雅なる隊士達   作:レーラ

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いつもご愛読ありがとうございます。

蝶屋敷編開始から前半部分に緣の過去描写を含ませましたが、そのパートは今回で最後となります。

以降の緣の過去描写は一話丸々使う量になるかなと思いますが、蝶屋敷編で描ききれればと思っております。

お気に入り登録、感想等くださると幸いです。


夢への思い

 最終選別を最終日まで生き延びていた三人。だがしのぶが(ゆかり)の不甲斐なさに怒りが爆発。緣は耐えきれなくなり二人の前から逃げ出してしまった。

 

 自分なんていなくなればいい。いつまでも役に立たない能無しなんか要らない。自分はカナエの隣にいる資格なんてない。緣の足元に涙が一雫落ちる。

 

(私なんて……私なんて……)

 

 溢れる涙を拭っても止まらない。このまま消えてしまいたい。家族のもとに行きたい。そう思っていた時だった。

 

「姉さん!」

 

 遠くからしのぶの声が聞こえた。張り詰めた声からして何かとんでもない事が起きている。緣は急いで来た道を引き返した。

 

「カナエ!カナエ!」

 

 走る足が止まった。目の前には頭から血を流して倒れたカナエを抱えるしのぶがいた。

 

「カナエ!一体何が……」

「突然石が飛んできたの!姉さんが、私を庇って!」

 

 頭から血を流しているが、死んではいない。気を失っている。直撃は免れたのだろうが、まともに戦える状態ではない。

 

 自分が逃げ出したせいで、カナエが自分を追いかけに来なければ、こんな事にはならなかった。自分がいなければ、カナエが傷つく事なんてなかった。

 

「私の……せいで……」

 

 何かが近づいている事に気がついて振り返った時、側頭部に当たったて倒れた。

 

「疼木さん!」

 

 しのぶの悲痛な叫びが木霊する。だが(ゆかり)の意識は保たれている。直撃はしていないが、出血している。だが不思議とそんな事は気にならなかった。それよりも、自分の心の中に何かが込み上げている。ドス黒い何かが。

 

 徐に立ち上がったが、足元が覚束無い。油断すると意識が真っ暗になる。そこにまた再び何かが飛来してきた。だが今度は日輪刀でそれを叩き落とした。

 

「石……?」

 

 しのぶが飛来物の正体を確認した。こんなものがもし脳天に直撃したら、簡単に絶命する。それを鬼の腕力で投擲すれば弓矢以上の威力になる。元凶である鬼が生きている限り、それが続く。

 

「疼木さん……」

「ごめんなさい……私のせいで……」

「無茶よ!待って疼木さん!」

 

 しのぶの目の前で再び走り去って行った。今度は逃げるのではない。カナエを傷つけた鬼を殺す為に。だがカナエを抱えたままでは止めようがない。

 

「ぅっ……しのぶ?」

「姉さん!良かった!」

 

 (ゆかり)の姿が見えなくなったと同時に、カナエの意識が戻った。ゆっくり起き上がって辺りを見渡す。

 

「緣は?」

「さっき、鬼を倒しに……」

「えっ……?!」

 

 たった一人で緣が鬼を殺しに行ったと知り、愕然とするカナエ。嫌な予感がする。二人は急いで緣の後を追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 カナエ傷つけた鬼がこの先にいる。殺さなきゃ。

 

 

 石が飛んで来た。こっちに気付いたのか分からないけど、狙いが雑になっている。

 

 

 

 額に掠った。血が出ても関係ない。カナエを傷つけた鬼を許さない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

殺す……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

殺してやる……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 お前さえいなければ……お前らさえいなければ……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お前達なんかいなければ……!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 許せない……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今更泣いたって許さない……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「落ち着いて疼木(ひいらぎ)さん!」

 

 後ろから突然羽交い締めにされた。鬼を何度も切り刻む(ゆかり)をしのぶが止めに入ったのだ。だが返り血で顔半分が紅に染まっても尚、緣は憤怒の声を荒らげたまま止まらない。

 

 既に鬼の頸は斬られているのだが、既に人だった形すら成していない。泣き別れになった胴体もズタズタに切り刻まれ、一部は塵になっているものの踏み潰したのか砕けた肋骨や脊椎が露わになっている。鬼を倒すだけならここまで嬲る必要はない。

 

「もう鬼は死んでるの!これ以上の攻撃は必要ないってば!」

 

 何とか抑えようとしても、背丈と腕力では劣るしのぶでは抑えきれない。すぐに振り払われてしまった。自由の身になった緣は再び日輪刀を振り上げた。まだ塵になっていない鬼の身体を切り刻む為に。

 

「緣!!」

 

 その声で緣の手が完全に止まった。徐に振り返る。

 

「カナ……エ……」

「ごめんね……私の為にここまで怒り狂わせたのね……。もういいの。これ以上苦しませないであげて」

 

 カナエがここいる。でもカナエは困っている。何故?何で困った顔をするのか?

