笑術廻戦~もしも竈門炭治郎が五条悟だったら~   作:モッチー7

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第30笑:意外と邪魔な大人モード

乙骨憂太と夏油傑が激突しようとしているのを観て、時透無一郎はこの戦いの結果が刀鍛冶の里と鬼舞辻 無惨被害者の会の命運を決めると判断し、竈門禰 豆子が入っている箱をチラッと視た。

「……すまない、竈門炭治郎」

炭治郎は時透の体臭の微妙な変化から嫌な予感がしたが、既に時透が禰 豆子を保護する箱を開けてしまった。

「うがあぁー!」

禰 豆子は「やっと出番がきた」と「待たせたな」が入り混じった表情で箱から飛び出した。

「禰 豆子!?時透さん!あんたはなんて事を!」

「僕を殺してくれても構わない。でも、あの目の前の敵をここで仕留めないと大変な事が起こるから、少しでも戦力を増やしたいんだ」

「言ってる事が矛盾してますよ!」

禰 豆子は勢い良く飛び出したまでは良かったが、夏油の臭いを嗅いだ途端、急に蹲った。

「禰 豆子!?大丈夫か!?禰 豆子!」

「うぅー」

禰 豆子の脳裏に浮かんだのは、無惨が戯れに行ったあの惨劇……両親が死に、弟や妹が蹂躙され、姉が平凡を捨てて死闘の日々を選んだ最凶最悪の厄日。

無惨に対する怒りが、禰 豆子の身体を急激かつ劇的に変えた。

背は伸び体型はグラマーになり、右側頭部には角が生え、身体の各所に枝葉の様な紋様が浮かんだ。

時透は想定外の事態に混乱を隠しきれない。

「なんだ!?」

憂太もまた困惑しながら呆れた。

「確かに、目の前の夏油を斃すのは最重要ミッションだけど、これは流石に悪手……なのか?」

この中で1番冷静だったのは夏油だった。寧ろ、軽蔑する余裕さえあった。

非術師(さる)にしては頑張るじゃないか。でも―――」

だが、そんな焦りや蔑視は、禰 豆子の怒りには関係無かった。

禰 豆子のパンチが夏油の腹に深々と刺さった。

「ぽ」

(や……やった)

「ぐぅっ」

夏油が読み間違えたのは、禰 豆子の怒り……その純度。

(な、なんや……!?)

夏油の心の声が似非関西弁と化す程、夏油は困惑していた。

(何が―――)

禰 豆子は夏油の胸倉を掴み、殺意に満ちた視線を夏油に向けた。

(!?)

「おっ、お前……」

(いや……何だこの力……)

「は……放……」

「わあああああああああああああああッッ!」

夏油は禰 豆子の頭突きを食らって鼻血を出してしまう。

「鼻ッ……」

禰 豆子は更に、夏油の顔を掴み、夏油の後頭部を思いっきり地面にぶつけた。

「いかん!」

憂太が禰 豆子を羽交い絞めにし、時透と炭治郎が慌てて禰 豆子を取り押さえようとする。

「禰 豆子!戻れ正気に!」

「だぁあああ!」

「竈門禰 豆子!ステイ!ステイ!」

「んああああああッ!」

禰 豆子は憂太に羽交い絞めにされながらも、地面に転がっている夏油を蹴り続けた。

 

そこへ、九十九由基から逃げて来た炎菓(えんか)が乱入した。

「申し訳ございませーん!夏油様ぁー!」

が、夏油にとっては想定内であり、寧ろ「良く逃げ切ってくれた」と褒めたいくらいであった。

「すまないね炎菓、肝心の私がこんな格好で」

そこへ九十九がやって来た。

「よくそのテンションに戻れるね?夏油君」

禰 豆子は九十九の傷口を見て……人喰いの衝動に駆られかけたが、

「うー、があぁー!」

禰 豆子は再び夏油を蹴った。

「があぁー!」

どうやら、無惨への怒りと家族への想いが人喰いの衝動を上回った様だ。

「……ごめん……その子、なんとかしてくれる」

 

