笑術廻戦~もしも竈門炭治郎が五条悟だったら~   作:モッチー7

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第15笑:早いよ炭治郎ちゃん

珠世は驚きを隠せなかった。

炭治郎が命懸けで採血した、夏油一派が送り込んだ幼女鬼の血が異質だったからだ。

「この鬼……まさか!」

珠世は炭治郎と結託する以前から、出来る範囲内で様々な者から血を採取しており、その中には3級とは言え呪術師も含まれていた。

そして、幼女鬼の血と下級呪術師の血を視比べた珠世がある推測へとたどり着く。

「やはり……術式。呪術師の鬼化は既に始まってる?」

汗だくの珠世を見て心配する愈史郎。

「珠世様!?」

だが、珠世が口にしたのは、本当に心配されるべき人物の名前だった。

「どうやら、竈門炭治郎の前に立ち塞がる敵は、鬼舞辻 無惨だけではない様です」

 

一方の炭治郎はと言うと……

「これ……本当にやるのか?」

「そこの金髪は消しゴムだから良いけど、椿はナイフだよ」

「せめて名前で呼んで貰えます」

炭治郎に消しゴムとナイフを投げつけてくれと頼まれて困惑する善逸と雪賀。

「大丈夫。当たらなければどうということはない!」

「有名人の名台詞で言われてもぉー……」

雪賀の困惑を感じ取った憂太が見かねて前に出る。

「なら、僕が代わるよ」

そう言いながら炭治郎の肩を触ろうとするが、それと同時にリカが炭治郎を殴ろうとした。

しかし、

「あ!……」

「ね。当たらなければどうということはないでしょ」

リカの姿が見えない雪賀は憂太が炭治郎に何をやったのかは解らなかった。

「何言ってんの?もろに触られてんじゃん」

が、善逸は憂太の心拍数急変で炭治郎が何らかの攻撃を受けた事を察した。

「つまり……生半端な攻撃では傷1つ付かんと言う事さ」

だが、憂太が驚いているのはそれだけではなかった。

(触れる!?リカちゃんの攻撃ははじかれた筈なのに!)

「まさか、無限を出す出さないの判断を手動から六眼(りくがん)による全自動に切り替えたと言うのか?」

「そう。『憎しみ』ではなく『守りたい』から呪力を捻出出来る様になってから、無下限呪術の常時発動がいつもより楽になっちゃって」

善逸が炭治郎の愚に呆れ果てる。

「常時臨戦態勢だと?それだと、疲労困憊となって長期戦が出来ない身体になるぞ」

だが、善逸の苦言はただの杞憂だった。

「それも大丈夫。『守りたい』から呪力を捻出している内は、傷の治りが物凄く速くて速くて」

憂太は、炭治郎の成長が夏油の思惑通りに早まってる事に驚いた。

(反転術式!?本当なら3年間の秋場雪賀が完遂してから教える心算だったのに……)

 

後日。

善逸は炭治郎が絶対に立ち寄らないと思われる場所に憂太を呼び寄せた。

「話の内容次第では、お前を軽蔑するぞ」

「言いたい事は解る。だからこそ、生真面目な生娘に聞かれたくない内緒話に最適だ」

善逸の意図を測りかねて困惑する憂太。

「……で、話とは」

善逸は憂太に1冊のファイルを渡す。

「例のファミレス事件の後で炭治郎に頼まれた調査報告書だ」

「炭治郎ちゃんがナイト・エージェンシーを利用?」

「それには、『全集中・常中』をラクーに取得出来るコツが書かれている」

「……全集中?」

「鬼殺隊がかつて使用していた操身術の1つだ。著しく増強させた心肺活動により、一度に大量の酸素を血中に取り込む事で身体能力を瞬間的かつ爆発的に大幅に上昇させ、鬼と互角以上の剣戟を繰り出す。かなり変わった言い方をすれば、大気中の酸素を高性能ドーピング剤として利用する体術だよ」

「……呪術師が呪力を使って行っている身体強化を、鬼殺隊は酸素を使って行っていた?」

「まあ……それで納得出来るなら?」

善逸は憂太の解釈の仕方に呆れながらも内緒話を続けた。

「で、全集中の応用技術の1つが『全集中・常中』。睡眠時を含む四六時中全集中の呼吸を維持し続ける方法だよ」

「?!」

憂太は驚きを隠せなかったが、善逸は構わず憂太に問う。

「炭治郎は何を焦ってる?」

「!?」

「だってそうだろ?炭治郎には既に無下限呪術がある。それに、この前お前が秋場雪賀にバレずに密かに実行した攻撃にも、炭治郎はほぼ完璧に対応した。ただ秋場雪賀を護衛するだけなら、その時点で既に実力過剰だ。君達が言う呪詛師が本当に呪術高専などの正式かつ大規模な講習機関を利用していないと仮定しての話だと尚更だ」

