笑術廻戦~もしも竈門炭治郎が五条悟だったら~ 作:モッチー7
全身に幾つもの腕を纏った大玉の様な長身鬼と対峙した竈門炭治郎は、鬼からの質問に困惑した。
「……昭和?」
「年号は既にしょうわに変わったんだろ?」
「何故それを……何故ここで昭和100年ネタを……」
「しょうわ100年!?」
大玉鬼は嫌な予感がしながらもしつこく質問した。
「嫌な予感がするがもう1度だけ訊く。今は、しょうわ何年だ?」
「正確に言えば、令和7年です」
「やっぱりいぃーーーーー!」
その途端、大玉鬼は絶叫した。
「アァアアア年号がァ!年号がまた変わっているぅーーーーー!これで何度目だ!?俺は気付いたら既に年号が変わってるを何度繰り返せばいいんだあぁーーーーー!」
「……君……何時からこの山に棲み付いている?」
大玉鬼は急に静かに炭治郎を睨んだ。
(何だ!?怒りの匂いが更に濃くなった筈なのに……こいつ、物凄く冷静だ!)
「何時から……慶応だよ……」
「けいおう?」
慶応とは、日本の元号の1つである。江戸時代最後の元号であり、1865年から1868年までの期間を指す。
つまり、この大玉鬼は最低でも157年もこの山に棲んでいる事になる。
スマホで慶応を調べた炭治郎も、その長さに呆れた。
「それだけ永い監獄の中で、空腹と戦ってきたのか?」
「空腹?」
大玉鬼の言い分におかしな部分を感じた炭治郎の背中が冷たくなる。
「何故首を傾げる!さっきの鬼は何十年も人間を食っていないと言っていたぞ!」
「それは、そいつが鬼狩りになりたがるガキ共に負けたからだろ?でも、俺はずっと生き残ってる。藤の花の牢獄で。50人は喰ったなぁ。ガキ共を」
「50人!?」
『炭治郎ちゃん、基本的に鬼の強さは人を食った数だ。食う程力が増し、肉体を変化させ、『血鬼術』と呼ばれる呪術に酷似した何かを使う者も出てくる』
「この山に暮らす鬼の中では……別格と言う訳ね?」
(って!臆してる場合じゃない!こいつを倒さなきゃ!こいつに食われた人々の為にも!そして……人間を食べる以外の選択肢を奪われ、永年殺人の罪を強制的に背負わされたこいつの為にも!)
「来い!今の内に私を殺さないと、何時か私が鬼舞辻 無惨を祓い殺すぞ!」
炭治郎の決意の叫びに対し、大玉鬼は挑発で答えた。
「そんなにこの俺に喰われたいのか?なら……遠慮無く」
「断る。君が無惨に背負わされた殺人罪を、ここで終わらせる。そして、何年かかろうと必ず、無惨が撒き散らした殺人強制と言う呪いを、完全に祓う!」
大玉鬼は無数の手を伸ばした。
「ん?打撃?」
が、無下限呪術の基礎を習得した炭治郎にとっては無いと同じである。
「何!?」
(触れられん!?寸前で停まる)
それに、
「ヒノカミ神楽!烈日紅鏡!」
∞を描く様に左右対称の鋭い斬撃が、大玉鬼の無数の手に襲い掛かる。
「ぐわあぁーーーーー!?何だ!?その刀は!?」
……一見すると炭治郎が優勢に見えるが、今の炭治郎には大玉鬼を殺せない理由があった。
現在、呪術師が知る鬼が死ぬ条件は、
①日光に晒される
②頚を日輪刀で斬られる
③藤の花の毒を受ける
④鬼舞辻 無惨に殺される
の4つ。
だが、呪術師が実行出来るのは『日光に晒す』のみ。
そもそも、呪術師は日輪刀を持っていないので、何度頸を斬り落としたとて、何も意味が無い。
鬼は藤の花に含まれている匂いや毒素を嫌うが、下手に毒を乱用すると毒の成分が見切られて分解されると言う弱点があり、最悪の場合は無惨を通じた鬼の情報共有能力で鬼に毒を克服されかねない、諸刃の剣と言える。
無惨は鬼の始祖であるが故に、自身が作った鬼の細胞を破壊する事ができ、不死の存在である鬼を問答無用で殺す事ができる唯一の存在である……が、それだって無惨の機嫌次第なので過度に期待する事は出来ない。
つまり、呪術師は『呪術を使って日の出まで粘る』以外に鬼に勝つ方法は無いのである。
その事は、憂太から呪術を学ぶ際に最初に(謝罪付きで)教えられた事だ。
でも、だからと言って、無惨に殺人を強要され続ける生活を余儀なくされている鬼達を、これ以上見て見ぬふりは……出来ない!
炭治郎がそんな事を考えている間に、大玉鬼は炭治郎の足下から複数の手を伸ばすが、対する炭治郎は無下限呪術をトランポリン代わりにして大ジャンプをした。
(たっ、高い!仕留め損なった!)
だが、並の人間であればこの時点で動きが大きく制限されてしまう。
(でもな、空中ではこの攻撃を……躱せない!)
が、それは『並み以下の人間』の場合の話であり、無下限呪術にとってその程度の不利は……無いと同じである。
(はじかれた!)
その間にも炭治郎が大玉鬼に急接近する。
(大丈夫だ。俺の頸は硬い。コイツは斬れない!)
