雅なる隊士達   作:レーラ

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蝶が導いた光

(どうしよう……全然見つからない……!日が落ちてしまった……!)

 

 炭治郎とは別々に、しのぶも(ゆかり)を探しているが見つけられずにいる。しかも日が完全に落ちてしまい、頼みの明かりは月の光のみ。だがそれも木々に遮られている箇所が多く、見つけにくくなっている。

 

 だが緣は身体に毒が残っている。いくら渓流に流されて洗い流されたとしても、適切な治療を受けていない以上、危険な状態である事に変わりはない。日を跨げば、緣が死んでしまうかもしれない。

 

(どうしよう……姉さんだけじゃなく……緣まで失ったら……!)

 

 いくら柱になったといえど、しのぶは元々直情的。過去の惨劇が蘇って、不安と焦りが強くなって最悪の事態を想定してしまう。身体の震えが止まらない。

 

 

 

 諦めないで

 

 

 

 不意に聞こえてきた声にハッとした。

 

「誰?!」

 

 辺りを見渡すが誰もいない。一体誰の声なのか分からない。こんな時に幻聴でも聞こえてきたのかと思っていると、ふと青色の蝶がしのぶの頭上を舞っているのが目に映った。

 

 こんな所に珍しい蝶がいる事に少し不思議がっているが、ただの蝶。そんな事よりも早くを探さねばと進もうとした時、蝶がしのぶの前に飛ぶ。まるで止まってくれと促しているかのようだった。

 

「何なの……?」

 

 

 

 こっち

 

 

 

「っ?!」

 

 また声が聞こえた。一体どうしてと頭を巡らせようとするが、聞こえてくる声に聞き覚えがあるような気がしてならなかった。とても優しくて、暖かい。懐かしい声。

 

「まさか……」

 

 青羽の蝶が進もうとしていた方とは逆の方向へと飛んでいる。確証があるわけではない。ただの直感と言ってもいい。それでも信じて蝶が飛んでいった方へと走った。

 

 

○○

 

(ゆかり)を探していた炭治郎の前に現れた蝶羽織の女性隊士。だが炭治郎が驚きっぱなしなのに気付いた。

 

「驚かせちゃってごめんなさい。とても深刻そうにしていたから。何かあったの?」

 

 ここには炭治郎としのぶ以外の鬼殺隊員はいないはず。他の隊員が気配すら察知させずに現れて手助けしてくれるかもしれない。炭治郎は事情を話した。

 

「まあ……それは大変ね」

「はい!急いで見つけないといけないんです!手伝ってくれませんか?」

「もちろんよ。なら、こっちよ」

 

 女性の後に続いて足を進める炭治郎だが、同時に女性の言葉に違和感を持つ。それだけではない。羽織や髪飾りもそうだが、独特の匂いをしている。そして、進む足も妙に遅い。急いでいるこの状況で、何故歩いて進んでいるのか。

 

「あの……何で歩いているんですか?急いだ方が……」

「大丈夫よ。それよりも、緣の事で少し話がしたくて」

「緣さんを知ってるんですか?!」

 

 驚きのあまり、歩みを止めてしまった。女性は振り返って微笑む。

 

「ほら、足を止めない」

「は、はい!」

 

 女性に促されて再び歩き出す炭治郎。だが蝶の女性の事が気になり、前というより女性の方を見てしまう。独特の匂いと言っても、どこかで感じた事のある匂いだった。まるで誰かに似ているような匂い。

 

「あなた、お名前は?」

「あっ……竈門炭治郎です!」

「ふふっ。竈門君から見て、緣はどんな子に見えるかしら?」

 

 蝶羽織の女隊士に尋ねられて戸惑う炭治郎。緣の知人を前にして、本当の事を話していいのかと考えてしまうが、嘘をつくのはかなり苦手な炭治郎。ありのままに答える。

 

「その……恐い人だなって。あ、いや!決して悪口じゃないですよ?確かに見た目は恐いし、言い方も厳しくてキツいけど、俺達を守る為に必死になって戦ってくれる……優しい人です」

