転生したら竜だった件 作:暁悠
さて、勝利の余韻に浸るのもここまでにしようか。
グリン姉さん相手に圧勝した俺だが、これからどうしよう?
けど、グリン姉さんは優しくて好きなんだよなぁ……正直、ザード姉さんはまだ怖い。
「お悩みのようですね」
「どひゃあっ!? なっ、ナーガ!? いつの間に背後に……」
「ああ、すみません。ご無礼でしたね」
堅苦しさはある程度抜けたが、やっぱりまだ堅いな──じゃなくて!? コイツ、全然気配なかったぞ!? 俺が油断して『万能感知』を切ってたのもあるが……。
もしかしてずっと空気だっただけで、俺とグリン姉さんの
「お前、隠密の才能はピカイチだな」
「お褒めに預かり、恐悦至極にございます」
堅っ!
「堅っ苦しいな。そういう言葉遣いじゃなくて、もっと
何気ない言葉だったが、ナーガには響いたようで──
「家族……家族…ですか。ヴェルアーブ様の、家族……。このナーガ、感激で胸が一杯です」
「感激しすぎだろ! 怖いよ!?」
ホント、ビビるぐらい忠誠心が高い奴だ。グリン姉さんが優しいからと、躊躇してる場合じゃないな。
「ナーガ、その忠誠心は……本物か?」
「ええ。貴方様にどこまでも尽くす所存にございます」
「だったら……一緒に、来てくれるな?」
「当たり前です。全ては、貴方様の御心のままに」
……ならば、もう何の心配もいらない。
◇◇◇
俺は、グリン姉さんの下に向かった。どうせ、ルドラのところにいるんだろう。
謁見の間の扉を開けると──そこには。
「おや、貴殿か。珍しいな」
ルドラ一人か…?
「皇帝ルドラ……姉さんはどうした?」
「使いに行っている」
コイツ、グリン姉さんにパシらせたのかよ……。初めての家族はナーガだが、グリン姉さん達は〝竜種〟としての家族だ。まぁ、それをパシリにされて怒らないやつはいないわな。
だが事を大きくしたくないので、怒らない怒らない。
「ふぅん」
「──それで、答えは出たのか?」
おっとコイツ、またスキルで干渉してきてるな。隙あらばって感じだろうが、俺にはもう通用しない。なぜなら──
「お前に従うなんざ、御免だね。それにもう一回俺を支配しようとしてるみたいだが、無駄だぞ。俺も
「──ほう」
ルドラは一瞬だけ忌々しげに俺を見つめた後、好きにしろと言った。
「だったら遠慮なく。一応グリン姉さんには俺の口から伝えたいから、少しの間ここにいるよ」
「ふん、好きにするがいい」
気まずい時間が流れた。どうしようか……。
ナーガは今のところ黙ってはいるが、これは……内心でルドラにブチ切れてる感じだな。額に青筋が浮かんでいる。
俺は覚えたてのスキル『思念伝達』で、ナーガに話しかけた。
『なぁ、ナーガ』
『ヴェルアーブ様ッ!?』
『別に怒るのは勝手だが、それを外に出さないようにしろよ? 青筋、立ってるぞ。俺は別に気にしてないからさ』
それで気づいたのか、ナーガの額に浮かんだ青筋が消えた。表情管理が上手いやつである。俺がもしこのくらいキレてたら、こんなことはできないだろう。
『流石だな』
『お褒めに預かり──』
『違うだろ? こういう時は〝ありがとう〟だ』
『あ、ありがとう…?』
『そう、ありがとう』
『あ、ありがとうございます……』
少し不服そうだ。なんでそこまでして堅苦しい口調を続行しようとするのかねぇ。俺はそういうの苦手なのに。
『堅苦しいのは苦手なんだよ。だから、な?』
そう言うと、ナーガも折れてくれたのか『わかりました』と言った。
暇だし、『思念伝達』を続行しながらナーガの解析でも──ああ、いや、ここでやったら、ルドラに覗かれそうだな。
そういえば……堅苦しいのとその反応で見れなかったし、姉さん方との戦い続きで意識を向けられなかったが……ナーガもまた、キレイな奴だなぁ……。
俺とは正反対の真っ白で長い髪はさらさらで、海色の潤った瞳も綺麗だ。肌もツヤツヤだし、唇も──
「ヴェ、ヴェルアーブ様…?」
「あっ、えっ……何…?」
「あまり…見ないでください」
ナーガが頬を紅潮させながら言った。こういうのなんて言うんだっけ。あざとい? あざといと言うか、可愛らしいな、コイツ。第一印象的には、思い出補正もあって彩花さんの方が可愛く見える。だが、多分実際はナーガの方が何倍も〝可愛い〟んだろうな。
いやぁ、可愛いやつの恥じらいには破壊力があるね。
「あら」
「え?」
グリン姉さんが見ていた。この目は……ああ、ヤバイな。これはからかわれる目だ。今すぐにでも逃げたい。
「ヴェ──」
「グリン姉さん! 俺は、ここを出て色んな国を巡ることにするよ! それじゃ──」
「ああ、ちょっと待ちなさい」
呼び止められた!? そこまでからかいたいのか!?
