笑術廻戦~もしも竈門炭治郎が五条悟だったら~   作:モッチー7

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第25笑:屈強の無駄遣い

時透無一郎は前回のナイトプール決戦の詳細を鑑み、遂にある場所を訪れる事を決意する。

「と、その前に、乙骨さんには悪いけど、竈門さんにもあの場所に関する話をさせて貰うよ」

憂太はあからさまに嫌そうな顔をする。

「まさかとは思うけど、君達(ナイト)も炭治郎ちゃんの成長を早める心算か?」

「求めているのは僕じゃない。戦況だよ」

時透の即答に憂太はあんぐりとする。

「鬼達がこんなに早く勢力を回復して秋場雪賀護衛任務に此処まで支障を与えるとなると、もう節約なんて言っていられない。使える武器は全て使わせて貰うよ。非情と罵るのであれば、お好きにどうぞ」

そんな時透に全否定された憂太の師匠心を無視するかの様に炭治郎が質問する。

「はい!」

「はい、竈門さん」

「貴方は鬼殺隊の居場所を知ってますか?」

時透は残念そうにこう答えた。

「正確に言えば残党だよ。既に断絶してしまった豪族『産屋敷家』の後ろ盾すら失い、『鬼舞辻 無惨被害者の会』と名を変え、刀鍛冶の里と呼ばれる山奥の秘境で細々と再編成準備中だよ」

炭治郎は自分の耳を疑いたかったが、時透の体臭から嘘の臭いがしない事と以前戦った鬼の台詞を思い出してしまった事で、それが現実だと思い知った。

「……だとしたら……藤襲山で出遭ったあの鬼の質問と辻褄が合っちゃう」

「藤襲山?鬼殺隊剣士及び隊員となるための最後の試験会場だったあの山に入ったのか?」

「はい。そこで遭った大玉の様な巨大な鬼に、『今年は昭和何年だ?』と訊ねられました」

その途端、善逸は炭治郎の実年齢を疑った。

「昭和!?君が藤襲山に入ったのは、何年前だ?」

「3ヵ月前ですけど」

時透は残念そうにこう呟いた。

「やはりな」

「……時透先輩?やはりって?」

「藤襲山に幽閉された鬼共は、令和どころか平成すら知らない……そう言う事だろ?」

「……多分……きっと……」

炭治郎は自信が無かったが、時透は確信した。

「つまり、年号が平成になる前から新人を藤襲山に放り込む余裕を失った」

時透の口から出る理不尽な現実に対し、善逸は声を荒げる。

「それじゃあ何ですか!?鬼殺隊以外が鬼を斃せと、そう言う事ですか!?」

「残念ながら、現状はそうなる」

「糞!何が鬼殺隊だよ」

「それだけ、罪深いって事だよ。大日本帝国が鬼殺隊に対して行った結果的な妨害が」

善逸は時透に向ける鋭い視線が更に鋭くなったが、それに引き換え、炭治郎はピンとこなかった。

「はい!」

「はい、竈門さん」

「だいにっぽんていこくって何者なんですか?」

炭治郎の質問に唖然とする時透。

「え?……中学校で習わなかった?」

 

大日本帝国が日本の昔の国名だと説明したうえで、現時点で推測される鬼殺隊編成経緯と弱体化原因を語る時透。

「鬼殺隊は元々、産屋敷家が鬼舞辻 無惨を暗殺する為に結成した私設軍隊だったんだよ。ま、その結果は知っての通りだけど。その理由は産屋敷家断絶に関わる厄介な呪いに有った」

「呪い?」

「誰がどう言う経緯で産屋敷家にあんな非道い呪いをかけたか知らないけど、とにかく、鬼舞辻 無惨が鬼化した辺りから産屋敷家関係者の享年が激減し、享年が30未満の者が続出したんだ。因みに、享年とは死亡した時の年齢の事だよ」

