雅なる隊士達   作:レーラ

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柱合会議の始まりです。


柱合裁判

 産屋敷(うぶやしき)邸。鬼殺隊の当主たる産屋敷耀哉(かがや)が住まう屋敷であり、鬼殺隊の本部。そこに雅の全員が召集を掛けられた。耀哉と、九人の柱達によって。

 

 那田蜘蛛山(なたぐもやま)の戦いから一夜明け、鬼殺隊は前代未聞の事態に見舞われていた。というのも、竈門炭治郎(かまどたんじろう)が鬼となった妹、竈門禰豆子(ねずこ)を連れて鬼を討伐していたというのだ。

 

 だが妹とはいえ鬼は鬼。鬼殺隊でなければ討伐しなければならないのだが、炭治郎はそれを庇った。その為、炭治郎は鬼殺隊本部でもある産屋敷邸に連れて行かれる事になった。

 

 そして、その兄妹を庇って同罪となった伊万里(いまり)輪廻(りんね)も産屋敷邸に召還される事になっていた。

 

 (かくし)に背負われて産屋敷(うぶやしき)邸に連れて来られた伊万里。降ろされて、石庭に足をつけると目隠しと耳栓を外される。

 

「こんな形でまたここに来るなんてね……」

 

 過去にここで起こった出来事を思い出して呟いた。ちなみに産屋敷邸の所在は厳重に隠されており、さらに複雑な地形にある為、知っているのは柱と隠のみであり、柱以外の隊員は目隠しと耳栓をした上で隠に背負われてここに連れて来られる。

 

「やっと来たか伊万里」

 

 聞き覚えある声で呼ばれ、その方を見る。

 

 額に輝石をあしらった額当てに、二の腕には黄金の腕輪を着け、左目周りには赤い化粧。伊万里の身長を上回っているまさに派手な大男、音柱・宇髄天元が呆れた目で見ている。

 

「あっ旦那。も、もういらしてたんですか?」

 

 伊万里は彼の継子である。

 

 継子は柱から才能を認められ、時期柱として直々に育てられる隊士の事を指す。だが才能があっても選ばれない事が多く、継子と呼ばれる者は限られている。

 

 そんな天元の継子である伊万里は彼の事を旦那と呼び、敬語で話している。

 

 普段は上官相手でも不遜な態度を貫く伊万里ではあるが、自身が目上の者と思った相手にはしっかりと礼儀や節度を見せる。

 

「ったく……お前また派手にやってくれたみたいだな」

「いや、まあこれには深い事情が……」

「言い訳は見苦しぞ!犯した間違いは必ず正さねばなるまい!」 

「げっ……煉獄兄……」

 

 誰よりも大きい発声、炎の様に逆立つ髪に眼力のある瞳の青年、炎柱・煉獄杏寿郎(れんごくきょうじゅろう)。弟である御憑(みつき)とはあまりにも正反対すぎる人間というのは言うまでもない。

 

 個人的に暑苦しいのは嫌いではないのだが、彼のように真っ直ぐすぎる彼が眩しすぎて、直視出来なくなる時がある。

 

「嗚呼……理解出来ない……。何故だ……」

 

 その杏寿郎の隣で涙を流す天元をも上回る巨漢、岩柱・悲鳴嶼行冥(ひめじまぎょうめい)。手には数珠を持って鳴らしている。

 

「お前は真剣にやれば、柱に相応しい立派な隊士となるだろう……。だが土岐、お前は……」

「悲鳴嶼の叔父貴……。こんな言い方はどうかと思ったんだけど、あたしに期待しすぎです。この通り、あたしは半端者なんで」

 

 行冥に対して礼儀を弁えているが、飄々とした態度は崩さない。だが行冥はそんな伊万里に対して惜しいとすら思えてしまう。

 

 机仕事を筆頭である緣に押し付け、一般隊士達につける訓練でも直接指導せず、部下達に任せて手を抜いている。

 

