クロメがまだ帝具・八房の『奥の手』を残している。 作:原作改編
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アカメが約束を思い出す。
あれは、ここへと出発する直前の記憶。
タツミと交わした約束だった。
「無事生きて帰ると約束しろ」
タツミは真剣な面持ちでそう言う。
これからクロメとの果し合いに臨むのだから、無理もない。
わたしが驚いたのは、依然わたしがタツミに押し付けた約束と同じなことだった。
「おれだけに約束させといて、自分は約束しないなんてなしだ」
「ああ、約束だ」
私は約束したんだ。
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アカメはカッと目を見開く。
眠っていた血が騒ぐ、血を失ってクラクラしていた頭は嘘のような煮だってる。
アカメが吠えた。
死を受け入れたはずの彼女は最後の力を振り絞る。
アカメは村雨から手を離した。
「死・ね・な・いッ!」
怒号とともにクロメのわき腹に渾身の当て身を喰らわせた。
苦悶とともに、クロメの体が浮く。
アカメは、何度も拳を叩き込む。
「死ねないッ! 死ねないッ! 私は! もう多くのものを! 背負ってしまっているッ!」
一撃ごとに、クロメの身体が軋みを上げる。
何度も、何度も、繰り返した。
村雨を抑えるため、脇の空いたクロメに、当て身を打ち込み続けた。
「お前のもだ、クロメッ! お前の分も背負ったわたしは、死ぬわけにはいかないッ! 死んでなんかやらないッ!」
アカメは生きる気力を拳に乗せる。
ああ、帝国が憎い。
妹を薬漬けにして、利用したやつらが憎い。
「帝国を倒し、もうお前みたいなやつを生まないためにも、わたしは死ねないんだッ!」
クロメはたまらず村雨を左手から放して防御に移る。
アカメはこの瞬間を待っていた。
左足首をクロメの右足首に絡める。
そして逆の足で地面を上げ、反動でクロメを馬乗りから引きずり下ろすことに成功した。
アカメはクロメが取りこぼした村雨を手に取る。
「――――葬るッ!」
アカメは村雨で帝具・八房の腹を全力で打ち付ける。
八房の悲鳴が、闇に響いた。
アカメの左手に突き刺さった八房を叩き折ったからだ。
そして折れた刃から、アカメは左手を引き抜く。
宙を舞う帝具・八房。
しかし、どうやら運命の女神はまだクロメを見離していないらしい。
折れた八房は倒れ込んだクロメの手元へと転がり込んだのだから。
クロメは、欠けた八房を姉より早く手に取った。
八房は欠けていてもまだ発動している。
やはり柄も含めたすべてを粉みじんにしなければならないらしい。
アカメは、間合いの外にいる妹に標準を定めた。
クロメはつぶやく。
壊れかけた人形はうわ言のように、言い続ける。
「オネエチャン、ダイスキ、ダレヨリモ、ナニヨルモ、スキ」
「……ああ、わたしもだ」
アカメは初めて、骸人形の想いに答える。
彼女は今一度、村雨を構えた。
もうアカメの瞳から、迷いはなくなっていた。
「最愛だからこそ…早く救済(ころ)してやりたいんだ」
そして、訪れる最後の交錯。
――決着は不意に、実にあっけなくついた。
静かな教会の庭では、雨の音だけが響く。
雨がふたりの身体を冷たく打ち付けるのだった。
果し合いは終わった。
完全に砕いた八房の欠片。そして地に横たわるクロメ。
これらが死闘の結果を如実に示していた。
「クロメ、わたしは……」
アカメは考える。
どうしてこうなってしまったのか。
仲良し姉妹でいられなかったのか。
なんで、大好きなのに殺し合わなければいけないのか。
どうしてクロメを選んでやれなかったのか。
なぜこんな時に、涙が出てこないのか。
悔しい、ただ悔しい。
何もかもが、手遅れだった。
アカメは、横たわるクロメの遺体に手をあてる。
クロメの目をそっと閉じた。
死相が消えて、綺麗な顔。
いまにも目覚めて、お姉ちゃんと呼んでくれそうなほどに。
けれど、それはない。
帝具・八房は完全に破壊してしまった。
もう一生、クロメが私をお姉ちゃんと呼んでくれることはない。
これから先、私を姉と慕ってくれる者などいないだろう。
アカメは後悔を断ち切るように、決闘の場を後にする。
クロメの遺体を抱えて、教会へと向かった。
アカメは深呼吸する。
――帰ろう、タツミが、ナイトレイドの皆が待っている。
そして、アカメは耳を疑った。
「――おねえちゃん!」
クロメの声が聞こえたのだ。
温かさのある、いつも一緒だったころのあの子の声。
手を取り合って生きてたころの、クロメの声だ。
これは、クロメの遺志だ。
八房の能力の残滓が、わずかに残っていたのだろう。
もう聞けるはずのないクロメの想いが、直接流れ込んでくる。
アカメは目を閉じる。
たとえどんな罵倒でも、恨み言でもかまわない。
妹の最期の想いを受け止めるために覚悟を決めた。
しかし、そんな覚悟は必要なかった。
「――――ありがとぅ、だいすきだよ」
それっきり、クロメの声は止んだ。
最期に、クロメが遺したものは『姉への感謝』だった。
気がつけば、アカメは泣いていた。
最愛の妹の亡骸を力いっぱいに抱き締めながら、泣き崩れた。
わたしも大好きだ、クロメ。
クロメ。クロメ。クロメ。
こんなわたしをおねえちゃんと呼んでくれてありがとう。
大好きと言ってくれて、ありがとう。
雨降って、地固まる。
来世では幸せになってくれと、アカメは心から願った。