雅なる隊士達   作:レーラ

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那田蜘蛛山と柱合会議編もいよいよ最後になります。


兄妹の行方

 実弥の血を餌に箱から出てきた鬼の禰豆子が、柱達の前に初めて姿を現した。

 

 柱達は皆、禰豆子が実弥の血に喰らいつくか、それとも襲わないのか、静かに見守っている。

 

 雅の面々も然り、処断に反対していた伊万里(いまり)輪廻(りんね)も、自分達ではこの状況を変える事が出来ない故に、禰豆子が襲わない事を祈る事しかできない。

 

 御憑(みつき)に押さえられている炭治郎は頭を砂利の地面に強く押し込まれている。それでも尚、炭治郎は呼吸を使って抗おうとする。

 

御憑(みつき)、頭ではなく肺を抑えろ」

 

 小芭内に指摘され、静かに頷いた御憑(みつき)が膝を用いてそのまま実行した。静かに抑えているがそこに掛る圧は見た目以上に強く、呼吸を阻害させている。

 

 だがこれにはしのぶも見かねてしまう。

 

御憑(みつき)さん、強く抑えすぎです。少し緩めてください」

「では彼に抵抗しないよう言ってください」

 

 いくら上官からの命令とはいえ、それを聞く事は出来ない。ならばせめてと呼吸を使って拘束から抜け出そうしている炭治郎に忠告する。

 

「竈門君。肺を圧迫されてる状態で呼吸を使うと、血管が破裂しますよ」

「血管が破裂?!」

 

 真っ先に反応した天元。

 

「良いな響き派手で!よし行け!破裂しろ!」

「意味分かんないから!ってか御憑(みつき)もいい加減に……」

 

 血管が破裂など命に関わる事態だ。これには見るに耐えないと、伊万里(いまり)は炭治郎を抑えている御憑の手を掴もうと伸ばした時だった。

 

 炭治郎は雄叫びを挙げながら、手を拘束する縄を引き千切った。

 

「なっ……!」

 

 火事場の馬鹿力を発揮され、御憑(みつき)が狼狽えた隙が生まれた所を、義勇が彼の襟元掴んで放り投げて炭治郎を自由にしてやる。

 

「禰豆子!」

 

 拘束から解き放たれ、自由となった炭治郎が叫んだ。

 

 

○○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人間は皆、お前の家族だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人間を守れ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 誰が言ったのかは分からない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だけど、そうしなくちゃならない気がした

 

 

 

 

   

 

 

 

 人は守り助ける者

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 傷つけない……絶対に傷つけない……

 

 

 

 

 

 

 

 目の前に人の血。襲うは鬼の本能である飢餓状態。噛んでいる竹から涎が溢れ、額には脂汗が垂れる。だがそれでも、人間を守らなくてはならない。誘惑に屈するわけにはいかない。

 

 だから禰豆子は……

 

 目の前にある血塗れの腕をから視界を外した。

 

 

○○

 

 

 禰豆子の行動に予想出来なかった実弥が驚愕した。庭に控えていた柱達と雅も同じように驚いている。鬼である禰豆子が明確に人の血肉を拒絶した光景を目の当たりにした結果だ。

 

「どうしたのかな?」

「鬼の女の子はそっぽ向きました」

「不死川様に三度刺されていましたが、目の前に血塗れの腕を突き出されても、我慢して噛まなかったです」

 

 耀哉が状況を知る為に、おかっぱの少女二人が答えた。つまり……

 

「ではこれで、禰豆子が人を襲わないという証明が出来たね」

 

 それは炭治郎と禰豆子、そして伊万里(いまり)輪廻(りんね)の無罪放免が決した瞬間だった。

 

 鬼は人間を喰らう醜悪な生き物だと証明しようとしたが、逆の結果になってしまった事で実弥は悔しさを露わにする。義勇に投げられた御憑(みつき)は立ち上がり、襟元を真っ直ぐに伸ばして整える。