 これでは職務怠慢と指摘されてもおかしくないのだが、模擬戦並びに任務となると手を抜く事なくきっちり仕事を果たしている。

 

 行冥は彼女の実力と実績の高さを評価しており、時期柱として期待しているが故に、彼女が所々手を抜いているという悪癖と度重なる独断専行を咎めているのだ。

 

「まあこれでも私なりに考えて行動した結果です。自分の心に従って、信念を貫いた結果なら、私はどんな処分でも受ける覚悟です」

 

 今までのいい加減だったのが嘘のように、真っ直ぐな眼差しを向けている。そんな伊万里にときめいている女性の柱がいる。

 

(伊万里ちゃん、同じ女の子同士なのに男前で素敵!)

 

 恋柱・甘露寺蜜璃(かんろじみつり)の頬が朱に染めている。桃色の髪に二つの三つ編みお下げの毛先が黄緑と、かなり変わった容姿をしている。

 

 さらに隊服も奇抜であり、胸元からはみ出ている果実の谷間を晒しており、スカートも通常より短く、太腿まで露出させている。

 

(何だっけ……あの雲の形……何て言うんだっけ……?)

 

 容姿に幼さが残る霞柱・時透無一郎(ときとうむいちろう)は鬼殺隊史上前代未聞の事態だというのに空を眺めている。

 

 さらに那田蜘蛛山にいた水柱・冨岡義勇(とみおかぎゆう)と蟲柱・胡蝶(こちょう)しのぶ。彼らこそ、鬼殺隊の中でも九人しかいない最高位『柱』。

 

 実力はもちろん数多くの修羅場を潜り抜けた、まさに精鋭である。だがこの場にはまだ七人しか見当たらない。そして柱ではない伊万里(いまり)ともう一人……

 

「ところでさ……何で(ゆかり)もいるんだよ?」

 

 しのぶの隣に控えている緣に、何故処分を受ける者ではないにも関わらずここにいる事に問う。

 

「お前が私に押し付けた名簿記載と那田蜘蛛山の被害状況報告だが?」

「だぁから怖いってのそれ!分かったから圧かけてくんな!」

 

 細部までよく作られた鬼面から滲み出る圧に迫られ後退る。

 

「んで、御憑(みつき)は?」

「例の隊士が持っていた箱を監視させている」

「そう言えばあの箱に入ってるんだっけ?鬼になった妹ってやつ」

 

 産屋敷(うぶやしき)邸の一室にて御憑(みつき)が正座で控えており、目の前には炭治郎(たんじろう)が背負っていた箱が安置されている。中には禰豆子(ねずこ)が眠っている。

 

「そうか。じゃあ後は輪廻(りんね)だけか……。だけど遅すぎじゃね?」

 

 辺りを見渡しても輪廻の姿が見当たらない。一体どうしたのか。

 

「し、失礼します!」

 

 探そうとしていた所、炭治郎(たんじろう)を背負っていた男の隠が到着した。那田蜘蛛山(なたぐもやま)からそのまま運ばれた為、怪我だらけのまま気を失っている。

 

 柱達の前で降ろした隠は炭治郎を起こそうと呼び掛ける。

 

「起きろ。起きるんだ。起き……やいテメェ!いつまで寝てるんだ!さっさと起きねえか!」

 

 なかなか起きない炭治郎(たんじろう)に痺れを切らした隠が怒鳴り散らした。それが通じたのか、炭治郎の瞼がハッと開いた。

 

 いくら処罰を受ける身であるとはいえ、怪我人を強引に起こさせているのを伊万里(いまり)は苦言を呈する。

 

「なあ……怪我人なんだよな?扱い雑すぎじゃあ……」

「ならぬ。戒めを緩めた隙に逃げ出すやもしれぬ」

 