「な、なんでしょう…?」
「これ」
そう言って手渡されたのは……小さい袋? 中身はわからないが……軽いな。
「お小遣いよ。約束していたでしょう? 銀貨三千枚に、金貨千枚枚。大事に使うのよ?」
多すぎやしませんか? 試しに銀貨を一枚取り出してみたが、この大きさの袋には、多くても銀貨二十枚が精々だった。それが四桁……? どうやって入ってるんだ?
「空間を歪ませているからね。幾らでも入るのよ」
なんて便利な。
「ありがとうございます」
今度こそ逃げ──じゃなくて、行かなければ。からかわれなかったし、スムーズに出られる。そう思ったのに……。
「ナーガちゃん、だっけ。大切にするのよ」
耳打ちしてきやがった!! これだから色恋沙汰ってのは苦手なんだよ!!
まぁ、言われなくともそうするつもりだがな。
「言われなくたってわかってるよ」
「よろしい。行ってらっしゃい」
視界の端で、ナーガが頬を赤く染めたような……幻覚だな、そうに決まってる。
それ以上呼び止められることはなく、俺はスムーズに帝国の首都、帝都ナスカ及び……ナスカ・ナムリウム・ウルメリア東方連合統一帝国を後にしたのだった。
─────────
「良かったの、ルドラ?」
ヴェルグリンドはルドラに問いかける。ルドラはヴェルグリンドに、あらかじめ外に出ておくように伝えたのだ。その間は、好きにしていろ、と。
ヴェルグリンドからしてみれば、不満である。自身の『並列存在』を使えば、ルドラの傍を離れずとも行動できるから。しかしルドラは、それも許さなかった。
その理由は──
「良かったのだ。
それだけで、ヴェルグリンドには何があったのか伝わった。ルドラは、こうなる──つまり、ヴェルアーブがルドラに従わず、外に出ることを予見していたのだ。
しかし──
「予想外だ。なぜ、ヤツはもう究極の力に目覚めている?」
「わからないわ、私にも。でも、お姉様を含む〝
それだけは断言したヴェルグリンドだが、実際、彼女にも詳細は不明だ。何しろ、
それこそ、ヴェルダナーヴァから直接究極を与えられた者達でもない限り。
だからこそ、不審に思うのだ。ヴェルアーブは、今までの〝竜種〟と……それだけではない。今まで生まれた存在とは、何かが違う、と。
「警戒しなければならない。余の計画と……ヤツとの〝
「わかっているわ、ルドラ」
そう言って、ヴェルグリンドは微笑んだ。
─────────
さて、帝国を出たは良いものの……これからどこに行こうか? 地図、とかないのだろうか。そういえば買ってなかったし、考えていなかった。
《告。この世界の地図情報を入手しております。開示・閲覧しますか? YES/NO》
もちろんYESだ──って、はあっ!?
なんで知ってんだよ!?
《解。個体名:ナーガによる情報提供です》
え? ああ、送られてきた『暗号思念』はそういうことだったのか。
実は、グリン姉さんとのお茶会中に、突如としてナーガから『暗号思念』が送られてきていたのだ。暗号化されていたので、『案内者』に解析をお願いしたのだが……まさかこの世界の地図とは。
えーと、なになに?