 

 御憑(みつき)は何も言わないが、小芭内が代わりに問い質す。

 

「何のつもりだ冨岡?」

 

 義勇は構わず御憑(みつき)の方を見ている。涼しい顔でこちらを見ているが、内心穏やかではなかったようで僅かに左目が鋭くなっていた。

 

 ホッとした炭治郎だが、まだ終わりではない。

 

「炭治郎。それでもまだ、禰豆子のことを快く思わない者もいるだろう。証明しなければならない。これから、炭治郎と禰豆子が鬼殺隊で戦える事、役に立てる事……」

 

 耀哉に諭された炭治郎は思わず平伏する。耀哉の声による効果なのか、炭治郎は頭の中がふわふわするような感じがした。

 

「十二鬼月を倒しておいで。そうしたら皆に認められる、炭治郎の言葉の重みが変わってくる」

 

 耀哉の言葉に、炭治郎は熱い思いが湧き上がる。そして、耀哉に自分の決意を打ち明ける。

 

「俺は……鬼舞辻無惨を倒します!俺達が必ず、悲しみの連鎖を断ち切る刃を振るう!!」

 

 それが彼の紛うことなき意思であり、誓いだった。彼の凛とした力強い声でそう言うが……

 

「今の炭治郎達には出来ないから、まずは十二鬼月を一人倒そうね」

 

 まるで子供に言い聞かせるように返されてしまった。炭治郎は羞恥心で顔を真っ赤にした。

 

「は、はい……」

(駄目よ笑ったら……!駄目駄目駄目……!)

 

 蜜璃が思わず吹き出しそうになる。彼女だけではない。しのぶは笑いを隠さず、行冥と天元も口元が震えており、笑いを堪えている。

 

 後ろでは伊万里(いまり)も笑いを堪えているが、歯が丸見えになっている。

 

「鬼殺隊の柱達は当然、抜きん出た才能がある。血を吐くような鍛練で自分を叩き上げて、死線をくぐり、十二鬼月をも倒している。」

「うむ!良い心掛けだ!」

 

 そんな中、杏寿郎とだけは笑わず寧ろ感心している。そんな彼に倣って、御憑(みつき)も堪えていた笑いを完全に殺す。

 

「だからこそ、柱は尊敬され、優遇されるんだよ。炭治郎も、口の利き方には気を付けるように」

「は、はい」

「それから実弥、小芭内、御憑(みつき)、あまり下の子に意地悪しない事」

「「「御意……」」」

 

 耀哉に諭され、まるで怒られた子供のように落ち込む小芭内。実弥も横で禰豆子がプンスカと怒っている所で改めて平服する。御憑(みつき)も同じく平服する。

 

「炭治郎の話はこれで終わり。下がっていいよ」

「畏れながら御館様、ご提案がございます。宜しいでしょうか?」

 

 裁判を終えようとした時、(ゆかり)が挙手をして進言の許可を求めた。耀哉はそれに静かに頷いた。

 

「竈門禰豆子は今回、人を襲わない事を証明しました。ですが、それでも竈門禰豆子は我々にとっても未知の部分が多く、御館様が仰られたように、その存在に対して快く思わない者や、不安を覚える一般隊士も少なからず出てくるはずです」

「そうだね」

「その為、しばらくの間は我々雅の誰かと共に共同任務に当たらせて、その不安を解消させると同時に何か変化が起これば逐一報告する。それであれば、竈門禰豆子が無害である事を知らしめる事が出来るかと。如何でしょう?」

 

 鬼に対して激しい憎悪を抱える(ゆかり)が禰豆子を守る提案をし、耀哉以外の面々を驚かせた。特にしのぶを。

 

(嘘はついていない……何か企んでいるわけでもない……)

 

 (ゆかり)の方を振り返って見ていた炭治郎。鬼面で顔が見えないはずであるが、彼女を信じた。

 