 だが行冥(ぎょうめい)によってそれは切り捨てられてしまう。さらに(ゆかり)炭治郎(たんじろう)の前に立つ。

 

「竈門炭治郎、お前はこれから裁判を受ける事になる。お館様と柱の方々によって、お前の処遇が決まる」

 

 新人であろうと隊律違反を犯した炭治郎に容赦しない。緣の冷たく、残酷な宣告が炭治郎を戦慄させた。

 

 ――

 

 同じ頃。産屋敷(うぶやしき)邸のある一室では御憑(みつき)が畳の上で正座して待機している。目前には禰豆子(ねずこ)が入っている箱。

 

 筆頭でもなく、処分される身でもない彼であるが、万が一禰豆子が人を襲った場合、対処出来るものが必要であろうと言う事もあり、御憑が抜擢された。

 

 だが日差しが差し込むこの部屋はとても暖かく、空気も澄んでいる。程よく入る風もあってついついその身を委ねてしまいそうになる。

 

 だがそれを邪魔するかのように乱暴な足音が聞こえてくる。それも少しずつ大きくなっているが、突然止んだ。

 

「どなたですか?御館様ではない事は分かっています」

 

 襖で姿が見えずとも、その者がこの部屋の前にいる事は看破している。襖が乱暴に開いた。隊服の上に白い羽織を着用しているが、露になっている両腕と胸部に傷痕がある。

 

 無造作に跳ね上がった白髪や顔面にも傷痕がある男。風柱・不死川実弥(しなずがわさねみ)だ。

 

「おや、不死川様でございましたか。何用でここに……」

「能書きは要らねェ。ソイツを寄越せェ」

 

 実弥が指したのは禰豆子(ねずこ)がはいっている箱である。

 

「お断り申し上げます」

「あァん?」

 

 間髪入れずに断られ、気に障ったのか唸り声に近い声を挙げる。

 

「ここで油を売っている場合ではないはずです。もう皆さん庭でお待ちですよ」

「分かってんだそんな事はァ。どうせソイツを持っていくなら、代わりに持ってやるって言ってんだよォ」

 

 親切と言う割には言葉の中に殺意が隠しきれていない。鬼への憎悪は(ゆかり)と同等か、それ以上だ。そんな男にこれを渡せば場が荒れるなんてものでは済まされないのは目に見えている。

 

 実弥(さねみ)の風貌は周りを恫喝させるのに十分な程凶悪と言えるのだが、御憑(みつき)はそれに対して毅然とした態度で立ち向かっている。

 

「あなたがこの鬼を殺したい気持ちはよく分かります。僕も生かしておく価値があるのか、甚だ疑問ですので」

「だったらァ……」

「ですが、僕は会議までその箱を管理する責任があります。それを放り出すつもりはございません」

「……チッ。変な所で兄貴に似やがって」

 

  風貌は何一つ似ていないというのに、豪胆で強い意志が杏寿郎(きょうじゅろう)と重なる。何ともやりにくさを感じる。

 

「あ、あの……煉獄(れんごく)様」

 

 そこに横から声を掛けられた。女の隠が平伏している。

 

「ああ……すみません。そろそろですか」

「はい。その箱を持って庭にくるようにと……」

「分かりました。では……」

 

 箱を持とうとしたが、あったはずの場所には既に無かった。何故と思いながらも実弥(さねみ)の方を見るが、いつの間にか彼の片手に収まっていた。

 

不死川(しなずがわ)様」

「持っていくんなら誰が持ってったって変わんねえだろォ?」

 

 貴方に持たせたら色々面倒になる。と言って余計な面倒を招いては隠の心労に要らぬ負担を掛けてしまう。

 

「はぁ……分かりました。ですが要らない騒ぎだけは起こさないでください」

「保証はしねェ」

 

 凶暴な風貌とは裏腹にしっかり理性的な対応をして、部屋を後にした。だが隠はすっかり怯えきってしまっている。

 

