雅なる隊士達   作:レーラ

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那田蜘蛛山の戦いは終わりましたが、問題はこれから!


対立

 那田蜘蛛山(なたぐもやま)で多くの被害を齎した下弦ノ伍・(るい)は倒された。彼の身体は崩れ落ち、蜘蛛の巣模様の着物だけが遺された。

 

 倒したのは雅の妖しき風、生天目輪廻(なばためりんね)

 

 日輪刀を鞘に納めた彼女は再び市松模様の羽織を着た少年の方に駆け寄って声を掛けた。

 

「もう一回聞く。君、名前は?」

「か……竈門(かまど)……炭治郎(たんじろう)です。こっちは妹の禰豆子(ねずこ)です」

「竈門……炭治郎……。禰豆子……」

 

 少年の名前をオウム返しに呟いた。顎に手を当てて、禰豆子と炭治郎を交互に見て、再び問う。

 

「妹って言ってたよね。鬼になったのはいつ?」

「二年前です……。でも……」

「何でその子を連れてるの?殺さなかったの?」

「いや……その……」

「人を食う可能性も考えなかった?もしかして殺せなかった?」

「だから……」

 

 炭治郎(たんじろう)が何かを伝えようとしたが、輪廻(りんね)はそれを無視して容赦ない質問を続ける。

 

  輪廻(りんね)は知りたいと思った事は本人の意思を尊重せず、自分の欲求が満たされるまで続ける。結果的にその人の心の傷を抉る事になっても、輪廻は気にする事はない。

  

「俺は、禰豆子(ねずこ)を治す為に鬼殺隊に入ったんです!」

「治す……?この二年間で、方法は見つかった?」

「い、いえ……。けど禰豆子(ねずこ)が鬼になった時から今日まで、人を喰ってません!」

「え……?」

 

 だがこれを聞いた輪廻(りんね)は驚きのあまり、質問攻めがパタリと止まった。(るい)が起き上がった時とは違い、僅かに見開いた目で驚いている事を表している。

 

「本当に……?食べてないの……?」

 

 人を喰わない鬼など聞いた事もない。それも二年前からというのだ。

 

 身内だから庇っているという可能性もあるが、炭治郎(たんじろう)の瞬き、汗、瞳孔の揺れ、声の張り、それらを鑑みて彼が嘘をついているようにも見えなかった。

 

「にゃぁ……」

(かおる)?」

 

 薫が禰豆子の傍に寄ってじっと見ている。

 

 鬼を見ると毛先を逆立たせて威嚇をするのだが、禰豆子(ねずこ)に対してはそのような行動をしていない。また、炭治郎(たんじろう)に対する警戒もしていない。

 

 先程も近付いて触診までしたというのに、寝ているだけで襲い掛かろうともしなかった。

 

「けど、いつまでも隠し通せない。他の人が見たら……きっと殺しに来るよ?」

 

 嘘偽りない、純然たる事実を無感情のまま述べた。

 

 輪廻(りんね)としてはこのまま見逃しても良いと思っている。というより、今後の二人について興味が沸いている。だが皆が皆、輪廻と同じ考えに至るわけがない。

 

 しかもこの状況、柱や他の雅、特に(ゆかり)に見られようものならどうなるか。

 

「あっ……」

 

 どうしたものか思案していた時、目の前に義勇(ぎゆう)がいた事に気付いた。

 

「水柱さん……」

「倒したのか?」

「うん……」

「そうか……」

「うん……」

 

 感情が乏しく、口数が少ない者同士では会話が続かず、静寂が訪れる。だが義勇(ぎゆう)炭治郎(たんじろう)の顔を見て、それは破られた。

 

「お前は……」

 

 義勇(ぎゆう)の目が大きく見開いた。あの表情が死んでいると思われがちな義勇とは思えない程に驚いている。

 

「知ってるの……?」

「あれは確か……二年前……」

「二年前……あっ」

 

 二年前、その単語が出た事で輪廻(りんね)の中で点と点が繋がった。

 

 炭治郎(たんじろう)が言っていた二年前は禰豆子(ねずこ)が鬼になった時。そして、二年前に義勇(ぎゆう)が炭治郎の事を見ていたという事になる。

 

