笑術廻戦~もしも竈門炭治郎が五条悟だったら~   作:モッチー7

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第12笑:領域展開VS十二鬼月

あわじ結びされた飾り紐のかかる空、朽ちた墓標とそこら中に突き刺さっている無数の刀、という異様な風景が広がっている。

その中を冷静に歩く憂太。

そこへ、異様な姿を晒す黒い影。

屈強な半魚人の様な上半身に蛇の様な下半身を持つ男。

その男こそ、先程まで憂太と戦っていた玉壺だ。

「ふふふ。貴様にはわたくしの真の姿を御魅せしよう」

「……能書きは良いから、さっさと出て来たらどうだい?」

玉壺は少しだけ不満になったが、気を取り直して再び口上を始めた。

「……せっかちさんね。まあいい、どうせこのわたくしの美しい真の姿にひれ伏す事になるのだから。光栄の極みだぞこれは。何せ、これを観たのは貴様で4人目で―――」

「意外と多いね?」

堪忍袋の緒が切れそうになる玉壺。

「……失礼なモヤシですねぇ……私の美しさを理解出来ぬとは……この美しい声、美しいフォルム、全てが美しい私こそ芸術なので、す……」

あえて無言を貫いた憂太。

「何とか言ったらどうなんだこの木偶の坊が!本当に人の神経を逆撫でするモヤシだな!」

「とは言われましてもねぇー、職業柄、もっとグロテスクな呪霊を山ほど視たしね」

遂に怒り狂う玉壺。

「グロテスクぅー!?このわたくしがだとおぉー!?」

その直後、憂太を殴ろうとする玉壺。それを地面に刺さった刀で防ごうとする憂太。

だが、その刀は玉壺のパンチに触れた途端……

「ヒョッ!どうだね、わたくしの神の手は?このわたくしの手に触れた物は愛くるしい鮮魚となる!では、約束通り貴様の絶望的な醜い顔立ちを、クロマグロの様な美しいイケメン顔に変えてやる」

刀身を失った刀を捨てて別の刀を抜くが、それも玉壺のパンチで無数の生きた鮮魚に変わる。

「無駄な足掻きは止せ。どうせ、その芸術センスの欠片も無いその顔立ち……気に入っていないのだろ?」

「君にだけは言われたくないな。どこに目を付けてるんだ?」

玉壺が勢い良く飛び上がり、不規則に何度もバウンドした。

(血鬼術、陣殺魚鱗!さあ、どうかねわたくしのこの理に反した動き!鱗によって自由自在!予測不可能よ!)

対する憂太は突き刺さっている刀で対応しようとするが、玉壺のパンチが刀身を無数の生きた鮮魚に変えてしまい、なかなか攻撃に転じられない。

(そもそも、その刀そのものが無駄!ダイヤモンドより硬いわたくしのこの鱗にそんなモノは通用せん!さあ、永年壺の中で練り上げた、わたくしの美しさに、平伏すが良いぃー!)

一見すると玉壺が優勢に戦いを進め、憂太がジリ貧に陥った様に見えるが、憂太の……勝利を確信したかの様な笑みは崩れなかった。

 

一方的に攻めていた筈の玉壺は、ふと目の前の風景の不変さ(・・・)に首を傾げた。

(ん?どう言う事だ?わたくしは既にかなりの数の刀を愛くるしい鮮魚に変えた筈……なのに……)

確かに玉壺のパンチが憂太が拾った刀を次々と無数の生きた鮮魚に変化させている。

にも拘らず、憂太の周りにある刀は1本も減っていないのだ。

(どう言う事だ?寧ろ増えているとさえ言える!?)

さっきまで防戦一方のジリ貧状態だった憂太が漸く口を開いた。

「まだ気づかないのかい?この領域が、誰の物かを」

玉壺は言っている意味が解らなかった。

「領域?制空権の事か?」

「違うよ。漫画でよくある達人同士の戦い云々の話をしてるんじゃない。この場所その()の事を言っているんだ」

(謎解きか?いや、止めよう。どうせ神の手と陣殺魚鱗で圧し切れば勝てる戦い。奴のペースに入らぬのが得策!)