「あなたは指示があるまで待機を。ご苦労様でした」

 

 隠にそう言って御憑(みつき)も庭へと向かった。残された隠は一時の安らぎに安堵するも、この後起こる事態に再び悩まされるとは知る由もない。

 

 

 ――

 

 そもそも柱合会議とは、半年に一度に行われる産屋敷輝哉(うぶやしきかがや)と九人の柱達、鬼殺隊の上層部の御前会議であり、半年間に及んだ鬼の動向や、当主である輝哉が柱達に大まかな方針を下すのが定例であり、その都度議題も変わる場合もある。

 

 そして今回、その会議の前に炭治郎(ねずこ)禰豆子(ねずこ)の処遇を決める裁判が行われる。

 

 雅は柱ではないが、定期報告の為に筆頭である緣が召喚される。それ以外の三人は呼ばれる事は無い。

 

 だが今回は炭治郎の隊律違反を庇った罪で、伊万里(いまり)輪廻(りんね)は処分を受ける身となり、禰豆子の見張り役として御憑(みつき)が同行、奇しくも雅の全員がこの裁判に立ち会う事になる。

 

「裁判の前に、君が犯した罪を……」

「裁判の必要などないだろう!」

 

 しのぶが裁判の進行を執り行おうとするが、杏寿郎(きょうじゅろう)が真っ先に裁判の必要性を否定した。

 

「鬼を庇うなど、明らかな隊律違反!我らだけで対処可能!鬼諸共斬首する!」

「ならば俺が派手に頸を斬ってやろう。誰よりも派手な血飛沫を見せてやるぜ。もう派手派手だ」

(やっぱこうなるか……。ヤベえ)

 

 分かってはいたが師匠である天元(てんげん)までもが処分派に回ってしまい、炭治郎(たんじろう)の無罪放免の可能性が少なくなって伊万里(いまり)の気が重くなる。

 

(ええぇ………?!こんな可愛い子を殺してしまうなんて……。胸が痛むわ……苦しいわ……)

 

 否定派二人に対して、麗しい兄妹愛に胸をときめかせていた蜜璃(みつり)はどうやら炭治郎(たんじろう)達を殺してしまう事に躊躇いがあるようだ。とはいえ、まだ擁護しているとは明確に公言していない。

 

「嗚呼……何というみすぼらしい子供だ……可哀想に……。生まれてきたこと自体が可哀想だ……」

 

 涙を流しているが、行冥(ぎょうめい)も処分する発言をする。

 

 無一郎は相変わらず空に浮かぶ雲を見て、肝心の裁判に関心がない。

 

 

 最終的な判断は主である輝哉が下す事になるだろうが、それでも処分派の数次第ではこの場で禰豆子と炭治郎が処断される恐れがある。

 

 最早この場で柱達を説得するしか、この状況を覆す手段は他にない。

 

 だが一番話を聞いていたであろう輪廻(りんね)がまだ到着していない。ここは何とか伊万里(いまり)が体を張って処分させないよう時間を稼ぐ手段に出る。

 

「待ってください!いくら何でも話も聞かねえで首チョンパは……」

「柱でもないお前が口を挟むな」

 

 伊万里(いまり)の嘆願を切り裂く冷たい声の主、蛇柱・伊黒小芭内(いぐろおばない)が松の木から彼女を見下ろしている。その首には白い蛇が巻かれている。当然その蛇は生きている。

 

「あぁ?」

 

 伊万里も伊黒を認識すると鋭い目つきで睨んでいる。

 

「隊律違反をしてもその態度、反省の色もまるでない。育ちの悪さがお前の素行の悪さを物語っているな」

「おい……何が言いたいんだい……?ネチネチネチネチ言ってねえで、ハッキリ言いやがれ」

「物分りの悪い粗暴な女でも分かりやすいように言っているのだが、伝わらなかったのか?」

「アンタみたいな日陰のねちっこい小言なんざ入る耳、持ち合わせてねえんだよこの蛇野郎」

 

