笑術廻戦~もしも竈門炭治郎が五条悟だったら~   作:モッチー7

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第20笑:詭弁的家族愛と炭治郎の義憤

憂憂がかき集めた呪術師達の猛攻に零余子が劣勢となり、時透が漸く粟坂を撃破した頃、炭治郎は累の手下の鬼達と戦っていたが、

「ヒノカミ神楽、飛輪陽炎!」

(やられた!あの人形が1番速くて強いのに!)

こちらの戦いも炭治郎が優勢だった。

「術式反転、あ……」

追い詰められた母は必死に策を練ろうとするが妙案がまったく浮かばない。

(殺される!考えて……)

だが、考えれば考える程……那田蜘蛛山での苦痛と苦悩しかない生活しか思い出せない。

那田蜘蛛山での生活は、累に恭順を示した鬼達が、言われるがままに容姿を作り変えてそれぞれが母・父・兄・姉役を演じているだけの歪な日々だった。

母だって元は幼女の鬼だったが、累の命令で容姿を変えて大人の女性の姿になっている。顔は累によって顔面を剥がれて作り変えられている。

血鬼術も累から蜘蛛の形にした力を飲み込む形で与えられたもので、自身で獲得した血鬼術ではない。

正に偽物だらけの人形の様な日々だった。

(ああ……でも……)

母の体臭から何かを感じだ炭治郎。

(不味い!この匂いは!)

「間に合え!術式順転、蒼!」

後から撃った蒼で先に撃った赫を相殺・消滅させようとする炭治郎。

(間に合え、間に合え、間に合え……間に合えぇぇぇぇ!)

「停まってえぇーーーーー!」

だが、炭治郎の願いに反して赫と蒼が融合して茈色の閃光へと姿を変えてしまった。

「なんでえぇーーーーー!」

対する母は、

(死ねば解放される!)

累から解放されたい思いから一切の抵抗をせず、嬉々として茈色の閃光を浴びた。

「ダメ!避けて!」

炭治郎の懇願虚しく、母は虚式『茈』をもろに食らって消滅した。

「十二鬼月はあの女だけじゃない。もう1人いるわ。気をつけて」

「え?」

「それと、私をあいつから遠ざけてくれて、ありがとう」

歓喜の涙を流しながら嬉々として消滅する母からの感謝の言葉は、炭治郎の無惨に対する怒りに油を注いだだけだった。

(哀しい匂いだ……こんな哀しい匂いを汚物辻は私利私欲の為に撒き散らしているのか……許せない、許せない、許せない!)

「十二鬼月……珠世さんが言っていた汚物辻の側近。汚物辻の血もかなり濃い筈。そいつらの血を手に入れて、鬼を人間に戻す薬を完成させ、必ず汚物辻という呪いを、完全に祓う!」

(だが、その前に……)

炭治郎は母が消滅直前まで立っていた場所に向かって合掌しながら黙祷した。

(ごめんなさい……貴女は、間に合わなかった!だから、この私を怨んでくれても、かまわない!)

 

長々と黙祷している炭治郎を父の剛腕が襲う。

「オ゙レの家族に゙近付くな゙あぁーーーーー!」

だが、炭治郎が纏う無下限呪術はその様な悪しき邪な攻撃を徐々に減速させて炭治郎に触れさせない。

「!?」

「……嘘を吐くな。恐怖で雁字搦めに縛り付ける事を『家族の絆』とは言わない!その根本的な心得違いを正さなければ、お前達の欲しい自由(もの)は手に入らないぞ!」

父は近くにあったベンチで炭治郎を何度も殴ったが、無下限呪術に護られた炭治郎には当たらない。反則じみた鉄壁の防御。

それでも懲りない父は、近くの壁を破壊して配線を炭治郎に圧し付ける。

勿論、当たる訳も無い。感電して無下限呪術の使い手が死ぬなら、誰も苦労はしない。

「……言い忘れてたけど、私の仲間はお前が思っているほどヤワじゃない。家族も仲間も、強い絆で結ばれていればどちらも同じ様に……尊い!」

炭治郎が漸く父に反撃した。

「ヒノカミ神楽、斜陽転身!」

黒い火花は本来、微笑む相手を選ばない。

だが、炭治郎の人々を次々と殺して鬼達から自由を奪う鬼舞辻 無惨への義憤は黒い火花の意思を捻じ曲げ、ヒノカミ神楽に黒閃を宿らせる。

鬼は黒い火花に嫌われている!