 もし、禰豆子(ねずこ)が人を食べていないのを見ていれば、炭治郎(たんじろう)の言っていた事がより真実と断定できる。その話に興味がある輪廻(りんね)義勇(ぎゆう)に顔を近づける。

 

「その話、詳しく聞かせて」

 

 女の子に目と鼻の先まで顔を近づけられるなど、緊張して上手く話せなくなるに決まっている。

 

「あれは二年前……」

 

 前言撤回。義勇(ぎゆう)は顔色一つ変わらず、話し方もそのまま。一切動じていない彼は話を進めようとするが……

 

「おーい!やっと追いついたぜ!ったく……アンタ速すぎるよ……って、どういう状況?何で輪廻(りんね)に言い寄られてんの?何かいかがわしい感じになってるよ?」

伊万里(いまり)……」

 

 話そうとした時に義勇(ぎゆう)を追いかけていた伊万里が到着した。

 

 この状況を理解しきれていない彼女は辺りを見回すと、最初に目に入ったのは地に伏せたままの炭治郎(たんじろう)だった。 

 

「おっ生存者二人目。あれ?鬼はどうした?」

「倒した」

「あ、ああ。そっかそうか」

 

 輪廻(りんね)が答えると、伊万里(いまり)は納得するように頷いた。

 

「そんで三人目の生存者……こいつ……っ!」

 

 だが寝ている禰豆子(ねずこ)を見た時、鬼だと判断すると反射的に日輪刀を抜いて、それを振り降ろそうとした。

 

「駄目……!」

 

 この新しい発見を失うわけにはいくまいと、輪廻(りんね)伊万里(いまり)の腕を掴んで阻止した。

 

 だが輪廻の両手で片腕を辛うじて抑えられている。単純な腕力ではそれ程、伊万里の方が強い。

 

「何で止めるんだい?!コイツは鬼だぞ?」

「この子、何か違う……!殺すのはまだ早い……!」

「おいおい。こっちは何人も殺られてんだぞ?鬼ならケジメつけてもらわねえと……」

「襲ったのはこの鬼じゃない……。もう倒したもん……!この鬼はただ寝てるだけ……水柱さんだって何か知ってるみたいだし……!」

「訳分かんねえ事抜かすなこの白猫は!んなもん信じられるわけねえだろ?!」

 

 輪廻(りんね)の訴えも虚しく伊万里(いまり)はどうあっても禰豆子(ねずこ)を殺そうとしている。(ゆかり)程ではないが、伊万里も鬼に対する憎しみは強い。

 

 話だけでは埒が明かないのであれば、証明するしかない。

 

「分かった。じゃあこうする」

 

 自分の訴えを証明する為に、日輪刀の刃を握った。掌から輪廻(りんね)の紅い血が漏れ出て、刃の切っ先まで伝わって滴る。

 

「お、おい!何やって……」

 

 伊万里が制止する前に、輪廻は禰豆子の傍まで近寄って、その手の甲に自分の血を落とした。

 

「や、やめてください!そんな事をしたら……」

 

 突然の行動に驚愕した炭治郎(たんじろう)が慌てて止めようとするが、輪廻(りんね)に日輪刀の切っ先を向けられ動けなくなる。

 

 その間、既に紅い雫が数滴零れ落ちている。鬼ならば本能的に血を欲する。だが禰豆子(ねずこ)は血に反応しない。眠っているだけで動く気配がない。

 

 目の前で起きている事象を前に、信じられない伊万里(いまり)の空いた口が塞がらない。

 

「本当……なんだよな……?」

 

 伊万里(いまり)の問い輪廻(りんね)は無言で頷いた。輪廻を襲わず、人の血に反応しない。

 

 目の前の事象に戸惑う伊万里。炭治郎(たんじろう)禰豆子(ねずこ)の兄妹を見て目線を逸らした。

 

「俄には信じらんねえ……けど……」

 

 言葉に詰まり、もどかしさが大きくなっていく。

 

「あぁもう!やりにくいったらありゃしねえ!」

「まず炭治郎(たんじろう)と水柱さんに話を聞こう。さっきから一人でぼーっとしてるし」

「炭治郎?炭治郎って……ああ、こいつの事……っ!」

 

 背後からの襲撃の気配を察知した三人。義勇(ぎゆう)輪廻(りんね)が抜刀してそれを弾いた。 

 