 

違う。カナエを困らせたのは他の誰でもない。自分自身だった。赤い眼に涙を浮かべ、頬に流れた。緣はようやく力尽きて倒れる。咄嗟にしのぶが抱えてすぐに傷の具合を見る。致命傷は避けているが出血量が多い。手当をして、包帯を巻いて止血させる。

 

 何故カナエが緣を評価したのか、先程の形相を見て理解出来た。純真無垢であるが故に、怒りを制御出来ない。そのタガが外れた時の恐ろしさは、人や鬼ですら戦慄させてしまう。

 

「ごめんね……緣」

 

 カナエが意識を失った緣に歩み寄り、そっと抱きしめた。しのぶに代わって、カナエがそのまま緣を抱えながら山中を進む。

 

 やがて、藤の花が咲く一帯に到達。鬼は藤の花が苦手でこの辺りには寄って来ない。つまり、ここまで来れば鬼に襲われる心配はない。この時、緣も目を覚ました。三人は欠けることなく無事に七日間生き延び、下山する事が出来たのだった。

 

 

○○

 

 

 炭治郎が全集中・常中の鍛練を始めて数日後、その特訓の成果は現れていた。全集中・常中のお陰で基礎体力が飛躍的に向上していた。全身訓練で今まで軽々と躱され、捉える事すら出来ていなかったのだが、今回はカナヲの手が触れる寸前まで追い詰めた。

 

 まだずっと維持できるわけではないが、それでも以前に比べたら目覚ましい成長を遂げていた。任務から帰って来た(ゆかり)であるが、内心彼の成長を賞賛している。

 

(カナヲをここまで追い込むとは。竈門、この数日で腕を上げたな……)

 

 次の段階へと進めるべく立ち上がると、訓練を一時中断させるべくアオイに合図を送る。

 

「そこまで」

 

 まだ勝負が着いていない中で突然の中断指示が下され、驚いたカナヲと炭治郎は緣の方を向いた。

 

「カナヲ、代われ」

「え……?」

「竈門、私が相手をしてやる」

 

 しばし流れる沈黙。そして……

 

「「「「えええええぇぇぇーーー?!」」」」

 

 炭治郎を除くその場に居合わせた全員が驚いた。カナヲも声には出さなかったが、驚きの表情が現れていた。

 

「よろしいんですか?!まだカナヲに勝ててないのに、(ゆかり)様直々になんて……」

 

 当然アオイは大反対。それは緣の実力を知ってるから言える事だ。カナヲを追い詰めただけでまだ勝てたわけではない。なのにそれ以上に強い緣が相手となるとかなり酷とも言える。下手をしたら善逸と伊之助のように心を折ってしまう恐れがあった。

 

「竈門の性格を考えた上での判断だ」

 

 真面目で向上心の高い炭治郎は、高い壁を目の前にしても臆する事なく超えようと立ち向かう。敢えてカナヲを超えた先を見せる事で、さらにその高みを目指すべく努力すると踏んだ。

 

「さあどうする竈門?やるか?」

 

 とはいえ実力差は明白。恐らく炭治郎は緣に手も足も出ない今回は強制せず、やるかやらないかは炭治郎任せる事にした。が、炭治郎の答えは決まっていた。

 

「やります!やらせてください!」

 

 迷いなく、真っ直ぐに、強い声で返事をした。かくして(ゆかり)が直々に炭治郎の相手をする事になった。

 

 

 まずは反射訓練。互いに向かい合うように正座。アオイの合図を待つ二人だが、緣と相対する炭治郎の手が震えていた。

 

(いざこうして向かい合うと、緣さんの恐ろしさが身に染みる……!匂いや威圧感も柱と同様のものを感じる。これは、味方からも恐れられるわけだ……)

 

 鬼巫女と呼ばれる所以を真の意味で、その身体に刻み込まれたような気がした。だがそれで引き下がる炭治郎ではない。寧ろ、闘志を燃やしている。

 

 緣と炭治郎。交互に見て準備完了と判断したアオイが合図を送る。

 

「では……始め!」

 

 だがその刹那に炭治郎の顔に薬湯が掛かった。

 

「ぶへぇっ!」

 

 あまりの速さに反応出来なかった。

 

(何が起きたんだ?!いつの間に?!)