再び猛攻を再開する玉壺に対し、憂太が呆れ果てた。

「君こそせっかちじゃん。人の話をまったく聴かないで……後悔する、よ!」

憂太は懲りずにまた刀を抜く。

「馬鹿め!拾った刀が愛くるしい鮮魚に変わったのは、これで何度目だ!?」

だが、憂太は1本しか抜いてない様に見えてちゃっかり2本抜いていたのだ。

「狗巻くんのを引いたか……」

その間、玉壺は憂太の背後を取った。

(おしまいだ!)

勝ちを確信する玉壺だったが、

「爆ぜろ」

たった一言。

その一言で、この両者の目の前に広がる異様な風景が、文字通り『爆ぜた』。

その途端、玉壺が不思議な感覚に襲われた。

(何だ?何だ!?感覚が消えた!天地が逆だ!)

それでも、倒すべき敵である憂太を睨みつける。

(見つけた!あのモヤシ!今度こそわたくしの神の手で……)

が、呪術高専に戻った時点で玉壺は既に生首だけになっていた。

「……あ?」

「……え?」

それを観た善逸は理解に苦しんだ。

領域が目の前に有るから停まれと意味不明な忠告を受け、突然目の前が爆発し、さっきまで自分を苦しめていた怪物が急に頭部だけになったのだ。

誰か詳しく説明して欲しいと思うのも無理はない。

「……どうなってんの?」

善逸にとっては『どうなってんの?』だが、頭部だけの状態となった玉壺にとっても『どうなってんの?』だった。

「き、き、斬られた!?斬られた斬られた斬られたぁー!そんな!馬鹿な!信じられぬ!とんでもない異常事態だ!この私が負けたのか!?モヤシにぃー。こんなモヤシ親父如きにぃー」

喚き散らす玉壺を観て呆れながら驚く善逸。

「ここまで()られてなお死ねない君も、十分異常事態だけどね(笑)」

 

「領域展開、真贋相愛。僕の最期の切り札さ」

憂太の言葉にハッとする善逸。

「切り札!?……とっておきの呪術を使ったって事か?」

「そう。領域展開は物凄く呪力を消耗するけど、それだけ利点もある。1つは環境要因によるステータス上昇。ゲームとかの補助魔法みたいなモノだと思ってくれて良いよ」

憂太の言葉にハッとする玉壺。

(そうか!先程の風景全てがあのモヤシの味方だったのか!だから領域の所有権云々の話をしていたのか!?)

「もう1つ、領域内で発動した付与された術式は、絶対当たる。命中率100%も夢じゃないよ」

呆れる善逸。

「100%って」

「そう!100%!必中必殺!」

「……えー……」

「故に、領域展開は呪術戦の極致とも言われてるんだ」

勝ち誇ったかの様に説明する憂太に激怒する玉壺。

「くそおぉーーーーー!人間の分際で!この玉壺様の頚をよくもォ!」

しかも、斬られた頚から徐々に肉体を再生させていた。

「貴様ら百人の命より私の方が価値がある、選ばれし!優れた!生物なのだ!弱く!生まれたらただ老いるだけの!つまらぬ下らぬ命を私がこの手で!神の手により高尚な作品にしてやったというのに!この下等な蛆虫共……」

