笑術廻戦~もしも竈門炭治郎が五条悟だったら~ 作:モッチー7
現在は刀鍛冶の里を本部とする鬼舞辻 無惨被害者の会として細々と活動しながら再結成を遅々として準備していた鬼殺隊であったが、宇田と言う呪詛師が夏油一派に寝返った事で、計3匹の上弦に襲撃されてしまった。
その悪影響は凄まじく、現存する鬼殺隊士の8分の7が世界から消えた事になる。
世界平和を支える黒子を自負するホワイトスパイ集団であるナイト・エージェンシーにとっては痛恨の失態であった。
その失態の元凶である
「あんたらは下がってな。特に若い方、アンタは炭治郎ちゃんに伝えなきゃいけない真実が有るんでしょ?」
九十九の指摘に時透がドキッとする。
(何故それを!?)
「生きな!アンタが炭治郎ちゃんの許に到着するまでの時間くらいは、稼いでやる!」
九十九の宣言に
「冗談は辞めてください。私、
「辞めて欲しいのはこっちの方だよ。非術師全員を殺したところで、世界は一向に良くならない。寧ろ逆だったんだよ」
九十九がこの里の防衛を辞めない事を察した
「そう……君は大分夏油君に心酔してる様だね?……なら!」
その途端、九十九の足下が大きくひび割れた。
「!?」
確かに
確かに十二鬼月は最強鬼ランキングの要素を含んではいるし、
十二鬼月と1級呪術師との差がどれだけ開いているのかも容易に想像出来るのに、目の前には1級を超える特級が仁王立ちで待っているのだ。呪術をよく知る者であれば、間違いなく特級である九十九の圧勝を予想するだろう。
「……最悪」
「化物か!?」
それを観て安心したのか、時透達は漸く炭治郎の許へと駆け出した。
「ここは任せた!」
「その強さの秘訣、後でちゃんと本部に自白しとけよぉー」
「ちょ!?そこの
九十九の善戦のお陰でどうにか
「この辺はまだ損傷軽微と言ったところだな」
「けど、場合によっては時間の問題になるかもね。急ごう」
「あの女が言っていた竈門炭治郎か?」
武部の質問に時透は残念そうに首を横に振る。
「いや……寧ろ炭治郎ちゃんに怨まれにだよ」
時透が今からやろうとしている事は、竈門禰 豆子を乙骨憂太が用意してくれた防護箱から解き放つ事であった。
とは言え、本当はこの里に既に鬼化した禰 豆子を連れて往く事には反対だった。禰 豆子の正体がバレれば必ず騒動の種となり、最悪の場合、鬼に関する調査が手つかずのまま出入り禁止を言い渡される恐れさえあった。
だが、今はそんな贅沢を言っている場合じゃない。
このままではこの里は戦火に焼かれ更地と化し、鬼殺隊に関する真実が闇に葬られてしまう。
そうなれば、鬼に対してなんの対処も出来なくなる。
それを防ぐ為に今から禰 豆子を解き放つのだ。
無惨の思惑から外れる為に。
禰 豆子もそれを察したのか、箱の中で暴れていた。
「あのままじゃ、あの箱壊れるぞ?」
「禰 豆子が自分の出番が来たと感じているのであればありがたいのだけど……許せ、竈門炭治……」
だが、熟練ホワイトスパイとしての勘が、時透の足を停めた。
何かこう……炭治郎を敵に回す以外の理由で死んでしまう。そんな気がしたのだ。
それを裏付けるかの様に、夏油傑が拍手しながらやって来た。
「おめでとう。良く気付けたね」
「チッ!そこの箱の中身も想定済みかよ」
「やられたね。こっちはただでさえ戦力減らされてるのに」
そう言いながら足下に転がっている夥しい死体を一瞥する時透。
「君、これだけ
夏油は悪びれる事無く、やれやれと言った感じで答えた。
「こいつらは、ただの
「ダニィ!?」
「象が蟻を気にしながら歩かないだろ。どんだけ
(何を言ってんだ?)
時透は戸惑いが走った。荒唐無稽とか、そう言う次元の話ではない。倫理、論理、全てにおいて狂っている。
だが、当面の問題は、この窮地をどうやって脱するかである。
しかも、夏油の隣にいる宇田の衣装に違和感を覚えた。
(あの隊士……隣に鬼がいるのに平然としてる。まさか、あの男が内通者か)
宇田の裏切りを察しつつ時透が声を掛けた。
「そこに君、そいつ、鬼だけど」
だが、帰って来た返答は予想された最悪なモノだった。
「ボスの基準は、
(やはり、内通者!)
