笑術廻戦~もしも竈門炭治郎が五条悟だったら~ 作:モッチー7
とある石材店が奇妙な青年の奇妙な依頼を受けていた。
「壺の形をした墓石ですか?」
「そ。玉壺殿は壺を造るのが得意でね、俺も幾つか貰ってるんだ」
石材店の店長は依頼内容に困惑したが、もっと重要な事を見逃していた。
それは、青年の目に書かれている漢字である。
『上弦の参』
即ち、この青年もまた、鬼舞辻無惨直属の精鋭『十二鬼月』の中でも最強クラス・上弦の鬼に属する1人であり、『上弦の伍』である玉壺より格上の鬼である。
そんな超強豪鬼に出遭ってしまったと言う大不幸に見舞われた……のだが、
琵琶の音が響き渡った途端、上弦の参が落とし穴に落ちたかの様に突然消えた。
「あれ?お客様?お客様!?」
上弦の参は奇妙な空間へと召喚されていた。
城内は空間が歪み、上下左右や重力の概念が無茶苦茶な状態となっているだけでなく、襖や畳、床、壁など様々な和室の要素が物理の法則を無視した様な出鱈目に継ぎ接ぎされた様な奇怪な空間となっている。
「ここは……無限城……」
そこへ、無惨が不機嫌そうにやって来て、
「童磨よ……ついさっきまで貴様の目の前にあった奇妙な物体は何だ?言ってみろ」
童磨と呼ばれた上弦の参は、悪びれも無く陽気な声で答えた。
「玉壺殿は生前美術が大好きだったので、美術らしい弔い方で―――」
だが、無惨は童磨の言い訳を最後まで聴かない。
「私は不快の絶頂だ。私は
無惨は額に青筋を浮かべて睨みつける。
対する童磨は少しだけ困った顔をしながら返答した。
「また、その様な悲しい事を仰いなさる。俺が貴方様の期待に応えなかった時があったでしょうか」
だが、童磨の言い訳はまたしても水を差された。
「乙骨憂太がまだ生きているのにかい?」
「あ」
ちょくちょく無惨や竈門炭治郎を観察する呪詛師達と密会するあの法衣姿の男が玉壺の生首を抱えながらやって来たので、童磨は法衣姿の男の本名を口にしてしまった。
「夏油殿に玉壺殿!御無事でしたか!」
童磨は呪術界にとってどれだけの意味を持つ単語かをまったく理解出来ないまま軽々しく『夏油』と言う単語を使ってしまったが、呪術に興味が無い鬼達にとってはその程度の失態はどうでも良く、そんな事より玉壺の
「童磨殿?わたくしのこの格好のどこが『御無事でしたか』だ……童磨殿はどこに目を付けておられる?」
「それで済んだだけマシだろ」
法衣姿の男の挑発に青筋を浮かべながら睨む玉壺に対し、法衣姿の男は舌を出したとぼけた。
だが、次の瞬間。
玉壺の視界いっぱいに、何故か逆さまになった無惨の顔が飛び込んで来た。
「元はと言えば、貴様があの様なうだつの上がらないあちこちガタガタになってしまった中年親仁如きに負けたのが大本の元凶だろ」
何時の間にか、玉壺の頭は無惨の手の中に逆さに掲げられていたのだ。
(無惨様の手が私の頭に!いい……とてもいい……)
玉壺が内心喜んでいる中、一見冷静に語る法衣姿の男の顔に、ビキキ……と、血管が浮かび上がる。
「乙骨憂太を……祈本里香を舐め腐るのは辞めた方が良い。死にたくなければな」
が、無惨は至極どうでもいいとばかりに自分の言い分を淡々と口にする。
「そんな事より夏油傑……青い彼岸花はどこだよ?」
無惨が法衣姿の男に向かって言い放った質問に最初に答えたのは、若武者の様な和服姿で顔面に三対六つの眼を持つ『上弦の壱』……十二鬼月の頂点であった。
「返す…言葉も…無い…青い彼岸花…あれは…謎が多い」
「おや?黒死牟殿。居られたか?」
「そんな事は…良い…それより…夏油…お前は…度が過ぎる」
不意に琵琶の音が響くと、重力の方向が変わり、無惨の手から玉壺の頭部が離れ、無惨から見れば上へ向かって落ちて行く。
「これからは、もっと死に物狂いで
琵琶の音が響くと、中空に突然現れた襖が、無惨と上弦達を隔てる様に閉まり、無惨の姿は見えなくなった。
床に転がった玉壺の頭部が駄々を捏ねた。
「ちょっと!無惨様!わたくしの言い分も聞かずに往っちゃうなんて……でもそこが良い……」