 小芭内(おばない)の皮肉と嫌味混じりの言動が、伊万里(いまり)には気に入らない。反対に相夜の乱暴な振る舞いが、小芭内にとっては目に余る。それ程二人の仲は最悪とも言ってもいいくらい悪い。

 

 伊万里(いまり)♡小芭内(おばない)が互いに睨み合い、その間には火花が散っているようにも見える。それを間に割って入ったしのぶが両者を制止した。

 

「まあまあお二人とも、喧嘩をしては裁判が進みませんよ。それよりも私は、坊やの方から話を聞きたいですよ」 

 

 面倒な喧騒を微笑みを崩さずに仲裁してしまうと、裁判を進行させる為に炭治郎(たんじろう)への尋問を始める。

  

「坊やが鬼殺隊員でありながら、鬼を連れて任務に当たっている。その事について、当人から説明を聞きたい。もちろんこの事は隊律違反に当たります。その事は知っていますよね?」

 

 これには反論の余地はない。それは当人が十分承知の事であるし、罰せられるのは覚悟の上で禰豆子(ねずこ)を連れて任務に当っていた。

 

「竈門炭治郎君。何故、鬼殺隊員でありながら鬼を連れているんですか?」

 

 しのぶが問うと同時に、天元(てんげん)が背中に掛けてある二本の巨大な日輪刀を握る。柄に繋がれた鎖がジャラジャラと鳴る。

  

「聞くまでもねえ」

「親父……!」

 

 それでは一方的な処刑となってしまい、裁判の意味が成り立たなくなる。処断を急ぐ天元を伊万里(いまり)が止める。それを確認したしのぶは安心して尋問を続ける。

 

「ゆっくりで大丈夫ですから、落ち着いて話してください」

 

 しのぶが促した後、少し沈黙が続くが、炭治郎(たんじろう)が話し始めた。

 

「俺の……俺のいも……ガハッ……!ガハッ……!」

 

 だが喉が焼けるような痛みで咳き込んでしまう。それをすぐに察したしのぶが瓢箪から栓を抜く。

 

「水を飲んだ方が良いですね」

 

 瓢箪の口を炭治郎の口に向けてあげる。突然の施しに炭治郎は一瞬戸惑うが、企みはないと察して、それを咥えて急いで飲んでいく。

 

「顎を痛めていますから、ゆっくり飲んでください。鎮痛薬が入っている為、楽になります。怪我は治ったわけではないので無理はいけませんよ」

 

 優しく諭すように炭治郎に話す。水を飲んで楽になったのか、炭治郎は落ち着いた様子で聞かれた事に答え始める。

 

「鬼は俺の妹なんです……!俺が家を留守にしている間に襲われて、帰ったら皆死んでいて……!妹は鬼になったけど、人を喰った事はないんです!今までも、これからも……人を傷つけるような事は絶対にしません!」

「くだらない妄言を吐き散らすな。そもそも身内なら庇って当たり前。言う事全て信用しない。俺は信用しない」

 

 真っ先に炭治郎の話を切り捨てたのは小芭内(おばない)。だが炭治郎(たんじろう)という人物も過去も知らない彼の理屈は通っている。

 

 そもそもこの場にいる者達は炭治郎を知らない。初対面の人間の言う事を、ましてやこれまで鬼の醜悪な姿を目の当たりにして来た柱と雅達は鬼が人の為に戦うなど信じる事などそう簡単には出来ない。

 

「嗚呼……鬼に取り憑かれているのだ……。早くこの哀れな子供を殺して解き放ってあげよう……」

 

 行冥(ぎょうめい)に限っては涙を流しながら否定している。だが炭治郎はそれでも諦めない。

  

