笑術廻戦~もしも竈門炭治郎が五条悟だったら~ 作:モッチー7
2023年7月23日の鬼舞辻無惨による竈門ベーカリー襲撃事件(鬼達が警察に報復攻撃しない様、事故として処理された)以来、竈門炭治郎は自主練が毎晩の日課となった。
炭治郎は確かに自分でもまだまだ未熟だと確信していた。実際、乙骨憂太達から教わったのは無下限呪術の基礎とヒノカミ神楽の基礎のみ。だからこそ、憂太は秋場雪賀の護衛を命じたのだ。呪霊が発生しやすい学校の巡回と呪詛師に襲われ易い護衛を兼ねた任務を3年間こなす事で、炭治郎の場数を蓄えようと言う魂胆で。
(まだまだ駄目だな……これじゃあ、父さんみたいに徹夜でヒノカミ神楽を踊り続けるなんて、夢のまた夢だ)
だが、炭治郎が毎晩自主鍛錬を行っているのはそれだけではない。
自分を囮にした罠なのだ。
始祖である無惨を含めた鬼達は、基本的に日光を浴びると死ぬ。だから、鬼達は夜しか活動出来ない。そして、鬼の主食は人間。確かに竈門禰 豆子の様な人間を食べずとも理性を保てる鬼もいるが、大半の鬼は飢餓状態になると人食欲を抑えられずに凶暴化する。それを地道に斃していけば、いずれは無惨に辿り着けるのではないか?と、炭治郎は考えていた。
(ん?この臭いは!?)
そして、遂に炭治郎は自主鍛錬中に鬼を発見した。
(この臭いは鬼だ!2人いる!)
だが、その鬼達は藤襲山で出会った飢餓状態の鬼とは様子が違った。1人は何かを探している様子だし、もう1人はそれを尾行している感じだった。
つまり、その鬼達はある程度定期的に人間を食べている証であり、生きたまま藤襲山に連行される様な鬼や12億欲しさに雪賀を襲った貧乏呪詛師の様な雑魚とは違うと言う証でもあった。
(やはりあの7泊とは違う!もしかしたら、そいつらから無惨の事を訊き出せるかもしれない!)
そして、肝心の2人組の鬼に追いついた炭治郎。しかも、2人共目の前の事に夢中で背後に炭治郎がいる事に気付いていない。
だが……
「何なんじゃこれは!?何でこんな所に病院がある!?何でこんな場所に『逃れ者』がおるんじゃ!?」
「お前達こそ誰だ!?珠世様を如何する心算だ!?」
(いけない!)
2人組の鬼の目の前にいる、身を挺して女性を庇う男性を発見してしまった炭治郎が、鬼達とその男性の間に躍り出てしまった。
「こいつらの足止めは私がする!あんた達はその隙に逃げろ!」
(どの道、この2人から無惨の事を訊き出す心算だったんだ。寧ろ、戦う理由を与えてくれたあの2人には感謝しないとな!)
「こい!私の後ろにいる人達を食わせない!」
敵となる鬼は2人。
1人はおかっぱ頭で古風な口調と童女のような振る舞いをする少女。
もう1人は両掌に瞳孔が矢印の目玉が付いた青年。両目は閉じられている。
対となる要救助者も2人。
『逃れ者』や『珠世様』と呼ばれた女性とそれを庇う青年。
青年の方は兎も角、珠世と言う女性は無惨に命を狙われる理由があるらしい。
それを証明する様に、
「どけ。儂はこれからそこの逃れ者を残酷に殺し、『十二鬼月』となるんじゃ」
(じゅうにきづき?言葉の意味はよく解らないが……この匂いは本当の事を言っている時の匂いだ!)
「殺人で得た、汚い地位を守りたいか?そんな血塗れの汚い椅子を貰って、そんなに嬉しいか!」
珠世を襲おうとしている方の青年がめんどくさそうに言い放つ。
「もう良い。お前はどけ」
だが、
「何!?どかない!?まさか、貴様があの女が言っていた」
青年鬼は既に炭治郎に何かしたが、既に無下限呪術を発動させていたので何も起きなかった。
(これがあの女が言っていた無下限呪術。原子レベルに干渉する緻密な呪力操作で空間を支配する。それを可能にしているのが、あの目か!)
