雅なる隊士達   作:レーラ

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今回から蝶屋敷編となります。

そして各章事に一人、スポットライトが当たる主人公がメインとなって物語が進行します。

今回は緣さんになります。


蝶屋敷編
鬼巫女の憂鬱


炭治郎と禰豆子の今後を巡って行われた柱合裁判は無事に終わり、雅との合同任務が決まった。それまでは蝶屋敷で療養であり、完治するまではこれまで通りである。

 

 その後の柱合会議は夜更けまで行われたが、柱ではない(ゆかり)は役目を終えた時点で退出した為、最後まで参加していない。

 

 だが休んでいる暇は無い。その後も鬼狩りの任務に就いており、今宵もまた一体鬼を倒しては次の任務地に向かって鬼を狩る。

 

 そして雅の屋敷に戻っては一般隊士達の稽古と、本部への申し送りなど忙しなく動いている。

 

 だからだろうか、ある日の任務で(ゆかり)は久々に傷を負った。

 

(私とした事が……)

 

 討伐した鬼は異能持ちだったが、強さは下弦の鬼にすら及ばないものだった。だが一瞬だけ反応が遅れてしまい、右上腕に傷をつけられた。

 

 それほど深くはなかったが、放置すれば菌が入り膿んでしまう可能性がある。ならばやる事は一つだ。

 

「あの、疼木(ひいらぎ)様」

 

 その前に事後処理に駆けつけた隠の一人が(ゆかり)に声を掛ける。

 

「蝶屋敷で診てもらった方が宜しいのでは?そんな怪我では……」

「やめろ馬鹿ぁぁ!」

 

 だがその進言は他の隠を戦慄させて、数人掛りで強引に引き下がらせた。

 

 蝶屋敷は隊士が怪我を負った際に運ばれる診療所であり、重傷によって戦えなくなった隊士が療養する、言わば病院である。

 

 ならばその隠が言っている事は間違いではない。では何故他の隠が止めたのか。

 

 蝶屋敷は蟲柱・胡蝶しのぶが営んでいる。というより、そこがしのぶが住まう屋敷だから。犬猿の仲と噂されている(ゆかり)にそこに行けと言うのは、地雷を踏むに値する言動だ。

 

 現に隠に言われた緣の目は鬼面越しに怒気が伝わっている。

 

「す、す、すみませんでした!後でキッチリ教育し直しますので!どうかご容赦を……」

「ならば仕事に戻れ」

 

 代表として泣きながら平謝りする隠に冷たく命じて下がらせた。

 

 ようやく怪我の処置を行う。隊服の上着をはだけさせて、怪我した右腕を露出させる。生肌が鬼によって肉を抉られて赤い血が生々しく出ている。

 

 まずは容器の蓋を開けると中に入っている消毒液を掛ける。激痛に悶絶したくなるものを、(ゆかり)は呻き声を押し殺して耐える。

 

 それが終えると今度は縫合糸を出して、傷口を縫い合わせる。両手では出来ない為、左手だけでそれを実行する。傷は完全に閉じると、日輪刀で余分な糸を斬る。これで処置は完了。糸の縫い目も寸分の狂いなく綺麗に並んでいる。

 

 隊服を着直した(ゆかり)は一息吐いた。その息は鬼に傷をつけられた事による自嘲か、はたまた緣なりの気合いの入れ直しか。見ていた隠達には想像もつかない。

 

「次は?」

「任務ハ無ァァ〜イ♪」

「ならば雅全員に伝えろ。明朝屋敷に全員集まれと」

「合点承知之助ェ!任セルォ〜イ♪」

 

 鎹鴉の紅葉(くれは)が伝令を頼まれ、高い声色を歌うかのように震わせて発する。

 

 任務を終えた(ゆかり)はその足で雅の屋敷を目指す。

 

(やっぱすげえななあの人。最初から最後まで自分で処置しちゃうなんて)

 

 先程泣きそうになって謝っていた隠こと後藤が、(ゆかり)のその処置に感心していた。本来ならば相当な激痛を伴う治療を淡々とこなしてしまっているのだ。

 

(けど、そんなに蝶屋敷に行きたくないのって……やっぱり……。いや、やめとくか)

 

 後藤も鬼殺隊の隠を長いことやっている。故に隊士の心情などを察する術を持っており、(ゆかり)に対しても例外ではない。

 

 だからこそ、それ以上は踏み込んではいけない領域である事も察している。

 

 

○○

 

 

 夜明け頃。暁光が雅の道場を照らし、朝を知らせる。

 

 道場には既に緣が除く三人がその夜明け前から集まっていた。鴉を介して伝令を受け取ってここに集まったのだが、肝心の緣がなかなか来ない。

 

「ったく……急に私達を呼び出しといて、まだ来ないのか…?眠い……ふわぁ……」

 

 上座から見て右側、欠伸をかいて眠そうな伊万里(いまり)がボヤくのも無理は無かった。あれだけの事があった後、伊万里(いまり)は普通に一般隊士の指導と鬼殺の任務を終え、一睡もせずに来たのだ。

 

