雅なる隊士達   作:レーラ

23 / 28
前回に引き続き追憶パートです。恐らく全5話くらいを予定しております。

今回はちょっとパロディを含ませております。


追憶 神楽舞

花の姫巫女の二つ名はあっという間に鬼殺隊に知れ渡った。彼女が来るだけで士気は高まり、勝利を齎すという噂話まで立ってしまう程に。

 

「ありがとうございました姫巫女様!」

「俺達鬼殺隊の姫巫女だー!」

「姫巫女バンザーイ!」

 

 すっかり魅了された彼らは緣を崇拝する者まで現れた。

 

 姫巫女!姫巫女!姫巫女!

 

「えっ……いやっ……あの…………」

 

 男共が挙って緣を称え始めた。だが当の本人は困惑しており、あまりの恥ずかしさに半泣きで悶えている。

 

「〜〜〜!」

「何事?!新手の虐め?!」

 

 その異様な光景には一緒にいたしのぶも面食らった。流石にうんざりしてしまったしのぶが止めようするが、その前に騒ぐ隊士を一人の男が一瞬で黙らせた。

 

「いつまでも騒ぐんじゃねェ!さっさと消えろォ!」

 

 血走らせた眼と顔や身体中に刻まれた傷痕。無造作に跳ね上がらせた白髪。白色羽織の背に殺の文字。振り回した日輪刀の緑色の刀身に『悪鬼滅殺』の文字が刻まれている。

 

 風柱・不死川実弥だ。彼の一喝は震え上がらせたばかりか慌てて逃げ出した。そんな不甲斐ない隊士達に舌打ちする。

 

「あ、あの……」

 

 震えながらも実弥に声を掛けた緣。振り返ると目を逸らしているが、少し赤面している。恐怖ではなく恥ずかしさを帯びているようだった。

 

「あ、ありがとうございました……!」

 

 慌てて一礼したが、声が裏返っている。やってしまったと我ながら情けなく感じてしまう。実弥の溜息が聞こえて萎縮してしまう。

 

「もっとガツンと言いやがれェ。胡蝶にずっと頼りっぱなじゃ、先が思いやられる」

 

 そう言われてハッとした緣。頭を上げると実弥はこちらを見ずに去って行った。そこに一部始終を見ていたしのぶが緣に駆け寄る。

 

「大丈夫?!もう何なのあの人!緣の事、何も分かってないのに!」

 

 緣が実弥に好き放題言われた事に、まるで自分の事のように憤っていた。

 

「あっ……し、しのぶ!たぶんそうじゃないよ!だから平気!」

「え?」

 

 実弥の事はカナエから聞いていた。過激な所はあるが、それは不器用な優しさの裏返し……だと。だから実弥の事を多少恐がる事があっても、苦手だとは思わない。今の説教も、僅かに優しさが含まれていたような気がした。

 

「まあ……緣がそう言うなら良いけど。でも相変わらずそういう所は頼りないわよね」

「ご、ごめん……」

 

 身体能力は高く、しのぶにはない上背の高さに恵まれ、まるで舞を踊っているかのような戦い方。鬼殺隊に必要なものを全て備わっているのに、気弱な性格がその良さを打ち消してしまっている。それが妬ましくなる時がある。

 

「姉さんから聞いたわ。緣、姉さんと約束したんですって?」

「う、うん。鬼を救おうって……言ってくれて……」

「ふーん……」

 

 自分の預かり知らぬ所で、姉とそんな事をしていたのかとまた嫉妬する。

 

「まあ、私はあの考えに理解出来ないからどうでもいいけど。姉さんをガッカリさせるような事はしないでよね?」

「う、うん!約束したもん」

 

 いつも気圧されるというのに、今回だけは緣の返事が妙に威勢がいい。少し生意気に感じるが、それでもナヨナヨされるよりはマシだと考える。

 

 

○○

 

 

 ある日、緣は神社の境内に現れた鬼を討滅した。かなりの強敵で、先行した隊士がやられてしまっていた。後続として駆けつけた緣達によって鬼は倒された。そのお陰もあって、神主と巫女は助かった。

 

(次の指令は来てない。これなら縁日に間に合うかな)

 

 明日にカナヲを連れて縁日見物に行くという約束をしていた。カナエとしのぶも行くという事だったのだが、その前日に緣が任務に赴く事になり、場合によっては行けなくなる可能性があった。だが幸いにも一日で済んだという事もあり、これならば間に合うだろうと見込んでいた。

 

 だがまだ油断は出来ない。神主と巫女の様子を確認を行う。

 

「お怪我はありませんか?」

「私は大丈夫です。ですが……」

 

 神主に怪我は無かったのだが、その表情はあまり芳しくない。問題は神主ではなく、巫女の方だった。

 

