笑術廻戦~もしも竈門炭治郎が五条悟だったら~   作:モッチー7

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第1笑:特級が看た惨劇

1人の男性がつまらなそうに街中を歩いていた。

彼の名は『乙骨憂太』。

11歳の時に遭遇した交通事故の後遺症が原因で東京都立呪術高等専門学校への転校を余儀なくされ、そこで掛け替えのない友と出逢い、呪術と呼ばれる超人的な技を学び、憂太は劇的に強くなった。

6年前に力の源と言える『ある者』を失ったが、それから僅か3ヶ月で本来の力を取り戻した呪術の天才。

呪術師は本来、4から1の階級で区別されるのだが、本来なら呪術師のトップでなければならない筈の1級より更に上に登り詰めた異能の超人。

既存の階級制度の枠を飛び越えた例外等級である特級呪術師に君臨した憂太は、かつての恩師である五条悟に次ぐ現代の異能として注目を集めた事もあったが……

 

それも今は昔……

 

どう言う訳か危険呪霊(人体から排出された人の想いが具現し意思をもった異形の存在)の発生率が激減し、今はもっぱら呪詛師(呪術を悪用する犯罪者)の取り締まりが主な任務となってきており、物足りな過ぎてかえって特級である憂太の方が呪術界上層部から危険視される体たらくであった。

「ま……コソ泥や湿気た巾着切りを殺すのにクラスター爆弾を使う馬鹿はいないわな」

つまり、特級呪術師や特級呪霊の本気はクラスター爆弾での絨毯爆撃に匹敵する厄災なのである。

お陰で、五条家当主代理に内定しているとはいえ、特級呪術師に君臨している憂太は、呪術界の手に余り過ぎているお荷物なのである。

 

そんな核兵器並みに危険視されている憂太の横を素通りしようとしている影があった。

だが、至極真っ当で正論な理由で憂太に猫つまみされた。

「待ちなさいお嬢さん。信号、赤だよ?」

その人物は赤みがかった髪がボサボサのボーイッシュな少女で、額に火傷らしき傷痕が有った。

歳は、小学校6年生か中学1年生と言ったところか?

だが、少女は焦っていたのか、憂太の手を振り払おうとしていた。

「ごめんなさい!急いでるんです!」

「急ぐって言われても……」

目の前は車通りが多い道路。下手な横断は自殺行為だ。見過ごす訳にはいかない。

それに、憂太にとって今手を放す事は、11歳の時に遭遇した交通事故の二の舞になる。

「いくら急いだって……死んだら意味無いよ」

だが、

「早く家に戻らないと!嫌な予感がするの!」

少女の必死の涙目を視た途端、憂太は何故か6年前に言った自らの台詞を思い出した。

『僕が、皆の友達でいる為に!僕が!僕を!生きてていいって思える様に!夏油傑(オマエ)は、殺さなきゃいけないんだ!』

 

憂太は溜息を吐きながら少女に言った。

「……乗ってくか?」

対する少女はキョトンとした。

「え?」

少女が意味解んないって表情をしているが、憂太は気にせず勝手に話を進める。

「リカ」

『なぁに』

「力を貸して」

憂太の指輪から、最凶の呪霊が現れた。

「何だこいつ!?」

「ん?リカちゃんが見えるの?」

「リカちゃん!?」

少女が驚くのも無理は無い。

鋭い爪を持つ、鬼の如き体。

無数の牙を持ち、目の無い深海魚の様な顔に、長い髪が触手めいて生えていて、それだけが辛うじて少女の面影を残す。

これが、憂太を特級に戻した憂太の切り札、『リカ』である。

「大丈夫。リカは優しいんだ」

と言われましても、その形では恐れない方が無理がある。

だが、少女は意を決してリカの背中に乗った。

すると、リカは一足飛びで横断歩道を渡った。

「うわぁ!?」

「しっかり掴まってて。振り落とされない様に」

そして、リカは少女に言われるまま、街中を突き進んだ。

だが……

 

「この程度の血の注入で死ぬとは……太陽を克服する鬼など、そうそう作れたものではないな」

竈門ベーカリーを襲った惨劇を観て、少女は愕然としながら正座する形となった。

しかも、惨劇の実行犯はまだ目の前にいる。

「忌々しい耳飾りと太刀筋だ。血の量からして、竈門炭十郎(オマエ)は死ぬだろうな」

(父さん……母さん……花子……竹雄……茂……禰 豆子……六太……)

一方の憂太は、竈門ベーカリーを血の池地獄に変えた犯人に関するある推測が有った。

「……まさか……お前が『鬼舞辻無惨』か?」

対する犯人は憂太の推測に苛立ちを覚えた。

「鬼舞辻だと?何故その名を知っている?貴様、鬼狩りの残党か?」

憂太は余裕に魅せたい笑みの額に、冷や汗を滲ませる。

「特級呪術師1人殺スノニ、ソレ以外ノ呪術師ガ、何十人必要ダト思ッテル!」

「知るか。この私に出遭ってしまった不幸を呪え。それだけだろ」

(とんでも無い事を言いやがる!)