と敗北を頑なに認めずに散々罵詈雑言を吐き散らした所で、憂太は玉壺の頭部を踏んだ。

「そんな事より、1つだけ訊きたい事が有る」

「黙れ便所虫!」

「ここに呪術高専がある事をどうやって知った?」

それについて責任を感じる善逸。

「それは間違いなく俺の不注意だ。まさかこいつに尾行されていただなんて―――」

だが、憂太は善逸の自首を完全否定する。

「いや、そうじゃない。裏に誰か居る。コイツに呪術高専の場所を教えたチクリ魔が」

対する玉壺は自白を拒否する。

「貴様の様な無教養の便所虫に何を言っても無駄だ」

憂太が足に力を入れると、踏まれている玉壺の顔が歪んだ。

「早くぅ。言っちゃいなよ」

「ふざけるな便所虫……」

「ほらほら」

「その醜い足を退けろ。便所虫」

が、よく考えると、この光景は善逸を驚かせる事ばかりであった。

(だが、この俺がどうやっても殺せなかった怪物を、この男はいとも簡単に獄門状態にしたその実力は、本物。生き物としての、格が違う!?)

その時、巨大な呪霊が地面から生え、憂太を吹き飛ばし、玉壺を飲み込んだ。

(しまった!十二鬼月が相手だからと、あいつに意識を集中させ過ぎた!)

憂太が慌てて巨大呪霊を追うが、呪霊は地中を猛スピードで突き進んで逃げおおせた。

「逃げられたか?逃がす算段も出来ていたと言う事は、あいつが僕に負けるのも想定済みって訳か?十二鬼月も舐められたものだな」

 

憂太は少し困った様子で夜蛾に報告しに向かう。

「たった今、十二鬼月に襲われたそうだな?」

「ええ。しかも取り逃がしました」

「逃げられた?十二鬼月が尻尾を巻いて逃げたと言うのか?」

憂太が気になるのはそこじゃない。

問題なのは……逃げ方だ。

「確かに奴は僕から逃げました。ただ、問題なのは逃走経路です」

憂太の真剣な顔が気になる夜蛾。

「……どう言う事だ?」

憂太の報告を聴いた夜蛾は、ある人物の関与を感じた。

「呪霊に乗って逃げただと!?式神や傀儡ではなくてか?」

「いいえ。アレは確かに呪霊でした」

「……確か、前に秋場雪賀を襲った呪詛師も、『あの学園内に平成29年が居る』と言っていたな?」

憂太は……嫌な予感をつい口から出してしまった。

「……あの事件から既に7年以上が過ぎてます」

「……何が言いたい?」

と、訊いてはみたものの、既にその意味を正しく理解している夜蛾。

「学長も……本当は嫌な予感がしていますよね?」

夜蛾は、観念したかの様に予想を口にする。

「7年も有れば、それなりに呪霊も回収出来よう」

それから……

2人共沈黙のまま、対玉壺戦に関する報告は終わってしまった。

 

一方、善逸も困っていた。

竈門ベーカリー殺人事件の真相を憂太から訊き出す為の人質として利用する筈だったオガミ婆が、玉壺襲撃のごたごたのせいで手放してしまい、気付いた時にはオガミ婆は呪術高専に捕縛されていた。

「……手土産が無い状態じゃ、誰も話したがらないか……出直すしかないな」

そう思って呪術高専を去ろうとするが、ふとある事を思い出した。

「すまん。乙骨憂太に伝えなきゃいけない伝言がもう1つ有った」

が、肝心の憂太がなかなか戻ってこないので、代わりに狗巻(とパンダ)に伝えた。

「と言う訳で、炭治郎はその婆さんをメッセンジャーに仕立て上げた鬼と戦っている筈だ。その事を、乙骨に伝えてくれよ」

「おう。解った」

「シャケ」

そう言って、善逸は竈門ベーカリー殺人事件の真相を訊き出せぬまま呪術高専を去った。

(ん?今、日本語を喋ったのは、パンダの方じゃなかったか?アレ……着ぐるみぃ、だよな?)

善逸にとって今日は、理解に苦しむ事ばかりの1日であった。




原作との相違点

●玉壺

・令和7年まで生存。
・乙骨憂太と交戦し敗北。
・『花の慶次 -雲のかなたに-』における『四井主馬』に相当する人物。
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