雅なる隊士達   作:レーラ

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今回オリジナル展開になります。なるべく無限列車編と整合性が取れるようにしますので、よろしくお願いします。


合同任務

 (ゆかり)が任務から帰還したのは朝方だった。既に機能回復訓練は開始されているだろうと考えながら、蝶屋敷に向かっている。そこに紅葉が慌てて飛んで来た。

 

「巫女〜!巫女〜!」

「どうした?」

 

 慌てながらも歌っている紅葉(くれは)。そこは相変わらずだ。

 

「竈門炭治郎ガ!竈門炭治郎ガ!」

「竈門がどうした?」

「トニカク急グノダ〜!」

 

 紅葉に急かされ、走って向かう緣。幸い蝶屋敷までそう遠くない距離だった為、早く到着した。その足で訓練所に入った緣。

 

「わーい!やったー!」

 

 そこでは炭治郎がきよ、すみ、なほと共に喜んでいた。何故このような状況になっているのか、カナヲを見てもすぐには理解出来なかった。薬湯を掛けられた様子は見られないが、代わりにカナヲの頭の上には薬湯が入っている湯呑みが置かれていた。

 

「何故湯呑みが……」

 

 反射訓練は相手に薬湯を掛ける事で勝利となる。だが炭治郎は掛ける代わりに湯呑みを置いたのだ。まあ、炭治郎が掴んだ湯呑みを抑えられなかったからこそこうなったのだろうが、それにしても可笑しな状況だ。

 

「あっ!緣様!」

「炭治郎さんが初めて勝ったんです!」

「全身訓練も勝ったんですよ!」

 

 緣に気が付いたきよ、すみ、なほの三人が、まるで自分の事のように喜んでいる。それもそのはず。緣に命じられたとはいえ、炭治郎の特訓にどこまでも付き合ったのだ。その成果が実を結んだ瞬間を目の当たりにして、無邪気に喜ばずにはいられなかった。

 

「そ、そうか……」

 

 一応、状況は把握した。改めて炭治郎と向かい合う。

 

「緣さん!俺、勝てました!」

「鍛練の成果、実を結んだな」

「はい!ありがとうございます!」

「だがあくまでも一回勝っただけだ。一回の勝利に酔いしれる事は許さん」

「分かってます!何度もカナヲに挑むつもりです!」

 

 そう言って炭治郎は再びカナヲに挑んだ。彼の成長を見て、機能回復訓練の指導は必要ない。そう悟って緣は訓練所をろうとした時、コソコソと覗き見ていた伊之助と善逸を見つける。

 

「何を遊んでいる?」

「い、いえ!訓練に戻りまーす!」

「遊んでねえ!訓練だ!今からな!」

 

 善逸は恐怖、伊之助は息巻いて訓練に向かった。二人とも炭治郎の成長に焦りを抱いているのは同じ。だが二人は炭治郎があれだけ苦労した全集中・常中を、たった数日で会得したのだ。

 

 竈門炭治郎、我妻善逸、嘴平伊之助。この三人は、いずれ鬼殺隊にとって大きな存在となる。そんな予感がした。

 

 やがて、炭治郎の傷は完治したとしのぶから認められた。折れてしまった日輪刀も鍛冶師によって打ち直してもらった。これにより、炭治郎は任務に復帰という事になる。そして柱合会議で決まった通り、炭治郎は雅との合同任務に当たる。

 

 遂にその時が来た。久しぶりの任務という事もあるが、柱の域にある雅との合同任務であるからか、炭治郎の気合いの入れようは凄いものだ。

 

「よろしくお願いします!緣さん!」

「御託はいい。行くぞ」

 

 だが緣は気合十分の炭治郎の挨拶を気に留める事なく、任務地へと赴いた。

 

 

○○

 

 

 竈門炭治郎との合同任務は、雅の誰かが共に任務に当たり、炭治郎の成長促進と妹である禰豆子の監視、周囲の信用を得る事を目的として行われる。当然任務である為、生死に関わる。最初に同行するのが(ゆかり)になるのは自然の流れであった。