「あら?」

 

 それはしのぶと(ゆかり)の日輪刀だった。

 

 西に周っていた緣としのぶが合流して来た。だがそこに鬼がいると分かり攻撃体勢に入ったのだろう。

 

 さらに最悪な事に、片方は隊律に厳しく、鬼に対して激しい憎悪を向ける鬼巫女。禰豆子(ねずこ)が無害だと主張しようとも問答無用で殺しに掛かるのが目に見えている。

 

「何故邪魔をする?そいつは……」

「鬼だろ?」

「分かっているならば、さっさと殺せ」

「そりゃあそうなんだけどさ……」

 

 伊万里(いまり)も鬼は許せない。自分の家族や生家、多くの部下達や仲間を殺されては黙っていられない。だから少し前までは躊躇いなく禰豆子(ねずこ)の頸を斬ろうとした。

 

 戸惑う伊万里(いまり)に代わって、輪廻(りんね)が弁明する。

 

「まだ尋問の途中。だから殺すには早い」

「尋問だと?何故そんなのが必要になる?」

「こんな事初めて。この兄妹、もっと知りたい。だから殺しちゃ駄目……!」

「下らん……」

 

 輪廻(りんね)の弁明は鬼巫女に届く事なく一蹴された。今度はしのぶが義勇(ぎゆう)に問い質す。

 

冨岡(とみおか)さんも、どうして邪魔をするんです?鬼とは仲良く出来ないと先程仰っていた癖に。そんなだから皆に嫌われるんですよ」

 

 義勇(ぎゆう)も柱として鬼殺の使命を果たす隊士。鬼と仲良くなる思考など持ち合わせていない。

 

 竈門(かまど)兄妹とは過去に何かあったようなのだが、この状況では聞く事すらままならない。

 

「さあ冨岡(とみおか)さん。退いてください」

 

 最終通告と言わんばかりに日輪刀の切っ先を義勇(ぎゆう)に向ける。

 

 しのぶの日輪刀は通常のものと特殊な構造になっている。反りが極めて浅く、物打も切っ先と鍔根元以外を残して削ぎ落としており、細剣のような形になっている。

 

 これでは鬼の頸は斬る事が出来ないが、元々しのぶの体格は小さく鬼の硬い頸を斬るのに必要な筋肉量が足りない。

 

 だがこの日輪刀は毒を注入出来るものになっており、鬼が嫌う藤の花から抽出されている。それをしのぶが調合する事で、鬼をも殺す毒となる。

 

 しばしの間、沈黙が空間を支配するが、やがて義勇(ぎゆう)の口が徐に開いた。

 

「俺は嫌われていない」

 

 まさかの発言に、場の空気が凍りついた。(ゆかり)は反応を示さず、伊万里(いまり)はあんぐりと口を開けて驚愕、感情表出が乏しい輪廻(りんね)も義勇をジト目で見ている。

 

「気にすんのそこかよ?!つか今それ所じゃねえだろ?!」

「俺は嫌われて……」

「もういいわ!二度も言わんでいい!」

「やれやれ、理解に苦しみます。鬼を庇うとは」

 

 さらにしのぶの背後から御憑(みつき)が合流した。当然彼も煉獄の者として、鬼殺隊の使命を果たす為に禰豆子(ねずこ)を殺しにかかるだろう。

 

「更に鬼ぶっころ派が増えちまったなぁ」

 

 (ゆかり)御憑(みつき)。どちらも強さは自分より格上と言ってもいい。撃退は難しくても、何とか逃がすくらいの足止めなら出来るだろう。

 

「坊や、君が庇っているのは鬼ですよ。危ないから下がっていてください」

 

 雅の対立をよそに、いつの間にかしのぶが炭治郎(たんじろう)に呼びかけていた。

 

「あ、いえ!違うんです!いや違わないけど、妹なんです!」

「まあそうですか。それは大変ですね。では……苦しまないよう、優しい毒で殺して差し上げますね」

 

 弁明も虚しく、しのぶには届かない。絶望がさらに加速する。

 

「いえ、蟲柱様。あなたが手を下す必要はありません。私がその頸を刎ねます。」

 