屈強な体格を誇る筈の父であったが、頑強過ぎる皮膚も虚しく思いっきり吹き飛ばされる。

そして黒閃を決めた炭治郎は、その手応えが残っている内は、ゾーンの全能感に浸り続ける。

「ヒノカミ神楽、陽華突!」

父はまたしても炭治郎に吹っ飛ばされ、背中から壁にめり込んでしまう。

そして……炭治郎は顔面が蜘蛛そのものに変貌している父を小馬鹿にする。

「その顔から察するに、お前、あまり人に好かれた事が無いだろ?周りの人を大切に出来ない奴には何も成し遂げられない」

「オ゙レの家族に゙……近付くな゙あぁーーーーー!」

形勢は完全に炭治郎に有るのに、懲りずに再び炭治郎を殴る父。

「顔を馬鹿にされた事より存在しない記憶に反応する?本当はその十二鬼月の事が怖いんだろ?」

父は結局、無下限呪術と黒閃に護られた炭治郎に何も出来ず、腹に受けた黒閃を宿らせた掌底から放たれた赤い光をもろに食らってしまった。

「術式反転、赫」

赫は父の身体を貫通して腹部に巨大な穴を開けた。

その直後、女性の悲鳴が響く。

(痛そうな臭いだ!しかも、こいつからじゃない!誰が誰を傷付けてる!?)

臭いを頼りに悲痛な悲鳴の主を探す炭治郎。

その姿を見送る余裕も無く、父は仰向けのまま動かなかった。

 

「ギャアァーーーーー!」

悲痛な悲鳴の主は姉だった。

父を圧倒する炭治郎に臆した姉は逃走を図ろうとしたが、それが累にバレて血鬼術を使った鉄拳制裁を受けていた。

「……何をしてるの?ねえ、自分の仲間に何をしてるの?」

炭治郎の質問に、累はけたたましい笑い声を上げた。

「あっはっはっはっは!仲間?はっはっはっは!」

何が面白いのか、大口を開けて笑う累。ひとしきり笑ったところで、突然、眼光鋭く炭治郎を睨みつけた。

「そんな薄っぺらいモノと同じにするな。僕達は家族だ。強い絆で結ばれているんだ」

だが、炭治郎も負けてはいない。

「嘘を吐くな!血の繋がりが無ければ薄っぺらいだなんて、そんな事は無い!お前からは恐怖と憎しみと増悪の臭いしかしない!紛い物……偽物だ!」

その途端、姉は慌てて炭治郎に抗議した。

「え?言っちゃう?バカなのか。え、え?バカなのか?全部、言っちゃう?しかも、ちょっとなんか、ハードな仕上がりにしてない?」

だが、姉の抗議虚しく炭治郎の悪口は止まらない。

「それにアンタ、さっき私が倒したおばさん……もとい!お嬢ちゃんが言っていた十二鬼月でしょ?アンタの血、()らせて貰うよ!汚物辻と言う忌々しい呪いを完全確実に祓う為に!」

「出来るならやってごらん。十二鬼月である僕に……勝てるならね」

「必ず勝つ!汚物辻が犯した悪行は全部祓う!」

炭治郎と累が臨戦態勢をとる中、姉だけは慌てふためいた。

「いや、冗談です!やめて!お願いだから!」

姉の訴えも虚しく、先に仕掛けたのは累であった。

累の手から出す糸は生きているように自在に動き、敵を切り刻む鋭い刃にもなると同時に、鋼鉄並みの硬度を誇る攻防一体の武器となっている。

けど……当たらなければどうということはない!

「な!?」

(触れられん?寸前で停まる)

相変わらずの無下限呪術の鉄壁さに、累は正面からの正攻法では勝てないと判断。

全ての糸を壁に突き刺し、糸が壁の中を通って炭治郎の両横を襲う。

「それも、無駄!」

全速力で累の眼前へと走る炭治郎。

隙ありとばかりに炭治郎が累の頸に一閃!

