雅なる隊士達   作:レーラ

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明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

今回から数話程、緣さんの過去編こと追憶パートを挟みます


追憶 花の姫巫女

 いつからだっただろうか。疼木(ひいらぎ) (ゆかり)が、花の姫巫女と呼ばれるようになったのは。

 

 最終選別から帰り、晴れて鬼殺隊に入る事が出来たカナエと緣。同じ隊服に袖を通し、カナエは蝶の羽を模した羽織を、緣は桜柄の羽織りを身に纏う。腰には日輪刀を携える。だが緣の表情はあまり穏やかなものではなかった。

 

「ここでお別れね、緣」

「うん……」

 

 早速二人に任務の指令が下ったのだが、お互い別々の任務になってしまった。ここまでは一緒でも、いつまでも同じという訳にはいかず、出立と同時に別れる事になってまった。

 

「ねえカナエ……」

 

 不安だった。ずっと一緒だと思っていた。カナエと離れ離れになるのは怖い。つい引き留めてしまったが、不安で言葉が出てこない。そんな緣に、カナエがそっと抱擁する。

 

「大丈夫。緣は、自分で思っているよりずっと強い。離れ離れになるけど、あなたは独りじゃない。きっとまた会えるわ」

「本当に……また会える?」

「勿論よ。その時は、しのぶと一緒にね」

「……うん」

 

 きっとまた会える。その言葉を信じて、緣は一人で旅立った。

 

 数年後、もうあの頃の一人では何も出来ない緣ではなかった。一人で任務に赴き、鬼を討伐して人々を救う。勿論、いい事ばかりではない。共に戦った仲間が死んでしまったり、無力な人々を助けられなかった事もある。鬼の攻撃で何度も生死の境を彷徨った。

 

 それでも緣は挫けなかった。これ以上、自分のような人間を出さない為に。そうしていく内に階級もどんどん上がり、実力も伸ばしていった。全集中・常中もこなすようになり、今では鬼殺隊にとってはなくてはならない存在になった。

 

 そんなある時だった。柱と合同任務になり、その場所まで向かっていた。先に着いたのかその相手の姿は見当たらない。どうしたものかと困り果てるが、その問題はすぐに解決した。

 

「遅れてごめんなさい!待たせちゃって……」

「あっ……!いえ、私も今……来たところ……」

 

 お互いの相手を確認するが、その相手はよく見知った顔だった。その事に二人は驚きを禁じえなかった。

 

「もしかして……緣?!」

 

 とても優しくて暖かい、懐かしい声。隊服の上に蝶の羽模様の羽織を着ているが、両側に蝶の髪飾りを見間違えるはずがない。

 

 胡蝶カナエ。緣にとって、唯一無二の親友がそこにいた。

 

「カナエ……?カナエ!」

「やっぱり緣だったのね!会いたかった!」

 

 数年ぶりの再会に喜んだ二人は抱きしめ合った。

 

「随分と見違えたわね。驚いちゃった」

「カナエだって!柱になったって聞いたけど、凄いよ!」

「ふふっ。ありがとう。やっと緣と一緒の任務になったわね」

「うん!嬉しい!」

 

 またカナエと一緒に戦える。それだけで緣は嬉しくなった。

 

「じゃあ、行きましょうか」

「うん」

 

 二人は鬼が出没するという村に向かった。

 

 

○○

 

 

 人が寝静まる夜となり、鬼が活動する時間となった。だがある鬼は追い込まれていた。二人の女隊士によって。予想外の強さに鬼は狼狽えている。

 

「鬼殺隊 花柱 胡蝶カナエです」

「柱だったのか……」

 

 この数年の内にカナエは柱になっていた。血の滲むような努力と修羅場を潜り抜けなければ、鬼殺隊最高位に就任出来ない。

 

(やっぱり、カナエは凄い……。この数年で、遥かに強くなってる。だけど……)

 

 だが(ゆかり)の心中に引っかかるものがあった。何故鬼に態々名乗るのか。それが理解出来なかった。

 

「あなたは何故鬼になったのですか?」

 