 日輪刀を構える(ゆかり)。こうなってしまっては言葉で訴えるのは無理だろうと感じだ伊万里(いまり)はため息をついた。

 

「ちょいちょいちょい。アンタらさあ、もう少し融通利かせてくれてもいいんじゃない?」

「あら、斑鳩(いかるが)さんも庇うんですか?雅という地位にいて、()()であるあなたが堂々と隊律違反とは、極道出身者は違いますね!悪さに対する躊躇いのなさは流石です!」

「いや、極道関係ねえだろ?!つか今!さり気なくあたしの事貶したよな?!喧嘩売ってんのか?!」

 

 笑顔で伊万里(いまり)を評価しても、当の本人からすれば悪評にしか思えない。だが柱に対して不遜な態度を取るあたりは流石と言うべきか、怖いもの知らずである。

 

 だが今の伊万里の状態では強がりとも捉えられる。

 

「どいつもこいつも……。正直、あたしも何でこうなったのか分かんねえけどさぁ……」

 

 もうこうなった以上、腹を決めたのか伊万里(いまり)炭治郎(たんじろう)禰豆子(ねずこ)を守るように緣達の前に立ちはだかる。

 

「コイツは嘘ついちゃいねえ。あたしはコイツらを信じる!」

 

 力強い宣言は森の中に響く。威風堂々としたその姿に小さな拍手をする輪廻(りんね)。だが振り返るとある事に気が付いた。

 

炭治郎(たんじろう)禰豆子(ねずこ)は?」

「えっ?」

 

 気がつけば炭治郎と禰豆子の姿はなかった。さっきのやり取りの間に逃げられたのだろう。だが普通に逃げただけではすぐに気付かれる。

 

「まさか……」

 

 輪廻(りんね)が口を開き、全員が義勇(ぎゆう)の方を向いた。義勇は何も言わないが、逃がしたのは彼で決定だろう。

 

 

○○

 

 

 竈門(かまど)兄妹擁護派の義勇(ぎゆう)伊万里(いまり)輪廻(りんね)禰豆子(ねずこ)処分派のしのぶ、(ゆかり)御憑(みつき)という柱と雅同士で対立が起きてしまった。

 

「何故鬼を庇うんです?」

「知りたいと思ったから……!」

 

 御憑(みつき)輪廻(りんね)が相手をしており、義勇(ぎゆう)がしのぶを抑えている。

 

 だが問題は(ゆかり)だ。まともに相手にすれば間違いなく返り討ちにあう。故にぶつかるのは避け、炭治郎(たんじろう)禰豆子(ねずこ)の保護に向かった。

 

 速さならば(ゆかり)をも上回る。

 

 木々を足場にして駆け炭治郎(たんじろう)を探す。それは簡単に見つかった。だが非常にマズい状況だった。

 

「あいつ!」

 

 右方の頭に髪を束ね、しのぶと同じく蝶の髪飾りをしている女の子隊士が炭治郎を倒した。

 

 禰豆子(ねずこ)を斬ろうとした時、炭治郎(たんじろう)が蝶飾りの隊士の羽織を強く引っ張った事で尻餅をつき、切っ先が禰豆子に届かなくなった。

 

「逃げろ禰豆子(ねずこ)!出来るだけ遠くに逃げるんだ!絶対に捕まったら駄目だ!走……」

 

 禰豆子に叫んでいたが、いい終える前に蝶飾りの隊士踵落としが後頭部に直撃。一瞬で意識が刈り取られた。

 

 炭治郎(たんじろう)の言う通りに従って、その足で走る禰豆子(ねずこ)。だが蝶飾りの隊士はそれを許さない。

 

 頸を正確に捉えて日輪刀を振るう。その刹那、頸があったはずが無くなった。いや、そうではない。禰豆子(ねずこ)の身長が一瞬にして縮んだ。

 

(小さく……子供になった……)

 

 幼き姿になった事で斬撃を回避したのだ。隊士が呆けている間に禰豆子(ねずこ)はそのまま走り続ける。

 

 再び追い掛けようとするが、眼前で再び禰豆子の姿が消えた。

 

 いや、消えたのではない。一瞬だけ横から割って入られた。禰豆子(ねずこ)の姿を捉えた時、それは伊万里(いまり)によって抱えられていた。

 