炭治郎も憂太も絶句した。

「30!?」

「僕達の世代から観たら短いな」

「僕もそう思うよ。だからこそ、産屋敷家は鬼舞辻 無惨暗殺に心血を注いだ。金に物を言わせて屈強や聡明を掻き集めて鬼殺隊を結成したんだ。だが……」

「ある時期から産屋敷家は鬼殺隊を存続出来なくなった。そうですよね?」

善逸の質問に時透の言葉が重くなる。

「……その原因こそが、大日本帝国。つまり、昔の日本政府だよ」

今度は炭治郎の声が荒くなる。

「何で日本政府は汚物辻 なんて悪党の味方をしたのよ!」

時透は残念そうにこう答えた。

「……日中戦争と太平洋戦争に、勝つ為さ」

その答えは炭治郎の怒りの炎に油を注いだ。

「戦争に勝ちたいから……たったそれだけの理由でなんの罪も無い人々が鬼に食われるのを、指を銜えて見てたって言うの!」

「そうだ!だから、戦争発生はどんな手を使ってでも絶対阻止だ!」

時透の体臭から何かを感じた炭治郎は、黙って聞き手に徹した。

「元々、産屋敷家は鬼舞辻 無惨と鬼を歴史の闇に葬る為に鬼殺隊に政府非公認組織と言う設定を与えていた。そこら辺の集団暴行が史実に掲載されないみたいな事を狙ったんだろう。結果論的にはそれが失敗だった。鬼殺隊が行っていた鬼狩猟を大日本帝国に無駄な遊びと断じられ、そんな事をしてる暇が有ったら鬼畜米英を成敗しろと言いくるめられ、鬼殺隊が搔き集めた屈強や聡明が次々と旧日本軍が没収した」

「その結果が、本来駆除すべき鬼の野放しと鬼殺隊が鬼の撲滅の為に使う筈だった屈強や聡明がアメリカ人駆除に使われてしまったと?」

「……そうだ。現代風に言えば、国内のアーバンベア被害を無視しながら他国と戦争するだよ。全くもって屈強の無駄遣いだ」

そこへ、善逸が冗談じみた追加説明を加えた。

「しかも、本当に解決すべき問題点を無視しながら本来殺さなくてもいい人命を大量超虐殺とは。しえぇー!嫌だ嫌だ。戦争って本当に野蛮」

 

「けど、全ての大人がそれを良しとした訳じゃない。大日本帝国はもっと早く降伏するべきだったと考える人も帝国陸軍の中に確かにいたんだ。僕達ナイトにも深く関わる酢堂綱正陸軍少将もその1人だよ。ま、それも日本の為であって鬼殺隊の為じゃないけどね」

「で、その人は実際に何をしたと言うんです?」

「早い段階で日本の敗北を察して早期降伏するべきだと考えていた酢堂少将は、陸軍中野学校生の質を向上させ、国内から日本を戦争が出来ない国に作り変えようと考えたんだ。彼は窪田兼三少佐や畑中健二少佐などの本土決戦賛成派の反対を押し切って帝国陸軍を去り、密かに陸軍中野学校分校を作り反戦主義者を増やす為の工作員を育成して来たんだ。それこそが、僕達ナイト・エージェンシーの前身だよ」

「ナイトって、そんな昔から在ったの!?」

炭治郎がナイト・エージェンシー創設理由と太平洋戦争との因果関係に驚く中、憂太はある者達にとって不都合な矛盾点に気付いて考えこんだ。

「ん?乙骨さん、僕の話に何か違和感でも?」

「いや……一見すると辻褄が合ってる様に聞こえるけど、1つだけ辻褄が合わない部分があるんだよ」

その言葉に善逸が首を傾げた。

「それじゃあ何か?第2次世界大戦以外にも鬼殺隊大破の原因が有るとでも?」

だが、憂太は首を横に振った。

「いや、そうじゃない。太平洋戦争の余波のせいで鬼殺隊が滅びたと言うのであれば―――」

「何で汚物辻 はまだ生きているのか?太平洋戦争の最中の日本が何故鬼を利用しないのか?ですか?」

だが、憂太は首を横に振った。

そこで時透が確信する。

「驚いたよ。君の様な特級呪術師がその言葉を口にするなんて」

それには善逸も納得した。

「つまり、第2次世界大戦のせいで鬼殺隊が大破しちゃったのに、呪術高専は今も平然と建っているのか……そこが気になると?」

「え?」

憂太の疑問は炭治郎にとっては予想外だったが、善逸は「確かに」と思った。

「言われてみればそうだな。鬼より強い兵士や兵器を欲しがっている政府が、呪術と言う強大な力に目が向かないのは不自然だ」

しかも、憂太は自身の疑問の答えを既に持っていた。

「上層部や御三家が伝統や地位を駆使した巧妙な立ち回りで、鬼殺隊や鬼達が味わわされた戦力没収を上手く回避した。そう言う事だろ?」

憂太の発言に怒りが籠る。

それを視て時透が俯く。

「自己保身や権力維持を優先する腐敗政権が生み出した悲劇……僕達ナイトの真の目標、酢堂綱正が目指した反戦浸透はまだまだ道半ばの様だね?」

 

