感を募らせる。誕生して一ヶ月と少しのうちに、もう
〝竜種〟の攻撃はそのままでも究極に届く威力を誇るが、
(不味いわね。そうなると、ルドラを持ってしても『支配』が容易でなくなる……。ここで弱らせておかなくてはね)
ヴェルグリンドは、静かにそう決意する。
「戦闘中に考え事かよ、ちょっと油断しすぎなんじゃねーか、グリン姉さんッ!!」
そう言ってヴェルアーブが放つのは、核爆発の雨だ。名付けるとすれば、
それはヴェルグリンドに当たりこそするものの、威力が霧散して意味を成さない。
ヴェルアーブは、能力の扱いが急成長していた。ヴェルグリンドが見抜いた『変容』の能力も、ヴェルグリンドからしてみれば『自身の属性に染まったものしか操作できないもの』という認識だったのだ。
しかし、それは覆される。ヴェルグリンドが放った
(チッ、どういうことかしら。まさか、この戦闘の最中、能力が成長しているとでも言うの?)
実際、それは当たりである。格上との戦闘を連続で行ってきたヴェルアーブは感覚が研ぎ澄まされ、能力の扱いも格段に上達していた。
ヴェルアーブの戦い方は変幻自在。先の読めない攻撃を幾つも繰り出してくる。それはまるで、あまねく〝水〟のような、如何なる形にも変わる攻撃だ。速度も、形も、威力も、何も読めない攻撃。
そして、この時だ。ヴェルアーブの心の形、存在としての〝形〟が具現化して、ユニークスキル『
その能力は、『変質』。内面的な状態・性質に変化を齎す能力で、含まれる能力は『統合・分離・性質操作』。これは、ヴェルアーブ自身の『
獲得したばかりのスキルを、ヴェルアーブはなおも開花させていく。元より、ヴェルザードとの戦いで大いなる〝キッカケ〟を得ていたのだ。それが、ヴェルグリンドとの戦いを通し、ヴェルグリンドの奥底に見つけた〝究極〟を理解し、そして──
──獲得したばかりのユニークスキル『
この事象に、ヴェルグリンドは感情を焦りに支配される。
(馬鹿なッ!? 今まで何も感じなかったのに、たった今、感じた!! まさか、この戦いの中で究極の力に目覚めたとでも言うの──ッ!?)
そんな馬鹿なと、ヴェルグリンドからしてみれば声を大にして叫びたいものだ。しかし、ヴェルアーブからすればそんなことは知ったことではない。
獲得したばかりの、慣れていない権能が進化したにも関わらず、それは妙にヴェルアーブの〝魂〟に馴染んでいた。最初から持っていた権能であるかのように、万能感と満足感に満たされる。
「そうなのね。
「感謝してるよ、グリン姉さん。お陰で、俺も
「フフッ、そんなお前にはご褒美をあげないとね。私の本気を見せてあげる」
ヴェルグリンドとて、完全な危険因子と化した弟を放っておくほど優しくはない。その内面には、激情が渦巻いていた。
(弟のくせに生意気じゃない。いいわよ、相手してあげる)
「
激しい攻防を経ても、両者ともにダメージは微々たるものだ。だからこそヴェルグリンドは、ヴェルアーブを相手に全力を出すことにしたのだ。
それでもヴェルアーブが死ぬ事はない、と確信して。
ヴェルグリンドの周囲に、無数の魔法陣が出現した。それは、『並列存在』という権能で生み出した、部分的な『別身体』による魔法の同時発動だった。
「喰らいなさいな!!」
十一条の光線──核撃魔法:
それに対して、ヴェルアーブは余裕の構えだ。回避するには数が多すぎるが、何も回避する必要はないのである。
向かってくる光線を『変質』させ、別の指向性を加えて『変容』させる。一点の下に収束させ、一条の強力な
その威力は、単純計算でヴェルグリンド一人分の約十一倍の威力である。ヴェルグリンドはそれを、全力の
「チッ、生意気じゃないの、弟のくせに」
「普通じゃないか? 姉より優秀な弟、ってのは結構いるもんだよ」
「そういうところが生意気だって言っているのよッ!!」
ヴェルグリンドはヴェルアーブに攻撃を仕掛けようとしたが、危険を察知して止まる。
見ると、ヴェルアーブの手のひらの上に魔素の塊ができていた。空気中に漂う魔素を、ヴェルアーブが収束させたのだ。
そして、ヴェルアーブの
一方で、危険を察知して放っておくヴェルグリンドではない。十一条の
(圧倒的に不利な形勢だな。さて、どう逃げるか……)
と、冷静に思考を巡らせていた。それが手に取るようにわかるだけに、ヴェルグリンドは苛立ちを募らせる。
(まさか、ここまで私の攻撃が通用しないとはね。驚いたわ。だけど、こうなったらもう私の勝ちは決まったも同然よ)
「終わりにしましょうか、ヴェルアーブ。お前は賢かったけれど、私の方が強いのよ──ッ!!」
そう宣言するなり、上空から
灼熱の雨が絶え間なく降り注ぎ、炎の柱となって上と下を結んだ。
それは
そんな中をヴェルアーブは、冷静に踊る。
決して遊んでいるわけではなく、全ての攻撃を見通すように先読みして、回避してのけたのだ。これも、彼のユニークスキル『案内者』あってのことである。
相変わらずの超高速攻撃だったが、『思考加速』の倍率が常に上昇し続けるヴェルアーブからすれば、回避できないことはないと感じたのだ。
その結果、
「当たらなければどうということはない!! ──ってね」
そう、決め
対照的に、チッ──っと、忌々しそうに舌打ちをするヴェルグリンド。
だがヴェルグリンドにとって、ここまでは計算内なのだ。
(私の攻撃は、ここからが本番なのよ!)