「聞いてください!俺は禰豆子(ねずこ)を治す為に剣士になったんです!禰豆子が鬼になったのは二年以上前の事で、その間禰豆子は人を食ったりしていない!」 

「話が地味にぐるぐる回っているぞアホが。人を食ってない事、これからも食わない事、口先だけでなくド派手に証明して見せろ」

 

 禰豆子が人を喰っていないという明確な証がない以上、天元(てんげん)の言にも理がある。だがここに来て、まだ一言も喋っていない蜜璃(みつり)が話した。

 

「でも疑問があるんですけど、お館様がこの事を把握していないとは思えないです……。勝手に処分しちゃって良いんでしょうか……?」

 

 確かにそうだと言わんばかりに甘露寺の言った事に納得する杏寿郎(きょうじゅろう)天元(てんげん)。蜜璃のお陰でこのまま処分されてしまう流れが変わった事に、伊万里(いまり)は内心歓喜する。

 

(その通りだ!よく言った乳柱!)

 

 蜜璃の隊服の胸元のボタンが止められておらず、豊満な胸の谷間が露出している事からその渾名なのだが、大きさで言えば伊万里も負けてない。

 

 どちらにせよ、年下とはいえ上官に対して失礼である。

 

「いらっしゃるまでとりあえず待った方が……」

「妹は、妹は俺と一緒に戦えます!鬼殺隊として、人を守る為に戦えるんです!」

 

 ここぞとばかりに畳み掛けるかの如く、炭治郎は必死に弁明する。

 

 その効果もあってか、しのぶの表情も笑顔から変わって驚いているような様子だった。

 

 だが鬼巫女である(ゆかり)は、炭治郎を見る目が明らかに嫌悪なものだった。

 

(人を守る為に戦える……だと……?そんなはず……)

 

 緣の脳裏にはかつてともに戦い抜き、何もかもを分かち合っていた(カナエ)の夢が蘇る。

 

(あるものか……)

 

 思い出したくもない、あの忌々しい日も。

 

「だから……」

 

 そこに、砂利の足音とともに実弥が現れた事で炭治郎の弁明が遮られる。

 

「オイオイ……何だか面白い事になってるなァ」

 

 左手には禰豆子が入った箱を手にしている。御憑(みつき)が見張っていると知らさらていた(ゆかり)は何故それを実弥が持っているのか問いただす。

 

「不死川様。それは 御憑(みつき)が見張っているはずです……。何故あなたが……?」

「ここに来る途中に見つけてなァ。それよりも……一体全体どう言うつもりだァ?」

 

 そこに御憑が追いついてきた。溜息をついているが、実弥と一悶着あった事は想像に容易い。

 

 鬼を激しく憎悪する実弥が現れた事で事態がややこしくなる事を恐れていた伊万里(いまり)はまた頭を抱える。

 

(おい輪廻(りんね)!テメェ今どこにいやがる?!いくら何でも遅すぎやしねえか?!)

 

 実弥の事を知る輪廻が到着していない事に苛立つ伊万里。

 

 だが見つからないのは当然である。そもそも今彼女はというと……

 

「すぅ……すぅ……むにゃむにゃ……」

 

 何と輪廻《りんね》は屋敷の屋根上で寝ていた。

 

 輪廻は誰よりも早く到着していて、産屋敷邸の屋根上で待っていたのだ。

 

 だが天気のいい日差しの暖かさによって眠気に逆らうことが出来ず、身体を丸めて眠っている。伊万里(いまり)達が到着を待っていても来ない訳である。

 

 それはさておき、実弥が現れ、柱達がここに揃った。だが実弥は炭治郎の話を聞いていたのか、彼を見下して言い放った。

 

「鬼が何だって坊主?鬼殺隊として人を守る為にに戦えるゥ?そんなことはなァ……ありえねえんだよ馬鹿がァ!!」

 

 実弥が片手で抜いた日輪刀の刃が箱を穿ち抜いた。

 