 

 湯呑を押さえられたわけでもなく、本当に速さで負けてしまった。しかも初めてカナヲとやった時よりも速く、炭治郎が手を動かす前に勝負が着いてしまっていた。

 

「臆するな。筋肉が強ばっているぞ」

「は、はい!もう一度お願いします!」

 

 緣から反省点を貰い、二回目に挑むも結果は変わらず。三回目以降もあえなく敗北し続ける。

 

「一点に集中するな!周りを見ろ!」

「ぶはぁっ!」

「目線で丸わかりだ!」

「あぎゃあぁっ!」

「余所見しろとは言っていないぞ」

「ずびばせぇーん!」

「常中が切れたぞ!維持しろ!」

「はいぃぃ!」

 

 何度も薬湯を浴びせられては指摘され続けた。結局炭治郎は緣に一勝は愚か、湯呑を抑える事すら出来なかった。

 

 次は全身訓練、炭治郎が鬼役側で始まった。

 

「始め!」

 

 アオイの合図で訓練が始まった。全集中・常中で走り出し、緣に手を伸ばした。が、緣の身体がひらりと舞った。確かに届いたはずだったが、炭治郎の手が掴んだのは虚空だった。

 

(速い!届いたと思ったのに!)

 

 諦めずに切り替えしてその腕を伸ばすが、緣には届かず転んでしまう。

 

「どうした?ただ闇雲に押し通せると思っていたのか?」

「まだまだ……!」

 

 立ち上がって何度も手を伸ばしても緣はそれを軽やかに避ける。届きそうで届かないのはカナヲの時と同じだが、意味合いが全く異なる。

 

 カナヲの時は本当に寸での所で届かないのだが、緣の場合はわざと届かせて、それを軽々と避けてしまう。最小限の動作で回避して、体力の消耗も軽減させる事で長時間の戦闘に対応する。まさに今の炭治郎に欠けているものだ。

 

 結果、緣に掠りもしないまま交代。今度は緣が鬼役となるのだが……

 

「それでは、始め!」

 

 その瞬間、緣が素早く駆け出して間もなく炭治郎の眼前に迫っていた。

 

(うええぇっ!!怖ぁっ!!)

 

 いくら炭治郎であっても鬼面が目前に迫られては戦慄してしまう。呆気なく肩をポンと叩かれ、訓練は三つ数を数える間もなくも終わってしまった。

 

「これくらいの事で怯えるな。本物の鬼を狩っているというのに、何故これで驚くのだか……」

(いや、(ゆかり)さん!申し訳ありませんが、これは誰でも怯えますって!)

 

 下手をしたら本物の鬼より怖かった。もしここにいたのが善逸がだったら気絶は免れないだろう。

 

 結局炭治郎は緣に一勝も出来ずに夕刻を迎え、今日の訓練はここまでとなった。分かっていたが手も足も出ない結果に落ち込む炭治郎。

  

「今日はここまでだ」

「あ、ありがとうございました……」

 

 とぼとぼと訓練所から出ようとした時……

 

「竈門。お前はまだ常中を保てていないが、以前よりはマシになっている。引き続き、励む事だ」

 

 緣から今日の総評を贈られた。辛口ではあるが、褒められた。こんな事は初めてだった炭治郎は思わず唖然とするが、すぐに我に返った。

 

「は、はい!ありがとうございます!」

 

 返事が少し遅れる程に嬉しかった。確実に強くなっているんだと認識する事が出来た。次に繋げようと息巻く炭治郎。そこに危機感を感じ始めた二人の新人隊士がいた。

 

 ――

 

 炭治郎が劇的な成長を遂げている一方、善逸は焦り出した。あのカナヲに追いついている。緣が用意した特別製の瓢箪を割った。善逸と伊之助が訓練をやめてしまった間、炭治郎と大きく差が開いてきてしまっている。このままではどんどん置いていかれてしまう。

 

 いつも炭治郎は何かと自分を勇気づけるだけでなく、自分達の危機を助けてくれた。そればかりか、己を鍛える事に時間を惜しまず、日々努力を重ねる。

 

 一方炭治郎達とは対照的に、自分は今もこうして不貞腐れている。日に日に危機感が大きくなり、とうとう機能回復訓練に参加することを決意した。伊之助も炭治郎の姿を見て立ち上がった。

 