無惨が去ったのを確認すると、黒死牟が法衣姿の男の許へ歩み寄った。
「夏油…お前は…7年前から…変わらぬな」
法衣姿の男は黒死牟の間合いが長くて丁寧な発声に、未だに慣れなかった。
「もっとテンポ良く発言してくれないか?」
が、黒死牟は無視した。
「あの時…私が拾わねば…お前は…呪術高専に…殺されていた」
「それはそうなのだがね」
そこへ童磨が割って入る。
「まあまあ黒死牟殿。夏油殿はこの俺を抜いて上弦の弐になった―――」
童磨の言い分はまたしても無視された。
「それ故だ…序列の乱れ…ひいては従属関係にヒビが入る事を憂いているのだ」
「あー、なるほどね」
童磨は指を鳴らしながら納得したが、法衣姿の男は内心『古いな』と想った。
「私は協力してくれる術師にそこまで無理強いした覚えは、無いがね」
黒死牟は呆れつつも、法衣姿の男に釘を刺した。
「夏油…私の…言いたい事は…解ったか…」
下手に反論しても話が長引くだけだと判断した法衣姿の男は、とりあえず返事をした。
「了解した」
「そうか…励む…事だ」
夏油傑。
かつては東京都立呪術高等専門学校の生徒で、将来を有望視されていた特級呪術師であった。
しかし、そんな彼に転機……もとい
自分達が死なせてしまった護衛対象の遺体に向かって惜しみない拍手を送る盤星教信者達の姿に、夏油は非術師を保護する理由を見失い始めた。
その後も夏油は後輩・灰原雄の死……更には9月に任務で訪れた田舎で、住人達に虐待されていた呪術師の少女達(菜々子、美々子)の惨状を目の当たりにする……
その結果、非術師との決別を完全に決意し呪術高専と袂を分かち、『非術師絶滅による呪霊誕生阻止』と言う大義を掲げてしまったのだ。
そして……運命の『平成29年』。
乙骨憂太から特級過呪怨霊と化した祈本里香を強奪するべく大規模な呪術テロを実行に移す。
手始めに呪術高専にのこのことやって来て、12月24日に新宿と京都で大規模な百鬼夜行を行うと宣言し、祈本里香を過剰に危険視した上層部の心理を巧みに利用する形で憂太を孤立無援に追い込んだ。
かに思われたが……
同級生が重傷を負わされた事への怒りで覚醒した憂太に返り討ちに遭い、逆に夏油が右腕を失う結果となった。
以来、術師の間では呪術師・呪詛師問わず、『夏油傑』と『平成29年』が発言禁止になる程忌み嫌われた単語と化してしまったのであった。
だが、夏油傑はしぶとく生きていた。
彼の呪霊操術に興味を持った黒死牟の手によって。
「このままでは…お前が望む…『次』は…来ぬ」
「次が無いだと?」
とは言え、夏油には思い当たる節があった。
「……悟が……もう直ぐ呪術高専に戻って来るのだな?」
黒死牟は夏油に五条悟への未練が残っていると悟りつつ、それでもなお、夏油を鬼にスカウトしようとする。
「鬼となり…更なる強さが…欲しいか…お前も…あの方に…認められれば…我らの…仲間と…なるだろう」
ここで夏油は自分の過去を振り返り、盤星教信者達が行ってしまった死体蹴りの様な悪意に満ちたスタンディングオベーションを思い出してしまった。
「もし、この私に次を与えてやるが嘘偽りだったら、只では済まさんよ。それでも良いかい?」
脈ありと判断した黒死牟はただ淡々と告げた。
「そうか…励む…事だ」
その後、夏油はたった7年で上弦の弐に登り詰めたが、黒死牟の期待に反し、無惨が求める青い彼岸花は未だに発見出来なかった……
で、話は再び炭治郎と炎凝呪法を使う幼女鬼との戦いに戻る。
何時の間にか戻って来た夏油にカンナが問う。
「この様子だと、玉壺は乙骨憂太に敗れた様ですね」
「ああ。為す術無くね」
「夏油様、結果を知っていながらやったでしょ?」
「言っただろ?あいつは只の時間稼ぎだと。ナイトのエージェントが余計な事をしたのは想定外だったが……ま、玉壺如きに殺せるなら、7年前に私が乙骨を殺していたよ」
この会話を玉壺が聞いていたなら、間違いなく怒り狂っていただろう。
