笑術廻戦~もしも竈門炭治郎が五条悟だったら~ 作:モッチー7
秋場雪賀がいつも通り寒崎椿を連れて登校していると、
「炭治郎ぉー!炭治郎はどこじゃぁー!」
雪賀がオガミ婆に抱き着かれそうになったので、竈門炭治郎と我妻善逸が割って入る。
「はいはいはいはい。観客はダンサーに触れないでくださーい」
「炭治郎は私です。この人は違います」
炭治郎は臭いで、善逸は声色で、オガミ婆の殺意を感知していた。
だが……
「待て!違うんじゃ!儂が、儂が鬼に襲われたんじゃー!」
雪賀と椿はオガミ婆が何を言っているのかが全く解らなかったが、炭治郎は臭いで、善逸は声色で、オガミ婆が本当の事を言ってる事が解った。
「鬼だと!?」
「殺し屋同士が獲物の奪い合いでも始めたか?」
善逸の推測を聞いて炭治郎は俯く。
(鬼は本当にいるんだ……汚物辻と言う正真正銘の鬼が)
対するオガミ婆は咄嗟に手紙を取り出す。
「本当じゃ。これを炭治郎に渡せと、鬼が」
炭治郎がオガミ婆から手紙を奪い取り、その場でその手紙を読むと……
「……私、早退する」
雪賀は首を傾げたが、善逸は別の意味で首を傾げた。
「その殺し屋に、思い当たる節があるのか?」
そんな質問をされた炭治郎の目には、正義感に満ち溢れた怒りが宿っていた。
「……ああ。とんでもない糞外道がね」
そう言うと炭治郎は足早に去って行った。
(たった一晩で
善逸はあれこれ思案しながら、オガミ婆の右手首を捻ってオガミ婆が持っていたナイフを道路に落とす。
「あいたたたたた!?い、痛いではないか。ちょっとは老人を労わらんか!」
「よく言うぜ。その鬼に言われた事を実行するフリをして秋場雪賀を殺そうとしたくせに。そんな老体じゃ監獄の夏はきつ過ぎるし、12億は老後の備えにしては高過ぎる」
椿がオガミ婆が落としたナイフを雪賀から遠ざける様に蹴り飛ばしながら善逸に質問する。
「で、ナイトはこの方をどうする御心算で?」
が、善逸の答えは意外なモノだった。
「いや、呪術高専に引き渡す」
「なぬぅ!?」
「本来なら、俺達ナイトが徹底的に調査してサマーを丸裸にするのが正解なんだろうけど、俺個人としては、炭治郎のあの焦り方が気になった……それについてを乙骨憂太に問いただす為にこいつを利用する」
その日の夜。
炭治郎はとあるビル内にあるファミレスの入口前に来ていた。
そこには、ショートボブの物静かそうで大人しそうで引っ込み思案ぽい少女がいたが、過剰嗅覚の持ち主である炭治郎は見た目には騙されなかった。
「来て……くれたんですね……」
「招待状を頂いたので。いや、脅迫状ですかね。『今宵、このビル内にあるファミレスの前に来い。さもなくば、件のファミレスを客人ごと焼き払う』……」
炭治郎の態度に殺意が籠る。
「えげつない文面だ。貴様もかなり汚物辻に毒されたな」
そんな炭治郎の怒りに臆しかけた少女だったが、自分を藤襲山から出してくれた竈門炭治郎の観察を目論む呪詛師一派への義理を思い出し、気合を入れ直す為に両頬を叩いた。
「!?」
「た……戦わなきゃ……貴女と……」
そんな2人のやりとりを偶然目撃してしまった男性店員の背に、すうっと冷たい波がゆらめきはしった。
(俺は今から、バイトをバックレる!昔から責任感は強い方だった。給料も全部4人の義妹を大学に通わせる為に貯金している。そんな俺でも抗えない生存本能……あの2人に近付けば……死ぬ!)
「ん?君、そんな―――」
「今日はもう早退させていただきます!」
男性店員は即座に店長に退職を告げて着替えもせず荷物も持たず全速力でファミレスから逃げ出した。
そんな男性店員が去るのを待ってから……
先制攻撃は少女の方だった。
気付けば少女の両手には、まるで溶岩の様な二丁拳銃が握られていたが、
(炎凝呪法!?構築術式と焦眉之赳の合わせ技!?だが、この臭いは確かに鬼の匂いだ!)
その間、少女が発射した溶岩の様な銃弾が、器用に障害物を避けながら炭治郎を襲うが、飛んで来た銃弾は、炭治郎の手前で止まる。
(焦眉之赳で熾した火を物体化させる事で、構築術式の負担を大幅に軽減した!?しかも、使い手は鬼!ほぼ無尽蔵の銃弾を持っていると見て間違いない!)
だが、そんな少女の眼球には何も書かれていなかった……
(なのに……それだけの力を持ちながら、眼球に何も書かれていない!?これでもまだ、十二鬼月には届かないと言うのか!?)
炭治郎の眼前で停まっていた銃弾が炎へと姿を変えて炭治郎を襲うが、無下限呪術がそれを許さない。
「ぐ!」
炭治郎が発生させた無限に押し返された炎が、砕け散って霧散した。
(これが……あの方が言っていた無下限呪術の……基本中の基本!)