その時、家族を皆殺しにされた怒りをぶつける様に、少女が犯人に体当たりをした。

「私の家族を返せ……返せ!」

だが、少女は怪我の功名(・・・・・)的な理由で犯人に触れる事が出来ず、寧ろ、犯人が不本意(・・・)な理由で少女から遠ざかった。

「何だ!?今の体当たりは!?」

犯人は慌てるが憂太はそれだけで、少女がリカの姿を見る事が出来る理由を今、目にした。

『無下限呪術』。

憂太のかつての恩師である五条悟が生前に使用していた特級術式。それは文字通り、無限と言う概念を現実にする術。五条悟を最強たらしめる規格外の術式である。

(……2年ぶりだな、無下限呪術を間近で観るのは?五条先生が羂索を殺害した時以来か……)

 

「うわあぁーーーーー!」

その後も犯人を殴ろうと飛び掛かる少女だが、無意識に発動させてしまった無下限呪術のせいで少女は犯人に触る事が出来ない。

物理攻撃は常に、少女との間には無限の距離を置かれて無意味となる。反則じみた鉄壁の防御。

「くそ!何が起こっている!?」

だが、憂太にとってはあまり嬉しい状況ではなかった。

「不味い!このままでは、あの娘が脳死する!」

無下限呪術は規格外な破壊力・防御力を持つからこそ、そのコントロールには原子レベルに干渉する、緻密な呪力操作が必要となる。時空間を支配する程の演算、まともに扱えば脳が焼き切れる負担は免れない。

幸い、少女は犯人がいる前方にしか無限を発生させていなかったので、憂太は簡単に少女の背後に回り込めた。

「今日はこのくらいにしてやろうか?お嬢さん」

少女の首を殴って少女を気絶させる憂太。

「危ない危ない。無下限呪術を習得出来る可能性が有る将来有望を―――」

「逃がすと思うか?」

やっと無限の呪縛から解放された犯人が憂太達に近付く。

「貴様らの様な危険人物を、この私が野放しにすると、本気で思っているのか?」

だが、憂太が犯人斬りかかろうとした時、別の何かが犯人に飛び掛かった。

「うがあぁーーーーー!」

「何!?」

それは、犯人に殺された筈の女性だった。

「何だと!?」

犯人にとっては予想外の事であったが、何時までも殴られ続ける趣味は無く、直ぐに死んだ筈の少女を振り払った。

だが、

「どう言う事だ……貴様は本当に鬼なのか?」

死んだ筈の少女は、身を挺して憂太達を庇った。

犯人にとっては想定外であり、絶対に有り得ない現象だった。

「この私がどけと言っているのだ。なのに何故?」

その理由を、憂太は既に経験していた。

「失礼だな、純愛だよ」

「純愛?何を―――」

リサは遂に痺れを切らして剛腕を振り下ろしてしまった。

『ゔゔゔゔるさい!』

並みの術師や呪霊であれば、リカの剛腕になぶられ続ければどんどん原型を失って逝く。

だが、今回は憂太に本気の舌打ちをさせると言う、リカにとっては不本意な結果となった。

「流石は不老不死を最終目標とする臆病者……リカちゃんですら、取り逃がすとはね……」

だが、憂太にとってはある意味好都合だった。

「そんな事より……あの2人は死なせない!特に五条先生と同じ高み(ところ)に往ける可能性が有るこの娘は!」

 

記録―――2023年7月23日、東京。

鬼舞辻無惨による執拗な襲撃により、店長を含む竈門ベーカリー関係者七名(・・)死亡。

 

