五等分の花嫁 〜小話・日常集〜   作:スロウ

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1話完結。五月と四葉メインです。


減量生活

「ド…ドメ…肉ッ……」

 

 

——五月の心根をズタボロにするあの日からずいぶん時間が経ち、機嫌を取り戻した五月は、急に五人の前でこんなことを誓った。

 

「——がキッカケってわけではありませんが、一ヶ月、糖分を控えます。」

「あらー」

「はあ?」

「えー」

「おお!」

 

甘党の五月にとって右腕のような役割だったスイーツとの、一月の訣別がいかに歴史的瞬間であるかを、四人は重々分かっていた。二乃が楔を打つ。

 

「糖分を控える、じゃなくてダイエットすると言いなさい。」

「意味は同じです。…いいえ違います。違いますが同じです。」

「真面目と本音がぶつかり合ってる。」

「指導者を目指すことを見据え、まずは己を律することで誠意を示すのです。」

(五月が減量とか、風太郎から勉強時間引き抜くくらいムリムリ)

 

かくしていま、五月の一カ月の禊生活が始まるのであった。(悪いことはしてないけど。)

まず学校の行き帰り、コンビニで寄り道しない。他四人がスイーツ買ったりジュース買ったりしても自分は水とおむすびだけ。昼食でもそうだ。最初、風太郎に‘太るぞ’と言われたらあの苦い記憶を、時々思い出しながらストイック生活に励む。

——初日は楽々達成。

空腹で勉強が疎かになりかけたのは我慢の副作用だ。

 

二日目。

朝一、冷蔵庫に手が伸びていた。

 

「は!いけません。…見るだけです、見るだけ」

 

伸ばした手を引っ込めることなく、開ける。買い貯めておいたシュークリーム二個、バウムクーヘン二個、モンブラン二個、マカロン二個が、ねえねえ、ぼくたち、食べてくれないの? と切ない声で語りかけているようだった。

 

「ぐむむむむぅ……た、食べるわけにはいきません! 食べるわけにはッ」

″ねーねー食べてよー。 糖分欲しいでしょー? 糖分は酸素でしょー?

酸素取らないと生きていけないでしょー? 甘くて味わい深くて美味しいよー

サボろうよ。もう誰も太ること気にしてないから″

「それ以上喋らないでください! ホントに食べちゃいますよ。」

 

遠くで見ていた四葉は三玖に聞いた。五月、冷蔵庫の中に動物でも飼ってるのと。三玖は来い、と言わんばかりに離し、耳打ちした。

 

「関わらない方が良い。今は。」

 

 

三日目には五月の我慢は限界に差し掛かっていた。朝から顔色が悪く、手足がヒョロヒョロしていた。

 

「五月、具合でも悪いんじゃないですか、早退したほうが…」

 

と、登校準備を済ませた四葉が、ノロノロと朝ごはん用の食パン一枚を震えながら手にする五月に問うが、

 

「ここここれも……だ、ダイエットのため……良いんです…。」

「根性が伝わってくる! 頑張って五月! だんだん慣れてきますからっ」

「応援…ありがとう…ございます……。」

 

三日目もこの調子で乗り越えた。

ピークだったのは五日目だ。

 

「………。」

「五月ー? おーい」

 

勉強中だからか、応答しない五月。しかし四葉が下から覗くと、目は問題用紙ではなく、地球の核を見ているかのようだった。

 

「気にしないで…ください…。」

 

トドメは二乃の菓子作りの匂い。四葉も匂いだけで舌鼓を打つ香りに、

 

「……」

「五月が干からびてる!」となった。

 

これは六日目から手を打たないと、五月の体調が本格的に悪化しかねないと四葉は危惧する。真面目ゆえに、ダイエットすると宣言したら、その公約を破ることがどれほど罪深いかを、スイーツへの愛情くらい理解していたのだ。

問題の六日目——この日は休日だが、四葉はドンドンドン、と、うるさくノックし、部屋にいる五月を起こす。五月は意外とすんなり出てきた。それに、顔色も良好。

 

「四葉。朝から何の用です。」

「あれ…昨日より元気になってる?」

「ええ、ピークを乗り越えたんです。三日目が1番辛かったけど。」

「すごい! すごいよ五月、このままいったら確実に痩せれるよ!」

「そうですね。」

「なるなる! なるって!」

 

四葉の期待が霧散するのは一ヶ月。運命のダイエット最終日、五月は四葉だけ呼び、体重計に乗った五月は、見てくださいと、四葉を屈ませた。

 

「……0.3kg増えてる…!?」

「ですよねー。」

「ですよねーって、これ壊れてるんじゃ。」

何度か試したが、同じ結果に。四葉もいよいよ擁護しきれない頃に、五月は申し訳なさそうに頭を振った。

 

「誰にも言わないでください。」

「う、うん。」

「三日目の夜からこっそり食べてました。」

「………え?え?」

「約束守れなくてごめんなさい。こればかりは、本能的に不可能だと分かりました。」

「でも、じゃああんなに元気なかったのはどうして?」

 

序盤、極端に落ち込んでいた時の様子は、真面目にスイーツ禁止している副作用だと四葉は信じていた。

 

「こっそり、食べてしまったから、その背徳感で……。ですが、私とあろう者は、そこから開き直って、こっそり、食べ続けていました。ああ美味しかった♪」

「…。」

「いやー甘かったです。スイーツも、私も。」

(糖分減量は当分先だね…。あ、狙ったわけじゃないよ!)

 

 

 




タグに一花、三玖がいませんが、執筆中の物語に段階的に登場予定なので、その時に追加します。
追:少し加筆や添削をしました。
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