 輪廻(りんね)は任務が無かった分まだマシだと思われたが、深夜に鴉によって叩き起こされ不機嫌だった。

 

「お腹空いた……」

 

 瞼が半開きの状態で寝ぼけている。

 

 御憑(みつき)輪廻(りんね)と同じ起こされ方をされ、今もなお正座でうたた寝している。

 

 見た目に反して朝が苦手である御憑(みつき)にこれはなかなか酷というもの。

 

「やべえ……落ちる……」

 

 何とか睡魔に抗っている伊万里(いまり)だが、うつらうつらと頭が揺れている。輪廻(りんね)御憑(みつき)は睡魔に敗れた。しかも輪廻に限っては猫のようにうつ伏せで眠ってしまっている。

 

 そこに道場の上座の襖がガラッと開くと、任務を終え、帰って来た(ゆかり)が入って来た。

 

「全員揃っているな」

 

 上座に正座して、日輪刀を側に置く。その佇まいと張りのある声にはどこにも隙はなく、緊張感に溢れている。

 

「やっと来たか……遅えよ。見ろよ、二人はもうすっかり夢の中だぜ」 

「これも雅の務めだ。先日の柱合会議で話し合われた件について、お前達にも話さなければならない事があるからな」

「って言ったってよぉ……」

「仕方あるまい」

  

 やれやれと(ゆかり)がため息をついて立ち上がる。輪廻(りんね)御憑(みつき)を起こそうと身体を揺すってやる。

 

「おい、いつまで寝てる。起き……」

 

 

 もにゅん

 

 

 寝ぼけている御憑(みつき)の手が、(ゆかり)の豊かなそれを掌いっぱいに掴んだ。鬼面の目元しか見えていないが、目を見開いている辺り、驚いているのだろう。

 

「大福……」

 

 そして御憑(みつき)の可愛らしい寝言が追撃となって、伊万里(いまり)が吹き出し笑いしてしまう。

 

 何か夢でも見ているのだろうが、自分の胸を大福扱いされた緣の額がピキッと青筋が立っただろう音が聞こえ……

 

 

 げんこつの音二連

 

 

 (ゆかり)の拳骨が御憑(みつき)輪廻(りんね)に直撃、見事なたん瘤が出来上がる。

 

「殴って起こさないでください……」

「あぅ……痛い……」

 

 たん瘤が出来た所を擦る二人。二人は何で殴られたのか理解しておらず、実行犯である御憑(みつき)はともかく、輪廻(りんね)からすれば理不尽極まりない所業である。

 

 一先ず全員揃った所で、姿勢も改めて柱合会議で話し合われた内容と雅への通達を話し合う。最初は那田蜘蛛山での被害状況からだ。

 

「今回、那田蜘蛛山での被害状況は特に甚大。死者と負傷者が、これまでの例を越えている。雅の鍛練を受けた者もいるようだが……悲しい事に、中には命令違反を犯した者もいるという。その事で、風柱様と蛇柱様に酷くどやされてしまった」

「連携の訓練か……。散々やったはずだろ?三人一組で戦うってやつ。それでも駄目だったか」

 

 頭を抱えてため息をつく。鬼一体に対して連携して当たる訓練は基礎として教えているのだが、命令違反をされては訓練の意味がない。

 

「中には反抗的な態度をとる者もいますからね?何でこんなガキに……と」

 

 特に入隊歴が浅く、年下の御憑(みつき)に教わるとなると、先に入隊した隊員にとっては不愉快なのだろう。

 

 故に雅の道場に行く事を拒否して任務に行ってしまう者も少なくはない。これは御憑に限らず、他の三人も鍛練を放棄が課題となっている。

 

 また雅の道場で教えると言っても、時は無限ではない。教える技術は多くはなくても、会得するのには時が掛かるものばかり。

 

 期限は設けていないが、それも任務が通達するまでであり、完全に習得する前に任務を通達され、行ってしまう者が殆ど。

 

 雑魚鬼ならまだ通用するもしれないが、今回の相手は下弦ノ伍。付け焼き刃の太刀では通用しない相手であるのが悔やまれる。

 

「全員に期限を設けようよ。訓練をある程度受けて任務って言われる人もいるし、一日じゃ教えきれないよ」

「一週間、遅くとも十日か」

 

 輪廻(りんね)の提案に、(ゆかり)が頷いて具体的な期限を決める。だがこれに伊万里は不服を示した。

 

「いや……確かに期限は必要だろうけど……日数足りねえだろ?常中ってそんな簡単に出来るもんじゃねえぞ?」

「分かっている。だが一から十、全てを教えては意味がない。ある程度道筋を与え、その過程の上で会得させた方が、より彼らのためになる」

 

 雅では実戦形式で教える事が多く、口で説明するより身体で慣れさせるのが手っ取り早い。実戦で自分から発見させる事で、より飲み込みやすくさせる。それは伊万里(いまり)も分かっている事だ。

 

「僕達に出来る事は、技術を教える事。出来るかどうかは、彼らの努力次第です」

 

 御憑(みつき)にそう言われてしまうと、言い返せない。

 

 自分達が出来る事はあくまで教える事。そこから先はどうであれ、彼らの努力次第。自分達がどうこうできる問題ではない。

 