「そっか……」

 

 炭治郎の答えを振り返らずにただ聞いていた。背中からでは反応が見えない炭治郎だが、その匂いから嬉しさを感じ取った。

 

「お面で顔を隠していても、根の優しさは変わってなくて良かった」

「あの、緣さんとはお知り合いなんですか?」

「ええ。同じ育手の下で一緒に切磋琢磨してきたのよ。その頃からの付き合いだけど、ああ見えて人見知りなの」

「えっ?」

「だから他のお友達がなかなか出来なくて心配してたの。竈門君のようなお友達が出来て安心したわ」

(友達って言って良いのかな……)

 

 年齢も違えば階級も実力も違う緣の事を友達と言っていいのか、炭治郎にとっては微妙なところである。だが聞けば聞くほど、今の緣の人物像からだいぶかけ離れた事を言っている。匂いから嘘をついているとは思えない。

 

 だがそもそも、この女性は一体何者なのだろうか?匂いから柱特有のものを感じている。だが柱合会議の場にはいなかった。雰囲気もそうだが、容姿や匂い、そして炭治郎に向けた笑顔まで、しのぶによく似ている。そして、緣の事をよく知っている。

 

「私の事、気になるかしら?」

「へっ?!あっ!ごめんなさい!」

 

 思考まで読まれて焦るも正直に謝る炭治郎に、クスりと少し笑う。

 

「緣ってば、人が困っている時は無条件で手を差し伸べるのに、自分が困っている時に「助けて」って言い出せないの。きっと、私がここにいるのは……緣が本当に助けてほしいからなのかもしれないわね」

 

 蝶羽織の女性は初めて会った時、剣術がまともに出来ないのに、陰で一人で頑張っていた。最終選別で鬼と対峙した時も、一人で鬼の頸を斬ることが難しかった。

 

 いつも困っているのに、助けてと言えない緣を何度も見てきた。なのに困っている人を助けようとする。たとえ対価が無くても、それで自分が傷つく事になっても。

 

 そして今回、緣は炭治郎を助ける為に毒に蝕まれた身体に鞭打って鬼を倒した。その結果、緣が危険な目に遭ってしまった。そうなると分かっていたのにも関わらず、禰豆子の事を快く思っていないはずなのに、危険から遠ざけた。

 

 あの吊り橋も元々脆かった所を、暴れ回った事で限界を迎えていた。それが分かって自ら渓流に飛び込んだ。炭治郎達を逃がす為に。自分が死ぬ可能性があるというのに。

 

「緣は助かるわ。そろそろしのぶも来る頃ね。けど、ここであった事は内緒にしてね?」

 

 そう告げて振り返った。その瞬間、女性の背後に舞い散る花弁と蝶が羽ばたいていた。既に日は落ち、木々の隙間に差し込む月明かりを背に。羽織から出した物を渡した。

 

「これって……」

 

 受け取ったもの。それは緣が着けている赤い鬼面。どうしてそれを持っているのか問おうとした時、女性は既にいなくなっていた。一体どうなっているのか、あまりにも摩訶不思議な出来事に周囲を探しても見つからない。

 

 だが代わりに、探していた緣の匂いを感知した。その方に向かうと、川辺に辿り着いた。渓流と繋がっているようで、あの時より流れが弱くなっている。

 

 そして、その先の大岩のすぐ近くで丈が焼け焦げた桜羽織を身に纏う隊士が倒れていた。そして探していた匂いの大元がその人だった。

 

 だがその女性は鬼面をつけていなかった。代わりに輪郭が整い、まるで人形のように美しい顔をしている。

 

「もしかして……緣さん?!」

 

 鬼巫女の意外な正体、その美貌に思わず見惚れてしまうが、駆け寄って抱える。

 

「緣さん!しっかり!緣さん!」

 