 

 今回南東にある山奥の村に出没したというものだ。十二鬼月であるかはまだ不明だが、那田蜘蛛山の時とは違い炭治郎は全集中・常中を身につけた。以前より格段に強くなっている。だが油断するべからず。山道に入った二人は索敵を行う。

 

 炭治郎は持ち前の鼻の良さを使って、周囲に鬼がいないか探している。もし鬼がいれば、血の匂いが強くなる。だが緣にはそのような能力はない。だからこそ、あらゆる事態を想定して襲撃に備える。現に緣の構えからは、例え見えない背後からも、刺々しさを帯びているような匂いが発せられる。

 

 風で揺らぐ枝葉の音、川の流水、足音、異変が無いか察知しながら進んでいく。次第に川の流れが強くなっている。あれから随分と登っているが、一向に鬼が現れる気配がない。

 

 やがて長い吊り橋を渡り、対岸の索敵に入る。視界が利かない中、炭治郎が何かに気が付いた。

 

「緣さん、近くに鬼が……!」

「引き続きその鼻を使え」

「はい……!」

 

 炭治郎の進言を振り返らずに受け答えると、少し歩く足を早める。炭治郎もその後に続く。進んでいくと匂いが強くなっていく。鬼に近づいているという事だ。尚更気を引き締めなければならないが、そこに緣が突如、片腕を上げて制止する。

 

「村だ」

 

 腕を降ろしてその先の光景を見せてやる。月明かりに照らされている集落があった。だが既に廃村となったようで、人家屋や家畜小屋の形は最早成していない。

 

 だが代わりに、そこから鬼の匂いが強く発している。炭治郎の鼻が捉えた。だがその中に、微かだが違う匂いを感知した。

 

「もしかして……人がいる?」

「何……?」

 

 この近くに民間人がいる。それを知り、声に僅かな驚きが混じる。鬼を討伐するのは当然の事だが、要救助者がいる以上、放っておけない。炭治郎はその匂いに向かって走った。

 

「竈門……!」

 

 突出を咎める緣だが、炭治郎は止まらなかった。匂いのする地点、廃屋の中に入った。半壊しているとはいえ、まだ現存している屋根に月明かりが遮られ、視界が利かない。だが炭治郎の鼻なら辿る事が出来る。ゆっくり足音を立てずに、慎重に進んで進む。

 

 そうしていくと、奥に破壊された跡の出入り口を見つけた。その部屋に入ると、その片隅に匂いの元を見つけた。そこに二人の子供が身を縮こませながら震えていた。男の子が女の子に覆い被さるようにこちらを見ている。

 

 子供達に怪我はないようで、無事に見つけられた炭治郎は安堵しつつも、ゆっくり歩み寄る。

 

「もう大丈夫だぞ。助けに来た」

 

 助けの手を伸ばした炭治郎。だがその時、真上から迫る闇からの刺客。気が付いたが間に合わない。その一撃が炭治郎に迫る。だがそれは炭治郎に届く直前、赤紫色に煌めく斬撃によって弾かれた。炭治郎の背後に降り立った緣だ。

 

「緣さん!」

「まんまと釣られるか、このたわけが……!」

 

 炭治郎の方を見ずに叱責。炭治郎は床と天井を見て、自分がまんまと誘き出されていた事に気付く。ここはちょうど屋根が無く、月明かりに照らされている。そこに来た時を見計らい、不意討ちを仕掛けて来た。子供達を餌に、そうやって助けに来た鬼殺隊の義心を利用した作戦だ。

 

 だが今ので終わるわけがなく、また仕掛けて来た。空から大量の針が降り注ぐ。今度は子供諸共殺しに掛かっているら、だが今度はしくじらない。

 

「水の呼吸 陸ノ型 ねじれ渦!」

「花の呼吸 捌ノ型 片喰(かたばみ)残響(ざんきょう)

 

 炭治郎の日輪刀による斬撃が捻れる水流の如く繰り出され、緣の刃は怒涛の斬撃と共に針を全て叩き折った。だが追撃はこれだけで終わらず、無数の羽虫が屋根を覆う。

 

「蜂?!」

 

 その正体は無数の蜂。網目状の目が緣と炭治郎を獲物と捉える。しかも屋根だけでなく出入り口を全て、蜂の群れが作り出した壁によって塞がれた。

 

(しまった……!これでは逃げられない……!)

