産屋敷耀哉が姿を現した。
先程の
「おはよう皆。今日はとても良い天気だね。空は青いのかな?顔触れが変わらずに、半年に一度の柱合会議を迎えられた事、嬉しく思うよ」
ここにいる隊士達の中では、炭治郎だけは初めて見る。皆がお館様と呼んで慕う耀哉の風貌。目の周りの皮膚が爛れているかのように変色しており、目が見えない事から病気なのかと察していた。
その刹那、実弥に頭を砂利に押さえつけられた。やられるまでまったく反応出来なかった。
何とか抗おうとした時、前列の柱と後列にいる雅の全員が膝をついて頭を垂れている光景を目の当たりにして驚愕する。
癖者揃いの柱と雅が全員同じ姿勢で平服している。それは恐怖ではなく、耀哉を当主として心から慕っているからである。
鬼殺隊を纏め上げる耀哉の人となりが伺い知れる。
「お館様におかれましても、御壮健で何よりです。益々の御多幸を切にお祈り申し上げます」
「ありがとう実弥」
知性も理性も無さそうな風貌とはあまりにもかけ離れた丁寧な口調で耀哉に挨拶する実弥。
自分が言いたかったと、蜜璃の表情は分りやすく落ち込んでいる。
「畏れながら……柱合会議の前に、この竈門炭治郎なる鬼を連れた隊士について、ご説明いただきたく存じますが、よろしいでしょうか」
見た目に反して繊細かつ丁寧な話し方をする実弥に炭治郎は今までにないくらいに驚愕している。
「そうだね、驚かせてすまなかった。炭治郎と禰豆子の事は、私が容認していた」
意外にも耀哉は最初から認めていた。柱と雅は全員驚愕を隠しきれていない。耀哉は続ける。
「そして、皆にも認めて欲しいと思っている」
憎むべき鬼との共存を、通例もない事態を認めほしいと言うなど何か考えがあっての事なのだろう。最初に行冥が涙を流しながら口を開く。
「嗚呼……例えお館様の願いであっても、私は承知しかねる……」
「俺も派手に反対する。鬼を連れた鬼殺隊員など、認められない」
行冥に続いて天元も反対する。
「私は、全てお館様の望むまま従います」
「僕はどちらでも……すぐに忘れるので」
蜜璃は耀哉に惚れ込んでいるかのように頬を朱に染めて、賛成する。時透はどちらでもない、どうでもいいような反応だった。
義勇はともかく、しのぶは沈黙を貫いている。
「信用しない信用しない。そもそも鬼は大嫌いだ」
「心より尊敬するお館様であるが、理解出来ないお考えだ!全力で反対する!」
「鬼を滅殺してこその鬼殺隊。竈門、冨岡、並びに斑鳩、生天目の四名の処罰を願います。」
伊黒、杏寿郎、実弥は反対。柱の立場故、仕方ない事なのだろうが、名前を読んでくれない事に
柱の意思を確認した後、その後ろに控える雅の方に向ける。
「雅の皆はどうかな?四人の意見も聞きたい」
決して柱達を蔑ろにしているわけではない。雅の実力は柱になりうる、言わば柱の候補に最も近い者達。その意見も聞いておきたいのだ。
まずは筆頭である
「無論反対です。鬼は皆殺す、それだけです」
鬼巫女は当然反対だ。鬼は皆殺しという信条を掲げているのであれば、至極当然の反応とも言える。次は
「私は……御館様のご意思に賛同します」
深々と頭を垂れて言い切る。それはまるで特別な感情でも抱いているかのような物言いだが、それは
「私も賛成です。まだ知らない事がいっぱい……。その為に生かしておきたいです……」
「僕は御兄様と同じ意見です。鬼を生かしておくなど、有り得ません」
しかし、耀哉は当然反対される事は分かっていた。傍に付いているおかっぱの少女に声を掛ける。
「手紙を」
「はい」
少女が懐から一通の文を出すと、それを開いく。
「こちらの手紙は、元柱である鱗滝 左近次様から頂いたものです。一部、抜粋して読み上げます」
手紙にはこう書かれていた。
炭治郎が、鬼の妹と共にあることをどうか御許し下さい
禰豆子は強靭な精神力で、人としての理性を保っています
飢餓状態であっても、人を喰わず、そのまま二年以上の歳月が経過致しました