 いくら呼び掛けても目覚めない。それどころか隊服と羽織が濡れていて、身体が冷たくなっている。頸動脈から脈を確認するが、鼓動がない。

 

 間に合わなかったのか。助けられなかったのか。信じられない事態に愕然、両目に涙を浮かべた。

 

(緣は助かるわ)

 

 こんな時に、蝶羽織の女性の言葉を思い出した。まるで死なないと分かっているかのようだった。あの人の言葉に嘘の匂いはない。あの時もそれが本当ならば、泣いて絶望するにはまだ早い。緣は死んでいないのだから。

 

 だがこういう時、どうすればいいか炭治郎には分からない。ならばしのぶにこの場所を伝えなくてはならない。ゆっくり息を吸う。

 

「しのぶさぁーん!!ここでぇーす!!緣さんはここですーー!!」

 

 出せる限りの大声を発した。

 

 

 ――

 

 彼岸花が咲き誇る道を駆けて進むしのぶ。謎の声に導かれているが、そこに(ゆかり)がいるという保証はどこにもない。道中で何度も鬼の罠の可能性も考えた。だが早く緣を見つけて助けなければ手遅れになってしまう。

 

 もうなりふり構っていられない。その先に緣がいると信じて走る。青色羽の蝶もしのぶの肩に乗っている。

 

(お願い……死なないで……!緣……!)

 

 木々や枝葉の数が多くなり、小さな身体でも避けるのが難しくなって何度も頬にぶつかったり掠めたりするが、構わず進んでいく。

 

「しのぶさぁーん!!ここでぇーす!!緣さんはここですーー!!」

 

 突如、森が騒めき出す程に大きいな声が響いた。声の主は炭治郎だ。待ち望んだ吉報だが、これだけ広いとすぐには特定出来ない。もう一回、それで耳をすませて聞けば分かるはずだ。

 

「しのぶさぁーん!!ここでぇーす!!」

 

 二回目。しのぶの耳に入った言ノ葉が何処から発せられたものか、すぐに捉えた。そこへ走っていくと川の音が聞こえてくる。草木に阻まれようとも、構わず掻き分けて進んだ。

 

 やがて川辺に出た。そこに炭治郎がいた。緣を抱えて。

 

「竈門君!」

「しのぶさん!緣さんが息してません!」

 

 緣の状態を聞いて瞳が揺れ動いた。嫌な予感が心中に満ちてしまう。

 

「緣!」

 

 叫ぶように名を呼び、駆け寄って炭治郎と同じく頸動脈から脈を確認する。だが拍動がない。

 

 だがしのぶの目は絶望していない。身体が冷たいが、死後硬直は起きていない。恐らく水によって体温が奪われている可能性が高い。

 

 まだ生きていると考えたしのぶは緣の隊服のボタンを外して、開かせる。その心臓部に掌底を当てたその時だった。

 

(今確かに……)

 

 少しずつ強く押し込む。ごく弱くではあるが、鼓動が脈打っている。まだ生きている。拍動がなかったのは心筋で心臓を止めて仮死状態になっていたのだ。それにより血流を遮断し、蜂の毒の巡りも遅らせていたのだ。

 

 そんな荒業をどこで覚えたのかは置いておいて、処置の為に心臓の覚醒を促す必要がある。だがこれだけ心臓周辺の筋肉が硬いと、覚醒に必要な力を大きく要求される。

 

「竈門君。手を貸してください」

「は、はい……けど、どうすれば?」

「心臓に刺激を与えて、硬直している心筋を弛緩させます。ですが、私の力ではそれに及びません。なので竈門君。ここに手を当てて、力を一気に入れてください」

「えっ……?」

 

 しのぶが指したのは緣の胸の中心、正確には胸骨。つまり炭治郎が緣の胸骨圧迫による心臓覚醒を行うということだ。だが仮にも緣は女性。女性経験の無い炭治郎は女性の胸を触る事に抵抗があった。

 

 だが今は人の命が関わっている。緣を救う事が第一。そう考えて炭治郎は強く返事をする。

 

「分かりました!」

「では、ここに手を」

 

 しのぶの指導の下、炭治郎は緣の胸部に手を当てる。緣の柔らかい感触が炭治郎の指に当たって、心中動揺が激しかったが、緣を助けるという大事な場面だという事を頭の中で何度も何度も念仏のように唱えながら集中する。

 

(緣さん、起きてください!)