禰 豆子をなんとか取り押さえ、いつもの箱に戻した。

「夏油君、君、完全に鬼になった様だね?あの子は恐らく、君の鬼の血に反応したんだと思うよ」

「しかも、今の私は上弦の弐ですからね」

「よくそのテンションに戻れるね」

時透の皮肉は無視された。

「憶えてるかな?世界から呪霊を無くす方法」

夏油の眉がピクッと動いた。

だが、言い出しっぺの九十九は別の事を考えていた。

(さて、お天道様が動く時間を稼がないとね)

九十九は日の出を待ってる事を悟られない様、自分の意見を口にする。

「どんな手段をとるにしろ、人類を1つ上の段階へと進める事になる」

九十九が吐いた到達点、それは、

「人類の未来(ネクストステージ)、それは、呪力からの“脱却”だよ」

対する夏油はそれを強く否定した

「違う。人類全員の“呪術師化”だ。呪力を制御出来ずに呪力を無駄に垂れ流し、無意識に呪霊に呪力を供給し続けている非術師(さる)がいる限り、呪霊の存在は永遠に消えませんよ」

「それだと呪術師の敵が呪霊から呪詛師に変わるだけだと思うがね」

だが、夏油の否定は止まらない。

「たとえ貴女が言う方法で呪力と呪霊が完全に消えたとしても、高位の存在を夢想して『神』と呼んだり、自分より秀でた存在から目を背ける行為は、終わりませんよ」

「呪術師にだって優劣が有ると思うけどね」

「それも、全ての人間がちゃんとルールを守っていれば起こらない事だ。つまり、非術師(さる)は自然の摂理から外れ過ぎて、強者が弱者に埋もれて虐げられる歪な社会を構築してしまったんですよ」

時透が再び皮肉を言う。

「啓蒙だな」

今度は無視されなかった。

「前にも乙骨憂太に言ったと思うが、これは選民であって正当な進化の道筋だよ」

一方、完全に置いてきぼりになった玉壺が困り果てる。

(何を言っているのだこいつら……もっと判り易く説明してくれ!)

 

九十九が待ちに待った時間が漸く来た……日の出の時間である。

「しまった!長話に夢中になり過ぎた!」

普通の雑魚鬼であればこの時点で“詰み”であり、死亡確定である。

だが、夏油は卑しくも特級呪詛師で呪霊操術使い。

夏油と炎菓は直ぐに巨大呪霊の体内に隠れて日光をやり過ごそうとする。

「させるか!」

憂太が目の前の巨大呪霊の腹を斬り裂こうとするが、わざと逃げ遅れた宇田に背後を取られた。

「宇田君……本当はね、君にも生きていて欲しいんだ」

「その言葉だけで十分です。ボス、御自愛を」

すると、宇田は憂太を巻き込みながら自爆した。

炭治郎が無下限呪術を使って生き残りを庇うが、その隙に夏油と炎菓を飲み込んだ巨大呪霊が逃走した。

ここで慌てたのが残された玉壺である。

「ちょっと待て!もう直ぐ日の出!このわたくしが死んでしまうだろうが!」

そこへ、炭治郎がダメ押しの虚式『(むらさき)』を撃とうとする。

「ふざけるなあぁー!わたくしはこんな所で死んでよい下劣な存在ではない!」

そう言いながら、慌てて壺の中へと逃げ込む玉壺。

「逃がすか!虚式『(むらさき)』!」

強大な紫の球がさっきまで玉壺がいた場所を容赦なく抉ったが、玉壺は壺を使った空間転移を得意としており、それを利用した『情報収集能力』や『探知探索能力』にも長けている。

故に、六眼(りくがん)が告げる残酷な現実に歯噛みする炭治郎。

「……逃げられたか……」

 

今回はナイト・エージェンシーの敗北だった。

鬼舞辻 無惨被害者の会の本拠地であった刀鍛冶の里は傷だらけの姿を晒し、鬼舞辻 無惨被害者の会のメンバーの大半は死亡し、鬼を斃す方法は僅かに残る鍛冶師が握るのみとなってしまった。