 箱から突き抜けた刃には血が、さらに禰豆子の悲鳴が聞こえた。禰豆子の身体ごと貫いたのだ。最愛の妹を傷つけられた兄は実弥に激しい怒りを露わにして立ち上がった。

 

「俺の妹を傷つけるやつは、柱だろうが許さない!!」

「ハハハハ……!そうかい良かったなァ!」

 

 炭治郎が雄叫びを挙げながら、真っ直ぐ実弥に向かって行く。一方実弥は箱と禰豆子から刃を引き抜いて、臨戦態勢に入っている。明らかに炭治郎を叩き斬るつもりでいる。

 

「やめろ!もうすぐお館様がお見えになるぞ!」

 

 突然義勇が怒鳴るように制止しようとする。同時にそのすやすやと眠っていた輪廻はハッと目を覚まし、その身を勢いよく起こした。

 

 義勇の制止でも炭治郎の足は止まらず、反対に気を取られた実弥は刃を振るうが、炭治郎はそれを跳躍して避けた。 

 

 そのまま間合いに入った炭治郎は、実弥の顔面に渾身の頭突きをくらわした。鈍い音が響き、くらった実弥の鼻からは血が出る。着地の事まで考えてなかった炭治郎はそのまま砂利の上に落ちた。

 

 他の柱や雅達が驚愕する中、何がおかしかったのか、甘露寺だけ吹き出していた。

 

「すみません……」

 

 一人だけ笑ったのが恥ずかしいようで、周囲の柱と雅からジト目で見られている中、赤面しながら手で顔を覆い隠している。ただ、小芭内は実弥達の方を見ている。

 

(冨岡が横から口を挟んだとはいえ、不死川に一撃入れた……)

(へぇ……やるなぁ……)

 

 伊万里(いまり)も腕を組んで感心している。

 

「善良な鬼と悪い鬼の区別もつかないなら、柱なんてやめてしまえ!!」

「テメェ……!」

 

 激情のままに炭治郎が言い放った。頭突きをくらわされた事に加えて、鬼を連れた新米隊士にこのような事を言われるなど、実弥の逆鱗に触れるには十分な要素だった。

 

 明確な殺意が炭治郎に向けられる。

 

「ぶっ殺し……」

 

 だがその怒りと殺意はすぐに驚愕に変わる。屋根から降りた輪廻が炭治郎と実弥の間に割って入った。

 

 徐に歩き出した輪廻は手を振りあげて……

 

 

 

 パチィン!

 

 

 

 頬を叩く音が庭に響き、その場にいた殆どの者が唖然とする。何が起きたのか、左頬を叩かれた炭治郎が理解するのには少し時間が掛かったが、輪廻が見せる静かな怒りと右手を見て分かった。

 

 その手で自分の頬を平手打ちしたのだと。

 

「実弥君を悪く言うのは許さない」

 

 輪廻(りんね)は実弥が傷つけられた事に怒ったのではない。炭治郎が実弥に言い放った台詞が許せなかった。

 

 雅ですら輪廻の感情が少しでも垣間見えるなんて事はない。感情を表に出さない輪廻が怒るなど、余程の事なのだろう。

 

 あの伊万里(いまり)御憑(みつき)ですら驚いている。

 

「「お館様の、御成です」」

 

 その重苦しい沈黙を、二人の白髪のおかっぱ少女が破った。二人が同時に襖を開けると、中から人が徐に歩いて現れる。その男の額と目の周りが爛れているように皮膚が変色しており、眼球も白濁している。

 

「よく来てくれたね。私の可愛い剣士(こども)達」

 

 彼こそが鬼殺隊最高責任者、九十七代目当主・産屋敷耀哉である。 

 




大正コソコソ噂話

輪廻は屋根の上で昼寝をするのだが、一回だけ丸一日寝過ごしてしまい、そのせいで柱からの呼び出しをすっぽかして怒られた事がある。
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