が、夏油もカンナも心底
「それより、あの子は……どうなった?」
「あの子なら、人質を盾にしながら粘っていますが、炭治郎は未だに『赫』を出していません」
「赫を使わない?」
その途端、夏油は不機嫌になった。
「乙骨……あの馬鹿、炭治郎に『反転』の事を教えるのを忘れていたな」
事実。
憂太は3年間の秋場雪賀護衛任務……つまり、学校と言う呪霊が発生しやすい場所に放り込む事で炭治郎の場数と経験値を蓄える魂胆だったのだ。
だから、憂太はこの時期に炭治郎が1級呪術師に匹敵する鬼と戦う事は完全に想定外だった。
故に、憂太はまだ炭治郎に反転術式を伝授していないのだ。
だからこそ、パンダから我妻善逸の伝言を聞かされた憂太が慌てて件のファミレスへと急いでいた。
「くそ!何故気付かなかった!?鬼舞辻 無惨が夏油傑を鬼に変える可能性を!」
憂太の愚痴にパンダ達が驚く。
「はぁ!?夏油は憂太がやっつけたんじゃなかったのか!?」
「僕もその心算だった……だが、それは鬼舞辻 無惨が夏油傑にまったく興味を示さなかったらの話だったんだよ!」
憂太の予測に禪院真希が少しいら立つ。
「無惨の野郎がどう思っているかは知らねぇが、マジでしつけえ奴だな夏油傑は!」
真希にとって今回の炭治郎への加勢は、ある意味雪辱戦だった。
平成29年の百鬼夜行テロの際、憂太と共に呪術高専で留守番させられたうえに、呪術高専に侵入した夏油に完敗してしまったからだ。
だが、今の真希は違う。
7年前は一般人並みの呪力を持ってしまった故に不完全・未完成だったフィジカルギフテッドも、真依の力と命を借りて全呪力を捨てた事で完成させ、人間離れした身体能力に磨きがかかったのだ。
それに、炭治郎の安否を気にしている憂太には悪いが、狗巻もパンダも今回の雪辱戦に燃えていた。
「ま、どっちにしろ、今度こそ叩き潰すのみだ!」
(炭治郎……禰 豆子……頼む!無事でいてくれ!)
原作との相違点
●夏油傑
・未だ生存。
・上弦の弐。
・黒死牟のスカウトを受けて鬼になった。
・2017年12月24日の百鬼夜行テロの影響により、名前そのものが禁忌扱いされた。
●平成29年
・乙骨憂太が東京都立呪術高等専門学校に転校した日。
・そして、夏油一派が百鬼夜行テロを実行した日。
・2017年12月24日の百鬼夜行テロのせいで、呪術師や呪詛師にとってはある意味禁忌的な存在となった。
●黒死牟
・令和7年まで生存。
・夏油傑を鬼にスカウトした。
●童磨
・令和7年まで生存。
・上弦の参。
●猗窩座
・既に自害。
●鳴女
・令和7年まで生存。
●羂索
・2021年1月20日に相討ちと言う形で五条悟に殺害された。
・黒死牟に先手を打たれた為、夏油傑の遺体奪取に失敗する。
●熱田睡蓮
・本作オリジナルキャラクター。
・女性呪詛師。
・私立善根高等学校1年生。
・竈門炭治郎を観察する為に潜り込んでいる夏油一派のスパイ。
・特技は催眠術。
・頭部は黒木智子(私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!)で首から下は香椎愛莉(ロウきゅーぶ!)。
●小夏カンナ
・未だ生存。
・私立善根高等学校英語教師。
・竈門炭治郎を観察する為に潜り込んでいる夏油一派のスパイ。
・熱田睡蓮の上司。
・正体は枷場美々子。
●銃鬼
・本作オリジナルキャラクター。
・最終選別用に生け捕られて藤襲山に囚われた幼女の鬼だったが、竈門炭治郎の観察を目論む夏油一派の策略によって稀血を有する非術師10人と禪院真依・禪院扇の脳を食わされ、1級呪術師に匹敵する呪詛師として覚醒した。
・弾道や軌道などの『動き』を操る血鬼術と炎凝呪法を開花させており、銃などの武器に呪力を籠めて打ち出し、高威力のチャージショットを発射する事も可能。
・引っ込み思案で内向的傾向を有するものの、自分を藤襲山から救い出してくれた夏油一派に奉公するべく鬼特有の傲慢・凶暴に徹しようとする健気な一面も持っている。