クロメがまだ帝具・八房の『奥の手』を残している。   作:原作改編

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最愛だからこそ…早く救済(ころ)してやりたかった、はずなのに。

~~~

 

 アカメが約束を思い出す。

 あれは、ここへと出発する直前の記憶。

 タツミと交わした約束だった。

「無事生きて帰ると約束しろ」

 タツミは真剣な面持ちでそう言う。

 これからクロメとの果し合いに臨むのだから、無理もない。

 わたしが驚いたのは、依然わたしがタツミに押し付けた約束と同じなことだった。

「おれだけに約束させといて、自分は約束しないなんてなしだ」

「ああ、約束だ」

 私は約束したんだ。

 

 

~~~

 

 アカメはカッと目を見開く。

 眠っていた血が騒ぐ、血を失ってクラクラしていた頭は嘘のような煮だってる。

 アカメが吠えた。

 死を受け入れたはずの彼女は最後の力を振り絞る。

 アカメは村雨から手を離した。

「死・ね・な・いッ!」

 怒号とともにクロメのわき腹に渾身の当て身を喰らわせた。

 苦悶とともに、クロメの体が浮く。

 アカメは、何度も拳を叩き込む。

「死ねないッ! 死ねないッ! 私は! もう多くのものを! 背負ってしまっているッ!」

 一撃ごとに、クロメの身体が軋みを上げる。

 何度も、何度も、繰り返した。

 村雨を抑えるため、脇の空いたクロメに、当て身を打ち込み続けた。

「お前のもだ、クロメッ! お前の分も背負ったわたしは、死ぬわけにはいかないッ! 死んでなんかやらないッ!」

 アカメは生きる気力を拳に乗せる。

 ああ、帝国が憎い。

 妹を薬漬けにして、利用したやつらが憎い。

「帝国を倒し、もうお前みたいなやつを生まないためにも、わたしは死ねないんだッ!」

 クロメはたまらず村雨を左手から放して防御に移る。

 アカメはこの瞬間を待っていた。

 左足首をクロメの右足首に絡める。

 そして逆の足で地面を上げ、反動でクロメを馬乗りから引きずり下ろすことに成功した。

 アカメはクロメが取りこぼした村雨を手に取る。

「――――葬るッ!」

 アカメは村雨で帝具・八房の腹を全力で打ち付ける。

 八房の悲鳴が、闇に響いた。

 アカメの左手に突き刺さった八房を叩き折ったからだ。

 そして折れた刃から、アカメは左手を引き抜く。

 宙を舞う帝具・八房。

 しかし、どうやら運命の女神はまだクロメを見離していないらしい。

 折れた八房は倒れ込んだクロメの手元へと転がり込んだのだから。

 クロメは、欠けた八房を姉より早く手に取った。

 八房は欠けていてもまだ発動している。

 やはり柄も含めたすべてを粉みじんにしなければならないらしい。

 アカメは、間合いの外にいる妹に標準を定めた。

 クロメはつぶやく。

 壊れかけた人形はうわ言のように、言い続ける。

「オネエチャン、ダイスキ、ダレヨリモ、ナニヨルモ、スキ」

「……ああ、わたしもだ」

 アカメは初めて、骸人形の想いに答える。

 彼女は今一度、村雨を構えた。

 もうアカメの瞳から、迷いはなくなっていた。

「最愛だからこそ…早く救済(ころ)してやりたいんだ」

 

 

そして、訪れる最後の交錯。

 ――決着は不意に、実にあっけなくついた。

 

 

 

 

静かな教会の庭では、雨の音だけが響く。

 雨がふたりの身体を冷たく打ち付けるのだった。

 果し合いは終わった。

 完全に砕いた八房の欠片。そして地に横たわるクロメ。

 これらが死闘の結果を如実に示していた。

 

「クロメ、わたしは……」

 アカメは考える。

 どうしてこうなってしまったのか。

 仲良し姉妹でいられなかったのか。

 なんで、大好きなのに殺し合わなければいけないのか。

 どうしてクロメを選んでやれなかったのか。

 なぜこんな時に、涙が出てこないのか。

 悔しい、ただ悔しい。

 何もかもが、手遅れだった。

 アカメは、横たわるクロメの遺体に手をあてる。

 クロメの目をそっと閉じた。

 死相が消えて、綺麗な顔。

 いまにも目覚めて、お姉ちゃんと呼んでくれそうなほどに。

 けれど、それはない。

 帝具・八房は完全に破壊してしまった。

 もう一生、クロメが私をお姉ちゃんと呼んでくれることはない。

 これから先、私を姉と慕ってくれる者などいないだろう。

 アカメは後悔を断ち切るように、決闘の場を後にする。

 クロメの遺体を抱えて、教会へと向かった。

 アカメは深呼吸する。

 ――帰ろう、タツミが、ナイトレイドの皆が待っている。

 そして、アカメは耳を疑った。

「――おねえちゃん!」

 クロメの声が聞こえたのだ。

 温かさのある、いつも一緒だったころのあの子の声。

 手を取り合って生きてたころの、クロメの声だ。

 これは、クロメの遺志だ。

 八房の能力の残滓が、わずかに残っていたのだろう。

 もう聞けるはずのないクロメの想いが、直接流れ込んでくる。

 アカメは目を閉じる。

たとえどんな罵倒でも、恨み言でもかまわない。

 妹の最期の想いを受け止めるために覚悟を決めた。

しかし、そんな覚悟は必要なかった。

 

「――――ありがとぅ、だいすきだよ」

 それっきり、クロメの声は止んだ。

最期に、クロメが遺したものは『姉への感謝』だった。

 

 気がつけば、アカメは泣いていた。

 最愛の妹の亡骸を力いっぱいに抱き締めながら、泣き崩れた。

 わたしも大好きだ、クロメ。

 クロメ。クロメ。クロメ。

 こんなわたしをおねえちゃんと呼んでくれてありがとう。

 大好きと言ってくれて、ありがとう。

 

雨降って、地固まる。

来世では幸せになってくれと、アカメは心から願った。

 

 

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