「巫女の一人が足を怪我してしまって……」

「それは大変……!」

 

 まだ若い巫女の右足を診てみると、関節が腫れ上がっていた。少しの指圧で疼痛が認められた。これでは立つことも容易ではない。

 

「神主様……!ごめんなさい、明日の舞は……」

「うむ……困ったのう。明日は大事な神楽を踊ってもらうはずだったのだが……」

 

 本番までには間に合わない。どうしたものかと困り果てる神主。

 

「カァー!カァー!心配ナイゾ〜♪」

「どわぁっ!たまげた……鴉が喋った……!」

 

 紅葉がそこに割って入ったのだが、初めて見る鎹鴉に腰を抜かす神主。紅葉は構わず歌うように話す。

 

「ソナタノ望ミ〜アッ叶ウゾ〜!」

「何ですと?!」

「コ〜コ〜ニオワス〜娘〜!アル神主ノ一人娘ナリ〜!」

「何と!」

「へっ?」

 

 紅葉と神主のやり取りについていけない緣。しかも何やらトントン拍子に話が進んでいる様子。不安と混乱だけは確実にあった。

 

 

 

「えっ?!じゃあ緣、縁日に行けないの?!」

「面目ナイ〜♪」

 

 緣は縁日に行けないと、紅葉経由でしのぶに伝えられた。

 

「もう……せっかくの縁日なのに」

「仕方ないわよ。こういう事はよくあるもの」

 

 同じ頃、カナエも産屋敷耀哉に呼び出されて赴かねばならなくなった。幸いカナエはすぐに戻れたので三人は合流する事が出来た。だが既に夕刻、もう間に合わないだろう。

 

「縁日〜自分ノ分マデ、アッ楽シンデホシイ〜!ダソウダッ!」

 

 皆で縁日と計画していたしのぶは分かりやすくがっかりしてしまう。何とかカナエが宥める。

 

「じゃあしょうがないわね。ほら、もうすぐ始まるみたいよ」

「始まるって何が?」

「ここの神社って、毎年神様に捧げる神楽舞をやるんですって。見学も自由だってさっき言ってたわ」

「へぇ……」

 

 毎年祀られている神に無病息災、五穀豊穣、邪鬼討滅を祈願する儀式が執り行われており、その一環として神楽舞が披露されるのだという。

 

「せっかくだし、見に行きましょうか」

「そうね。ほら、行くわよカナヲ」

「は、はい……」

 

 最低限の挨拶や会話をするようになったカナヲだが、相変わらず感情の表出は殆どない。だがそれでも大きな進歩とカナエは喜んでいた。

 

 カナヲは二人の姉に連れられて、神社の神楽殿まで足を運んだ。周囲には篝火が炊かれており、いかにもという雰囲気を出している。

 

「けっこう人がいるわね」

「そうね。そんなにご利益があるのかしら?」

 

 周囲の人集りに不思議がりながらも、神楽殿に神主と四人の巫女が登壇。客達も一斉に静まり返った。

 

 裏方で篳篥の旋律が神楽殿の周囲に響くと同時に太鼓の力強い音がその迫力を生み出す。神主が金槌を模した小道具で、巫女が持つ模造刀を打つ動作を行うが、ここまで舞台に立っている神主と巫女達は、ゆっくりとしながらも一切ブレない動きを見せる。

 

 やがて一人の神職が供物台に刀を安置すると、神楽殿にいた神職と巫女達が一斉に舞台から降りていく。そして入れ替わりで一人の巫女が神楽殿に上がり、供物台の前に平伏する。

 

「あら……?」

 

 だがこの時、カナエは目を疑うような光景を見て驚きの声が小さく漏れた。

 

「どうしたの姉さん?」

「まさかね……」

「えっ?」

 

 巫女の顔はおかめの能面で判別出来ない。ただカナエはその正体がよく思い当たる人物であるだろうと考えた。巫女が顔を上げて供物台の刀を水平に持ち、抜刀。鞘を再び供物台に置くと、神楽殿の中心に立つ。

 

 神楽鈴が鳴り響くと同時に片手で持った刀を振るい、くるりと舞うと、片脚立ちた切っ先を前方に突き出す。少しの沈黙の間、不安定な体勢でも尚巫女は身体の震えを完全に殺して止まっている。やがて神楽鈴の音が再び巫女の身体を動かした。

 

(凄い……さっきの巫女さんより、動きが洗練されてる……)

 

 神楽を舞う巫女の技術を心中で賞賛するしのぶ。彼女も既に神楽に魅了されている。しのぶだけではない。神楽を見に来た観客達の誰もが魅了されて声が出ない。だがカナエの顔を見た時、異変に気が付いた。

 