 何故そのような事を鬼相手に尋ねるのか?鬼は人を大勢殺している。新たな惨劇を生まない為にも、ここで頸を斬らなければならないというのに。実際、目の前にいる鬼は自分達に対して明確な殺意を剥き出しにしている。

 

「あなたも、可哀想な方ですね……」

 

 話が出来ないと分かると、まるで哀れむような目を向けた。だがすぐに真剣な眼差しへと切り替わる。

 

 鬼がカナエを殺すべく腕を伸ばした。鋭い爪がカナエに迫るが、その間に緣が乱入。受け流したと同時に鬼の手を切断した。腕の長さが戻った時には、既に手首は無くなっている。そのままカナエが鬼の懐まで接近し、頸を水平に斬った。

 

 頸を斬った事で鬼の身体は塵となって消えた。任務は完了となった。だがカナエは鬼の身体があった場所に手を合わせた。

 

「どうか今度は、鬼がいない時代に……生まれ変われますように」

 

 カナエは鬼が消える時まで鬼を哀れんでいた。いくら慈悲深くとも、鬼にもそんな情を向けられる人は鬼殺隊でも恐らくいないだろう。

 

(どうしてそんな事が出来るんだろう……いくら強くても、鬼にまで優しくするなんて……)

 

 いくら親友とはいえ、緣でも理解出来なかった。

 

 カナエが祈り終え、緣の方を向くが驚きで目を見開かせていた。

 

「緣!その腕!」

「えっ?あっ……」

 

 カナエに指摘されて左腕をかく確認する。二の腕に爪で引っ切れた形跡があり、隊服諸共、表皮を切り裂いて血が出ている。浅かったからか気付かなかった。

 

「怪我してるじゃない!」

「大丈夫だよ。薬はあるし……」

「駄目!今すぐ屋敷に行きましょう!ついて来て!」

 

 カナエに無理やり押し通されて屋敷へ向かう事になった緣。まるで母親みたいに見えてしまう。しばらくして、カナエの言う屋敷に着いた。

 

「じゃーん!ここ!私達の屋敷!」

「えっ……ええぇっ?!」

 

 案内されたのはカナエの屋敷。通称 蝶屋敷。ここにしのぶと共に住んでいるのだという。

 

「さあ入って入って!」

「う、うん……」

 

 何度驚いても驚き足りない。やや呆然としながらもカナエに促され、屋敷にあがる。

 

「姉さん?帰って来た……緣!」

「しのぶ!久しぶり!」

 

 しのぶとも再会して、喜び合った。最終選別を共に生き残った仲間同士となり、二人は仲良くなっていた。カナエと同じく、最終選別以降は会う事は無かったのだが、数年ぶりの再会でその喜びも大きいが、緣の腕をみたしのぶもまた、カナエのように心配する。

 

「怪我してるじゃない!ほら、こっち来て!処置するから!」

 

 カナエと同じ事を言いながら、カナエと同じように腕を引っ張って部屋に連れて行かれた。

 

「はい。これで大丈夫」

「ありがとう」

 

 消毒、塗り薬の処置をして包帯を巻かれる。それを終えると隊服を着用し直す。

 

 しのぶはこの数年で鬼殺の任務を受けながら医学の知識を蓄え、ここで診療所のような仕事もしている。他にも療養部屋や訓練所も兼ねた道場も備わっている。

 

「二人で住んでいるけど、それでも結構大きいのよねぇ」

 

 そう言いながらカナエが困ったような顔をしている。別に困る事ではないのでは?と、内心思いながらも頷いている。

 

「そういう事で緣、私達とここに住みましょう!」

「えっ?ちょっとカナエ、いきなり唐突すぎない?!」

 

 雑な前振りからいきなりそう告げられても困惑しかしない。どういう事かと問う為にしのぶの方を見るが、カナエの雑な前振りに呆れている。

 

「姉さん。相変わらず滅茶苦茶。緣が困ってるじゃない」

「あらら……嫌だったのかしら?」

「そうじゃないと思うけど……。けど緣。別に悪い提案じゃないと思うわ。それに緣も来てくれたら心強いし」

 

