五等分の花嫁 〜小話・日常集〜   作:スロウ

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風太郎を探せ 後編

必死になりすぎると、視野が狭まり物事を的確に対処する判断力が鈍ってしまう。五人に共通する弱点ではあるが、運動神経も料理の才能も落第点と言える三玖は、こういう強運で勝つしかない。

 

(よし、二乃はまだ来ていない。織田信長が桶狭間の戦いで今川義元を討ち取ったように、最後の最後まで、希望を捨てちゃいけない。)

 

風太郎を呼ぶ声がしてからは、二乃に負けたくない必死さから、いつしか町はずれの人気のない、住宅街の裏の丘に来ていることを忘れていた。

考えるより先に動かしていた体への疲労が限界に到達したとき、

 

「はあ…っはあ……おかしい、声が、しない。もしかして、聞き間違え、だったの。」

 

と、正気に戻るが、歩みは戻せなかった。すると後ろからおーい、おーいと。

 

「風……じゃない。二乃か。」

「二乃か。じゃないってば。あんた山籠りでもする気? いくら私が勝ち確定だからって、棄てるのは無しよ無し。」

「違う。声がしたんだもん」

「誰の声よ。」

「風太郎。」

「いやいや」

「を呼ぶ声。」

「もっとありえないッ」

 

二乃はてん、てん、てんと棒立ちし、周囲を見る。

 

「どこにもいな」

″ 風太郎ーーーッ″

「……ほらね。」

「確かに…迷子だなんて考えつきにくいけど、探すわよ。」

「うん。」

 

ここから小一時間、風太郎を探す、風太郎、と呼ぶ声を探す三者の泥沼徒歩レースが繰り広げられ、決着は未だつかず。

 

「そんなことあるの。言うほど広くもないフィールドで、声の出元が常に私たちを避けるようにするって。」

「大声出しても変わらない。うーん…」

 

その時、突然近くの茂みでガサガサ物音が。

 

「きゃーーお化けーッ」

「うるさい。」

 

もう一度同じ音が鳴ると、パッ!と飛び出してきた。

 

「喰べるならこの人よーっ」

「サイテー。」

 

ところが現れたのは、ゲーム機を抱えた丸刈りの坊やだった。

 

「ほら、子どもじゃん。こんにちは。」

「こんちはぁー。青い姉さん、近くでママ見なかった?」

「見てないよ。」

「よっしゃ!あんがと」

 

二乃はまさか…と、坊やに聞いた。

 

「ねえ君、名前だけ教えてくれる?下の名前でいいから」

「オレ?オレは——」

 

坊やは、あ、いけね!ごめんやっぱムリ、じゃあな!と走り去った。

もういい、帰ろう、と二乃が舵を切ろうとしたとき、見るからに今しがた去った坊やの母親らしい人が怒鳴りながら来た。

 

「風太郎、待ちなさいったら、風太郎ーー!!」

「……は?」

「……え?」

 

何事?と見合う二人のことは眼中にない母親は、坊やの去った獣道を突っ切った。

てん、てん、てん……脳内で木魚が鳴ったようだった。

否定したかった。同じ風太郎の赤の他人のために、必死になって探していた自分達の行動が、無意味になるから。けれど、事態を受け入れなければならない。だんだん腹が立つ両者に、新しい声が追いつく。

 

「やっと見つけたよ二人ともー、上手くできましたかー?」

 

いけしゃあしゃあと迎えに来た四葉に、両者火を噴く。

 

「「 うるさいッ!!! 」」

「——なんでッ!!?」

 

 

 




おしまい。
:加筆と添削をしました、だいぶ。
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