(長期戦は厄介だな……犠牲者が増える……)
一方、善逸は雪賀が無事帰宅した事を確認すると、その足で呪術高専へと向かい、オガミ婆を明け渡す準備をした。
「わざわざそんな事をしなくても……」
だが、善逸は直ぐには渡さない。
「その前に訊きたい事が有る」
善逸の鋭い視線に嫌な予感がする憂太。
「この呪詛師をメッセンジャーとして利用した殺し屋、奴には炭治郎と浅からぬ因縁を持っている」
嫌な予感が確信に変わった。
「浅からぬ因縁?」
「ナイトのエージェントとしての誇りを捨てて単刀直入に訊く!」
「!?」
「竈門ベーカリー殺人事件の犯人は誰だ?」
鬼舞辻無惨が炭治郎に無下限呪術と
「アレが事故ではない根拠は―――」
「誤魔化すな。竈門炭治郎は、あの事件が発生する直前までただの一般人だった。そんな奴がどうやって裏社会の殺し屋と接点を持つ?あの事件しか思いつかないだろ」
それはつまり、ナイト・エージェンシーには呪術高専の隠蔽工作が通用しない事を意味していた。
「……流石はホワイトスパイ派遣機関だ。流石だ」
「つまらないお世辞は不要。答えろ」
善逸と憂太が睨み合う中、オガミ婆が口を開いた。
「鬼じゃ」
「!?」
「儂らを襲ったのは鬼じゃ」
それは、オガミ婆を襲撃した殺し屋が鬼の様に強いと言う意味だと思っていたが、憂太の様子からそう言う意味ではないと察する善逸。
「……よくよく考えれば、この婆さんも呪術師だ。生半端な小物にこいつを殺せるかは微妙だ。なら、は!?」
善逸が慌てて抜刀の構えを取る。
だが、善逸の視界にあるのは只の壺だった。
「……誤魔化すな……随分器用な体質をしているんだな?お前」
すると、壺の中から1匹の異形の鬼が出て来た。
(なんだ……こいつは……)
本来目が有る部分に口が有り、眉間と口の部分に目が有る他、複数生えた短い腕など生理的に嫌悪感を催す外見をしていた。
「ほう……わたくしの接近を、わたくしに触れられずに見抜くとは……貴様、鬼狩りの残党か?」
「残党!?昭和最終盤辺りから、鬼殺隊絡みの事件がめっきり激減した事は掴んではいたが、やはり解散したか」
ここで、善逸は致命的な見落としをしてしまった。
異形の鬼の眼球に刻まれた数字の意味を……『上弦の伍』の意味を。
ただし、憂太は異形の鬼の眼球に刻まれた数字を見て嫌な予感がした。
(目玉に漢字が書かれてる!こいつはまさか……十二鬼月!?)
話を炭治郎の方に戻すと、これから始まる炭治郎と炎凝呪法を使う幼女鬼との戦いを物陰から監視する者がいた。それも2人も。
1人は小夏カンナ。
私立善根高等学校英語教師だが、竈門炭治郎を観察する為に潜り込んでいる女スパイ。
例の幼女鬼を藤襲山から救助する事を提案したのも彼女であり、かつて炭治郎と戦い敗れた矢琶羽を誑かしたのも彼女である。
もう1人は……鬼舞辻無惨と繋がっていながら、炭治郎の観察を目論む呪詛師一派とも繋がっている法衣姿の男である。
「そろそろ、始まるね」
男は楽しそうに炭治郎を観るが、一方のカンナはある不安を抱いていた。
「1対1ならかなり食い込めそうですが、高専の連中が動き出したら」
そんなカンナの不安を聞き、男は少し考えこんで、
「それは……あの鬼が私の言う通りに動いてくれたら、玉壺と言ったか?玉壺が高専の足止めをしてくれたら」
「で、その玉壺は本当に高専の連中を止められるのでしょうか?」
「少なくとも意地は魅せるだろうね。十二鬼月として、上弦の伍として」
が、男は人を馬鹿にした笑みを浮かべてしまった。
「でも、所詮は
それを聴いたカンナは、ますます不安になりながら幼女鬼の方を観る。
「高専の連中が、玉壺を倒してこの決闘に間に合う危険性はあると?」
炭治郎は早速、術式順転「蒼」とヒノカミ神楽の合わせ技で一気に決着を着けようとする。
「!?」
「ヒノカミ神楽、陽華―――」
だが、観戦していた男は炭治郎の甘さを嘲笑った。
「甘いよ」
幼女鬼は炭治郎に吸い寄せられながらも、ファミレスの入口めがけて銃弾を発砲した。
「ああ!く!」
炭治郎は慌てて銃弾も吸い寄せたが、引き寄せると停めるの切り替えに失敗すれば炭治郎がダメージを背負う危険な賭けである。
結果、ヒノカミ神楽は不発に終わり、炭治郎は幼女鬼に体当たりされる形になってしまった。
「汚いぞ!」
炭治郎は乱暴に幼女鬼を蹴り飛ばすと、ファミレスの入口を陣取る。
それを観て呆れる男。
「あーあ……矢琶羽の時と同じ失敗をしてる。今回は今までの様な
原作との相違点
●オガミ婆
・未だ生存。
・羂索とは無関係。
・高額報酬欲しさに秋場雪賀をつけ狙う呪詛師。
・銃鬼に敗れ、竈門炭治郎を誘い出す為のメッセンジャーをさせられ、我妻善逸の手によって呪術高専に連行された。
●アルバイト
・竈門炭治郎と銃鬼との激闘に臆してバイト早退。
●玉壺
・令和7年まで生存。