 しのぶも、カナエと同じ意見だった。必要としてくれるのは嬉しい。だがそれでも、柱の血縁でもない自分がここにいるなど場違いに思えてしまう。本当に良いのだろうかと考えてしまう。

 

「どうしたの?もしかして。嫌なの緣?」

 

 カナエに困った顔でそう言われてしまうと、断る事が出来ない。そう考えると自分が考えたいた事が馬鹿馬鹿しくなっていく。

 

「う、うん。分かった。二人が良ければ、ここに住ませてほしい」

「もちろんよ緣!」

「じゃあ緣。これを着けて」

 

 カナエが隊服のポケットから出したもの。それは自分達が着けている蝶の髪飾りだった。色は二人のものとは異なる、羽根が赤紫色のものだ。

 

「これは?」

「私達からの、ささやかな贈り物。これは緣のもの」

「えっ?良いの?」

「勿論よ。ほら、着けさせてあげる」

 

 髪を束ねている白い紐を解いてから、改めて一本に束ねた髪を蝶の髪飾りで留めた。

 

「あら、やっぱり可愛い!とても似合ってるわ!」

「あ、ありがとう……」

 

 照れ臭いが、それよりも嬉しさが勝った。カナエと同じものを着けている。何だかカナエに近づいたと感じた。

 

「じゃあ改めて、ようこそ緣!」

 

 こうして緣はカナエとしのぶに迎えられて、蝶屋敷で住む事になった事で居住者は三人となった。それからまた月日が流れてもう一人、神崎アオイが住人に加わり、またもう一人加わった。

 

 だがそのもう一人を知ったのは任務から帰って来た所だった。

 

「ただいま」

「あっ!緣!いい所に来た!ちょっとこっち!」

「えっ?!ちょっとしのぶ?!」

 

 帰って来て早々、しのぶに腕を引っ張られて居間に連れて来られた。そこには初めて見る少女がいた。右側に一本束ねた髪を蝶の髪飾りで留めている。

 

「えっと……この子は?」

「カナヲって言うんだけど、この子全然ダメなの!」

「ダメって……何が?」

「全然動こうとしないの!言わなきゃ何もしないの!食事だってそう!ずっとこのままなの!」

 

 そう言われて、カナヲを改めて見る。確かに感情の変化も見られず、自分がここに来ても気になる様子もその素振りすらない。同じ格好でそのまま座っている。確かにしのぶの言う通り、このままでは生きていく上では致命的な要素だ。

 

「どうしようカナエ」

「じゃあこうしましょう」

 

 カナエはカナヲの傍に歩み寄ると、銅の硬貨を出した。

 

「一人で決める時は、この硬貨を投げて決めるの」

「えっ?!」

 

 生きていく上で必要な判断。それを二分の一という博打のような感覚で決めていいのかと唖然とする。

 

「カナエ!そんな大事な事を……」

「そんなに気にする事ないと思うな。カナヲは可愛いもの〜」

「姉さん!それ理屈になってない!」

 

 しのぶも反論するが、結局カナヲは自分で物事を決める時は銅貨を投げて決める事になった。先行きが不安になっていくが、後はカナヲ次第。緣も姉のように接していくが、あまり変化が見られなかった。

 

 ある日の夜。任務が無かった緣は縁側で雲一つない夜空を見上げていた。三日月が浮かび上がる静かな夜と、緣が身に纏う白い着物がとても絵になる。

 

「眠れないの?」

 

 そこに声を掛けられて、驚いて向く。

 

「カナエ……」

「私も同じ。ちょっと眠れなくてね」

「そっか」

「隣失礼するわね」

 

 そう言って、緣の隣に座った。

 

「懐かしいわ。師範のところでも、こうやって月を見上げてたわね」

「あっ……そうだったね」

 

 まだ少し幼かったあの日、こうして隣合って夜空を見上げていたのを思い出した。またこうやって一緒にいられるなんて、思いもしなかった。

 

「ねえ緣」

「何?」

「緣は鬼について、どう思ってる?」

 