 

 自分の不注意で助けるどころか絶体絶命の状況に追い込まれてしまった。自責の念に駆られても打開しようと模索する。

 

「狼狽えるな!」

 

 だがこの状況でも緣は悲嘆していない。緣はポケットから液体が入った瓶とマッチを取り出した。

 

「一体何を……」

「こうする」

 

 瓶を出入り口の方に投擲して割った。中に入った液体がぶちまけると、中身の消毒液の匂いが炭治郎の鼻に強くつく。だが緣がすかさずマッチに火をつけた事で、何をする気か察知した炭治郎が驚愕する。

 

「まさか?!」

 

 止めようとするが、緣は意に返さずマッチを放り投げた。宙を舞うマッチは消毒液に落ちた。その瞬間、小さな火が激しく燃え広がり、廃屋の壁にあっという間に引火した。

 

 味方を考慮しない放火に炭治郎は驚愕するが、同時に蜂達の動きに乱れが生じた。炎を嫌がった事で包囲網に穴が開いた。

 

「今だ!脱出するぞ!」

「は、はい!」

 

 緣と炭治郎は子供達を抱えて、包囲が緩んだ出入り口から脱出。これによって火によって殺される事はなくなった。ある程度小屋を離れると子供達を降ろしてやる。

 

 蜂は火が苦手であるという弱点を突く為に、この小屋を放火した。だが周囲に人がいれば、巻き添えを食らうのは必定であり、自身や味方もそれで命を落としかねない荒業を何の躊躇いも無く行った緣に恐ろしさを改めて感じる。だが幸いにもここに人はいない為、その心配はない。そして火に囲まれる前に脱出する流れも全て計算していた。

 

「死ぬかと思った……。まさか火事を起こして蜂を追い払うなんて……緣さん?」

 

緣に呼び掛けても反応がなく、火事の現場をただじっと見ていた。

 

 

 

お父さん!お母さん!

 

 

かつて幼かったかの日の夜。一つの火事で両親も帰る家も失った緣にとって、大炎は忌々しいものだった。生き残る為とはいえ、家を燃やす方法をとらせた鬼に対してもそうだが、選んだ自分にも怒りを覚える。その匂いを感じ取ったのか、炭治郎は声を掛けるのをやめた。緣はすぐに気持ちを切り替えた。

 

「気を抜くな。まだ鬼を殺していない」

 

 何はともあれ九死に一生を得た炭治郎だったが、緣の言う通りまだ終わっていない。 蜂の群れの行動はどう考えても操られているようにしか見えない。考えられるのは、鬼だ。

 

「緣さん!あれ!」

 

 匂いが強くなった方を指し示す。そこに蜂の群れが一箇所に集まる。次第に蜂の群れが鬼の足を実体化させる。徐々に腿、胴体、上肢、顔、頭とその姿を現していく。

 

「まったく……私の蜂達を随分と斬ってくれちゃってぇ」

 

 鬼となって青白くなった肌に、左肩と右大腿から先を露出させたボロボロの白い羽織を着た長い黒髪の女の姿が露になる。黄色になっている前髪は左目を隠している。額には角ではなく触角が生えている。蜂の女鬼の肌が見える箇所は蜂に刺された跡があるようで、赤く腫れ上がっている。

 

「見たところ、二人とも柱じゃなさそうだけどぁ……まあいいわぁ。私は鋒欠(ほうか)。雑魚らしくせめて醜くのたうち回って死んて……それから私の美しさの糧になりなさぁい」

 

 妙にねっとりとした口調のまま人を見下すその態度は緣に不快感を与えている。だが炭治郎の後ろで怯えている子供達は異形の怪物に慄いてる。

 