炭治郎は現実化させた無限が何かの接近を阻害している事は解ったが、それが何なのかまでは解らなかった。
「どうやら……あんたの血鬼術は無色透明らしいな。でも、生憎、乙骨さんから防御に適した術式を教わっていてね」
とは言え、今の炭治郎は庇ってる状態なので、無暗に飛び掛かれない。
(強がっては魅たものの……このままではヒノカミ神楽が使えない……)
炭治郎が背後をチラッと視る。
(せめて、あの2人の安全確保が出来れば!)
しかも、珠世が何故か目の前にいると言う混乱から覚めて臨戦態勢を整えた少女鬼が、炭治郎に鞠を投げつけた。
「キャハハ!なんだかよく解らぬが……この場で逃れ者を殺せるのは好都合じゃ」
「この鞠、触れたらどうなるの?」
一見するとからかう様に言っている様に見えるが、炭治郎は内心焦っていた。
(さっきまで混乱しかしなかった鬼が冷静になった!?もう1人の鬼の血鬼術の性質もまるで解っていないのに!)
その時、炭治郎が背負ってる箱から何かを引っ掻く音がした。
(禰 豆子!?お前も戦う気か!?)
炭治郎は迷ったが、無限に阻まれて停止している鞠を視て好機だと感じた青年鬼が、迷っている時間を奪っていく。
「無下限呪術がある限り、あの花札の耳飾りには触れられぬか!?ならば!」
そうすると、鞠が無限を避ける様に軌道を変えた。
(しまった!あいつの血鬼術は移動補助系だったのか!?このままじゃ守り切れない!)
だから、炭治郎は苦渋の決断をした。
「頼む!禰 豆子!」
それを合図に、禰 豆子が飛び出して来て、珠世を襲った鞠を蹴り飛ばした。
「何ぃー!?そこの逃れ者以外に、あの方に刃向かう鬼がいただと!?」
炭治郎は一瞬迷ったが、禰 豆子の判断は早く、気付いたら鞠を投げる鬼の方へと走っていた。
「禰 豆子があっちを担当してくれるのか!?」
禰 豆子が力強く頷く。
「ならばこっちは……透明な移動補助系の鬼を……担当するか?」
その鬼は『矢琶羽』と言い、両掌に存在する眼で不可視の矢印を操り、あらゆる物体の力のベクトルを捻じ曲げたり、今回の様に索敵や探知に利用する。
だが、流石に発生させた矢印に触れていない物を動かす事は出来ない。
「ならば!」
元々は珠世を殺す為に此処に来たのだ。珠世を動かして炭治郎の気を乱そうとする。
しかし、
「そう来ると……思ったよ!」
炭治郎はあえて術式を解き、珠世を突き飛ばして、自分だけ矢琶羽が放った不可視の矢印に巻き込まれた。
「かかったな!このまま転落死させてくれるわ!」
「何をやってんだあの馬鹿女は!?」
でも、炭治郎にとっては都合が良かった。あの技を初めて実戦で使えるのだから。
「なら……お前も道連れだ!」
「は!どうやって?」
「乙骨さんから最近教わった、無下限呪術の応用の1つ!無限を収束させて引力を発生させる。物体を吸い寄せる力。術式順転……『蒼』!」
その途端、矢琶羽が上昇中の炭治郎に吸い寄せられた。
「何!?無下限呪術はこんな事も出来るのか!?」
そして、矢琶羽が上昇中の炭治郎に激突しそうになったので、慌てて炭治郎の太刀筋を操作した。
「でしょうね!」
炭治郎は待ってましたとばかりに円を描く様に腰を回す。それが、垂直方向の強烈な斬撃を生んだ。
「ヒノカミ神楽、碧羅の天!」
頸を斬られて頭部を落としてしまう矢琶羽だが、やはり日輪刀ではないのが惜しまれる。
「させぬ!」
矢琶羽は自らの血鬼術で自分の頭部を呼び戻そうとするが、炭治郎のダメ押しの一撃……否!二撃が矢琶羽の胴体を襲う。
「ヒノカミ神楽、陽華突!円舞!」
でも、日輪刀ではないので矢琶羽はまだ死なない。が……
(儂の頸……何故戻らぬ!?)