「どうしたの姉さん?」

「やっぱり……緣なのね……」

「えっ……?!」

 

 何故緣の名前が出てくるのか分からず、驚きの声が出てしまう。だがカナエだけが分かっていても何も不思議はない。いかなる体勢であっても振動一つ起こさせない強固な体幹、得物に振り回されず正確に制御するしなやかな四肢。

 

 紅葉を通じて縁日に行けなくなったと言っていたが、その本当の理由を知って納得してしまった。神楽殿で舞う緣を見て最初は驚いた二人だったが、ここで騒いでも迷惑になるだけならばと、そのまま観賞する。

 

 ゆっくりと回りながら手に持つ神楽鈴がゆっくり、しゃん、しゃんと鳴り響き渡る。篝火と雅楽の音色、そして巫女達の舞が一体となっているこの瞬間、ここにいる人達全てがまるで幻想的な世界に招き入れられたかのように見惚れていた。

 

 そしてもう一人……。

 

「どうカナヲ?緣ったら、凄いでしょう?」

「はい……」

 

 感情を動かす事が不得手なカナヲもまた、緣の舞を見て虚ろな目に光を宿していた。普段はしのぶに言い負かされ、ドジで頼りなく映る緣が今では天女のような存在と思えてしまう。

 

「綺麗……」

 

 ポツリと呟いたカナヲの言の葉。本当の意味で心が芽生え始めたのか、それは本人にも分からない。

 

 

○○

 

 

 神楽舞が終わった事に伴い、縁日も終了。観客は皆帰っていき、境内の中には関係者しか残っていない。その中に緣がいた。

 

「いやぁ、ありがとうございました。こんな急に代理を頼んでしまい……」

「い、いえ。お役に立てて良かったです」

 

 巫女の代理として神楽を舞った緣。鎹鴉の紅葉が緣の出生を教えた事で、神主が緣に代理で舞うよう頼んだのだ。最初は戸惑ったが、自分に出来る事ならと引き受けた。だがそれによってカナエ達との縁日巡りが出来なくなってしまったのだが、まさか縁日で神楽舞を舞うとは思わなかった。当然、カナエ達もいたのは見えていた。

 

「すみませーん」

「あっ……」

 

 神社の外から呼び掛ける声が聞こえ、神主が対応に向かった。だがその声の主がカナエである事はすぐに分かった。間もなく神主がカナエ達を伴って戻って来た。

 

「あらぁ。やっぱり緣だぁ」

「あ、あははは……」

 

 縁日巡りを断ってしまった事もあって、少し気まずいと思い苦笑を浮かべる緣。だがカナヲはともなく、カナエも、しのぶもそんな事を気にする様子はない。

 

「凄いじゃない緣!あんな事が出来るなんて!」

 

 初めて緣の神楽舞を見たしのぶにべた褒めされて、少し小っ恥ずかしくなる。

 

「最初は行けないって言われた時、ガッカリしてたんだけど……こんな事なら早く言ってくれれば良かったのに」

「いや、あの……まさかこの縁日で神楽をやるなんて思わなかったから……」

「けど、良いもの見させてもらったわ。そうだ!今度それ着て任務に行くのはどうかしら?」

「か、カナエ!それはダメだよ!」

 

 巫女装束は神社にとって神聖なもの。神社の生まれである緣にとっても大事な伝統であるが故に、即反対する。

 

「それは残念。せっかく似合ってるのに……」

「あ、あの……」

 

 そこにカナヲがぎこちなくも声を発した。

 

「また……見たい……」

 

 もっと他に言う事があったかもしれないが、今のカナヲにはこれが精一杯。それでも緣は嬉しかった。

 

「うん。今度はカナヲもやってみる?」

 

 カナヲの目線の高さに合わせて屈んで聞いてみる。すると、カナヲは小さく頷く。来年の縁日も行こうと、その帰り道に話しながら、四人は帰路についた。

 

 

 

 




おまけ

伊万里「いやぁ。最近出番なくて寂しいよなー」

輪廻「実弥君出てきたのに、私出てこなかった……面白くない(嫉妬)」

御憑「まあまあ。とはいえ、出番がないのは僕としても不満を抱いている」

伊万里「じゃあ今回はあたしらで大正コソコソ噂話するか」

御憑「では、今回は僕が。緣さんが鬼面を着けるようになってからは誰とも食事を共にする事はしませんが、非番で外食する際は普通に外して食べているらしいですよ」

伊万里「え?それ誰情報?」

御憑「胡蝶様からです。尤も、素顔を知らない人はそれが緣さんだと気付かないようですが」

伊万里「マジか……。じゃああたしらも気付いてないだけで、実は見た事あるのか?」

輪廻「うーん……」

御憑「皆真剣に考え始めてしまいましたね。次回、追憶 散花」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。