「うぎゃあぁーーーーー!」
「ん?」
そこへ、大蛇の様な怪物がすっ飛んで来た。
「はぁ!?」
時透が振り向くと、もうもうと立ち上がる煙。
派手に崩れた瓦礫の中から、玉壺がのそりと体を起こす。
「玉壺くん、君はいったい何してるの?」
「見て解れ!」
そこへ、炭治郎が不機嫌そうにやって来た。
「おい、そこの和尚モドキ。今言った事は本当か?」
が、六眼が夏油の正体を炭治郎に告げた途端、炭治郎の顔がみるみる蒼くなる。
(呪霊操術?禰 豆子に群がる呪霊は、あの鬼に操られているのか!?)
炭治郎は例の箱に群がる呪霊達を引き剥がすのが先決だと判断した。
「術式順転、蒼」
時透を禰 豆子から遠ざけていた呪霊達が、炭治郎が発生させた青い玉に吸い採られて逝くのを視て、嬉々として歓喜する夏油。
「おかえり!無下限呪術!」
今の炭治郎にとってはどうでもいい事だ。
それより、『象が蟻を気にしながら歩かないだろ』の件の方が最も重要な事だった。
「そこの和尚モドキ、お前は足下の蟻に見向きもしないと言ったな?」
「そう言う君は、生きる価値が無い
炭治郎はその台詞だけで十分だった。
「ヒノカミ神楽、斜陽転身!」
だが、炭治郎の斬撃は夏油に難無く躱されてしまった。
「君は本当に激情家だね。せっかくの綺麗な顔が台無しだよ?」
女性の顔を貶すのは本当はセクハラなのだが、今の炭治郎にとってはどうでもいい事だ!
「生憎、
対する夏油は残念そうに呟く。
「それって、呪術師が
「無いね。もしもそんな糞感情が有ったら、私はとっくに禰 豆子を見捨てて逃げてる」
夏油が徐々に不機嫌になっていくが、炭治郎は気にしない。
「お前の言ってる事は全部間違ってる。お前が今そこに居る事がその証明だよ。生まれた時は誰もが弱い赤子だ、誰かに助けてもらわなきゃ生きられない。お前もそうだよ和尚モドキ。記憶にはないのかもしれないけど赤ん坊の時お前は、誰かに守られ助けられ今生きているんだ」
そして、炭治郎は自分の声の音量を上げた。
「強い者は弱い者を助け守る!そして弱い者は強くなり、また自分より弱い者を助け守る!これが自然の摂理だ!」
そこへ、1人の男が拍手をしながらやって来た。
「乙骨さん!」
「乙骨?」
本当は乙骨に色々と問いただしたい時透であったが、可能か否かを考えたら、どうしても口が閉じる。
(どの道、死人に口なし。これらの情報を本部に届けなきゃ意味が無い!)
対する憂太は目の前の夏油に集中。
「論破されたな夏油。と言うか」
憂太は炭治郎をチラ見しながら台詞を紡ぐ。
「君は炭治郎ちゃんを急かし過ぎ。勇気と無謀は違うからね」
「そう言う君こそ、人生設計遅過ぎ。お陰で炭治郎は
夏油の非情な言葉が炭治郎を発火させて激昂させる。
「貴様!?」
だが、憂太が強い口調で炭治郎に命じた。
「下がってろ」
「でも、あいつは―――」
「下がってろ!」
憂太の臭いが炭治郎を後退させてしまう。
(物凄い殺気だ!乙骨さん、あの和尚モドキとはどう言う関係なんだ!?)
「そう言えばお前、自分の言い分の事を『選民』と言ったな?」
「ぶっちゃけ、それが事実だよ。数が多いと言うだけで、強者が弱者に埋もれ、虐げられる事もある。そう言う
「でも、炭治郎ちゃんはお前の言い分の事を『啓蒙』と呼んだ。『選民』ですらないと断じたんだよ」
「啓蒙?それじゃまるで、神様になりたいなんて、子供じみた事を言うなって言うのかい?」
「それに、炭治郎ちゃんは優しいからさ、大義の為と称して大勢殺してる啓蒙にとやかく言われたくないんだよ」
「意見の食い違いか?……悲しいね」
夏油と憂太が一通りの舌戦を終えると、夏油がニヤリと笑いながら訊ねた。
「ところで……祈本里香は元気?」
その途端、炭治郎の鼻が流血しそうになる程強烈な激痛に襲われた。
(何だ!?この強烈な殺気は!?祈本里香は乙骨さんにとっての地雷だと言うのか!?)
「戦ってみるかい……そうすれば、おのずと答えが解る」
時透も武部も憂太の強烈な殺気に畏怖してドン引きしていた。
「何が始まるって言うんだ!?」
「……マジかよ?こいつ、本当に人間か?」
炭治郎とナイト・エージェンシーが固唾を飲んで見守る中、憂太と夏油が、約8年ぶりに激突するのであった……