憂太は、無意識に無下限呪術を発動させた少女と竈門ベーカリー関係者唯一の生き残りを保護したその足で、呪術界上層部に謁見した。

「無下限呪術の復活だと?」

6枚の障子が六角形に取り囲む、奇妙な造りの部屋。

その中央に憂太の姿があった。

「今更、無下限呪術が必要か?」

「しかし、本人が了承しました」

「だが、羂索どころか夏油傑すらいない。それどころか2級以上の案件が激減したこの状況で、今更いたずらに特級を増やす気か?」

障子から返って来る物言いはどこか、安全を確保しながら自分達の導きたい結果を周囲に押し付ける、消極的で狡い響きがあった。

「ふざけないで頂きたい。鬼舞辻無惨があのまま暴走していたら、町1つ消えていたかもしれないんですよ」

憂太の脳裏に浮かぶのは、無意識に無下限呪術を発動させた少女の鬼の様な怒りの表情……だけではない。

本当に気にすべきは、例の少女がかつて共に過ごし、大切にし、愛した、ただの家族であった頃の竈門ベーカリー。

その調子が気に障ったのか、別の障子の向こうから荒らげた声が聞こえた。

「師匠が師匠なら、弟子も弟子じゃわい!悪い所が似おった!」

「だとしても、やはり鬼舞辻無惨は危険です。逆に、何人食い殺されるか判りません。現に最近は鬼殺隊に関する情報を聴きません。そろそろ僕達にお鉢を回すべき……だとは思いません?」

障子の向こうに居る連中は、保守的な思考の持ち主ばかりだ。

そういう手合いに反論する為には、出来るだけ具体的な根拠を示してやる事がだと、憂太は知っていた。その効果は十分あった様で、障子の向こうからは、しばし思案する様な空気が伝わり……やがて1人が、促す様な台詞を漏らした。

「では、やはり……」

「はい……竈門炭治郎は、五条家で預かります」

だが、全会一致とまではいかなかったのか、憂太の背中に声がかかる。

「ただ強ければ必ず特級に成れる訳ではない事を忘れるな」

「そうなれば、僕が炭治郎側につく事をお忘れなく」

老いてはいても、そこに集まるは呪術界の有力者達。特級の本気がどれだけ危険か解らぬ程暗愚な者はいない。憂太の決意は、それだけで強い警告となる。

黙る上層部達を一瞥して、憂太は部屋を出て行く。

 

だが……

「ふうぅーーーーー。疲れたぁー」

かつての恩師である五条悟が今まで何と戦ってきたのかを間近で見た憂太は疲れ果てた。

「あれじゃあ、五条先生が嫌がるのも無理ないよ」

だが、今の憂太は弱音を吐いてる場合じゃなかった。

「2年前の羂索暗殺任務で五条先生が亡くなって以来失われていた無下限呪術。それを取り戻すチャンスなんだ。くだらない保守派異見に邪魔はさせない!」




原作との相違点


●竈門炭治郎

・2009年7月14日生まれ。
・竈門家長女。
・実家はパン屋。
・2023年7月23日に乙骨憂太に保護され、憂太の許で約1年8か月ほど修行して無下限呪術と六眼の基礎を叩きこまれた。

●竈門禰 豆子

・2010年12月28日生まれ。
・竈門家次女。
・実家はパン屋。
・2023年7月23日に乙骨憂太に保護され、憂太の暗示(人間は皆家族であり、家族を守り、家族を傷つける鬼を許すな)と反転術式によって人食欲を喪失。

●乙骨憂太

・虎杖悠仁や両面宿儺とは無関係。
・『リカ』と『無条件の術式模倣』の時間制限が無くなった。
・2023年7月23日に炭治郎と禰 豆子を保護し、炭治郎に約1年8か月間の無下限呪術と六眼を習得する為の修行を施す。
・また、炭治郎の訓練期間の間、長期の睡眠に入っていた禰 豆子に人間を守るよう暗示をかける。
・『鬼滅の刃』における『鱗滝左近次』と『冨岡義勇』の役割を果たす。
・公式記録では、2017年12月24日に夏油傑を殺害した事になっているが……

●五条悟

・虎杖悠仁や両面宿儺とは無関係。
・2021年1月20日に相討ちと言う形で羂索を殺害するも、その時の怪我が原因で2021年7月22日に死亡した。

●羂索

・2021年1月20日に相討ちと言う形で五条悟に殺害された。

●鬼舞辻無惨

・令和7年まで生存。
・個人投資家として成功し、悠々自適の生活を送っている。
・気まぐれで(一応あの耳飾りの行方を追ったうえでの行動)竈門ベーカリーを壊滅させたが、その事がきっかけで禰 豆子が鬼と対立する鬼となり、炭治郎が無下限呪術と六眼を習得するきっかけになってしまった。

●竈門炭十郎

・2023年7月23日に死亡。
・竈門ベーカリーの店長。
・無惨相手にヒノカミ神楽で応戦するも日輪刀を持たぬ故戦死。
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