「けど……炭治郎ちゃんはこれ程の圧倒的優勢に満足していないと?」

首を縦に振る善逸を見て困り果てる憂太。

善逸の疑問は、鬼舞辻 無惨が平安時代から続けている悪行の数々と直結しているからだ。

 

なんとか善逸の質問をはぐらかしてお茶を濁した憂太は、再びあのファミレス(既に『元』が付くが)を訪れた。

そして思い出す、現場検証を行った補助監督達の見立てを。

「例の鬼が付けたと思われる傷から検出された残穢を分析した結果、1級案件である事が判明しました」

報告を聴いた憂太が訊ねる。

「それ、どっちの意味?」

「どっち?……とは?」

「同じ1級でも、呪霊と呪詛師じゃ大違いだよ」

「あー……」

1級呪術師は、通常兵器換算で『戦車でも心細い』とされる1級呪霊を祓えるから1級なのである。

それを知っているからこその質問。

もしも、例の幼女鬼が1級呪霊ではなく1級呪詛師だとしたら、幼女鬼は十二鬼月より厄介な鬼と言える。

善逸から預かったファイルが重く感じる憂太であった……

 

菅田真奈美と言う呪詛師が少々困った表情をしながら夏油の許を訪れた。

「夏油様、美々子からの報告によると、全集中・常中習得のコツが炭治郎の手に渡ってしまった様です」

それに対し、夏油は明るく笑った。

「乙骨の奴、漸く竈門炭治郎の育成に本腰を上げたか?」

「ですが、全集中は術式ではありません。下手にヒノカミ神楽を使いこなし過ぎると、炭治郎が無下限呪術に頼らなくなる危険性も有ります」

真奈美の危機感に対し、夏油の見立ては楽観的であった。

「いや、竈門炭治郎は3つとも使うよ。何せ、彼女の怨敵(てき)は、鬼舞辻 無惨(あいつ)だよ」

夏油の指摘を聴いて竈門ベーカリーの悲劇を思い出す真奈美。

「寧ろ、竈門炭治郎は使える武器が増えて万々歳だと思うよ」

「確かに、無惨は竈門炭治郎の親兄弟を皆殺しにしています」

「それに、全集中・常中が竈門炭治郎を黒閃へと導くかもしれないよ」

夏油の見立てに驚く真奈美。

「黒閃!?もしそれが可能なら、炭治郎と呪力の核心との距離はかなり縮まります」

「だろ?」

その時、夏油のスマホが鳴った。

「もしもし、夏油傑です」

電話の相手は枷場菜々子であった。

「美々子が連れて来た鬼、すげえよ!特級呪霊を2匹も取り押さえちゃったよ」

「直ぐ往く。後で取り込む」

 

炭治郎と激闘を繰り広げた幼女鬼が、長髪に身体中継ぎ接ぎだらけの青年とまるでクトゥルフ神話のクトゥルフの様な特級呪霊に向けて二丁拳銃を構えていた。

「術式を使う鬼か……興味深い」

余裕を気取る青年に反し、特級呪霊は自身が置かれた窮地に対して怒り心頭だった。

「貴様あぁーーーーー!鬼舞辻 無惨にこき使われるだけが取り柄の偽りの鬼の分際でえぇーーーーー!」

だが、そんな怒号を幼女鬼は一蹴する。

「無駄だよ。夏油様がもう直ぐお前達を食べちゃうから」

「『お前』って言うなあぁーーーーー!我々には名前があるのだあぁーーーーー!」

それを聴いた夏油がクスクスと笑う。

「そう言えば、そろそろ幼女鬼(きみ)の呼び名を考えなくてはね」

勝手に仇名を付けられると勘違いした特級呪霊が必死に叫ぶ。

「勝手な事をするな!我の名は陀艮、ぐ!?おお?」

だが、幼女鬼との戦いで弱っていた事が仇となり、陀艮はまるで空中で咀嚼される様に、細かく引きちぎれながら夏油の掌へと吸い込まれていく。

その隙に青年が夏油に触ろうとするが、幼女鬼が青年の腕に銃弾を複数撃ち込み、その銃弾を火に戻した。

「ぐおぉ!?」

「なるほど。君は随分面白い術式をお持ちの様だ」

「僕は人間から生まれた呪霊だからね。君が何を企んでここに来たのか、手に取る様に解るよ」

「本当にそうなら、君は攻撃ではなく逃走を選ぶべきだった。もう……手遅れだけどね」

夏油がそう言うと、青年もまた、まるで空中で咀嚼される様に、細かく引きちぎれながら夏油の掌へと吸い込まれていく。

「こいつの術式の正体を知ったら、無惨様は泣いて喜ぶだろうね」

そして、夏油は手にした2体の特級呪霊を球体に変え、大きく口を開けて飲み込んでいく。

 

後日、善逸が教室に入ると、

「おはよーう」

炭治郎と椿が超巨大瓢箪を吐息で風船を膨らませる要領で破壊した。

「おい!?」

一般学生が大勢いる場所で人間離れした芸当を行う2人にツッコむ善逸。

「何やってんだお前ら!?怪しまれるだろ!」

(乙骨憂太の奴、竈門炭治郎だけでなく寒崎椿にも全集中・常中のコツを教えたのか!?)