気付けば、何者かによって矢琶羽の頭部は何者かによって縄でグルグル巻きにされて木に括り付けられていた。
「くそ!何時の間に!?だが!」
最早、珠世殺害の報酬は鞠を投げる鬼の物になった事。そして、自分が生きて十二鬼月に成れない事を悟った矢琶羽は、最期の悪あがきとして炭治郎の落下速度を激増させた。
「どうやら……本当に儂を道連れにしてくれた様だなあぁーーーーー!」
でも、炭治郎は無限をクッション代わりにする事で地面に激突する際の衝撃を最小限に抑え、軽傷で済んだ。
その間、禰 豆子は朱紗丸と言う鞠を投げる鬼と戦っていた。
と言うか、朱紗丸が投げつけた鞠を禰 豆子が蹴り飛ばし、朱紗丸が鞠をキャッチするの繰り返しだった。
「どうした?何故さっきの様に飛んで来ぬ?遠くから嬲り殺しじゃ!」
その言葉とは裏腹に、朱紗丸はこれでは埒が明かないと判断。故にとっておきを使う事にした。
「遊び続けよう。朝になるまで……命尽きるまで!」
すると、朱紗丸の腕が6本に増え、それに呼応するかの様に鞠も増えた。
対する禰 豆子は困惑しながら後ろを視た。姉の炭治郎が庇っていた珠世を。
そう。憂太が禰 豆子から人食欲を奪う為の暗示が、禰 豆子の足を引っ張ってしまっていたのだ。
(拙い!?あの子、護りに入ってしまった!ならば!)
当の珠世だってただ護られるだけのか弱き存在ではない。
寧ろ、珠世が仕組んだあるカラクリが、後で朱紗丸の首を絞める事になる。
その間も、朱紗丸は次々と鞠を投げつけ、禰 豆子が鞠を蹴り飛ばすが、先に限界を迎えてしまったのは……禰 豆子の方だった。
矢琶羽を無力化して禰 豆子の許に向かおうとした炭治郎が見てしまったのは……吹き飛んだ禰 豆子の右足だった。
「……禰 豆子おぉーーーーー!」
蒼褪めながら慌てて禰 豆子の許へ駆け寄る炭治郎。
「足が……こめんな……禰 豆子……」
一方、勝ちを確信した朱紗丸は高笑いしながら近づく。
「キャハハハハハ!最早、ここまでの様じゃのう?」
「お待ちなさい」
しかし、見かねた珠世が朱紗丸に話しかけた事で事態は一変する。
「何じゃ?先に殺されたいのであれば、直ぐに殺してやっても良いぞ」
「珠世様!?」
「大丈夫です。それより愈史郎、私は
さっきまで珠世を庇っていた青年は一瞬戸惑うも、朱紗丸の目を見て何かを確信し、大人しく下がった。
「は!判りました!」
「
「貴女が弱い?あの男より度胸が有る貴女が?」
珠世の
「あの男……誰の事じゃ……」
「誰って、あの臆病者の事ですよ。適当に鬼を増やしてそれを盾にして、結局、自分だけ助かれば―――」
「黙れ黙れ! あのお方は小物などではない! 誰よりも強い! 鬼舞辻様は!」
その直後、朱紗丸は顔面蒼白になりながら大慌てで自分の口を塞いだ。
(なんだ!?急に殺気が消えた!?それに……何を焦ってるんだ!?)
「そこの呪術師よ、術式を収めなさい。既に戦いは終わりました」
「終わった?貴女はあの鬼に何をしたんです?」
原作との相違点
●矢琶羽
・令和7年まで生存。
・十二鬼月に昇格するべく独断で珠世を探し当てた。
・小夏カンナから無下限呪術と六眼の詳細を聞かされ、竈門炭治郎が無下限呪術を使える事も知っていた。
・炭治郎のヒノカミ神楽で頭と胴体を斬り離され、カンナに縄で木に打ち付けられて動きを封じられた。
●朱紗丸
・令和7年まで生存。
・矢琶羽の行動が気になって尾行していたら、珠世の隠れ家に迷い込んだ。
●珠世
・令和7年まで生存。
●愈史郎
・原作とほぼ同一。