が、それも『並み以下の人間』の場合の話であり、ヒノカミ神楽にとってその程度の不利は……無いと同じである。
「ヒノカミ神楽!碧羅の天!」
炭治郎は日輪の輪郭の様な円形を太刀筋を描いて大玉鬼の頸を斬った。
「嘘ぉーーーーー!?」
ただ惜しいのは、炭治郎の剣が日輪刀ではないと言う事だ……
大玉鬼は心底悔しがった。
(くそっ!くそっ、くそォオ!)
だが……炭治郎の剣は日輪刀ではない。
つまり、炭治郎に大玉鬼は殺せない。
(幸い俺の体は無事!再生出来ればまだ好機はある!早く!早く再生しろ!)
でも、大玉鬼は弱音の念も抱き始めた。
(くそっ……目を閉じるのは怖い……)
対する炭治郎の心を支配するのは、無惨に殺人を強要され続けている鬼への……憐れみ。
「悲しい匂いだ……」
すると、炭治郎は大玉鬼に手を握り始めた。
(!?)
予想外の展開に混乱する大玉鬼だったが、炭治郎の握り方が物凄く優し過ぎたので、大玉鬼の混乱は更に助長された。
「神様……どうか……この人が今度産まれて来る時は、鬼になんてなりませんように……」
その時、大玉鬼は思い出す……
鬼化前は、夜に独りになる事を怖がり、兄に手を繋いでいてほしいと願う無垢な少年であった事が死の間際の走馬灯にて判明……
鬼になり、兄を喰い殺してしまった事を初めは嘆いていたが、それも鬼化が進むにつれ……
「……あれ?兄ちゃんって、誰だっけ?」
と、兄の姿に加え、最後には存在さえも忘れてしまった……
皮肉にも、鬼化後は手をつなぐ相手のいない孤独を埋めようとしているかの様に大量の手を生やし、人を殺める事になってしまった……
そうこうしている内に朝となり、日の出となり、大玉鬼は灰となり、消滅した……
それが炭治郎に鬼を増やす唯一の方法を思い出させる……
鬼の始祖……鬼舞辻無惨の存在を……
『この程度の血の注入で死ぬとは……太陽を克服する鬼など、そうそう作れたものではないな』
そして竈門炭治郎は、生まれて初めて、心から望んで人を呪った!
「……殺してやる……殺してやるぞ……鬼舞辻無惨!私は
後悔噬臍!悲傷憔悴!怒髪衝冠!意趣遺恨!切歯扼腕!千恨万悔!艱難辛苦!狂瀾怒濤!
感情の名前1つでは、とても表せない漆黒の衝動!
魂が放つ、最も深く邪悪な情動!
数えきれない負の想いが、濁り混ざって、黒くなる!
この世界はそれを、『呪い』と呼ぶのだ!
「ブッ殺してやる」
その後、炭治郎は無事に成し遂げた。藤襲山7泊キャンプを。
しかし、炭治郎に喜びは無い。
(甘かったなぁ。藤襲山で8人の鬼に会ったけど、どの鬼も、まともに会話出来る状態じゃなかった。鬼が人間に戻る方法、ちゃんと訊けなかった)
最も欲しい情報を得られぬまま、結局、炭治郎が藤襲山で得た物は、ちゃんと鬼と戦えると言う自信だけだった。
(禰 豆子……ごめん……お前を人間に戻せないままで……)
その時、炭治郎の前を走る少女の姿に、炭治郎は驚かされた。
「あーーーーー!禰 豆子!お前……起きたのかぁ!」
そう。
竈門禰 豆子は鬼舞辻無惨による竈門ベーカリー襲撃事件以降、ずーっと熟睡したまま起きなかったのだ。
それが今、禰 豆子は遂に目を覚ましたのだ。
そして、お互いの無事を確認するかの様に姉妹は抱きしめ合い、炭治郎は禰 豆子を抱きしめながら号泣した。
「お前、何で急に寝るんだよぉ!?ずっと起きないでさぁ!死んだかと思っただろうがぁ!」
憂太はその光景を優しく見守っていた。
「おかえり。頑張ったね」
一方、炭治郎が藤襲山を去っていた頃、鬼舞辻無惨はタワーマンションの中にあるパソコンの前で座っていた。
「SNSとやらも……大した事ないな?……青い彼岸花には、一向に辿り着けん」
そこへ、法衣姿の男性が近付いて来た。
「そんな事より、藤襲山で大変な事が―――」
対して、無惨は心底どうでもいいとばかりに、藤襲山に巣くう鬼達を酷評した。
「今更、あのような牢獄に強制連行される役立たずに何の用がある?」
男性が言おうとしていた藤襲山に関する報告に対する無惨の反応は、たったそれだけだった。
「そうかい?後悔すると思うよ」
「そうは思わぬ。あの様な役立たず如きに苦戦する様な雑魚など、鬼狩りになったところで先が無い。取るに足らぬわ」
無惨はそれだけ言うと、藤襲山に興味が無いと言わんばかりに話題を強引に変えた。
「後それから、青い彼岸花はどこだよ?」
だが、男性はその問いには答えず、
「私はそうは思わない。藤襲山の件は、私の方で調査させてもらうよ」
「必要無い!不要だ。そんな事より、青い彼岸花を探し出せ。そして、見つけ出し次第、黒死牟と共にそこへ向かえ」
男性が去ったのを確認すると、無惨は退屈そうに溜息を吐いた。
(何故その程度の下奴に此処まで興味を示す?何故奴は青い彼岸花を欲しがらない?)
が、無惨の藤襲山の事を過度に気にする男性への疑心は直ぐに薄れ、無惨は再びパソコンで青い彼岸花をググった……
原作との相違点
●手鬼
・令和7年まで生存。
・平成や令和の存在を知らない。
・死因は太陽光の浴び過ぎ。