(ゆかり)の言う事にも、一理あるね。それに雅の皆となら、炭治郎も多くの事を学べるね」

「では……」

「良いよ。炭治郎と禰豆子は、雅の皆と任務に当たってもらおう」

「はっ。ありがとうございます」

 

 案が認められ、(ゆかり)は頭を下げた。

 

「つきましては……」

「でしたら竈門君は、私の屋敷でお預かりしましょう。」

 

 だが同時にしのぶも挙手てそう進言され、(ゆかり)がその方を向く。

 

 彼を雅の道場で預かろうと考えていたのだが、その前にしのぶに横から掻っ攫われてしまった。だが彼は怪我人であり、医学に精通しているしのぶに預けるのが道理。言い返す事は出来ない。

 

「はい、連れて行ってくださーい!」

 

 しのぶが手を叩いたのを合図に、隠二人が、禰豆子入りの箱と炭治郎をそれぞれ抱えて走り去って行った。

 

「では伊万里(いまり)輪廻(りんね)御憑(みつき)。態々来てもらってごめんね」

「いえ、勿体なきお言葉です」

「私も、見てて良かったです……」

「お館様の命であれば。冨岡様にちょっかいを出された事以外につきましては」

 

 ちゃっかりここで本音をバラしたことで、杏寿郎が義勇の方を見る。当の本人は何の事か認識していないのか、耀哉の方を見ている。

 

「三人も下がっていいよ。では……柱合会議を……」

「ちょっと待ってくださああぁぁーーい!!」

 

 隠に抱えられて行ったはずの炭治郎が走ってここに戻って来た。その後ろでは隠二人の顔が恐怖に染まりながらも後を追いかけ、何とか取り押さえた。

 

「その傷だらけの人に、頭突きさせてもらいたいです!絶対に!禰豆子を刺した分だけ、絶対に!!」

「黙れ!黙っとけ!!」 

「頭突きなら隊律違反にはならないはず!」

「黙って!大人しくしなさい!!」

 

 実弥に対して、明らかな敵意を向けている。それだけ禰豆子を刺したことが許せなかったのだろう。隠達だけでは炭治郎を抑えきれない。

 

 だが突如飛来してきた石が炭治郎の顔面に直撃、さらにもう一個も命中して炭治郎を黙らせた。

 

「お館様のお話を遮ったら駄目だよ……」

 

 石を飛ばした時透が白い目で見ていた。取り押さえきれず、話を遮ってしまった事に隠二人は炭治郎に代わって耀哉と柱、雅達に平謝りする。

 

 その際、炭治郎を止めた時透を見て甘露寺はときめいた。

 

(無一郎君!やっぱり男の子ね!カッコいいわ!)

「早く下がって」 

 

 そう言われ、慌てながら炭治郎を抱えて今度こそ立ち去った。ついでに蜜璃も少し下がった。

 

 その際、「珠代さんによろしく」と耀哉は炭治郎に伝えた。

 

「じゃあ私達も……」

「そろそろこの辺で」

「失礼します」

 

 柱合会議に関係ない伊万里(いまり)輪廻(りんね)御憑(みつき)がお辞儀をすると、それぞれ隠を呼ぶ。彼らに背負われて三人は産屋敷邸を後にした。

 

「いやぁ、炭治郎だっけ?結構面白い奴だったなぁ」

「実弥君に頭突きを当てる人、初めて見た……。痛かったのかな……」

 

 隠に運ばれながら、今回の柱合裁判を思い返している。

 

「つか御憑。お前から見て、炭治郎はどんな男だと思う?」

「純真無垢……いや馬鹿正直、と言った所ですね」

 

 そのままの率直な感想を述べた。

 

 裁判は誰もお咎めなしという最高の終わり方で幕を下ろしたが、今後何が起こるのか、彼女達にはまったく予想がつかない。

 

 




大正コソコソ噂話

炭治郎に押し負けられそうになった御憑。顔には出さなかったが実は結構悔しがっており、杏寿郎はそれを見抜いていた。


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