それに、

「乙骨憂太の事はすまなかった。完全に僕の作戦ミスだ」

時透深々とお辞儀をするが、炭治郎は憂太の事についてはそんなに深く落ち込んでいなかった。

「いえ、私はそうは思いません」

「でも―――」

「あの人は生きてます。と言うか、乙骨さんがあの程度で死ぬ姿がまったく想像できないんです」

「いや……気持ちは解るけど―――」

「私の六眼()を信じてください!乙骨さんは必ず生きてます!」

炭治郎に押し切られた時透は、これ以上傷心に塩を塗る訳にもいかないので話を合わせた。

「解った。信じるよ」

九十九も炭治郎の言葉を信じた。

六眼(りくがん)が言ってるんだ、間違いないだろうよ。それに、あいつは私と同じ特級だ。そう簡単に死ぬとは思えないね」

 

一方、夏油も憂太がまだ生きている事を予感した。

「夏油様、結局は宇田さんの死は、無駄だったのでしょうか?」

「残念ながらね。祈本里香が本当の意味での暴走をしていない以上、主従制約がまだ生きていると視るのが妥当だろうね」

そのまま日差しが入らない場所に逃げ込んだ巨大呪霊が2人を吐き出した。

「ところで夏油様、今回の戦いにおいての無惨の評価はどうなるんでしょうね?」

「んー、炭治郎を取り逃がしたのが痛いだろうね。ま、あの男が無下限呪術の本当の価値にどこまで気付いているのかが焦点だけど」

それを聴いて首を傾げる炎菓。

「それでは、無惨は何故に炭治郎を殺せと?」

「その鍵となるのが……やはりあのピアスだろうね」

そう言って、ふととある仮説に辿り着く夏油。

「もしかするとあのピアス、無惨にとってはとんでもない地雷の形見……かもしれないね」

 

その頃、夏油達に置いてきぼりにされた玉壺も、どうにか日差しが入らぬ場所に逃げ込めた。

「あ、あっぶねー!危うく死ぬところであった!」

玉壺はその原因を思い出し、おもいっきり大袈裟に悔しがった。

「くそぉー!このわたくしが、2度も敗走させられるとは!あいつら百人の命より私の方が価値がある、選ばれし!優れた!生物なのだ!」

とは言え、負けは負けである。

間違いなく今回の敗走は無惨に知られる事だろう。いや、既に知られている可能性すらある。

「このままでは無惨様に顔向けが出来ん!なんとしてでも……せめてあの耳飾りだけでも!」

玉壺はリベンジを誓ったが、上弦の伍であって呪術師ではない彼では、夏油の言う無下限呪術の本当の恐ろしさを知るのは、まだ遠いだろう……

 

そんな事とはつゆ知らぬ我妻善逸は項垂れていた。

炭治郎が刀鍛冶の里にいる以上、暫くは無下限呪術の力を借りずに秋場雪賀を護らねばならないのだ。

それが、呪術界にとってはどれ程のハンデになるのか、もう直ぐその身で味わう事になるのであった。




原作との相違点

●竈門禰 豆子

・2010年12月28日生まれ。
・竈門家次女。
・実家はパン屋。
・2023年7月23日に乙骨憂太に保護され、憂太の暗示(人間は皆家族であり、家族を守り、家族を傷つける鬼を許すな)と反転術式によって人食欲を喪失。
・銃鬼との戦闘時に死んだ母親と深層心理で出会った事をきっかけに自分の血を発火・爆発させ燃やしたい物だけを燃やす血鬼術「爆血」を自分の意志で開花させる。
・鬼舞辻 無惨への怒りが限界地を超えると大人モードとなって暴走する。

●乙骨憂太

・虎杖悠仁や両面宿儺とは無関係。
・『リカ』と『無条件の術式模倣』の時間制限が無くなった。
・2023年7月23日に炭治郎と禰 豆子を保護し、炭治郎に約1年8か月間の無下限呪術と六眼を習得する為の修行を施す。
・また、炭治郎の訓練期間の間、長期の睡眠に入っていた禰 豆子に人間を守るよう暗示をかける。
・『鬼滅の刃』における『鱗滝左近次』と『冨岡義勇』の役割を果たす。
・公式記録では、2017年12月24日に夏油傑を殺害した事になっているが……
・宇田の自爆に巻き込まれて行方不明。

●宇田

・鈴木祐斗による日本の漫画作品『SAKAMOTO DAYS』からのゲスト出演。
・表向きは鬼舞辻 無惨被害者の会のメンバーだが、実際は夏油一派所属の呪詛師。
・最期は、乙骨憂太を巻き沿いにしながら自爆した。
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