が、善逸の危惧などどこ吹く風と言わんばかりに周りの生徒達が大盛り上がり。

「すっげぇー!お前らなら、ネロナ・イム聖にも勝てるんちゃう?」

「逃げ若の足利尊氏もいちころだろ!?」

「お前達がSAKAMOTOの代わりに有月憬をやっつけてくれよぉー」

予想外に大丈夫だったので、善逸は呆れながらも納得する。

(ここはやはり、欲しがってる者に預けるのが得策って訳か?)

ただし、嘴平伊之助だけは強気であった。

「だったらこの俺様を倒してみろよ!」

伊之助は炭治郎達を褒めてる連中の言葉が只のたとえ話だと侮っているが、椿は兎も角……

いや、サマーが掛けた12億の懸賞金に釣られた呪詛師から秋場雪賀を護らなきゃいけない以上、善逸達は漫画の登場キャラクターの様な敵と戦っていると自負出来てしまうと言う最悪な事態にいる事を自覚する必要がある。

(バカ猪め)

で、結局はプロレス対決では全集中・常中を習得した椿の圧勝だった。

「1。2。3。はい、こっちの勝ち」

善逸がレフリー役で場を収めようとする中、カンナが窓越しに廊下からその様子を視ていた。

「はいはい!みんな静かに!そろそろ教室に戻りなさい!」

「オラ!早く教室に入れェ!」

カンナの催促と不死川の怒号を聞いて慌てる生徒達。

「えぇー!?もうそんな時間!?」

「じゃあな!」

「やべぇ!1限目は化学だ!」

カンナは今日の炭治郎の行動が非常に怖かった。

何故生徒達に全集中・常中を披露したのか?その真意が。

(何故こんな目立つ場所でわざわざ……)

カンナは嫌な予感がした。

(これは誘いか?だとしたら、誰を?)

炭治郎の経歴を知る者ならまず鬼舞辻 無惨を想像するだろう。

鬼の敵がすくすくと育って無惨の頚を狙える位置に確実に向かっている事をアピールして無惨に刺客を送り込ませようとする、自分の命を囮とした命賭けの罠。

だが、カンナは別の意図も脳裏に有った。

(まさか……私達の潜入観測に気付いて……)

確かに炭治郎はカンナの正体に薄々気付いているところはある。だが、それを晒せるだけの武器が無い。

カンナもカンナで、雪賀殺害争奪戦に参加する意図が無いとは言え呪詛師認定を受けている身なうえに、炭治郎が無下限呪術をどこまで使いこなせるかを観察する任務がある。

どっちも決め手に欠ける状態のまま、お互い笑顔で返し合うのであった。

(ん?炭治郎は小夏カンナに関して何か気になる事でもあるのか?)

「はーい。それでは授業を始めまーす」




原作との相違点

●陀艮

・銃鬼と戦い敗北。
・夏油傑に食われた。

●竈門炭治郎

・2009年7月14日生まれ。
・竈門家長女。
・実家はパン屋。
・2023年7月23日に乙骨憂太に保護され、憂太の許で約1年8か月ほど修行して無下限呪術と六眼の基礎を叩きこまれた。
・更に、日下部篤也と禪院真希にヒノカミ神楽の基礎を叩きこまれた。
・2025年、秋場雪賀の護衛を命じられて私立善根高等学校に入学した。
・銃鬼との戦いの最中に夏油傑に見せられた竈門炭十郎の幻影の助言をヒントに反転術式のコツを掴み、術式反転「赫」を取得した。
・ナイト・エージェンシー(『スパイガール!』参照)に依頼して集めさせた資料を参考に『全集中・常中』を習得した。
・『スパイガール!』における『雪乃晴』に相当する人物。

●寒崎椿

・本作オリジナルキャラクター。
・秋場家の護衛をしている一族出身。
・主な任務は秋場雪賀の護衛。
・高身長でグラマーなイケメン女子。
・ナイト・エージェンシー(『スパイガール!』参照)が調査・収集した資料を参考に『全集中・常中』を習得した。
・『坊ちゃん、困ります!』における『七実』に相当する人物。

●伊黒小芭内

・私立善根高等学校化学教師。
・それ以外は『キメツ学園』とほぼ同一。
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