 だったのだが一つ問題があった。そう、相手は鬼巫女の緣だ。長い間不貞腐れて休んでしまった以上、何もなかったように指南を受けようなど、厚かましいにも程がある。土下座しても指導拒否されるかもしれないと、訓練所の前でウロウロと悩んでいると……

 

「あら?どうされましたか?」

 

 たまたましのぶが通り掛かった事でその悩みを打ち明けることが出来た。事情を理解したしのぶが緣に、二人を大目に見てやってほしいと説得した。

 

 緣はそれならしのぶに言わせるのではなく、自分達から言えば良いではないかと怒ってはいたが、最終的には緣が折れた。

 

 こうして何とか訓練に参加出来るようになった二人は、全集中・常中についてしのぶと炭治郎から教わる事になった。しのぶから一通り説明を受けた後、早速やってみることになったが、二人とも今にも死にそうなくらい苦しんでいる。

 

「無理いいぃぃ!死ぬうううぅぅぅぅ!!」

 

 あまりのキツさに、善逸は汚い絶叫を挙げている。

 

 炭治郎も懸命に二人に教えていたのだが、その説明下手は壊滅的だった。困った三人だったがしのぶが炭治郎の後ろから肩に触れながら近づいた。

 

「まあ、これは初歩的な技術なので、出来て当然ですけど会得するには相当努力が必要ですよね」

 

 そういうとしのぶはそのまま伊之助の目線に合わせるように、前に座った。

 

「まあ、出来て当然ですけど(・・・・・・・・・)、伊之助君なら出来ると思ったのですが、出来ないんですか?出来て当然ですけど(・・・・・・・・・)。出来ないなら……しょうがないしょうがない」

 

 と笑顔で煽るように言い放ち、伊之助の肩をポンポン叩いた。 その反応はというと……

 

「はああぁぁぁーーっ?!出来るっつーの!!当然に!!ナメんじゃねぇーー!!乳もぎ取るぞゴラアァーーッ!!」

 

 分かりやすく憤る伊之助を軽く受け流し、今度は善逸の両手を握って笑顔で言った。

 

「頑張ってくださいね善逸君。一番応援してすよ(・・・・・・・・)

「はいいいぃぃぃぃーーーーっ!!」

 

 その言葉に善逸は顔を真っ赤にしただけでなく頭から湯気が噴き出した。こうしてしのぶの言葉巧みに乗せられたと言っても過言ではない二人は鍛練に勤しむようになった。

 

 外で三人が常中の鍛練を取り組んでいる最中、その様子を見ていたしのぶ。そこに緣が通り掛かり、その光景を目の当たりにした。

 

「見てください。あの二人、あんなにやる気になりましたね」

「一体何を言って、彼らを乗せたんです?」

「乗せただなんて人聞きが悪いですね。やる気を引き出しただけですよ。後の継続は彼ら次第ですが」

 

 緣は返事をせず、こちらに来た紅葉を相手にする。

 

「任務〜♪任務〜♪巫女ヨ任務〜♪」

「分かった」

 

 再び任務指令が舞い降り、直ちに出立しようとした時、腕を掴まれた。振り返るとしのぶが真剣な眼差しでこちらを見ている。

 

「何のつもりです?」

「誤魔化すのはやめて、(ゆかり)

 

 口調も丁寧なものではない。正真正銘、素のしのぶとして緣に問いかける。

 

「あなたも感じてるんじゃないの?竈門君と禰豆子さん。二人には大きな可能性がある。姉さんと緣の夢を託せるに値するって……」

 

 かつてカナエと見て、一緒に叶えようと奔走した夢。それを思い出すだけで、緣の怒りが込み上げてくる。しのぶの口から夢という言葉が出た時、その嫌悪感は極みに達した。振り払ってしのぶの手を解いた。

 

「軽々しく夢を口に来るな……」

 

 今までしのぶに対して敬語で話していたのが一転、口調がまるっきり変わっている。

 

「もう戻る事は出来ない。夢など……」

 

 幻想に過ぎない。

 

 そう言い放って緣はしのぶの前から去って行った。しのぶの脳裏に緣が去ったあの日が蘇って伸ばそうとした手が止まり、これ以上引き止める事が出来なかった。

 

 

 私は夢を捨てる

 

 

 気付いたんだ……。鬼の醜さを……本当の自分の醜さも……

 

 

 夢など……幻想に過ぎないんだ

 

 

 

「そんな事言わないでよ……(ゆかり)……」

 