 

 深く息を吸い、吐くと同時に強く押し込んだ。すると、その衝撃が緣の心臓に伝わり、心臓の筋肉が一気に弛緩される。

 

 

 緣の胸に掌を当てる。強く押し込んだ。すると、緣の胴体の筋肉が一気に弛緩される。

 

「ぅっ…………!ぁ…………」

「動いた!」

 

 外部から強烈な力が心臓に伝わり、心臓の鼓動が再び強い鼓動を取り戻した。これで血液循環を促した。ただ意識は毒の影響かまだ朦朧としているようだ。

 

「喜ぶのはまだです。これから応急処置します」

 

 息を吹き返したが、まだ油断は出来ない。毒の種類は炭治郎から予め聞いている。隊服の穴から覗いて、傷口から蜂の針を摘出。その後は解毒薬を注射する。傷を保護する包帯を巻いて処置をした。

 

「これでもう大丈夫です。後は蝶屋敷に運ぶだけです」

 

 応急処置は無事終了。脈も安定してきたのを確認して胸を撫で下ろしている。

 

「ありがとうございます……。良かった……助かって良かっ……うわあっ!」

 

 安堵した途端、緣の身体を見て顔が茹でダコのように真っ赤になる。鎖骨にさらし越しでも分かる豊かな胸、臍、雪のように白い肌が露わになっている。まだ少年には刺激が強すぎたようで、思わず後退った。

 

 それを察しておかしかったのか、しのぶはクスリと笑いながら自身の羽織りで緣の裸体を隠してやる。

 

「ふふっ。見てはいけませんよ」

「は……はい……」

 

 起きたらちゃんと謝ろう。と、心の中で呟いた炭治郎であった。だがこの様子では緣を運ぶのは厳しそうだ。

 

「むむーっ!」

「禰豆子?!」

 

 そこに箱から出てきた禰豆子が手を挙げて割って入った。突然の事で二人とも驚くが、禰豆子も役に立ちたいという思いを汲んで、任せる事にした。

 

 禰豆子が緣を背負って走り出すと、炭治郎としのぶもその後ろを走る。解毒剤をとうよしている為、道中で息絶える事はない。

 

(ありがとう……姉さん)

 

飛び交う蝶を見上げる。一説によると、青い羽の蝶は亡くなった魂を結びつけるとか。

 

 きっとしのぶと炭治郎を導いてくれたのはカナエなのかもしれない。たとえ夢幻であったとしても、しのぶと緣を繋ぎ合わせてくれたのは他の誰でもない。カナエだ。

 

 しのぶの傍に留まっていた青羽の蝶も、この結果に満足したのかどこかへと飛んで去った。

 

 夜が開ける前に蝶屋敷にたどり着いたが、精神的、肉体的共に疲労が重なったせいか、それでも緣は眠っていた。目が覚めたのは、日が差し込む黎明の時だった。

 




大正コソコソ噂話

緣の家である神社に奉納される神楽舞は黄泉との縁を繋げることで荒ぶる魂やこの世に未練を遺した後悔や罪を浄化して、安心して黄泉の国に戻れるように祈願するという意味がある。

だがまだ幼かった緣はその意味を知る機会が訪れないまま今に至り、今も知らない。そして吊り橋の戦いで撫子神楽を使った事で無意識に黄泉の国から霊魂を呼んでしまった。その呼び出した霊魂がカナエである事も、緣は終ぞ知る事はない。

伊万里「えっ?ヤバくね?」(ドン引き)
カナエ「やっぱり緣は凄い子なんだから〜♪」
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