「女王蜂気取りか?だとしたら滑稽だ。すぐにその頸斬り落としてやる」

「やれるものならやってみなさい……なぁっ!」

 

 緣の発言にムッとした鋒欠。腕を振り下ろしたのを合図に蜂の群れが一斉に襲い掛かった。小さな針が無数となって矢のごとく降り注ぐ。

 

「花の呼吸 伍ノ型 徒の芍薬」

 

 向かってくる蜂に対し、日輪刀を連続で振り下ろして斬り落とす。受け流せば蜂の標的が炭治郎達に向かってしまう。確実に斬り落として守り抜く。

 

「竈門!民間人は任せたぞ!」

「はい!」

 

 炭治郎に子供達の守りを託し、自身は攻撃が緩んだ隙に駆け出す。狙うは蜂鬼の頸。蜂のように飛べない本体の頸を狙って水平に払う。

 

「ふっ……」

 

 だが蜂鬼はほくそ笑んでいる。その理由が分かったのは刃が頸に触れた時だった。頸と胴は分かれたが、斬ったという実感がまるでない。

 

「残念」

 

 鋒欠の頸が緣を見下している。頸の断面を見るとそれは蜂の群れで作られている。胴の方も断面が蜂の群れで作られており、四肢もピンピン動いている。

 

(やたら手応えが無いと思っていたが……頸を斬られる前に一部を蜂に変えたわけか)

 

 刃が頸を狙った時には既に蜂に変えてしまっていた。その証拠に血が一滴も飛んでない。肉すら斬れなくさせるその能力は厄介この上ない。

 

 鋒欠の頸はあっという間に胴体と繋がった。しかも緣の突撃は失敗に終わり、鋒欠との距離を離されてしまった。

 

「格好の的。やっちゃいなさい!」

 

 鋒欠が掲げた掌から蜂が生み出され、緣を包囲した。

 

「緣さん!」

「来るな!」

 

 助けに行こうとするが、緣に叱責されて止められた。同時に高く飛んで体幹を大きく捻じらせる。

 

「花の呼吸 陸ノ型 渦桃」

 

 その反動で生み出した大きな回転力を利用した回転斬りで、網のように囲った蜂を一瞬で全滅させた。だが着地した時、左手が焼けるような痛みに襲われた。

 

(何だ……?)

 

 左手の甲に妙な感触があった。よく見ると皮膚が赤く爛れている。

 

「斬ったわねぇ?その蜂を斬ったら毒を撒き散らすのよぉ」

 

 蜂を斬った時、撒き散らした毒が左手に掛かっていた。胴体や顔は隊服や鬼面で守られていたが、もし鬼面に掛かっていれば重傷になりかねない。だがそんな事は問題ではない。

 

「こんなもの、何とも……ぐっ!」

 

 すぐに立ち上がった緣の右腿に鋭い痛みが発生した。まるで矢で射抜かれた時のような激痛だが、構わず引き抜いた。

 

「蜂……?馬鹿な……!」

 

 緣の腿を射抜いた正体は蜂だった。だが目の前の鋒欠は蜂を放つような動作はしていない。先程の蜂の大群も一撃で全滅させた。

 

 では一体何処から?答えを探そうとした時、目の前の視界が歪み始めた。

 

「緣さん!」

 

 炭治郎も緣の異変に気が付いた。だがもしこの場で緣の助けに行ったら、子供達を守る者がいなくなってしまう。だからと言って緣をこのまま見殺しには出来ない。

 

「私の毒は結構強いの。直に立っていられなくなるわぁ。さて、今度はアンタよ」

 

 緣が毒で動けなくなり、捨て置いて問題ないと判断した鋒欠は炭治郎に狙いを定めた。

 

 




鋒欠(ほうか)

蜂の異能の力を使う鬼。
長い前髪で左眼を隠しており、身体の一部に腫れ物や皮膚が爛れた跡がある。
自分の事を美しいと自負しており、永遠の美を得られる鬼の存在を至高と思っている。反対に人間の事は醜くて哀れな獲物としか思っておらず、蜂の毒によってじわじわと嬲り殺すのが趣味。
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