時透はふと自分のミスに気付く。

「あ。そんな事より、竈門さんに『鬼舞辻 無惨被害者の会』の本部に往く気は無いかを訪ねるのを忘れてた」

時透がそれを思い出してしまった事に憂太は困り果てて頭を抱えた。

「話を現代に戻さないで!まだ早いから!」

「いえ!寧ろ遅いくらいです!」

炭治郎に食い気味に反論され、憂太があんぐりと口を開けて焦った様子を見せた。

「大人達が間違った戦争や権力争いをしたせいで、鬼や呪詛師の被害がどんどん拡大していると言うのであれば、私達子供が修正し改善していくべきです!自分達の子や孫に悪い大人の汚い背中を見せない様に」

それを聴いた時透が憂太の肩を叩いた。

「君の負けだよ?乙骨さん。君は秋場雪賀護衛任務を3年間()らせて、ゆっくりと竈門さんを育てる心算だったのかい?」

「う……」

「だとしたら、君は現状と竈門さんを舐め過ぎだ。子供の成長は、時に大人の想定を大きく超える時がある。今回は正にそれだよ」

それは良い事なのだが、善逸はある問題点に気付いて困惑する。

「それはそれとして、炭治郎が鬼舞辻 無惨被害者の会に行くとなると、炭治郎が夏休みの間は秋場雪賀護衛任務から離れる事になりますけど?」

「不安かい?」

「不安と言うより、正直言って炭治郎の無下限呪術がメッチャ便利だったんですけど」

時透が少しだけ考え込む。

「……確かに……秋場雪賀暗殺任務=無下限呪術と戦うは丁度良い抑止力になったのは事実だ。サマーが秋場雪賀に12億の懸賞金を賭けた割には呪詛師の集まりが悪いのは、多分それが原因だろう。つまり、無下限呪術を秋場雪賀護衛任務から外したら、ナイトプールで始末した鬼達の様な馬鹿が蛆虫の様に大量に湧くだろうね」

「なら―――」

「だからと言って、黒幕には手を出さずに実行役だけを倒すのは、ただのもぐら叩き、いたちごっこだよ。だから闇バイトや特殊詐欺は亡くならない」

「う……」

善逸が冷静に話を聴く中、反論の余地を失った憂太が困って固まってしまった。

「つまり、結局は炭治郎の鬼舞辻 無惨被害者の会往き決定と」

「で、私はそこで何をしたら良いんですか?」

時透が真顔で答えた。

「鬼を殺せる唯一の武器である日輪刀を手に入れて欲しい。欲言えば、日輪刀の製造方法もだ」

 

数日後、私立善根高等学校が夏期休暇に入った途端、炭治郎が禰 豆子を連れて鬼舞辻 無惨被害者の会の本拠地である刀鍛冶の里へと向かった。

ただし、時透は1つ心配があった。

(その娘も連れて往く気か?バレたら拙くないか?)




原作との相違点

●鬼殺隊

・日中戦争および太平洋戦争の煽りを受けて人材不足に陥った。
・令和7年時点で『鬼舞辻 無惨被害者の会』として細々と活動しつつ再結成を準備している。

●産屋敷家

・日中戦争および太平洋戦争の煽りを受け、昭和20年頃に断絶。

●刀鍛冶の里

・令和7年時点で『鬼舞辻 無惨被害者の会』の本部として利用されている。

●酢堂綱正

・安永航一郎による日本の漫画作品『陸軍中野予備校』からのゲスト出演。
・ナイト・エージェンシー(『スパイガール!』参照)の前身である陸軍中野予備校の創設者。
・大日本帝国陸軍少将だが隠れ反戦主義者で、降伏の遅れによる戦争被害拡大を憂いでいる。

●陸軍中野予備校

・安永航一郎による日本の漫画作品『陸軍中野予備校』からのゲスト出演。
・ナイト・エージェンシー(『スパイガール!』参照)の前身。
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