とはいかず、炭治郎が振るった刃は累の頸を斬る事無く……ボロボロに朽ちて砕け散っていく。

下弦の伍に登り詰める程長生きした累の血鬼術である『糸』は、シンプルであるが故に、強度も上級に相応しいものを持つ。

一方、16年しか生きていない炭治郎が振るい続けてきたその刀は、呪術高専の武器庫に保管されていた、生徒達にも扱える類の物。

経験と、道具の質。

それらはこの戦いにおいて、累と炭治郎の絶対的差であった。

「お前は一息では殺さないからね」

 

呪力がいくら強くても、取得した術式がいくら優秀でも、実戦経験の未熟さは否めない。至近距離での得物の喪失、累の手には鋼鉄並みの硬度を誇る糸。これこそが累の読み筋。この戦いにおける、投了図。

「血鬼術、殺目篭」

してやったり、と累は口端を吊り上げる。

 

だが、そんな計略や定石は、炭治郎の義憤と無下限呪術には関係無かった。

 

「え?……」

累の目の前に映ったのは、炭治郎の眉間。

刀が無かろうと、炭治郎がやる事は変わらない。怒っているのだから、目の前の鬼を倒すのだから、刀が無ければそれ以外に頼れば良い。

咄嗟に、累は無数の赤い糸を召喚し、防御を試みる。

「血鬼術、刻糸輪転」

単なる打撃であれば、難なく返り討ちにしただろう。

累が読み違えたのは、無下限呪術の強度と炭治郎の怒りの純度。

飛んで来た赤い糸は、炭治郎の手前で止まり、砕け散る。物理攻撃は常に、炭治郎との間には『無限』の距離を置かれて無意味となる。反則じみた鉄壁の防御。

更に、ゾーンに至った時、呪術師が引き起こす現象がある。

呪力を乗せた打撃を放つ時、打撃との誤差0.000001秒以内に呪力が衝突した際に生じる黒い光。

 

黒閃!

 

防御を貫き、累の顔面を頭突きが捉える。空間が罅割れる様な衝撃が、漆黒の余波を撒き散らして彼を激しく弾き飛ばす。

(最硬度の糸を……斬られた?そんな筈はない!)

想定外の展開に困惑して狼狽する累に対し、累の全てを否定する様に炭治郎が先程倒してしまった累の手下について語り始めた。

「私はさっき、たまたま偶然出来た新技でお前に操られていた奴隷を倒したんだけど、そいつ、その新技から逃げなかったよ……まるでお前から逃げる様にね!」

炭治郎はあの時の茈色の閃光を再現しようと試みる。

「術式順転、蒼。術式反転、赫」

引力と斥力の融合によって生成される仮想の質量。呪術界御三家の1つである五条家の中でもトップシークレットな複合術式。

その名は、

「虚式……茈!」

圧倒的破壊力は累の頸から下全てを容赦無く抉り取った。

「ゲフッ!?」

勝ちを確信したかの様に歩き出す炭治郎であったが、その背後に、聞こえる筈のない声が響いた。

「僕に勝ったと思ったの?可哀想に。哀れな妄想して幸せだった?僕は自分の糸で頸を切ったんだよ。お前の呪術が頭まで達するその前に……」

炭治郎は累の強がりを最後まで聞く事無く、累の眉間に愈史郎から貰った採血用ナイフを、ずぶりと深く突き刺した。

「もう何をしても無駄だよ」

炭治郎は、累の体を掴んだまま走り出した。




原作との相違点

●母蜘蛛

・令和7年まで生存。
・竈門炭治郎をおびき寄せる盗撮被害者をやらされた。
・最期は累から解放されたい思いから一切の抵抗をせず、偶然出来た茈に身を晒した。

●父蜘蛛

・令和7年まで生存。
・ナイトプール襲撃計画では秋場雪賀やナイト・エージェンシー(『スパイガール!』参照)の足止めを任されていたが、粟坂二良と違って自分勝手に動く。
・竈門炭治郎と(零余子や粟坂二良の許可無く)戦うも赫で腹に穴を開けられた。
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