「では、お館様に隊の訓練期限の設置を申し上げよう。そして、その期間で各々に必要な鍛練を決めていく」

 

 まずは最初の議題を終わらせ、次に炭治郎と禰豆子の監視について。(ゆかり)が提案した、雅の一人と合同任務。

 

 それは炭治郎と禰豆子の安全を守る為であり、同時に万が一の為に、禰豆子が人を襲わないようにする為の言わば監視体勢である。

 

「けど、炭治郎って今蟲柱の屋敷で療養してんだろ?だったらしばらくは平気じゃねえの?」

「だが用心に越したことはない。万が一その鬼が人を襲うような事があれば、直ちに……」

「しないよ、絶対に」

 

 懸念材料が多すぎると禰豆子をまだ警戒している(ゆかり)に対して、輪廻(りんね)はそのような事はないと言い張る。

 

 とはいえ、主の命令は絶対であり、(ゆかり)御憑(みつき)も禰豆子が人を襲わなかった事を見届けた為、これ以上の不服を申すことは出来ない。

 

「だが前例のないこの事態、何が起きても不思議ではない」

「ま、その時になったら私が始末するさ」

 

 炭治郎を擁護し続けていた伊万里(いまり)とは思えぬ発言。御憑(みつき)がどういうわけかと問う。

 

「隊律違反してまで庇っていておきながら、その物言いについては些か違和感を覚えますが……」

「あたしなりのケジメだよ」

 

 極道者は一度口にした事を安易に違える事をしてはならない。その教えが生半可な覚悟ではない事は伝わらせている。

 

「では竈門炭治郎との合同任務については、通り任務に行く者と含め、それと通り道場で指南する者と二名ずつに分け、これまで通り順番に交代していく事とする。 」

 

 雅での取り決めは、道場で指南する者と任務に行く者を二名ずつに分けて配置、例えば道場組・壱に(ゆかり)、弐に伊万里(いまり)、任務組・壱に輪廻(りんね)、弐に御憑(みつき)に配置されたとする。

 

 道場組

 壱・緣 弐・伊万里

 

 任務組

 壱・輪廻 弐・御憑

 

 

 道場組に新たな任務指令が下された場合、任務組のいずれかと交代になる。

 

 道場組

 壱・御憑 弐・緣

 

 任務組

 壱・伊万里 弐・輪廻

 

 そして交代する際はどこまで教えたのかを任務に行く前に本人に伝える。伝えられれば手段は問わない。

 

 今後の方針も決まり、雅の話し合いはこれにて閉会となる。

 

「では各々方……ん?」

 

 それぞれの仕事に戻そうと閉める直前、縁側から入って来た鎹鴉。その右足には一枚の紙が巻かれている。

 

「あの鎹鴉は……」

「カァー!カァー!蟲柱カラ疼木 緣(ひいらぎゆかり)ヘ通達!通達!至急、蝶屋敷ヘ来ルヨウニ!詳細ハコノ手紙ニ書イテアル!」

 

 どうやらこの鴉はしのぶの鴉であり、その紙は手紙のようだった。(ゆかり)は手紙を解いてやり、鴉をいかせると、手紙を開いて読む。

 

 中身が気になるようで輪廻(りんね)は後ろから覗き込んでいる。だが文字を見ても何の反応もなく、痺れを切らした伊万里がその上から覗き見る。

 

「蝶屋敷で療養中の炭治郎と……我妻善逸、嘴平伊之助の機能回復訓練と稽古をつけてやってほしい。しかも、(ゆかり)を指名してる」

 

 大まかにはそう書かれており、最後には耀哉からも承認されているとの事。つまり、(ゆかり)は新人隊士三名の稽古の指南役を指名されたという事だ。

 

 (ゆかり)は微かに聞こえる溜息をつくと、文を折りたたんで、道場から出ようと襖に手に掛ける。

 

「何処に行くんだい?」

 

 伊万里(いまり)の問いに対して少しの間沈黙を保つと

 

「蝶屋敷へ行く。お館様も公認では無視出来ない」

 

 襖を開いて、そのまま道場から出て行った。その背中を腕を組んで見ていた伊万里(いまり)は面倒くさそうにボヤく。

 

「はぁ……随分難儀だねぇ。あの二人も」

「どういう事?」

 

 輪廻(りんね)には何の話か分からないようで伊万里(いまり)に聞こうとするが、口に人差し指を当てられる。

 

「この話に踏み込みなさんな。あれは事例が特殊だからな。さて、行きますか」

 

 伊万里(いまり)が道場から出ていった。輪廻(りんね)も話をはぐらかされて不満なのか、頬をぷくーっと膨らませながら任務へと赴いた。

 

「つまり、ここは僕だけですか」

 

 ポツンと残された御憑(みつき)は、たった一人で指南しなくてはならなくなった。

 




大正コソコソ噂話

緣の鎹鴉、紅葉の歌下手は鴉の中でも有名な話であり、かなり酷評をくらっている。
ある雌鴉からは「ヘタクソ!音痴!耳ト喉ガイカレテンワ!」と言われて大喧嘩に発展したそう。
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