「悪いな。こいつは生き証人でね。おいそれと殺させるわけにはいかねえのさ」

 

 伊万里(いまり)が鋭く隊士を睨んだ。

 

(あの蝶の髪飾り……間違いない。胡蝶(こちょう)の所の妹娘だ。確かこないだの最終選別でも)

 

 伊万里(いまり)にはあの顔に見覚えがあり、その時の光景はよく覚えている。

 

 合格者の殆どが息絶え絶えで、傷を負っている中、たった一人だけ無傷で突破した新人隊士。

 

 その名を栗花落(つゆり)カナヲと言う。

 

(ったく……。あの目……輪廻(りんね)みたいで何考えてるか分かんねえ……)

 

 両者睨み合っている。だがその均衡はカナヲがすぐ後ろを見た時、圧倒的敗色の空気に染った。何と赤い鬼面を被った女隊士がまっすぐこっちに来る。

 

オニ()も来たああぁぁぁ!)

 

 追いつかれたらマズい相手に追いつかれた。闇夜に加えて鬼面が迫り、間近で見ると迫力が増す。

 

「いや怖っ!おい鬼巫女!鬼面(それ)つけてこっち迫んな!」

 

 そう訴えても鬼巫女がそんな事に聞く耳を持つはずもなく、日輪刀を構える。

 

 鳥の呼吸は空中でこそ真価を発揮する。地上では機動力が失われ、強みの殆どが失われる。故に(ゆかり)とやり合ってもまず勝てない。

 

(だがやるしかねえ……!)

 

 だが極道の意地が退くという選択肢を許さない。

 

 覚悟を決めて日輪刀を鞘から抜く。さてここからどう挽回しようか思案していた時だった。

 

「伝令!伝令!竈門炭治郎(かまどたんじろう)及ビ鬼ノ禰豆子(ねずこ)!本部ヘ連レ帰レ!連レ帰レ!」

 

 伊万里(いまり)達の頭上を飛んで回る鎹鴉が伝令を発する。本部に連れ帰れという事は、一時的ではあるが彼らの命は助かった事を告げたようなものだった。

 

 本部の命令となれば、流石の(ゆかり)も逆らえない。チッ、と舌打ちをしつつも日輪刀を鞘に納めてこの場から去るが、やはり納得していないのが背中越しに見て取れる。

 

 カナヲも伝令に従い剣を納めるが、去り行く(ゆかり)の背中と走らず座り込んだ禰豆子(ねずこ)を交互に見ている。

 

 そこでポケットから銅貨を取り出した。それを親指で弾くと宙を舞いながら回り、それがカナヲの頭上まで飛んだ。

 

「何やってんだありゃあ?」

 

 伊万里(いまり)は不思議そうに見ているが、銅貨が重力によって落ちていく。カナヲはそれを手の甲で取った。銅貨を見ると……

 

「裏……?」

 

 銅貨は裏と表記されている。するとカナヲは禰豆子(ねずこ)の方に歩み寄り、しゃがんで同じ目線で話しかける。

 

「あなた、禰豆子(ねずこ)?」

 

 カナヲの問いに、禰豆子は頷いて答えた。

 

「何がしたかったんだありゃあ?」

 

 結局カナヲの行為は一体何だったのか。何の意味があったのか、理解出来ないまま下山する事になった。

 

 何とか無駄な戦いをせずに済んだ。とはいえ自分が隊律違反をやらかした事実は消えない。だがそれは分かっていてやった事だ。後悔はない。

 

 那田蜘蛛山(なたぐもやま)での一件はこれにて収まり、炭治郎(たんじろう)禰豆子(ねずこ)の身柄は鬼殺隊本部へ預かる事になり、その処遇は鬼殺隊を統率する産屋敷輝哉(うぶやしきかがや)と九人の柱達による裁判によって決まる事となった。

 

 さらに、雅でも伊万里(いまり)輪廻(りんね)が隊律違反を犯したということで、雅全員も本部へと召還される事になった。

 

 




大正コソコソ噂話

伊万里の生家は極道組織 斑鳩組であり、彼女は長女。
雅の屋敷も斑鳩組が保有していた別荘の一つであり、拠点として提供している。
龍馬、虎次郎、剛亀とはその時からの馴染み。
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