俄には信じ難い状況ですが、紛れもない事実です
もしも、禰豆子が人に襲いかかった場合は、竈門炭治郎、及び、鱗滝左近次、冨岡義勇、が腹を斬ってお詫び致します
鱗滝左近次は炭治郎に刀の扱い、水の呼吸など鬼の戦い方を教えた師匠。さらに元水柱であり、現水柱である義勇の師匠でもある。
義勇が初めて炭治郎とあった時、彼は鬼になった禰豆子を見て、他の鬼とは違う何かを感じ取った。
二人を守る為という意味合いもあり、彼らを鱗滝の所へ行かせ、力をつけさせた。その際、禰豆子が暴走し太場合、切腹する覚悟も備えていた。
自分以外にも鱗滝と義勇が命を懸けて禰豆子を守ろうとしている事に、炭治郎は涙を流した。
「切腹するから何だと言うのか……」
だが実弥はこれに不服の意を示す。
「死にたいなら勝手に死に腐れよ!何の保証にもなりはしません!」
「不死川の言う通りです!人を喰い殺せば、取り返しがつかない!殺された人は戻らない!」
同時に杏寿郎も大きな声で反対する。
「……確かにそうだね」
二人の反対意見を否定するわけでもなくら肯定するかのように頷かれた事に、伊万里は衝撃を受けた。
「では……!」
「人を襲わないという保証が出来ない、証明が出来ない。ただ……人を襲うと言う事もまた証明が出来ない」
その裏を突かれ、実弥が分かりやすいくらい狼狽える。
「禰豆子が二年以上もの間、人を喰わずにいるという事実があり、禰豆子の為に三人の者の命が懸けられている。これを否定する為には、否定する側もそれ以上のものを差し出さなければならない。皆にその意思はあるかな?」
そう言われては実弥も杏寿郎も言い返せない。
「それに、私の
その衝撃的な発言に全員が驚いた。
「そんなまさか!柱ですら誰も接触した事がないというのに!こいつが!?」
皆が炭治郎の方に集中する。その際、思わず天元が蜜璃を突き飛ばし、「きゃあっ!」という悲鳴も混じる。それに構わず炭治郎に問い詰める。
「どんな姿だった?!能力は?!場所は何処だ?!」
「戦ったの……?」
大事な裁判ですらどうでもよさげで無関心だったあの無一郎も驚愕の表情であり、問い詰めている。
「鬼舞辻は何をしていた!?根城を突き止めたのか?!おい答えろ!」
炭治郎の頭を掴んでいた実弥が、その手で揺らして尋問するが、頭を揺らされては答えられるものも答えられない。
鬼舞辻無惨とは、鬼の祖。つまり、今、夜の闇に跋扈する鬼達の長である。唯一人を鬼に変えられ、これまでも数多くの人間を鬼に変えてきた。
彼の討伐こそが、この鬼殺隊の悲願であり怨敵。しかし、彼は様々な人間の姿へと変えて人間社会に溶け込んでいる。その為、彼の発見はおろか、その住処や場所すらも掴む事すら叶わなかった。
それが癸の新人隊士が遭遇した。それだけ鬼舞辻無惨と遭遇したという一報は、柱と雅に衝撃を受けている。
半ば動揺に近い状態となり、これ以上収拾がつけられなくなる前に、耀哉が人差し指を口に当てる。それが先程の混乱が嘘のように収まり、平伏する。
「鬼舞辻はね、炭治郎に向けて追っ手を放ってるんだよ。その理由は単なる口封じかも知れないが、私は初めて鬼舞辻が見せた尻尾を掴んで離したくない。恐らくは禰豆子にも鬼舞辻にとって予想外の何かが起きているのだと思うんだ。分かってくれるかな?」
主の真意に誰もが言葉を出せず、ただ聞き入る事しか出来なかった。だが、それでも納得出来ない者が一人いる。
「分かりませんお館様……人間ならば生かしておいても良いが、鬼は駄目です!これまで俺達鬼殺隊がどれだけの思いで戦い、どれだけの者が犠牲となったか!承知できない……!」
これまで何人もの仲間が鬼と戦い、死んでいった者達を見てきた彼にとって、鬼を生かすなど受け入れ難い事だ。
(実弥君……)
意見が正反対になってしまったが、
突如、実弥は日輪刀を抜いて自分の左腕に突き立てると、そのままその腕を切った。切り傷から実弥の血が溢れ出る。
(え?!何してるの何してるの?!お庭が汚れるじゃない!)