 誰よりもカナエの夢を応援し、誰よりもカナエと共に戦った緣の口から聞きたくなかった。一人残ったしのぶの表情が翳る。

 

 

――

 

 

 月が浮かぶ夜。今宵もまた、哀れな獲物が狼狽して逃げ惑う。息絶え絶えで、無我夢中に草木を掻き分けて走る。追いつかれれば命はない。

 

 だが逃げているのは人ではない。人とは思えぬ真っ白い肌と鋭い眼、爪と牙。ボロボロの着物を纏うそれは、紛れもなく鬼だった。

 

 鬼の方が力が強く、人など簡単に殺められる。その鬼が何かを恐れ逃げ回っている。背後を見ると、鬼殺隊の剣士が追って来ている。それもただの隊員ではない。赤い鬼面を着けている。疼木(ひいらぎ) (ゆかり)だ。

 

(何だよアイツ?!俺の力が全然通用しねえ!柱でもねえ奴が!)

 

 怒りに任せた鬼の舌が鞭のように伸長した。だがその先端はまるで槍の穂先のように鋭い。変則的な動きで緣の心臓を狙った。

 

 だがそれは掠りもせず、振り上げた日輪刀によって一刀両断。切断面から鮮血が飛び散る。頸を斬らない限り、鬼は切断されようが心臓を抉られようが、忽ち再生する。斬った舌も例外ではない。だが緣が立て続けに斬っていった事でその再生が追いつかないようにしている。

 

 狼狽えている間に鬼は緣に追いつかれ、逃げる為の四肢を切断された。それでも、這いつくばって逃げようとするが、両腕も断ち斬られて逃げる術を失った。

 

 殺される。人を蹂躙するはずの鬼が死の恐怖に襲われている。

 

「貴様に問おう」

 

 死は確実と思われていたこの状況に震えていた鬼が、突然問われて固まった。

 

「人と鬼は……仲良くなれると思うか?」

 

 何を聞いているんだコイツは?鬼は理解出来なかった。だが答えなければ殺される。もしかしたら、命乞いを聞いてくれるかもしれない。震える声を発した。

 

「な、仲良くなれると……お、思いますぜ……!」

「そうか……お前は仲良くなれると思うか」

「へ、へへ……」

 

 返答の中に下卑た笑みが混じる。生きてさえいれば何とかなる。いつか強くなって、コイツを殺す。いっそここで殺してやろうか。舌も回復しつつある。もう少し、時間を稼げば。そう思っていた時だった。

 

「だが……お前は何人食った。その手で、その何枚もある舌で……どれだけの人を殺した?」

 

 怒気を含ませるように問われ、気付いた時には頭を強くふまれていた。顔面を地面に強く押し付けられ、舌を出す口を封じられた。

 

 緣は最初から鬼の言など信じていなかった。例え生かしておいても、また本能のまま人を食らうが故に。

 

(何が仲良くだ……鬼はそうやって人を殺し続けているではないか……!)

 

 鬼の胴体を蹴り上げた。手足を失った鬼は為す術なく宙を舞う。

 

 

花の呼吸 捌ノ型 片喰残響(かたばみざんきょう)

 

 

 跳躍した緣。強く握りしめた日輪刀を振り下ろすが、斬撃が同時に五連続、縦横無尽に繰り出され、頭、頸、胴体がバラバラになって地に落ちた。

 

 着地した緣だが、消えゆく運命となった鬼に見向きもせず、納刀。その場から立ち去った。鬼を見るだけで怒りが込み上げてくる。今朝のしのぶとの一悶着もあってかその怒りは凄まじいものだった。

 

 

(人と鬼が仲良くなるなど……)

 

 

 

 

 一緒に鬼を救いましょう。二人でなら出来るわ

 

 

 あなたも感じてるんじゃないの?竈門君と禰豆子さん。二人には大きな可能性がある。姉さんと(ゆかり)の夢を託せるに値するって……

 

 

 

 

 

(そんな事が……)

 

 

 

 

 

 な、仲良くなれると……お、思いますぜ……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あるものか!!」

 

 

 

 

 

 

 

 緣の張り詰めた怒声が木霊する。木々で眠っていた鳥達が緣から逃げ出すように一斉に羽ばたいた。




大正コソコソ噂話

花の呼吸 捌ノ型 片喰残響

対象の敵を一度に連続で広範囲の斬撃を繰り出す。こちらも漆ノ型 徒桜と同様、斬撃を繰り出す時のみ威力が跳ね上がるものになっているが、あちらはカウンター型に対し、こちらは攻撃特化となっている。
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