俺達が今いるのが帝国の正門から少しした場所。このまま行くと〝ジュラの大森林〟及び〝東の平原〟に行くことになるだろう。その更に東にある〝傀儡国ジスターヴ〟に行くのもありだと思うが、魔王の領地なので避けたい。その点、魔王同士の条約として、ジュラの大森林には不可侵条約が課されていた。安心だ。
「このまま行って、ジュラの大森林を目指そうか」
「わかりました」
ナーガの口調も大分柔らかくなった。前までだったら「御心のままに」とか言ってそうである。
………
……
…
そこから平原を抜け、森に入った。
俺もナーガも飛べるのだが、それをしてしまっては森という要素が死んでしまう。ナーガもゆっくりと歩くことに抵抗があったようだが、自然を観る楽しさを理解してくれたようだった。
途中、魔物に遭遇した。
ついでに、ナーガの解析もしてみる。
《告。個体名:ナーガの情報を開示します──》
名前:ナーガ
種族:
加護:水鏡の加護
称号:水鏡竜の家族
魔法:〈水霊魔法〉〈元素魔法〉
能力:ユニークスキル『
耐性:物理攻撃無効、精神攻撃無効、状態異常無効、
自然影響無効、聖魔攻撃耐性
──とまぁ、圧巻だった。
ナーガのユニークスキル『
かなり強力である。俺の
《否。
だってさ。でも確かに、ユニークレベル止まりの『
ただし、この『
そんなことを考えながら森を歩いていると……なんと。
「え?」
目を疑う光景だった。
「あら、お客様でしょうか?」
なぜなら目の前にいるのは……女の人。もちろんそれだけではない。あるのはウサ耳に、ウサギの尻尾……つまり、
「こんにちは」
「こんにちは。どのようなご要件で…?」
もの凄い流暢な日本語だ。いや、思念を乗せて喋ればどんな言語だろうと伝わるらしいので、俺が聞き取った限り「日本語に聞こえる」というだけか。
「あ、ああ──」
「わたくし共は冒険者なのです。道に迷ってしまったので、どうかお教えしてもらえないでしょうか?」
ナーガが懇切丁寧に対応している……俺がエスコートされてしまった。
「う、うん。そうなんだよ。ここら辺にどこか、国はない? 小国でも構わないから──」
出迎えてくれた
「ああ、それでしたら、北に向かえばドワーフ王国がありますよ」
ドワーフ王国。正式名称は、武装国家ドワルゴン。英雄王ガゼル・ドワルゴが統治するドワーフの国。対立する西方諸国と東の帝国に対し〝中立〟を誓う国家だ。
森の中を流れる、アメルド大河。それを辿って北上することで、カナート大山脈に出る。その山脈の中に、ドワーフ王国があるのだとか。ジュラの森を西に抜ければ、イングラシア王国やブルムンド王国、ファルムス王国等の西方国家に出る。しかし今回はそっちに用がないので、北上してカナート大山脈を目指すのだ。
山頂まで登る必要はない。ドワーフ王国は、アメルド大河の上流であるカナート大山脈の
山脈の、自然の大洞窟を改造した、美しい都。
それが、武装国家ドワルゴンなのだ。
現在の王である英雄王ガゼル・ドワルゴは、初代から数えて三代目になるらしい。若き日の祖父に似た覇気を纏う偉大な英雄であり、この地を公平に統治する賢王としての名声が高いそうだ。
ドワーフの初代英雄王グラン・ドワルゴが国を興してから千年経つが、初代の遺志を継ぎ、歴史と文化、そしてその技術を守り、発展させてきたのだとか。
そんな賢王が治める地こそが、武装国家ドワルゴンだそうだ。それにしても……このフラメアという少女、なんでそんなに情報を知ってるんだ?
聞くと、フラメアは興味心旺盛な少女って感じの性格らしく、度々この村を出奔して各地を巡り歩いていたそうだ。その時に、ドワーフ王国にも行ったことがあるらしい。
ドワーフ王国は人間のみならず、様々な〝亜人〟も住んでいるため、フラメアも歓迎されたんだとか。それなら、俺達が魔物──実際は、〝竜種〟とその眷属だが──だとバレても大丈夫そうである。
ちなみに、〝人の振り見て我が振り直せ〟ではないが、俺を見て学んだのかナーガも完全に
「ありがとうございます。助かりました」
「いえいえ。……あ、そうそう」
「うん?」
何だ?
「最近、近くのゴブリン村が急発展を遂げてるそうですよ。なんと、主はスライムだとか」
スライム? スライムってあの、ネバネバしてそうで柔らかいスライム? 最弱の魔物という印象が強いが、そんなことあり得るのか?
「へえ。ありがとうございます。行ってみようかな」
「いいと思いますよ。そこからでも、ドワーフ王国には行けますし」
だそうだ。決定だな。
「行ってみようか、ナーガ」
「ですね。お供します」
にしても、スライムが主の村か……。
何かを感じる。なんともいえない、何か。ただの勘違いか、それとも……俺が、惹き寄せられているのか。ジュラの大森林は元々、〝暴風竜〟ヴェルドラの加護が染み付いた土地だそうだ。封印されていたヴェルドラを目覚めさせないように、魔王間で〝不可侵条約〟が結ばれているというわけだった。
もしかすると……いや、そんなわけはないな。ただ、見てみる価値はあるだろう。
というわけで俺達は、スライムが主だというゴブリン村に向かうことにしたのだった。
次回、リムル登場。図らずとも、ヴェルドラに接近するヴェルアーブ。一体どうなるのでしょう。