 そう問われてすぐに答えは出なかった。自分でも鬼についてどう思っているのか、考えた事が無かった。強いて言えば、両親を殺したという事くらいだろう。

 

「分からない。考えた事がないもん」

「そっか……。私はね、可哀想だなって思うの」

「え?」

 

 鬼が可哀想。あの時も鬼に対してそんな情を向けていた。カナエも両親を鬼によって殺されている。そんな鬼にそんな感情を抱くなんて、あまりにも優しすぎる。

 

「鬼は元々人だったわけでしょう?そんな人が、突然無理矢理鬼にされて、人を襲うなんて……可哀想だもの」

 

 言われてみればそうだと、緣は思ってしまう。鬼舞辻無惨によって鬼に帰られた者は理性を無くし、血肉を求めて人を襲う。陽の光に当たって生活する事も出来ず、少しでも当たればその身は焼かれて朽ち果ててしまう。何も残らずに。

 

「だから私は人だけじゃなくて、鬼も救いたいと思っているの。鬼だって元々人なんだから、もしかしたら仲良く出来るかもしれない」

「そんな事……出来るのかな……」

 

 鬼はこちらの意思に関係なく人を襲う。自分の保身の為に人を殺す。何度も、嫌という程見てきた。そんな鬼に対して、仲良くなれるのかと疑う。

 

「うん……まだ、一度もそうなった事はないけど。諦めない限り、可能性はいくらでもあるわ」

 

 ただ鬼を倒す事しか出来ないのに、自分を殺そうと襲ってくる鬼に対して、哀れんで救おうとするその信念は凄いと思えてしまう。

 

「凄いなカナエ……。私にはとても……」

「そんな事ないわ。でもそうね……緣も一緒に手伝ったくれたら嬉しいかな」

「えっ?」

 

 突然そのように言われて驚く緣。だがカナエの笑顔から冗談を言っているようには思えなかった。そもそもこんな状況で冗談を言う程、ぶざける性格ではない事を知っている。

 

「前から思っていたの。緣の技は、皆を魅了する力がある。きっと鬼達も緣の舞を見て、苦しまずに旅立てると思うの」

 

 カナエに自身の剣を褒められて恥ずかしくなって目を逸らしてしまう。

 

「そ、そんな事ないよ……。私なんか、全然ダメだし……ひゃっ!」

 

 突然カナエに抱きしめられ、思わず小さな嬌声が出てしまう。

 

「もう……緣は真面目さんが過ぎるんだぞ」

 

 緣の危うさをよく知っているからこそ、カナエは優しく注意している。

 

「大丈夫。緣の強さは、私がよく知ってる。緣もきっと柱になれる。緣の舞があれば、絶対に出来る。ね?一緒に鬼を救いましょう。二人なら、きっと出来るわ」

 

 カナエの提案は、これまでの鬼殺隊にとってかなり常識外れであり、異端な考えであるかもしれない。きっと誰にも理解されないだろうし、長く険しい道になる。そんな道に、自分を誘ってくれたのは嬉しかった。必要とされているんだと、隣にいても良いんだと安心する。

 

「うん……やろう。私達二人で、鬼を救おう」

「やった!ありがとう緣!」

 

 月夜の下で二人は約束を交わした。二人で鬼を救う。二人でなら、どんな困難も乗り越えられると。

 

 

 

 それからまた数ヶ月の時が流れ、緣の剣技はさらに研鑽を重ねた。研ぎ澄まされた御業は仲間を守り、鬼の業を斬り、安らかに旅立たせた。

 

「どうか、来世では安寧の時を迎えて……」

 

 罪を重ねた鬼を哀れみ、罪の浄化の祈りを捧げた。その慈悲深さを見た鬼は、苦しむ事なく安心して逝った。

 

 人も鬼を魅了するその剣舞、仲間を鼓舞して鬼を救うその姿に皆が感銘を受けた。そういった経緯があって、緣の事をこう呼ぶ者が現れた。

 

 人も鬼も救う心優しき純真無垢な巫女、『花の姫巫女』と。

 

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