絶対的に優位な形勢は、依然としてそのままなのである。
ヴェルグリンドは奥の手の一つを見せることにした。
「私とここまで戦うとは、本当に驚いたわ。驚いたし、感心したのよ。ご褒美に、熱い抱擁をあげましょう!
ヴェルグリンドがヴェルアーブの頭上に位置取ったのには理由があった。下は結界だが、ヴェルアーブが回避した熱線によって一部の『結界』が溶けるように出来ている。最初からこれを狙っていたのだ。灼熱によって岩石が溶けて、灼熱の溶岩が沸き立っている。
その灼熱地獄に、更なる攻撃が加えられたらどうなるのか?
「──グリン姉さんっ!?」
ヴェルアーブが焦りを見せた。しかし、その意図に気づいて焦ってももう遅い。ヴェルアーブは最初から、ヴェルグリンドの術中にいたのだ。
ヴェルグリンドの過剰なまでの攻撃が、地面を沸騰させてガス化させた。超高温に気化した溶岩が、ヴェルアーブの周囲を包み込む。
それは、ヴェルグリンドの権能が込められた小さな飛沫──〝
ヴェルアーブを捕らえる〝
◇◇◇
そんなヴェルグリンドの権能を、今回の〝
対象の運動量は大幅に増加し、熱量は極大に増幅する。〝
こうして生じた灼熱の牢獄だが、真骨頂はその先にあった。
ヴェルグリンドの支援効果は、上限がない。どこまでも増大させることが可能なのだ。つまり、適度な支援ならばプラスに働くが、過度な支援になるとマイナスに働く。
そのマイナスの効果は、対象の体力消耗までも促進させてしまう。自分で生み出した熱量でその身を焼き尽くすほどに、その効果を高めることも可能なのだ。
つまり
それにより作り出された
檻に捕らわれてしまった時点で、もう逃げ場などないのだ。
──しかし、今回ばかりは相手が悪すぎた──
ヴェルグリンドは勝利を確信し、確実にヴェルアーブを弱らせておこうと、行動を起こそうとして──動きを止めた。
ヴェルアーブが作り出していた破滅の光が消えていたのだ。
(どういうこと? さっきのはブラフ──?)
ヴェルグリンドがそう思うのも無理はない。
なぜなら、作り出された破滅の光は、もうそこにないのだ。
ならば、どこに?
正解はヴェルアーブの中である。ヴェルアーブは一時的に破滅の光を体内に宿し、自身の肉体の性質をそれに合わせて『変質・変容』させていたのだ。
霧散しないように抑え込んでいたそれを、破滅の力を更に増大させて、一気に解き放つ。
「──〝
ヴェルアーブは、ようやく体を満たした万能感に浸りながら、戦場を光で包み込んだ。
それを甘んじて受けるヴェルグリンドではない。自身の最大最強の奥の手をもって、それを相殺しようとする。
ヴェルグリンドは構えを取り、大気を蹴って自身を超音速の弾丸と化す。
それは更に速度を増していき──
「
ヴェルグリンド自身が真紅の流星となり、極大質量と強大なエネルギー波動を帯びて光へと向かう。
実際、その質量とエネルギーによる相殺は有効だった。加えて、それを数ある選択肢の中でそれを選択したのは正しいと言える。
実際、ヴェルアーブが発した破滅の光は危険極まりないものだ。触れた物質を消滅させ、触れた生命体やエネルギーを同じ破滅の光へと変換する。逃れようのない破滅そのものだった。
それを、極大威力で相殺するのは無茶だった。とはいえ、有効ではあるのだ。事実、破滅の光による消滅は免れている。だが、ヴェルグリンドも無事では済まず、エネルギーも大幅に消耗し、ボロボロになってしまった。
ヴェルアーブはそれを確認すると、破滅の光を収束させて元の肉体を形作る。対するヴェルアーブは、ヴェルグリンドのエネルギーに加え、展開されていた
文句無しで、ヴェルアーブの圧勝だった。
なんとヴェルアーブ、急成長。連戦で戦い慣れしたのか、それとも……。