何の意図でそんな事をするのか理解出来ない蜜璃が酷く困惑している。実弥の血が白い砂利に垂れ落ち、赤く染まる。
「お館様、証明しますよ俺が!鬼という者の醜さを!」
「実弥……」
耀哉の制止も振り払る実弥は、箱を踏みつけて自分の血を垂らす。日輪刀によって空いた穴に実弥の血が入り込んでいる。
「おい鬼ィ!飯の時間だぞォ!喰らいつけェ!」
箱の穴の隙間から入った血が、禰豆子の手の甲に付着。中にいる禰豆子は唸り声を上げており、噛んでいる竹の隙間から涎が溢れている。鬼としての本能が、人間の生き血と肉を欲しているのだろうが、その誘惑に抗っている。
中から爪で徐に箱を引っ掻く音が聞こえ、実弥はますます禰豆子を挑発する。
「無理する事はねェ。お前の本性を見せたら良い。今ここで叩き斬ってやるゥ!」
「おい不死川!テメェいい加減に……っ!」
「よせ」
実弥の勝手な行動に憤り止めようと伊万里は立ち上がるが、腕を
「冗談じゃねえぞ?!このまま黙って見てろって……」
「その通りです」
緣の手を振り払おうとするも、今度は平伏したままでいる
「これは寧ろ、見極める好機ですよ」
「好機だぁ?!」
「もしここで不死川様を襲えば、その鬼は処断。逆に襲わなければ無罪放免です」
御憑の言う通り、ここで実弥を襲わなければ、否定派はこれ以上の糾弾は出来なくなる。
だが今の実弥を見る限り、明らかに度を越している。炭治郎も黙っているわけがない。
輪廻の方を見ても発言も動く気配がない。理由があるにせよ、今の輪廻も当てにならない。
「不死川、日向では駄目だ。日陰に行かねば鬼は出て来ない」
「お館様。失礼、仕る!」
小芭内に指摘され、箱を片手に屋敷の中に上がりこむと、箱を放り投げる。実弥は容赦なく再び日輪刀で箱を突き刺す。中にいる禰豆子諸共。
「やめろおおおおおぉぉぉ!!」
妹を傷つけられて激怒する炭治郎。止めに入ろうとするが、またしても頭を強く抑えられ動けなくなった。
その間にも、実弥は何度も箱の中の禰豆子を刺している。
「出て来い鬼ィ!お前の大好きな人間の血だァ!!」
そう言うと実弥は刃で箱の戸を強引に開かせる。
すると、箱の中から禰豆子が出て来た。箱に合わせて身体を小さくしていたが、外に出た事で本来の大きさに変えたのだろう。
瞳孔が鬼らしい鋭さで、噛んでいる丈から涎が溢れ出ている。鬼特有の飢餓状態である事が分かる。
唸り声を挙げながら、禰豆子は実弥と相対する。
大正コソコソ噂話
雅は柱の推薦で構成員が決まった。緣はしのぶ以外の推薦、伊万里は天元と行冥、御憑は杏寿郎の推薦。
ちなみに輪廻は三人よりも後に加入したのだが、これに関しては当主である耀哉の推薦で決まったが、この時は実弥は反対したとか。